選挙妨害

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選挙妨害(せんきょぼうがい)とは、国政選挙又は地方選挙で、候補者以外による応援演説を含む選挙演説の妨害(演説妨害)など選挙活動を妨害する行為[1][2][3][4][5]

概要[編集]

かつては第二次世界大戦後の日本における選挙妨害といえば、スピーカー声量が大きいことなどを理由に突っかったり、選挙ポスターを破くなどをする単独犯だった。しかし、特に選挙演説中にシュプレヒコール形式の罵声による二人以上による選挙妨害・組織的演説妨害の事例が目立つようになっている[1]。日本の最高裁は1948年に候補者陣営による演説周囲で大音量で騒ぐなど「聴衆がこれを聴き取ることを不可能または困難ならしめるような所為」を演説妨害と認定していたが[6]、平成末期以降から選挙活動に対する大声などを用いた「選挙の自由妨害」の事例が多発するようになった[6][7][8][9]月刊Hanadaは、選挙演説妨害事例が日本で広まったきっかけとして、安倍晋三首相が参加した2017年7月の東京都議選での自民党候補への応援演説に対する、罵声を用いた組織的選挙妨害行為におけるマスコミの報道姿勢、政権批判のために選挙妨害側を擁護した野党側の姿勢にあると指摘されている[1][7][8]。更には、警察が選挙妨害者への取締りが困難になった理由として、選挙妨害行為が容易になったきっかけとして、2019年に札幌市で街頭演説をしていた安倍晋三首相に対する選挙妨害者らが起こした訴訟と地裁判決内容だけでなく[10][11]、札幌での選挙妨害以前からの立憲民主党などの左派野党、支持者、北海道放送(HBC、TBS系)などテレビ局、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞など左派マスコミによる選挙妨害側を擁護姿勢していたことへの責任が指摘されている[11][9]

近年の日本国内選挙を振り返ると執拗な選挙妨害行為に悩まされ続けたのは、安倍晋三元首相だった[7]。特に後述のつばさ党の代表は、同党結党以前から同様の選挙妨害をしていたが、野党、野党支持者、マスコミにおける多数派は反安倍政権の立場から選挙妨害側を擁護していた[12][9][13][8]。しかし、野党側も、野党候補者のみが乱立した2024年4月の衆院東京15区補選において、諸派新人候補者と陣営が他党候補を標的にした選挙妨害を行った。自陣営も実害を直接受けたことで、候補者陣営への罵声や集団突撃など選挙妨害行為が違法でないと「選挙が成り立たない」と問題視、法改正を求める事態になっている[7][11][14]国民民主党田中健衆院議員は、 衆院予算委員会における岸田文雄首相への質問で候補者の演説が大音量で妨害されたり、候補者側への威嚇・恫喝行為が繰り返されており、「演説を聞く有権者の権利」を奪われていること[7]、選挙妨害とは「民主主義に対する妨害」と指摘した[15]。「(岸田)首相の演説でもこんなことがあってはならない」とし、妨害行為者側はSNSなどインターネットで拡散・炎上で利益を得ていることも指摘した[7]。岸田文雄首相は衆院予算委員会の田中議員の質疑に対して[15][7][16]、「一般論」とした上で、選挙演説に対する大音響妨害などの行為には対策が必要とし、「選挙制度の根幹に関わる事柄として各党各会派で議論すべき課題だと認識している」と答弁した[16]

実際に起きた例[編集]

2017年東京都議会議員選挙[編集]

