野中郁次郎

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野中 郁次郎
人物情報
生誕 1935年5月10日(79歳)
日本の旗 日本東京都
出身校 早稲田大学(学士)
カリフォルニア大学バークレー校(修士(MBA))
カリフォルニア大学バークレー校(博士(Ph.D))
学問
研究分野 経営学
研究機関 南山大学
防衛大学校
一橋大学
北陸先端科学技術大学院大学
博士課程
指導教員
フランセスコ・M・ニコシア
他の指導教員 ニール・J. スメルサー
アーサー・スティンチコーム
主な指導学生 沼上幹
網倉久永
主な業績 知識経営
影響を
与えた人物
米倉誠一郎
主な受賞歴 日経・経済図書文化賞(1974年)
組織学会賞(1984年)
経営科学文献賞(1991年)
紫綬褒章2002年
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野中 郁次郎(のなか いくじろう、1935年5月10日 - )は、日本経営学者一橋大学名誉教授知識経営の生みの親として知られる。2002年紫綬褒章受章。元組織学会会長。

人物・経歴[編集]

東京都墨田区出身。父は職人太平洋戦争中、疎開先の静岡県吉原町(現富士市吉原)でグラマンF6Fヘルキャットによる機銃掃射を受け九死に一生を得る。笑いながら機銃掃射を行う米兵の姿を見て復讐を誓った。兄と同じ東京都立第三商業高等学校に進学するが簿記珠算に興味がわかず、卒業要件の簿記3級と珠算3級を得ることができず、卒業が危ぶまれる状況になったため、教員の計らいで商業コースから進学コースに移り、複数の私立大学仏文科、独文科、政治学科などを受験。その中で唯一受かった早稲田大学政治経済学部政治学科に進学した。大学に合格した時は、教員から「お前でも受かるのか。」と驚かれたという。父からは政治家になることを期待されたが、政治学にはほとんど興味が沸かず、大学の授業にはあまり出ず、政治サークルやESSでの活動に熱中した[1]

大学卒業後は、兄の友人が務めていた富士電機製造株式会社に入社。就職活動では朝日新聞社も受けていたが、補欠合格だったため、兄の友人の紹介で富士電機製造を受けたところ、たまたま論文試験で大学時代に唯一関心を持って学んだ事項が出たため合格したという。入社後は3年間の工場勤労担当を経て、幹部研修の企画、労働組合執行役員、幹部教育、マーケティング財務経営企画などを担当。また職場の同僚と結婚した。会社で様々な業務を担当する中、経営学の手法が全てアメリカから来ていることに気づき、アメリカ留学を決意。いくつか願書を出し、1967年、最初に入学許可が出たカリフォルニア大学バークレー校経営大学院に進学。この際留学資金は知人が株投資に失敗して失ってしまったため、会社は退職ではなく休職扱いとしてもらえ、また人事部長からの50万借り入れや、友人からのカンパで資金を捻出したという[2]。アメリカでは妻が働き生活を支え、経営学修士MBA)取得を経て、1972年9月カリフォルニア大学バークレー校経営大学院博士課程を修了し、博士号を取得した。指導教員はフランセスコ・M・ニコシア。専攻はマーケティング及び社会学で、社会学の指導教員はニール・J. スメルサーアーサー・スティンチコームだった。博士論文は日本で『組織と市場』として出版され日経・経済図書文化賞を受賞。のちにコンティンジェンシー理論に発展した[3]

大学院在学中から村松恒一郎南山大学経営学部長(のちに一橋大学教授)の計らいで南山大学経営学部研究生や助手を務め、博士号取得後は南山大学で助教授、教授を務めた。1979年、富士電機製造時代に留学費用を貸付してくれた元人事部長から日本軍の研究を勧められて、京都大学時代の指導教官であった猪木正道防衛大学校学校長の自宅に訪れたところ、気に入られ、防衛大学校教授に就任する。当時は自衛隊に対するイメージが悪く、右翼と思われ次の就職がなくなるからやめておいた方がいいという周囲の反対を押し切っての就任だった。この日本軍研究の成果はのちに『失敗の本質』として出版され、大きな反響を呼んだ。

1982年、今井賢一一橋大学教授の紹介で、一橋大学商学部附属産業経営研究施設(現・同大学イノベーション研究センター)教授に就任。一橋大学産業経営研究施設に同じ年に採用されたマルクス経済学系の日本史学者米倉誠一郎助手と親しくなり、米倉助手をハーバード大学に留学させ経営史学者に転向させた[4][5]。また沼上幹(のちに一橋大副学長)、網倉久永(のちに上智大学教授)などを指導。1983年竹内弘高ハーバード大学助教授を、一橋大学助教授として招き、ハーバード・ビジネス・スクール創立50周年カンファレンスのため今井教授、竹内助教授とともに日本企業の新製品開発プロセスの調査研究を開始。1986年『ハーバード・ビジネス・レビュー』に研究をまとめた論文が掲載され「ナレッジマネジメント」の概念が広く知られるようになった[6]

