エコーチェンバー現象

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エコーチェンバー現象(エコーチェンバーげんしょう、Echo chamber)、ないし、エコーチェンバー化(エコーチェンバーか)[1]エコーチェンバー効果[2](エコーチェンバーこうか、echo-chamber effect[3])は、報道機関などメディアによるニュースに関する類推表現。エコーチャンバーとも。ここで見立ての対象となっているエコー・チェンバーは、閉じられた空間で音が残響を生じるように設計、装備された音楽録音用の残響室のことであり、それと同様の音響効果を電気的に生み出す機材(ディレイなどのリバーブレーター)のことではない。同じ意見の人だけが話し合っているうちにそれが正しいことだとみんなが信じてしまうことを指す[4]

エコー・チェンバーは、情報やアイデアや信念などが、閉じたシステムの内部でコミュニケーションされ、反復されることで、増幅、強化される状況のメタファー(隠喩)となっている[5]。比喩的な意味におけるエコーチェンバーの内部では、公式発表には疑問が一切投げかけられず、それと異なる、あるいは、対抗する見解は、検閲、禁止されるか、そこまでならないとしても目立たない形でしか提示されない。

エコー・チェンバーという比喩表現は、1990年デビッド・ショー英語版が記事の中で用いたとされ[1]、また2001年にはキャス・サンスティーンが、著書『インターネットは民主主義の敵か (Republic.com)』で言及していた[6]。この表現の普及が特に進んだのは、2016年アメリカ合衆国大統領選挙が契機であった[1][6]

どのように機能するのか[編集]

マスメディア報道を注視している人々は、メディアの言説において、しばしばエコーチェンバー効果が生じることを認識してきた[7][8]。ある情報源が、ある主張をしたとすると、その内容は同様の考えをもつ人々によって反復され、小耳に挟まれ、さらに、しばしば誇張されたり、歪められた形で反復され[9]、やがて大多数の人々が、その話についての極端なバージョンを真実だと考えるようになる[10]。その結果、攻撃的な表現や、誤った情報の拡散が引き起こされるという見方もある[11]

オンライン上で生じるエコーチェンバー効果は、同調的な人々の集団が、個々のトンネル・ビジョンを融合、発展させることで生じる。インターネット上で情報を検索する人は、自分と似た、賛同できる見解を選択して接触し、自分と同じような興味、考え方の者の間で情報をやり取りすることになりやすい[12]オンライン・コミュニティの参加者たちは、自分自身の考えが、他者からの反響として常々自分に返ってくることに気づき、これによって個々の信念の体系をより強固なものとする。このようなことが起こるのは、インターネット上には幅広く様々な情報がすぐ手の届く形で置かれており、人々はますます在来型ではない情報源からのニュースにオンラインで接するようになっているためである。FacebookGoogleTwitter といった会社は、ひとりひとりが受け取るオンライン・ニュースに、各個人に合わせた特定の情報を盛り込むアルゴリズムを立てている。このような提供するコンテンツを選別(キュレーション)する手法は、伝統的なニュース編集の機能に代わるものとなってきている[13]

オンラインのソーシャル・コミュニティは、同じような考えの人々が集団として集まり、メンバーが特定のひとつの方向で議論すると、断片化をきたす。ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) のコミュニティは、を強力に増幅するが[14]、それは人々が、報道機関よりも、自らが参加しているソーシャル・グループが提供する証拠類を信じるためである[3]。これによって、オンライン・メディアの中では、批判的議論が大きく阻害されることになる。人々が幅の狭い情報基盤だけをもち、自分のネットワークの外側に手を伸ばそうとしないのであれば、社会的議論や共有は困難になる。

数多くの現実のコミュニティも、政治信条や文化的見解ごとに隔離されている。エコーチェンバー効果は、個人が、自分たちの集団以外の言語や文化が変化していることに気づくことを妨げるかもしれない。いずれにせよ、エコーチェンバー効果は、ある個人の現在の世界観を強化し、それを実際以上に正確で、広く受け入れられった考えであるかのように思わせる[15]。このような、インターネット上のソーシャル・コミュニティにおける反響、均一化の効果に関連して、同じように新たに出現してきたもうひとつの用語が、文化的トライバリズム英語版である[16]

事例[編集]