組織的演説妨害事例の最初の代表例と指摘されている[1][4][7]2017年7月秋葉原(正確な場所は東京都千代田区外神田)で自民党候補の選挙演説中に事前にプラカード[1]、「安倍やめろ」の巨大な横断幕を広げたり[7]中指立て又は親指下げながら大声で叫んでいるシュプレヒコール集団から[1]、「帰れ」「安倍ヤメロ」「安倍ヤメロ」「安倍ヤメロ」「安倍ヤメロ」などの集団的罵声コールで選挙妨害を演説中終始受け続けたことである[1][7]。安倍政権に批判的なコール集団が「演説を正面から見られる一等地」に密集出来ていた背景として、もともと「一等地」にいた多くの一般聴衆が抗議者らの掲げた大きな横断幕のせいで安倍首相が選挙カーに登壇しても隠れて見えなくなると不満に思って、移動したことにある。そのため、「演説を正面から見られる一等地」にできた空白にコール者らが一斉に集まっていた[17][18]。このシュプレヒコール集団に途中から加わった京都精華大学講師の白井聡によると、広場の一角に「安倍やめろ!」と書かれた大きな横断幕を掲げる人々がおり、それを囲むように安倍批判スローガンのプラカードを持ってきて掲げている人々が一箇所に集まっていて、彼らは安倍首相の到着前の自民党の都議選挙候補者や他の応援弁士による演説中から「安倍辞めろ」などと既に大声で叫び続けていた。白井は「私は即座にそこに加わった。」とし、その後に安倍が到着して選挙カーの上に登壇すると「辞めろ」「帰れ」のシュプレヒコールは既に地鳴りのような状態であったが、更にボルテージが上がったと述べている。安倍が自民党候補者応援演説で何を言っているのかほとんどわからない状態だったとし、安倍が応援演説で話している最中の約15分間も「地鳴り」レベルのシュプレヒコールが響き続けたことを振り返っている。コールをしていた白井は「安倍が受けたのは野次ではない」との認識を示し、「読んで字のごとく、命令であった。」と明かしている。都議選挙での都民ファーストの会の躍進・自民党敗北の結果が出た後のサンデー毎日への寄稿にて、「安倍はこの命令に従わざるを得なくなるだろう。」と予測し、安倍首相について「レームダック[19]」「水に落ちた犬[20]」に漸くなったと感慨を示した[18]。産経新聞や月刊Hanadaは、自民党側の選挙演説に対する1時間以上にわたる「安倍やめろ」コールによる演説妨害と共に、これに堪忍袋の緒が切れた安倍首相が「あんな人たち(シュプレヒコール集団)に負けるわけにはいかない」と発言した場面だけを切り取って報道した、一部テレビ局による印象操作を批判している[8][1]。そもそもこの事件は「ヤジ(野次)」と過小的に報道されていることで、現場に居なかったり、演説開始から終わりまでの妨害集団の様子をフル動画を見ていない人たちが「一瞬会話の合間に一言だけ声を出した」程度のように誤解が起きている。しかし、実際には演説を一切聞くつもりもない反安倍派の人々がSNSで互いに呼掛けて行った、首相ら候補者陣営のスピーカーを用いた演説さえも傾聴不可能な長時間に渡る組織的罵声連呼による演説妨害であった[21]。産経新聞が、前述の大きな「安倍やめろ」横断幕の制作過程をツイッター上で公開していた「対レイシスト行動集団」の野間易通による都議選挙での妨害行為への関与を報じると、ツイッター上で野間は「7月1日からネットに書いてあることを何いまごろ『明らかに』しとんねん笑」と認めている[22]。事件後の選挙演説には、池袋や秋葉原ではテレビ朝日TBSに抗議する支持者らが現れた。産経新聞は「選挙妨害はやめろ」との批判は選挙妨害者にだけでなく、組織的演説妨害に乗っかる一部メディアにも向けられたものだと自覚しないと日本のマスコミは「ガラパゴス化」が加速すると警告している[8]。事件後にTwitter検索で判明したが、初めから演説を聞くつもりもなく、安倍首相の演説妨害の意図で、左翼団体メンバーや妨害賛同者らがツイッターで、秋葉原に集結するように組織的動員していた。 しかし、マスコミや積極的自民党不支持層はこれらを擁護したため、同事件以降からシュプレヒコールなど大声で喚くことで、メディア注目度の高い選挙における自民党候補選挙演説での聴衆の傾聴妨害が目立つようになった。選挙演説での不支持側へのシュプレヒコールでの傾聴妨害が合法行為とみなされると、左派系野党候補にも同じことが行われることに繋がり、選挙に基づいた民主制が守れなくなる。そのため、いくら反安倍政権の立場でも民主主義者ならばシュプレヒコールを含む選挙妨害には反対すべきだと指摘されている[1]

