投げ銭

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
路上でヴァイオリンアコーディオンを奏でる2人の大道芸人と、投銭をする通行人(中央向かって右)。1948年のドイツライプツィヒにて撮影。

投銭[1](なげせん[1]、とうせん[1]、なげぜに[1])とは、第1義には、貨幣投げること[2]。第2義には、金銭を与えること[1]。第3義には、投銭(なげぜに、なげせん)のこと[2]、すなわち、大道芸人乞食に対して見物人や通行人が投げ与える銭のこと[1][2]。また、2010年代後半には、インターネット用語としての「投げ銭(なげせん)」「ネット投銭(ネットなげせん)[3]」も派生した。

願掛の投銭[編集]

トレヴィの泉にコインを投げ入れようとしている男性

願掛/願掛け(がんかけ)の意味で投銭(なげせん、とうせん、なげぜに)を行う習慣は、古今東西に見ることができる。

トレヴィの泉[編集]

古来、後ろ向きでコインを投げ入れると願いが叶うと言い伝えられてきたのは、トレヴィの泉である[4]

中国人の投銭[編集]

中国人あるいは中華圏の人の間では、幸運などを願掛して小銭をなどに投げ入れる習慣がある[5][4]

日本では、2010年代前期半ばごろから[6]、官民一体となってインバウンド消費を推し進めた成果として中国人観光客がどっと押し寄せたが[5]、素晴らしい観光地であるがための願掛の投銭が、忍野八海などの禁止される地域でまで多発してしまい、社会問題になったりもした[6][5]。注意されようとも自分がどうしてもやりたいことは構わずやってしまいがちな中国人の気質と、母国では日常的にやっているだけにそもそもなぜ悪いのかが今一つ納得できていないこともあってか、注意看板を立てても[6]ビラを配って周知徹底しようとしても[6]、大した改善は見られなかった。

中国人のこの習慣が大事に発展してしまった例もある。中国人にとっては、素晴らしい空の旅(飛行機旅行)をする際の、搭乗する飛行機でさえも投銭の対象となっているのであるが[7]、2017年6月27日、上海浦東国際空港中国南方航空の飛行機に搭乗する予定であった80歳の女性は、安全祈願として1硬貨9枚を飛行機のジェットエンジンの空気取入口に向けて投げ、1枚が入ってしまった[8]。そのため、フライトは5時間以上遅れる事態になった[8]。この女性が厳しいお咎めを受けたという報道は無い[8]。しかし、大きな代償を払うことになった人もいる。2019年の中国本土でのこと、人生初の空の旅をしようとしていた中国人男性ルー・チャオ(28歳)は、不用意にも搭乗予定のエアバスA320neoのジェットエンジンの空気取入口に向けて数枚の1元硬貨を投げてしまった[7]。空港職は離陸前の点検でエンジン付近に落ちていた硬貨に気付き、その便(雲南祥鵬航空格安便)のフライトはただちに取り止めとなった[7]。男性は公共の秩序を乱した罪で10日間の拘留に処せられた[7]。乗客のキャンセル費用や点検に回すことになった機体に係る諸費用などは、男性が全額を損害賠償することとなり、その額は日本円にして約186万円であった[7]。硬貨のような硬い物がエンジンの内部に入り込んでしまうことは設計上想定されておらず、入り込んでしまった場合、エンジンの損傷は避けられず、最悪の場合は大破する[7]。飛行機に向けて投銭をしてはならない[7]

関連項目[編集]

投げ与える銭[編集]

生業としての路上パフォーマンス。1993年のチベットラサにて撮影。
礼服を着た演奏家トリオが城門の前で演奏しています。ひとりはコントラバス、ひとりはフルート、今ひとりはアコーディオンを担当。彼らより道路に近い路面にはひっくり返された黒い帽子が置いてあります。おわり。
自己表現としての路上パフォーマンス。プラハ城外で演奏を披露する大道芸人トリオ。2005年撮影。

特定の相手に対して[編集]

古くから行われてきた行為としては、乞食に憐れみをもって投げ与える金銭を指す、これを「投銭(なげぜに、なげせん)[2]」という。また、その行為をも指す。日本語では、古来、与えられる側の呼び方で「お恵み(おめぐみ)」があった。他者からの恵みの一つの形である。