イデオロギー的なエコーチェンバーは、何世紀にもわたって様々な形態で存在してきた。エコーチェンバー現象は、そのほとんどが政治分野において起こるものとされる。

  • マクマーティン保育園裁判を取り上げて批判的に検討し、ピューリッツァー賞を授与されたデビッド・ショー1990年の一連の記事の中で次のように記した。「これらの訴えは、結局のところ一つも立証されなかったが、メディアは、大事件が起きた時にしばしばそうなるように、概ね集団となって行動し、記者たちの書く記事も放送される内容も、お互いを参照しあいながら、恐怖のエコーチェンバーを創り上げていた。 (None of these charges was ultimately proved, but the media largely acted in a pack, as it so often does on big events, and reporters' stories, in print and on the air, fed on one another, creating an echo chamber of horrors.)」[17]」 この事件についてショーは、報道機関の「根本的な欠陥があらわになった (exposed basic flaws)」とし、「怠慢、浅薄、馴れ合い (Laziness. Superficiality. Cozy relationships)」や、「最新の衝撃的な主張を最初に伝えようと躍起になって探る姿勢 (a frantic search to be first with the latest shocking allegation)」で、ジャーナリズムの原則である「公正と懐疑 (fairness and skepticism)」を「記者や編集者たちはしばしば放棄している (Reporters and editors often abandoned)」と述べた。さらに、「しばしばヒステリー、センセーショナリズム、さらに、ある編集者の言葉を借りれば「群衆リンチ症候群」が、そこに直結されていく (frequently plunged into hysteria, sensationalism and what one editor calls 'a lynch mob syndrome.')」とも述べた。
  • クリントン大統領モニカ・ルインスキースキャンダルルインスキー・スキャンダル英語版)の報道の経緯を検証した『タイム』誌1998年2月16日号の「Trial by Leaks」のカバーストーリーには[18]、「プレスとドレス:わいせつ行為のリークの解剖、それはいかにしてメディアのエコーチェンバーの壁を跳ね回るのか (The Press And The Dress: The anatomy of a salacious leak, and how it ricocheted around the walls of the media echo chamber)」というアダム・コーエン英語版による記事が掲載された[19]。この事例は、卓越したジャーナリズムのためのプロジェクト英語版によって深く検討され、『The Clinton/Lewinsky Story: How Accurate? How Fair?』がまとめられた[20]
  • 2014年秋に始まったゲーム・コミュニティによる、いわゆるゲームゲート論争英語版における攻撃と、ジャーナリスト側の反応は、エコーチェンバーであったと考えられる[21][22]
  • エコーチェンバーは、イギリス欧州連合からの脱退(ブレクジット)是非を問う国民投票にも結び付けられることもある[23]
  • 2016年アメリカ合衆国大統領選挙は、メディアにおけるエコーチェンバーについての大量の言説を引き出した[24]銃規制移民労働者のような先入観に沿って判断される主題に関する情報は、選挙民たちに、既に同意している情報を見なされ、吸収されやすい[25]Facebook は、利用者に自身の立場と一貫性をもったポストをするよう示唆していると思われ、このために多様な見解が示されるよりは、既に確立された立場の表明の反復となりがちである。ジャーナリストたちの論じるところでは、意見の多様性は真の民主主義に不可欠であり、それによってコミュニケーションが促されるの対し、エコーチェンバーは、Facebook で起きていることが示すように、むしろコミュニケーションを阻害するのだとされる[26]。一部の論者たちは、2016年アメリカ合衆国大統領選挙におけるドナルド・トランプの勝利において、エコーチェンバーは大きな役割を果たしたと考えている[27]

脚注[編集]