2017年衆議院議員選挙[編集]

2017年衆議院議員選挙で安倍晋三首相の選出区である山口県第4区出馬した政治団体代表黒川敦彦(後につばさの党代表[23])を筆頭に、「権力批判のためなら何をやっても許される」とでもいうような人々による言動が目立った。産経新聞は、選挙活動や言論の自由は最大限尊重されるべきだが、妨害行為を許すような風潮が広がれば、日本の法治主義、民主主義が揺らぎかねないとの懸念を表明した。例として、黒川はツイッターに「安倍あきえ(安倍昭恵)を取り囲みましょう!」と投稿した上で、公示日に参院議員の山本太郎と安倍陣営出陣式に訪れ、インターネットで動画中継した。10月14日には、黒川と共に森友・加計問題を追及する市民団体代表が、安倍選挙事務所で40分間に渡り、森友学園問題や憲法改正に関してスタッフに詰め寄る動画をインターネットで公開した。選挙戦終盤の2017年10月17日曜夜に山口県下関市内公民館で昭恵首相夫人の個人演説会の開催中に、黒川候補はその公民館前で「演説」することで妨害した。安倍陣営個人演説会時でも同様の行為が行われ、そちらに出席した男性会社員は「外の(黒川候補による)演説が大きくて、会場の中でも声を張り上げないと聞こえないくらいだった」と明かしている。選挙カーですれ違う際にも同様の行為をした。黒川敦彦は産経新聞の取材に「どこが選挙妨害なんですか。街頭で選挙運動をするのに問題はなく、安倍氏の支持者に訴えたかっただけだ」と主張した。産経新聞は、自民党以外の候補者や団体を対象に、「○○を取り囲みましょう!」というネット投稿行為、同選挙区内の他候補の会場前で妨害演説行為が行われていたら、「毎日新聞朝日新聞はどう報じただろうか」と皮肉った。産経新聞は「報道しない自由」によって、「反安倍」を掲げれば法律違反に等しい行為を黙認することは、「選挙妨害行為への加担」と批判している[12]。 2024年5月18日には毎日新聞も、同年衆院補選で逮捕された黒川らが2017年に出馬し、安倍晋三陣営へ同様の選挙妨害を既にしていた過去があることを報道した。選挙期間中に黒川らは山口県下関市内で開催された安倍陣営の個人演説会場前で大音量演説したり、その後に安倍昭恵による応援演説の際も同様の選挙妨害を繰り返し、安倍陣営の選挙カーを車でつけ回したり、スマートフォンで何度も安倍陣営の動画撮影も行っていた。2024年黒川逮捕後に、毎日新聞が当時の関係者を取材したところ、「当時は(安倍)陣営で徹底的に無視しようと対応を話し合ったが、選挙期間中はずっと妨害行為が続いて困った」と返答を得ている[5]

2019年参議院議員通常選挙[編集]

2019年に行われた第25回参議院議員通常選挙期間中の7月15日に北海道札幌市中央区のJR札幌駅前で応援演説中の安倍首相に対して、「安倍やめろ」「帰れ」など大声連呼していた人などを、北海道警が制止や移動させた事例である[24][25]。一審では道警の主張を悉く否定し[24]、令和7年3月25日に札幌地裁広瀬孝裁判長は「原告の表現の自由は警察官らによって侵害されたと言うべきだ」も道警側の対応は違法だったなどとして[26]、二人へ北海道側が賠償するとの判決を下した[24][25]。しかし、この1審判決から約3ヶ月後の同7月8日に応援演説中の安倍元首相が銃で暗殺される事件が発生し、「演説中の要人が危害を加えられる」リスクが顕在化した[24][11]。二審の札幌高裁では演説開始から間もなく演説中の安倍首相へ「安倍辞めろ」「帰れ」などと大声で連呼し始めた原告男性に対し「うるさいぞ」との声が聴衆から上がる様子、警察官による注意後も男性が大声連呼を続けたこと、演説車両に向かって突然走り出したことで制止処置となったことも踏まえられ、男性への道警の対処は「安倍首相らへの危害を加える危険性が切迫していた」ことが認められ、男性の方の請求は棄却された[24]。北海道警は、片方は演説者側への大声連呼や動きなどから警察官による制止は適正内の措置と認められたものの、もう片方の女性(当時女子大生。後に自治労傘下労組専従職員)に対する対応も適切だったとして、最高裁へ上告中である[24][25][11]。後述の2024年の衆院補選における選挙妨害について、立憲民主党の蓮舫議員は「警察の対応が遅くて怖かったです」と書き込んだが、警察が選挙妨害へ対処することを困難な状況にしたのは「左派勢力の人たち」なため、これはブーメランだと指摘されている。道内メディアは道警対応を批判し、TBS系の地元放送局北海道放送(HBC)はデスク職が映画まで作り、上述の訴訟の原告の女子大生は選挙妨害後に、立憲民主党の支持母体である自治労の下部団体の労組専従職員となった。更にその後に書記次長へ昇進している[11]

