働かないおじさん
働かないおじさん(はたらかないおじさん)とは、周囲の期待する役割に対して、成果や行動が伴っていない中高年の男性社員を指す用語[1][2][注釈 1]。存在感が薄いため妖精さん(ようせいさん)とも呼ばれる[3]。全く働いていないわけではないものの、働きに見合わない高い報酬を受け取っているとして批判されている[1][4][5]。
「働かないおじさん」という用語自体は、少なくとも2013年にはビジネス評論家の楠木新によって言及されている[6]。2014年には「働かないおじさん」に関する著書も出ている[7]。
実態
[編集]識学による調査
[編集]2022年4月に株式会社識学が行った調査によると、会社に働かないおじさんがいると答えた者は49.2%であった[8]。また、そのうち9割以上の者は何らかの悪影響を受けているとした[注釈 2]。
働かないおじさんが仕事中にしていることについては、以下の行動が上位に挙げられた。
難波による分析
[編集]人事コンサルタントの難波猛は、働かないおじさんは決して悪意を持って「働かない」わけではないとしている[9]。本人としては真面目にコツコツと働いてきた、頑張ってきたと考えている人も多いという。しかし、ミドルシニアは若手よりも報酬が高く、また、より責任や影響力のある立場にあることが多いため、それに見合った十分な成果が出せなくなってしまっていると指摘している。
その認識を前提に、働かないおじさん問題は日本社会としても看過できない問題だと難波は指摘している[10]。この問題は様々な要因が複合的に重なって生じており、本人や会社の問題だと短絡的に考えて犯人捜しするものではないとする。その解決のためには、「本人・会社・社会が抱える複雑な問題として認識した上で、最適解を模索し相互に努力し続けること」が大切であるとしている。
類型
[編集]難波は、問題整理のために以下の6タイプへの類型化を試みている[1][注釈 4]。
- 期待している成果が出ない(成果のミスマッチ)
- 仕事への意欲が不足している(意欲のミスマッチ)
- 本人が良かれと思ってやっている言動がズレている(期待のミスマッチ)
- 成功体験が邪魔して話が伝わらない(コミュニケーションコストの問題)
- 年上部下・年下上司が、お互い遠慮してしまう(心理的コストの問題)
- 改善や変化をするのに時間がかかる(時間的コストの問題)
また難波は、以下の5タイプへの類型化も試みている。
- Windows 2000型(報酬と成果のギャップ)
- 燃え尽き型(意欲のギャップ)
- 勘違い型(期待のギャップ)
- 元エース型(時代とのギャップ)
- はしご外され型(ポジションのギャップ)
対応
[編集]一般的に、「能力の低い人は自分の能力を過大評価する」という認知バイアスが存在すると言われ、これをダニング=クルーガー効果という。そのため、働かないおじさんの何らかの「ズレ」[注釈 5]を修正しようとしても、反発や抵抗感を持たれやすい。そこで、 周囲ができるサポートとして、次の4つの段階を踏みながら働かないおじさんの姿勢や行動を変えていくことを難波は提唱している[12]。
- 否定フェーズ
- 最初は正常性バイアスが働いて、自分は正しいと考えてしまう(現実の否定)。そのため、厳しいことでも本人にきちんと伝え、働かないおじさんが不都合な事実も含めて正しい情報と向き合って、現実を受け入れられるようにする。
- 抵抗フェーズ
- 現実を受け入れても、「自分のせいではない」という他責思考により感情面で納得できないことが多い。無理に説得するのではなく、「気持ちの吐き出し」と「言語化」を図り、本人の言い分に傾聴することが大切である。
- 探求フェーズ
- 「こんな風になりたい」という自分の将来像を具現化し、その達成に向けた計画を一緒に考え、支援する。このとき、あくまで本人が主体となって考えられるように注意し、内発的な変化を促す。
- 決意フェーズ
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c “サボってないのに「働かないおじさん」認定される人、6タイプ【人事コンサルが解説】”. 幻冬舎ゴールドオンライン (2022年2月18日). 2022年6月18日閲覧。
- ^ a b “仕事場に「働かないおじさん(おばさん)」がいる割合は6割 なぜ働かなくなる?”. ITmedia ビジネスオンライン (2022年11月24日). 2023年6月24日閲覧。
- ^ “働かないおじさん、実はやる気ある?職場で影薄い「妖精さん」の本音”. 毎日新聞 (2022年6月27日). 2022年6月29日閲覧。
- ^ “「働かないおじさん」巡り街の声バトル 20代「これでお給料もらえていいな」VS 50代「俺たちが若い頃はもっと働いてた」”. J-CASTニュース (2022年6月8日). 2022年6月18日閲覧。
- ^ “スタンフォード大学の研究で判明、将来の「働かないおじさん」を見分ける"意外な着眼点"”. PRESIDENT Online (2022年5月5日). 2022年6月18日閲覧。
- ^ “あなたの隣の「働かないオジサン」”. 東洋経済オンライン (2013年11月13日). 2023年8月11日閲覧。
- ^ “働かないオジサンの給料はなぜ高いのか―人事評価の真実―”. 新潮社. 2022年6月18日閲覧。
- ^ “"働かない"おじさんは仕事中に何をしているのか タバコをプカ~、すやすや”. ITmediaビジネスONLiNE (2022年5月28日). 2022年6月18日閲覧。
- ^ “実は真面目? 現代的な「働かないおじさん」5つのパターン”. ITmediaビジネスONLiNE (2022年2月21日). 2022年6月18日閲覧。
- ^ “これは立派な社会問題だ――「働かないおじさん問題」と正しく向き合うべき理由”. ITmediaビジネスONLiNE (2022年2月14日). 2022年6月18日閲覧。
- ^ “「働かないおじさん」を生む、3つのズレと解決方法”. ITmediaビジネスONLiNE (2022年2月28日). 2022年6月18日閲覧。
- ^ “「働かないおじさん」に共通するたった1つの特徴 「4つの段階」で求められる周囲のサポート方法”. 東洋経済オンライン (2021年10月19日). 2022年6月18日閲覧。
参考文献
[編集]- 難波猛『「働かないおじさん問題」のトリセツ』徳間書店、2021年。ISBN 978-4776211488。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 「働かないおじさん」はなぜ生まれるのか?大量退職、職場崩壊を招く人材配置の恐怖 - ダイヤモンドONLINE(2023年7月27日)
- 「働かないおじさん」はこうして大量につくられる…人事のプロが40代半ばを"魔の年齢"と呼ぶ深いワケ - PRESIDENT Online(2023年03月05日)
- 働かないおじさんを“一掃”すると、若者が犠牲になる - なぜ? - ITmedia ビジネスオンライン(2023年02月21日)