人間失格

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人間失格
著者 太宰治
発行日 1948年昭和23年)5月12日
発行元 筑摩書房
ジャンル 小説
日本の旗 日本
言語 日本語
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人間失格』(にんげんしっかく)は、小説家太宰治による中編小説。『ヴィヨンの妻』『走れメロス』『斜陽』に並ぶ太宰の代表作の1つである。1948年昭和23年)に雑誌「展望」に、全3話の連載小説として発表された。脱稿は同年5月12日

他人の前では面白おかしくおどけてみせるばかりで、本当の自分を誰にもさらけ出す事の出来ない男の人生(幼少期から青年期まで)をその男の視点で描く。この主人公の名前は、太宰の初期の小説『道化の華』に一度だけ登場している。

戦後の売り上げは、新潮文庫だけでも累計600万部を突破しており、夏目漱石の『こころ』と何十年にもわたり累計部数を争っている。

背景[編集]

連載最終回の掲載直前の6月13日深夜に太宰が自殺したことから、本作は「遺書」のような小説と考えられてきた。実際、本作の後に『グッド・バイ』を書いているものの未完であり、完結作としては本作が最後である。体裁上は私小説形式のフィクションでありつつも、主人公の語る過去には太宰自身の人生を色濃く反映したと思われる部分があり、自伝的な小説とも考えられている。しかしながら、太宰の死により、その真偽については不明な部分が多い。

このように「遺書」と受け止められていた本作は、勢いにまかせて書かれたものと長く信じられてきた。この定説を覆す転機となったのは1998年5月23日に遺族が発見したB5版200字詰めで157枚におよぶ草稿を公開したことである(新潮1998年7月号に原文資料掲載)。これら草稿では言葉一つ一つが何度も推敲されており、内容を練りに練りフィクションとして創造した苦労の跡が随所に伺える。

あらすじ[編集]

作中で大庭葉蔵の手記とされるのは「第一の手記」「第二の手記」「第三の手記」であり、最初の「はしがき」と最後の「あとがき」は、「私」の体験談とされている。当初、「第一の手記」の原稿では主人公の一人称は「私」であったが、途中で書き直され「自分」となり、結果的に手記全体にわたりその一人称が使われた。

はしがき[編集]

私は、その男の写真を三葉、見たことがある。

この書き出しから始まる文章は、幼年時代・学生時代・奇怪な写真の"三葉"の写真を見比べている。その様子が第三者の視点で書かれている。

第一の手記[編集]

恥の多い生涯を送って来ました。

この書き出しから始まる。「自分」は人とは違う感覚を持っており、それに対して混乱し発狂しそうになる。それゆえにまともに人と会話が出来ない「自分」は、人間に対する最後の求愛として道化を演じる。だが、その「自分」の本性は、女中や下男に犯されるという大人たちの残酷な犯罪を語らず、力なく笑っている人間であった。結果的に「自分」は欺きあう人間達に対する難解さの果てに孤独を選んでいた。

第二の手記[編集]

中学校時代、「自分」は道化という自らの技術が見抜かれそうになり、恐怖する。その後、旧制高校において人間への恐怖を紛らわすために、悪友堀木により紹介された煙草淫売婦左翼思想とに浸った。これらはすべて、「自分」にとって醜悪にみえる人間の営みから、ひとときの解放をもたらす物だった。

しかし急激に環境が変わることにつれて様々なしがらみから逃れがたくなり、結果として人妻との暖かな一夜の後に、彼女と心中未遂事件を起こす。しかし、「自分」一人生き残り、自殺幇助罪に問われる。結局、父親と取引のある男を引受人として釈放されるが、混乱した精神状態は続く。

第三の手記[編集]

罪に問われたことをきっかけとして高等学校を放校になり、一時引受人の男の家に逗留することになるが、男に将来どうするのかと詰め寄られて「自分」は家出をする。それをきっかけに子持ちの女性や、バーのマダム等との破壊的な女性関係にはまりこむことになり、「自分」はさらに深い絶望の淵に立つことになる。

その果てに最後に求めたはずの無垢な女性が、堀木の対話で対義語について考え、ドストエフスキーの『罪と罰』が頭をよぎった直後、出入りの商人に犯されて、あまりの絶望にアルコールを浴びるように呑むようになり、ついにある晩、たまたま見つけた睡眠薬を用いて、発作的に再び自殺未遂を起こす。

なんとか助かったものの、その後は体が衰弱してさらに酒を呑むようになり、ある雪の晩ついに喀血する。薬を求めて入った薬屋で処方されたモルヒネを使うと急激に調子が回復したため、それに味を占めて幾度となく使うようになり、ついにモルヒネ中毒にかかる。モルヒネほしさのあまり何度も薬屋からツケで薬を買ううちにのっぴきならない額となり、ついに薬屋の奥さんと関係を結ぶに至る。その、自分の罪の重さに耐えきれなくなり、「自分」は実家に状況を説明して金の無心の手紙を送る。

やがて、家族の連絡を受けたらしい引受人の男と堀木がやってきて、病院に行こうと言われる。行き先はサナトリウムだと思っていたら、脳病院へ入院させられる。そして他者より狂人としてのレッテルを貼られたことを自覚し、「自分」はもはや人間を失格したのだ、と確信するに至る。

人間、失格。

数ヶ月の入院生活ののち、故郷に引き取られた「自分」は廃人同然となり、不幸も幸福もなく、老女に犯され、ただ時間が過ぎていくだけなのだと最後に語り自白は終わる。

あとがき[編集]