また、2019年頃にも安倍首相が参加する応援演説に対する選挙妨害が相次いだ。自民党がインターネット上での公開を辞め、オフラインのみで告知するようになったも選挙演説妨害が続いていることが報道された。このような背景には、ツイッターなどで設置した首相演説日程が書かれた看板などの画像も、検索用目印の「#(ハッシュタグ)」を付けられ、抗議者らよって賛同者を集める形で拡散されていることにある。安倍首相が同年の参院選の自民党候補の応援演説に来ることが告知されていた東京都中野区のJR中野駅前で、首相が駆けつけると、聴衆の一部の集団から「安倍辞めろ」と首相の演説中も罵声が続いた。そのため、この騒いでいる集団を撮影しようとした女性がスマートフォンを奪われ、壊された。加害者の40代女は警視庁器物損壊容疑で現行犯逮捕された。被害者の女性は産経新聞の取材に「(自民党)候補者に『死ね』とも言っていた。」と怒りを表にした。立憲民主党もこの事件の翌々日に演説妨害の可能性を踏まえ、枝野幸男代表の岡山県入りの日程の一部を非公表にした[4]

2024年衆議院東京15区補欠選挙[編集]

2024年の衆議院東京15区江東区)の補欠選挙で、つばさの党の候補者の根本良輔、代表の黒川敦彦、組織運動本部長のSら3人が補選公示日の4月16日に江東区のJR亀戸駅前で乙武洋匡陣営の街頭演説の近くで大音量で演説したり、車のクラクションを鳴らすなどした。これらの行為が公職選挙法の自由妨害にあたると警視庁は判断し、18日に3人に警告を出した[27][28]

4月18日には、根本らが、乙武を支援していた小池百合子東京都知事[29]の練馬区の自宅[30][31]の前で大音量の街宣活動を行った。小池は「近所の方々にご迷惑をおかけすることになっている。選挙活動の範囲を逸脱し、住宅環境も壊している。憤りを感じている」と述べた[32]。小池は翌日の定例会見で「の危険を感じるような場面もあった」「選挙活動の範囲を逸脱している」[33]、「これまでに経験したことがない選挙妨害が発生している。選挙のあり方について法律上見直していただきたい」とし、選挙に関する現行法改正を訴えた[3]。こうしたつばさの党の一連の妨害活動について、小池は会見で「これまで経験したことがない選挙妨害が発生している」と発言した[34]

この補選で自民党は候補者を出しておらず、乙武陣営や小池、立憲民主党日本維新の会参政党などの各陣営が選挙妨害の標的になった。走行中の他候補者の選挙カーを追いかけ、他陣営の選挙カーが警察署への避難を余儀なくされたケースも複数確認された[3][35]。警察目線が罵声を出すなどの選挙妨害対応に抑制的である背景には、最高裁判決はまだなものの、対応次第では上記の2019年参議院議員通常選挙における北海道警への訴訟のように違法ともされかねないとの畏怖があるからと報じられた[36]

選挙戦最終日の4月27日、黒川はフジテレビの取材に対し、「(警告は)警察の職権濫用だと思います。法律で許されている範囲のなかで最大権利を行使しているだけ」と話したほか、他の陣営の演説会場の前で演説を強行したことについて「(自分の)質問に答えてもらうため」と反論した[37]。立憲民主党・日本維新の会・国民民主党などの各陣営は警視庁に被害届を提出した。