他方、乞食への「お恵み」と意味において地続きでありながらもポジティブな意味合いをもっているものが多い形に、大道芸人ストリートミュージシャンのように路上などでパフォーマンスをする人への称賛を兼ねた投銭もある。1878年発表の児童文学家なき子』(エクトール・アンリ・マロ著)で描かれているような、貧民が生活手段として身に着けた大道芸で旅芸人として報酬を得る例は、を持たない乞食がひたすらに他者の慈悲を求めるのとは違って、パフォーマンスの対価を受け取っているわけであるが、始めた動機はと言えば、今日の明日のパンが買えないという、止むに止まれない、いわば"乞食寄り"のものである(■右の画像の1点目も同様)。しかしながら、同じ路上パフォーマンスといっても、それを主業としていない人の自己表現としての路上パフォーマンスもあり、例えば、格式高い劇場ドレスコードにも引っ掛からない立派な礼服を纏った演奏家路上ライブに対しても、ひっくり返して路上に置いた帽子などといった投銭の容器を表現者側が用意することで路上パフォーマンスの形を執る限りは、投銭が行われる(■右の画像の2点目が該当)。

なお、路上パフォーマンスに対する投銭は、古来日本の演芸の世界で行われ続けている「金銭をに包んで渡す行為、および、その金銭」を意味する「御捻り/お捻りおひねり[9]」と強く結び付いているように思われがちであるが、「御捻り」のほうは神仏に対する供物に起源があり[9]、背負っている歴史が違う。洗ったたや金銭という貴重品を白い紙に包んで捻った物を指していたのが、祝儀にも使うようになったものである[9]

関連項目[編集]

式典における散餅銭の儀[編集]

日本の上棟式神事に際して集まった人々へをまく行事である散餅銭の儀の時に小銭もまくことがある。また、日本での葬儀の際に花籠やざるから銭や餅を入れ落としながら葬列する風習もある。小銭を投擲するかたちにはなるが不特定多数にに対して行われるため「撒く」の字が当てられる。

ネット投銭[編集]

インターネットの分野で「投銭(なげせん、異綴〈以下同様〉: 投げ銭)」「ネット投銭(ネットなげせん)[3]」「ウェブ投銭[3]」「ソーシャル投銭[3]」「ソーシャルチッピング[3]」などと呼ばれるものは、ウェブ上の無料コンテンツ閲覧した利用者がその制作者や配信者に対して金銭などを寄付できるサービス・機能の総称である[3]。また、そういった寄付行為をもそのように呼ぶ[3]。これらは日本語での用語であり、英語(事実上の国際共通語)では "social tipping" という[10]。また、その日本語音写形は上述の外来語「ソーシャルチッピング」や混成語「ソーシャル投銭」などを派生させている[10]

寄付する金額は利用者が決める[3]。少額から行えるものが多い[3]。直接的な金銭提供から、運営サービスのコンテンツ利用のポイントで提供する事例がある。報酬型は直接集計からの提供と、原資からの提供が主流。

日本においては、2020年(令和2年)8月6日、ドワンゴが第三者の用語利用の悪意ある制限を排除する目的で特許庁に商標登録を行った。登録番号: 6271896, 区分: 9,38,41,42.。

関連項目[編集]

似て非なる投銭[編集]

小銭を投擲するという意味では同じではあっても、上述したものとは全く異なる「投げ銭」や「ぜになげ」もある。

銭形平次[編集]

寛永通寳真鍮當四文銭(十一波)

日本では、野村胡堂による1931年(昭和6年)初出の小説テレビ時代劇の定番にもなった『銭形平次捕物控』で、主人公である江戸の目明かし(岡っ引)平次(通称・銭形平次)が繰り出す必殺技としての「投げ銭」が有名であった[11][12]。これは、逃げようとしたり歯向かってきたり人質を殺そうとしたりする敵の動きを見定めた平次が、十手を格好よく構えつつ[13]、当時の庶民であれば誰でもを通して持ち歩いていたであろう四銭(寛永通寳真鍮當四文銭)の1枚を素早く取り出し、相手の頭や手元などに投げ付け、機先を制するというものである[14]。テレビ時代劇の主題歌(唄:舟木一夫)でも「今日も決めての 今日も決めての 銭がとぶ」と歌っている[15]。なお、二代目 大川橋蔵が平次を演じたシリーズでは、投げ銭の使い手が敵(浪人)としても登場し、平次を追い詰める。

野村胡堂の随筆集『胡堂百話』(1959年〈昭和34年〉刊)の「銭形平次誕生 (2)」には[16]、「普通の一文銭なら軽すぎるが、徳川の中期から出た四文銭。裏面に波の模様のあるいわゆる波銭ならば、目方といい、手ごたえといい、素人の私が投げてみても、これならば相手の戦闘力を一時的に完封できそうである。」との記述がある[16]。なお、作中では描かれないが、岡っ引というのは大変に薄給で、事後の回収が叶わない場合も多いであろう[注 1]投げ銭は、相当に痛い出費に繋がったことが推定できる。「わずか4文ばかり」の出費と言うのは収支を無視した見方であって、後述するファイナルファンタジーシリーズにも通じる話であるが、身を切るような痛さと引き換えにした大技というのが、経済面から見た場合の実態である。