ここでは、第三者の視点での記述に戻っており、手記の読後感想を書いている。1935年(昭和10年)の出来事だったと、思い返し、読者は千葉県船橋市疎開している或る友達を尋ねる。その夜、友人と僅かなを汲み交わし、泊めさせてもらう。3つの手記ノートを朝まで一睡もせず読みふけった。最後は、喫茶店に立ち寄り、会話形式で小説は終わる。

登場人物[編集]

大庭葉蔵
主人公。東北の金満家の末息子。子供の時から気が弱く、人を恐れているが、その本心を悟られまいと道化を演じる。画家になるのが夢だったが、父親に逆らえず進学のため上京する。自然と女性が寄ってくる程の美男子。初登場時20~21歳。
竹一
中学校の同級生。葉蔵の道化を見抜く。葉蔵に対し「女に惚れられる」、アメデオ・モディリアーニに霊感を受け書いた陰鬱な自画像に見て「偉い絵画きになる」という二つの予言をする。顔が青膨れで、クラスで最も貧弱な体格。
堀木正雄
葉蔵が通う画塾の生徒。葉蔵より6つ年上(26~27歳)。葉蔵に「酒」「煙草」「淫売婦」「質屋」「左翼運動」など様々なことを教え、奇妙な交友関係を育む。遊び上手。色が浅黒く精悍な印象を与える美男子。下町・浅草で生まれ育っており、実家はしがない下駄屋。
ツネ子
カフェの女給。周りから孤立していて寂しい雰囲気がある。夫が刑務所にいる。広島出身。葉蔵と入水心中して死亡する。22歳。
シヅ子
雑誌の記者。葉蔵に漫画の寄稿を勧める。痩せていて背が高い。夫とは死別。山梨出身。28歳。
シゲ子
シズ子の娘。葉蔵を「お父ちゃん」と呼び懐く。初登場時5歳。
マダム
バアの女主人。女性ながら義侠心のある人。転がり込んできた葉蔵を温かく迎える。目が細く吊り上がっていて、鼻が高く、小柄。
ヨシ子
バアの向かいのタバコ屋の娘。処女で、疑いを知らぬ無垢な心の持ち主。信頼の天才。色が白く、八重歯がある。初登場時18歳。
ヒラメ(渋田)
古物商。葉蔵の父親の太鼓持ち的な人物。葉蔵の身元保証人を頼まれる。眼つきがに似ており、ずんぐりとした体つきで独身。計算高く、おしゃべり。東北出身。40代。

受容[編集]

外国語訳はドナルド・キーンの英語訳(英訳題:"en:No Longer Human" )などが有名であるが、海外ではこの作品は性的虐待を表現した小説であるともみなされており、宮地尚子がMike Lewに自身の所属するグループで読んでもらったところ「辛くて読めない」という人まで出現した。L・ドゥモースも『親子関係の進化 子ども期の心理発生的歴史学』で乳母からの性的虐待の歴史の中でこの事例を報告している。

2007年6月に出版された集英社文庫の新装版では、『週刊少年ジャンプ』で連載する漫画家小畑健が表紙画を担当したことで中高生を中心に話題を呼び、発売から1か月半で75,000部という近代古典文学としては異例の販売数となった。2009年10月には日本テレビ系にて、上記の集英社文庫の企画で6作品のカバーイラストを担当した漫画家たちがキャラクター原案を担当するテレビアニメ青い文学シリーズ」が放送され、その中の1作としてアニメ化された。キャラクター原案は表紙を担当した小畑健である。

2009年(平成21年)5月に、太宰治の生誕100年を記念して荒戸源次郎監督により映画化が発表された。同小説の映画化は初めての試みである。主演は生田斗真。クランクインは同年7月、全国の映画館にて2010年(平成22年)2月20日土曜日)に封切りされた。

翻案[編集]

映画[編集]

人間失格
監督 荒戸源次郎
脚本 浦沢義雄
鈴木棟也
製作総指揮 角川歴彦
出演者 生田斗真
伊勢谷友介
寺島しのぶ
石原さとみ
小池栄子
坂井真紀
室井滋
石橋蓮司
森田剛
大楠道代
三田佳子
音楽 中島ノブユキ
撮影 浜田毅
編集 奥原好幸
配給 角川映画
公開 日本の旗 2010年2月20日
上映時間 134分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
興行収入 5.5億円[1]
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太宰治の生誕100年を記念して2009年(平成21年)5月荒戸源次郎監督が映画化を発表。クランクインは2009年(平成21年)7月2010年(平成22年)2月20日全国主要映画館にて封切りされた。

キャスト[編集]

スタッフ[編集]

テレビアニメ[編集]

2009年(平成21年)10月10日より、日本テレビ系列にて放送された「青い文学シリーズ」の中の1作として放送。

ラジオドラマ[編集]

2009年(平成21年)5月4日にJ-WAVEで「Art Of Words〜櫻井翔の『人間失格』」を放送。 櫻井翔主演。 ラジオドラマの他に猪瀬直樹VS櫻井翔のスペシャル対談も放送された。

コミック[編集]

『人間失格』を原作とした漫画作品。

本作に影響を受けた作品[編集]

  • “文学少女”シリーズ - 第1作『“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)』は人間失格を題材にしている。
  • 人間・失格〜たとえばぼくが死んだら - タイトルの使用について遺族から抗議を受けた。内容的には本作品とは関係は無い。
  • さよなら絶望先生 - 主人公「糸色望」の性格設定は本作品の主人公である大庭葉蔵もしくは太宰治自身をモデルにしており、悩み相談室にて「恥の多い生涯を送ってきました」というセリフを吐いている。

脚注[編集]

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  1. ^ 角川HD第56期報告書より。

外部リンク[編集]