5月13日、警視庁捜査2課は、黒川の朝霞市の自宅、根本の練馬区東大泉の自宅、つばさの党の千代田区隼町の事務所の3か所を公職選挙法違反(選挙の自由妨害)容疑で家宅捜索した[38][39][40][41]

5月17日午前、警視庁は黒川、根本、党運動員Sの3人を公職選挙法の自由妨害容疑で逮捕した[42][43]。候補者演説の側での大音量演説為による演説妨害の罪が問われている。そして、選挙カー追跡による通行妨害行為の方でも後で立件されることが視野に入ってると報道された[44]

その他[編集]

護憲の左派である天木直人も、2017年(平成29年)「新党憲法9条」から第48回衆議院議員総選挙東京21区より出馬したが、立憲民主党・日本共産党社会民主党による野党共闘統一候補の小糸健介(社民党公認)がいた。そのため、野党共闘側を支持するしばき隊(当時:対レイシスト行動集団,略称C.R.A.C)や市民団体から「左派有権者層の票が割れる」と標的にされ、選挙活動妨害を受けたことを明かしている[2]

報道及び批判[編集]

上述の2017年東京都議選における自民党候補者・応援演説に来た安倍晋三に対する秋葉原での「カエレ」「安倍ヤメロ」コール集団に参加した白井聡京都精華大学人文学部専任講師は、当時の自民党候補者演説周囲の状況を「地鳴り」レベルであり、「安倍が演説で何を言っているのかほとんどわからない」状態であったと明かしている。白井は多くのメディアでは秋葉原での事態が「ヤジ」「野次が飛んだ」と報道されたことについて、「あのなかにいた者の実感」として、「野次を飛ばす」には相手の発言を一旦は聞かなければ出来ない行為であり、安倍が受けたのは「野次ではなかった」と指摘し、「われわれのうちの誰も、もはや安倍の話を聞く気などなかった」「われわれが発していた言葉は、命令であった」と訂正している[18]

読売新聞は、2017年の東京・秋葉原の安倍首相による都議選応援演説の際に野党が「国民の声を聞かないのか」と安倍首相側を批判したことなどを挙げ、安倍首相の批判派の言動が先鋭化し、「リベラル派」を自認する集団による安倍首相への選挙妨害も増え、首相退任後も、「安倍になら何を言ってもいい」という空気が続き、インターネット上でも安倍に批判的であると思われるユーザーによる「安倍死ね」などの誹謗中傷が続いていたと指摘する[45]

自民党公認の候補者が立候補しなかった2024年の衆院補選では野党も選挙妨害被害が発生することになった[7][11][9]。2024年の選挙において公選法上の自由妨害行為を行ったとされて逮捕された黒川敦彦らは、「つばさの党」結党以前の2017年衆院選挙時点で、自民党の安倍晋三陣営に対して、山口4区から出馬しならが候補者の立場で選挙妨害を行っていた[12]。週刊新潮は自民党や安倍晋三が被害時に選挙妨害側擁護または、受けた側批判してきたことが、警察が選挙妨害への対応を難しくしたと主張している[11]

ブロガーの藤原かずえは、2024年衆議院選挙補選においては、選挙妨害側を批判する報道がされたことで、日本国民の多数派が、恫喝による選挙妨害を正当化していた日本の新聞やテレビ局など言論機関の問題を認識したと指摘する[9]。藤原によると、2017年に前述の安倍晋三首相(当時)の都議選応援演説は、大声で執拗にかき消されている状態であったが、朝日新聞は「批判を連呼しても主権者じゃないか。このむき出しの敵意、なんなのか」、毎日新聞は「首相、聴衆にまで激高」、東京新聞は「敵と味方に分断」などとし、テレビも安倍首相側を徹底的に非難し、選挙妨害側を擁護した[9]

2019年の参院選での安倍首相による札幌演説で「安倍やめろ」「帰れ」という大声で選挙妨害していた人を北海道警が移動させたことに対して、朝日新聞は「市民を排除。ヤジも意思表示のひとつの方法」、毎日新聞は「警察の政治的中立性に疑問符」、東京新聞は「市民から言論を奪うな」などとし、テレビ局も安倍首相側を非難した[9]