1997年から5年間、小林陽太郎富士ゼロックス元社長がカリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールに知識学寄附講座を開設し、野中教授は特別名誉教授に就任した。2004年、「講書始の儀」進講者。エーザイ取締役・指名委員会委員長、富士通取締役、元雪印乳業監査役(2002年まで)等を歴任。2006年事業創造大学院大学非常勤教員就任。2010年富士通総研理事長就任。同年瑞宝中綬章を受章した[7]

略歴[編集]

学説[編集]

野中は、知識経営の生みの親として知られている。英語で出版された『知識創造企業』は多くの賞を受賞し、今日までに28,000件の引用がなされている[10]。『ハーバード・ビジネス・レビュー』にもその論文は掲載された。 これ以外にも、多くの著作が英語で出版されており、アメリカで知られる数少ない日本人経営学者であるほか、近年中国などでも知られる存在となっている。

野中は当時躍進目覚しい日本企業に注目し、その知識のマネジメントに注目した。彼によれば西洋は形式知、東洋暗黙知重視の文化を持っており、日本企業が優れているのは組織の成員がもっている暗黙知と形式知をうまくダイナミックに連動させて経営するところにあるとする。合宿や飲み会などの「」を通じての暗黙知の共有、暗黙知の形式知化を促すコンセプト設定などが例として挙げられる。この暗黙知と形式知のダイナミックな連動を理論化したものにSECIモデルがある。

企業以外の分野についても研究をおこなっている[11]

著作[編集]

  • 『組織と市場』(1974年、2014年新装改訂版)千倉書房
  • 失敗の本質』(1984年)ダイヤモンド社戸部良一寺本義也鎌田伸一杉之尾孝生村井友秀との共著)。中公文庫(1991年)
    • 太平洋戦争における日本軍の失敗をさまざまな筆者が分析した。
  • 『知識創造企業』(竹内弘高との共著、梅本勝博訳)東洋経済新報社
    • 日本企業の分析を通じ、「ナレッジ・マネジメント」を経営学の世界で広めた。知識に関するさまざまな哲学的考察から書き起こし、企業の商品開発などにおける知識の活用を分析。SECIモデルなど多くの画期的な学説を提唱した。
  • 『アメリカ海兵隊―非営利型組織の自己革新』中公新書
  • 『知識創造の経営』日本経済新聞社
  • 『ナレッジ・イネーブリング』(2001年)東洋経済新報社
  • 『知識創造の方法論』(2003年)東洋経済新報社
  • 戦略の本質』(2005年日本経済新聞社、2008年日経ビジネス文庫)(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀との共著)。
    • 『失敗の本質』の発展編。
  • 『イノベーションの本質』(2004年)日経BP社勝見明との共著)
  • 『イノベーションの作法』(2007年)日本経済新聞出版社(勝見明との共著)
  • J.D.ニコラス空軍大佐、G.B.ピケット陸軍大佐、W.O.スピアーズ海軍大佐著、野中郁次郎監訳、谷光太郎訳 『統合軍参謀マニュアル 新装版』 白桃書房、2009年ISBN 9784561245186
  • 『組織は人なり』(2009年)ナカニシヤ出版(平田透、磯村和人、咲川孝、成田康修、吉田久、坂井秀夫との共著)
本書の文章は、平成23年に新潟大学経済学部の試験問題に出題され、さらに「人材教育」「広報会議」「新潟日報」「販売革新」「エネルギーフォーラム」にて取り上げられた。ISBN 4779503833
  • 『流れを経営する』(2010年)東洋経済新報社(平田透遠山亮子との共著)
  • 『イノベーションの知恵』(2010年)日経BP社(勝見明との共著)
  • 『経営は哲学なり』(2012年)ナカニシヤ出版。英題:The Philosophy-Creating Company。(弦間一雄、平田透、磯村和人、成田康修との共著)
本書は、『日経ビジネス 1648号』の「ビジネスパーソンへの推奨本」や、「ビジネスブックマラソン」にて広く紹介された。英題:The Philosophy-Creating Company。ISBN 4779506107
  • 『失敗の本質 戦場のリーダーシップ編』(2012年)、ダイヤモンド社(ISBN 4478021554)(杉之尾宜生、戸部良一、山内昌之菊澤研宗河野仁土居征夫との共著)。
    • 『失敗の本質』の続編。フロネシス(実践的な知)の重要性を提唱。
  • 『ビジネスモデル・イノベーション』 野中郁次郎・徳岡晃一郎編著(2012年)東洋経済新報社
  • 『「知的機動力」生かす経営を 現場の構想力が重要 実践知のリーダー育てよ』日本経済の羅針盤>>下、日本経済新聞 2013年8月15 経済教室
  • 『実践ソーシャルイノベーション――知を価値に変えたコミュニティ・企業・NPO』(2014年)千倉書房(平田透、廣瀬文乃との共著)

脚注[編集]

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