  1. ^ a b c パックンが徹底解説! ネット空間に広まる病的集団行動「エコーチェンバー」とは?”. 週プレNEWS/集英社 (2017年6月15日). 2017年6月24日閲覧。
  2. ^ 東大野恵美「デジタルトランスフォーメーションと経済社会の定義 (PDF) 」 、『情報センサー』第118巻、新日本有限責任監査法人、2017年、 20-21頁、2017年6月24日閲覧。
  3. ^ a b The Echo-Chamber Effect”. 2017年6月24日閲覧。
  4. ^ Google、中の人の「女性は生まれつきエンジニアに向かない」文書回覧で社内騒然ITmedia,2017年08月06日
  5. ^ バートレット, ジェイミー、星水裕・訳 「第2章 訳注19」『闇(ダーク)ネットの住人たち: デジタル裏社会の内幕』 CCCメディアハウス、2015年8月29日ISBN 978-4484151199 Google books
  6. ^ a b エコーチェンバー現象”. IoT(Internet of Things)/キビテク (2017年4月21日). 2017年6月24日閲覧。
  7. ^ Moon the Messiah, and the Media Echo Chamber”. 2008年3月6日閲覧。
  8. ^ Jamieson, Kathleen Hall; Joseph N. Cappella. Echo Chamber: Rush Limbaugh and the Conservative Media Establishment. Oxford University Press. ISBN 0-19-536682-4. https://books.google.com/books?id=139Oa4MOsAgC. 
  9. ^ Parry, Robert (2006年12月28日). “The GOP's $3 Bn Propaganda Organ”. The Baltimore Chronicle. http://baltimorechronicle.com/2006/122706Parry.shtml 2008年3月6日閲覧。 
  10. ^ SourceWatch entry on media "Echo Chamber" effect”. SourceWatch (2006年10月22日). 2008年2月3日閲覧。
  11. ^ デジタル大辞泉『エコーチェンバー現象』 - コトバンク
  12. ^ 井上宇紀 (2012年5月21日). “ソーシャルネットワーキングサービス 社会構造とコミュニケーション 2/3”. ハミングヘッズ. 2017年6月24日閲覧。
  13. ^ Blame the Echo Chamber on Facebook. But Blame Yourself, Too”. 2017年6月24日閲覧。
  14. ^ The Watercooler Effect: An Indispensable Guide to Understanding and Harnessing the Power of Rumors”. Penguin, 2008. 2017年6月24日閲覧。
  15. ^ Wallsten, Kevin (2005-09-01). “Political Blogs: Is the Political Blogosphere an Echo Chamber?”. American Political Science Association's Annual Meeting. Washington, D.C.: Department of Political Science, University of California, Berkeley 
  16. ^ Dwyer, Paul (PDF). Building Trust with Corporate Blogs. Texas A&M University. pp. 7. http://www.icwsm.org/papers/2--Dwyer.pdf 2008年3月6日閲覧。 
  17. ^ SHAW, DAVID (1990年1月19日). “COLUMN ONE : NEWS ANALYSIS : Where Was Skepticism in Media? : Pack journalism and hysteria marked early coverage of the McMartin case. Few journalists stopped to question the believability of the prosecution's charges.”. Los Angeles Times. http://articles.latimes.com/1990-01-19/news/mn-226_1_media-coverage 
  18. ^ “TIME Magazine -- U.S. Edition -- February 16, 1998 Vol. 151 No. 6”. 151. (1998年2月16日). http://content.time.com/time/magazine/0,9263,7601980216,00.html?iid=sr-link2 
  19. ^ Cohen, Adam (1998年2月16日). “The Press And The Dress”. Time. http://content.time.com/time/magazine/article/0,9171,987819,00.html?iid=sr-link1 
  20. ^ The Clinton/Lewinsky Story: How Accurate? How Fair?”. 2017年2月17日閲覧。
  21. ^ Escaping the echo chamber: GamerGaters and journalists have more in common than they think”. 2017年6月25日閲覧。
  22. ^ "A Weird Insider Culture"” (2014年9月24日). 2017年6月25日閲覧。
  23. ^ What the EU referendum result teaches us about the dangers of the echo chamber”. 2017年6月25日閲覧。
  24. ^ Your Filter Bubble is Destroying Democracy”. 2017年6月25日閲覧。
  25. ^ Difonzo, Nicolas (2011年4月22日). “The Echo Chamber Effect”. The New York Times. http://www.nytimes.com/roomfordebate/2011/04/21/barack-obama-and-the-psychology-of-the-birther-myth/the-echo-chamber-effect 2017年3月18日閲覧。 
  26. ^ Your Filter Bubble is Destroying Democracy”. 2017年3月16日閲覧。
  27. ^ Your social media echo chamber is the reason Donald Trump ended up being voted President” (2016年11月10日). 2017年4月10日閲覧。

関連文献[編集]

関連項目[編集]