産経新聞は2017年の衆院選挙で安倍晋三の出馬選挙区で、つばさ党結党となる以前に選挙妨害していた黒川敦彦らだけでなく、「自民党候補への選挙妨害」への朝日新聞や毎日新聞のマスメディアも「権力批判のためなら何をやっても許される」と考えていると批判し[12]、2024年にも社説において、憲法による「言論や表現の自由」の保障は、公共の福祉による限界があることを指摘して、衆院東京15区補欠選挙でも、対立陣営の街頭演説や選挙活動を妨害した「つばさの党」に対する捜査への支持を社説で表明している[23]。「演説場所で大声を上げつきまとう」などの選挙妨害行為で、「つばさの党」幹部が警視庁に公職選挙法違反(自由妨害)の疑いで家宅捜索された事実に関して、産経新聞は警察の対応が遅いことを指摘しつつ、好意的に評価したうえで、衆院東京15区補欠選挙における選挙妨害以前に、警察による選挙妨害の取締りを批判していたマスコミ・野党議員、その批判を事実上公認した裁判所に対しては、その行為が安倍元首相暗殺の原因になったと非難している[13]

毎日新聞については、黒川らの逮捕後の2024年5月18日に、安倍晋三ら衆院選山口4区の自民党陣営に対して、出馬していた黒川陣営が今回同様の選挙妨害していた過去があったことを報道した[5]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i 月刊Hanada2022年9月号 - p232-4, 月刊Hanada編集部
  2. ^ a b 紙の爆弾 2018年 4月号 - p41 鹿砦社
  3. ^ a b c 衆院東京15区補選で「選挙妨害」警視庁が違反警告 怒る小池百合子知事「経験したことがない」:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2024年4月20日閲覧。
  4. ^ a b c INC, SANKEI DIGITAL (2019年7月13日). “首相演説で妨害相次ぐ 聴衆に被害 公選法に抵触も”. 産経ニュース. 2024年4月20日閲覧。
  5. ^ a b c 逮捕の「つばさの党」代表、2017年衆院選山口4区でも演説妨害”. 毎日新聞. 2024年5月18日閲覧。
  6. ^ a b 選挙妨害で諸派新人ら警告 東京15区補選で警視庁”. 日本経済新聞 (2024年4月28日). 2024年4月29日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k 慎平, 奥原 (2024年4月23日). “東京15区補選注目の「選挙妨害」に苦しんだ安倍氏 ヤジ排除は「表現の自由侵害」判決も”. 産経ニュース. 2024年4月23日閲覧。
  8. ^ a b c d e INC, SANKEI DIGITAL (2017年10月24日). “【衆院選】安倍晋三首相の演説を妨害した「こんな人たち」を封じた聴衆の「声」 「選挙妨害をやめろ」はメディアにも向けられた(1/4ページ)”. 産経ニュース. 2024年4月20日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g INC, SANKEI DIGITAL (2024年5月12日). “「ヤジ正当化」で民主主義の根幹を破壊 朝日など一部メディアは過去を総括せよ 藤原かずえ 新聞に喝! ブロガー・藤原かずえ”. 産経新聞:産経ニュース. 2024年5月13日閲覧。
  10. ^ 「つばさの党」の”選挙妨害”立件へ…「表現の自由」の主張はどこまで認められるか?【弁護士解説】(弁護士JPニュース)”. Yahoo!ニュース. 2024年5月16日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g h はたして蓮舫氏に「選挙妨害」を批判する資格はあるのだろうか 東京15区「場外乱闘問題」の背景(デイリー新潮)”. Yahoo!ニュース. 2024年5月7日閲覧。
  12. ^ a b c d INC, SANKEI DIGITAL (2017年10月30日). “安倍首相のおひざ元・衆院山口4区で起きたこと…これが選挙戦なのか 民主主義が揺らいでいる(1/5ページ)”. 産経新聞:産経ニュース. 2024年5月16日閲覧。
  13. ^ a b 瑠比, 阿比留 (2024年5月16日). “安倍元首相暗殺の陰にも演説妨害 阿比留瑠比の極言御免”. 産経新聞:産経ニュース. 2024年5月16日閲覧。