ファイナルファンタジー[編集]

ぜになげ銭投げ)」は、1992年(平成4年)に発売されたロールプレイングゲームファイナルファンタジーV』に登場する攻撃系の獲得技能(アビリティ)の一つ。当シリーズの劇中における貨幣単位かつ金銭である大切な「ギル」をプレイヤーキャラクターが大量に失う"経済的な痛さ"と引き換えに敵に相応の痛撃を加えられる大技という位置付けになっている。

このアイディアはユニークな戦闘方法としてファンにも受けが良く、常にではないものの、以降のファイナルファンタジーシリーズにも登場することとなった。外伝的作品である2009年(平成21年)発売の『光の4戦士 -ファイナルファンタジー外伝-』では、同じコンセプトの技が、商人が獲得できる最上級の大技「カネしだい」という形で登場している。欧米版での技名は「金が物を言う」という意味をもつ "Money Talks" であった。具体的には、敵1体にその時の「所持金の100分の1」と同じ数値のダメージを与え、使用後に1,000ギルを消費するというものである。

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 劇中でも拾って回収しているシーンは多くある[17]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f kb泉.
  2. ^ a b c d kb小学国.
  3. ^ a b c d e f g h i kbネット投銭.
  4. ^ a b どこにでもコインを投げる中国人観光客、博物館や亀の背中にまで―中国メディア”. Record China (2017年2月19日). 2021年1月22日閲覧。
  5. ^ a b c 富士山・忍野八海コインだらけ!中国観光客らが投げ入れ・・・文化財保護法違反」『J-CASTニュースジェイ・キャスト、2015年8月3日。2021年1月22日閲覧。
  6. ^ a b c d 中国人が清掃工場や鎌倉高校、忍野八海に押し寄せる理由」『ダイヤモンド・オンライン』株式会社ダイヤモンド社、2016年12月15日。2021年1月22日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g Ryutaro Hayashi (2020年2月4日). “【まさに破壊兵器】飛行機に向けて「コインを投げてはいけない」、これだけの理由”. esquire. 株式会社ハースト婦人画報社. 2021年1月22日閲覧。
  8. ^ a b c “安全祈願で飛行機エンジンに小銭を……5時間遅れ”. BBC News Japan (英国放送協会 (BBC)). (2017年6月28日). https://www.bbc.com/japanese/40426817 2021年1月22日閲覧。 
  9. ^ a b c kb御捻り.
  10. ^ a b kbソーシャルチッピング.
  11. ^ kb銭形平次.
  12. ^ kb『銭形平次』シリーズ.
  13. ^ <時代劇>『銭形平次 第2シリーズ』”. 株式会社BSフジ (2021年1月). 2021年1月25日閲覧。
  14. ^ 東映 20200801.
  15. ^ 東映 20200801, エンディングにあり。.
  16. ^ a b 回答:岩手県立図書館 (2009年10月6日作成、2010年10月27日更新). “質問:銭形平次が物語の中で使用した銭は、どんなものだったか見たい。”. レファレンス協同データベース. 国立国会図書館. 2021年1月25日閲覧。
  17. ^ 東映 20200801, 例として、16分38秒~17分09秒のシーンの16分56秒あたり。.

参考文献[編集]

  • 小学館『デジタル大辞泉』. “投銭”. コトバンク. 2021年1月25日閲覧。[ ref name: kb泉 ]
  • 小学館『精選版 日本国語大辞典』. “投銭”. コトバンク. 2021年1月25日閲覧。[ ref name: kb小学国 ]
  • 小学館『デジタル大辞泉』. “御捻り”. コトバンク. 2021年1月25日閲覧。[ ref name: kb御捻り ]
  • 小学館『デジタル大辞泉』. “ネット投銭”. コトバンク. 2021年1月25日閲覧。[ ref name: kbネット投銭 ]
  • 小学館『デジタル大辞泉』. “ソーシャルチッピング”. コトバンク. 2021年1月25日閲覧。[ ref name: kbソーシャルチッピング ]
  • 小学館『デジタル大辞泉』、ほか. “銭形平次”. コトバンク. 2021年1月25日閲覧。[ ref name: kb銭形平次 ]
  • 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』. “『銭形平次』シリーズ”. コトバンク. 2021年1月25日閲覧。[ ref name: kb『銭形平次』シリーズ ]

外部リンク[編集]