  14. ^ 「選挙妨害」巡り、維新が改正案…「選挙の自由妨害罪」に対象の行為明記・罰則強化”. 読売新聞オンライン (2024年5月7日). 2024年5月7日閲覧。
  15. ^ a b 【衆予算委】田中けん議員が選挙妨害対策などについて質疑”. 新・国民民主党 - つくろう、新しい答え。 (2024年4月22日). 2024年4月23日閲覧。
  16. ^ a b 他候補の隣で大音量の主張 諸派新顔に「選挙妨害」批判 東京15区:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年4月23日). 2024年4月23日閲覧。
  17. ^ 批判者に反撃「こんな人たち」コロナ危機、安倍氏の代償:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2021年3月17日). 2024年4月24日閲覧。
  18. ^ a b c サンデー毎日2017年7月23日号p34-37「 轟いた「安倍ヤメロ」の意味 」白井聡京都精華大学人文学部専任講師
  19. ^ 足の不自由なアヒル」から転じて、政治的な影響力を失った者のこと。
  20. ^ 打落水狗「水に落ちた犬を打つ」から転じて、既に敗北したが降参していない悪人に追い打ちをかけてやっつけること
  21. ^ 月刊Hanada2018年12月号 p94,月刊Hanada編集部
  22. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2017年7月7日). “【ネットの話題】秋葉原の安倍晋三首相の演説で、「安倍やめろ」のコールをしたのは誰?場外戦に発展も(1/3ページ)”. 産経ニュース. 2024年4月23日閲覧。
  23. ^ a b INC, SANKEI DIGITAL (2024年5月16日). “<主張>「選挙の自由」妨害 悪質行為の摘発は当然だ 社説”. 産経新聞:産経ニュース. 2024年5月16日閲覧。
  24. ^ a b c d e f 滝口 亜希, 大渡 美咲 (2023年6月22日). “具体的な危険性認定 警察対応は適法 やじ訴訟”. 産経ニュース. 2024年4月23日閲覧。
  25. ^ a b c 安倍首相の街頭演説ヤジ排除訴訟、男性への賠償命令取り消し…札幌高裁”. 読売新聞オンライン (2023年6月22日). 2024年4月23日閲覧。
  26. ^ 安倍元首相にヤジ、警官の排除は「違法」…札幌地裁、北海道に賠償命じる”. 読売新聞オンライン (2022年3月25日). 2024年4月23日閲覧。
  27. ^ 「つばさの党」に選挙妨害で警告、別陣営の街頭演説中に近くで大音量の演説 衆院東京15区補選‐社会:日刊スポーツ 2024年4月28日2024年4月29日閲覧。
  28. ^ 「任意での捜査に限界」逮捕の背景は?“選挙妨害”の疑い『つばさの党』幹部3人逮捕”. 東日本放送 (2024年5月17日). 2024年5月21日閲覧。
  29. ^ 宮原健太 (2024年4月12日). “女帝・小池百合子氏が大誤算で窮地へ…補選に向けて発覚した「驚きの数字」”. 現代ビジネス. 2024年4月12日閲覧。
  30. ^ "練馬区で従兄弟一家と同居する都知事のご自宅訪問|小池百合子の「グランマの部屋」へようこそ". クーリエ・ジャポン. 講談社. 2017年3月24日. 2020年8月23日閲覧
  31. ^ "小池百合子都知事、勇ましさの裏で「もう、女じゃなくなった」記者の前で涙した過去". 週刊女性PRIME. 2020年4月30日. 2021年6月30日閲覧
  32. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2024年4月19日). “小池都知事、衆院補選での〝ヤジ〟戦略に異議 「これまでに経験したことのない選挙妨害」”. 産経ニュース. 2024年4月20日閲覧。
  33. ^ 内政部, 時事通信 (2024年4月19日). “「命の危険感じる」と批判 東京15区補選で妨害行為―小池都知事:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2024年4月20日閲覧。
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関連項目[編集]