ビジネスジェット

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1960年代の小型ビジネスジェットの先駆的存在、リアジェット23
セスナ社のCessna CitationJet/M2(2017年7月までで2000機製造)
エンブラエル フェノム 300。搭乗口を開けた状態。
リアジェット60。2012年までに400機製造された。
HondaJet。2017年、米国Flying誌のFlying Innovation Awardを受賞。
大型ビジネスジェット、ボンバルディア社の グローバル・エクスプレス
アンギラの空港に密集して駐機中のビジネスジェット群。年末年始で特に込み合っている。

ビジネスジェットbusiness jet, 略してbizjetとも)とは、数人から十数人程度を定員とする小型のジェット機の中でも、企業富裕者ゼネラル・アビエーション(つまり公共交通や一般大衆を搭乗させる旅客運送ではない用途)に使うことを想定して設計製造されているもののこと。実際にはほとんどが企業幹部(エグゼクティブ、つまり企業経営者や重役)などの人員輸送で使用されている。カンパニー・ジェット、コーポレート・ジェット、エグゼクティブ・ジェットなどとも呼ばれる。

ビジネスジェットとして最初に運航されたのは1950年代に開発されたノースアメリカン セイバーライナーロッキード ジェットスターで、政府機関向けに納入された傍ら、民間向けにも販売された。最初から民生用途で開発され量産された機種は、1964年引き渡し開始のリアジェット23とされている。

コンセプト[編集]

使用目的[編集]

企業が所有し経営幹部社員の移動のために使用する(社用機)場合、個人(大企業の創業者など資産家)が個人的な移動に使用(自家用機)する場合、国家要人輸送、報道機関新聞社通信社など)の取材・連絡機などに使われる。アメリカ同時多発テロ以降に空の安全が疑問視されたことを背景に、不特定の人間が搭乗しないビジネスジェット機の需要は増大、アメリカでは2018年時点で1万3000機が運航されており[1]、顧客に代わって操縦士の手配、機体の整備・管理を行う会社も存在する。

軍用機としても採用されている事があり、要人輸送機捜索救難機としての任務が多い。また電子戦機・飛行点検機への改造、(目立たず、政府と無関係であることを装うため)少人数の特殊部隊諜報機関の国外展開(特殊作戦)といった機密性の高い任務に投入される事もある。特に後者は軍用機に多い迷彩塗装を用いず一般的な塗装が施され、空軍国籍マークを描かず機体記号民間機扱いとする事が多い。

2007年金融危機の影響[編集]

2007年の金融危機以降、アメリカの自動車産業ビッグスリー幹部への非難が高まり、ビジネスジェット機を使用することへの批判が高まり、シティバンクなど購入を中止する企業も現れた。

これに対して全米ビジネス航空協会全米ゼネラル・エヴィエーション協会は「飛行機なくして得る物なし!」(No Plane No Gain!)というスローガンキャンペーンを展開している(“痛み無くして得る物なし”〜No Pain No Gain〜をもじったもの)。

エンジン[編集]

黎明期にはターボプロップエンジンが使用されていたが、戦闘機練習機向けとして開発された比較的小型のターボジェットエンジンJ85)を流用するメーカーが登場した。その後、ビジネス機にも燃費静粛性が求められるようになり、ターボプロップより静粛でターボジェットより燃費が良いターボファンエンジンTFE731JT15Dなど)が登場した。これらは最初からビジネスジェット機に使用されることを前提として開発された。さらにビジネスジェット機が細分化されるとともに生産数が増加し、多くのビジネス機用ジェットエンジンが開発され、現在に至っている。

ターボファンの小型化・低価格化により自家用として小型の単発ジェット機(VLJ)が登場しているが、ビジネスジェットでは安全性冗長性)、悪天候時の定時性のため双発が主流である。三発機大洋横断を想定したダッソー ファルコン50シリーズ、同ダッソー ファルコン900シリーズ、四発機はロッキード ジェットスターのみと少ない。

コミューター機との違い[編集]

ビジネスジェットと外観上似ている機体にコミューター航空会社リージョナルジェットがある。基本骨格となる胴体主翼の多くを共用するなど、構造上の類似性があるが、リージョナルジェットはローカル空港とハブ空港を結ぶなど比較的近距離運用が多いため、燃料搭載量が少ないなどの考え方の違いがある。

アメリカではエアタクシーと呼ばれる小型機を利用したビジネスが発展している。機体はビジネスジェットよりさらに小型機を利用する。乗員数、速度、航続距離は劣るものの、短い滑走路しかないが駐機料が安い小規模な飛行場を利用できるため小回りがききより低コストである。

ビーチクラフト キングエアなどの双発プロペラ機が主流だが、近年ではシーラス Vision SF50のような超軽量ジェット機も増えている。

所有形態[編集]

1980年代までは自家用機を所有できるのはジェット族(Jet Setter)と呼ばれるセレブリティに限られており、市場としても大きくはなかった。1980年代後半になると、ビジネスジェットの新たな所有形態が現れる。航空機の所有権を分割して販売、それを購入した所有者には所有比率に応じた飛行時間が割り当てられ、その飛行時間内であれば何時でも航空機を使用できる権利を保証するというもので、「フラクショナル・オーナーシップ」と呼ばれた。このビジネスモデルの考案者はエグゼクティブ・ジェット・アビエーション(EJA、現ネットジェッツ)社。1965年設立のEJA社はビジネス機のチャーター運航をしていたが、1984年からフラクショナル・オーナーシップ事業を開始した。この販売方法は当初、複数オーナーが1機を共有するため分割所有権分しか売れず1オーナー1機だったビジネスモデルよりも儲からないと考えられ、販売代理店からは嫌われた。しかし実際には既存の中間層より収入は高いがジェット族ほどではないため、ビジネスジェットの利用など考えてもみなかった新規顧客を開拓することとなり、一挙にビジネスジェット機が普及、メーカーは大きな利益を得ることとなった。アメリカ国内ではEJA社のような運航会社が次々と設立され、大量にビジネスジェット機を購入することになった。EJA社の場合、当初6機のセスナ社製ビジネスジェット機でフラクショナル・オーナーシップ事業を始めたが、その後数十機単位で運行機を増加させ、同様に数百機で運航する会社も多く登場している。アメリカにはこれだけの潜在需要があったということを示す例でもある。また、航空機メーカー各社は、ストレッチサイズを数種類用意するなど、運航会社の需要に応えている。現在ではフラクショナル・オーナーシップは世界各国で最も一般的なビジネスジェット機の所有方法となっている。

多くの運航会社ではエアタクシー事業も行っており、使用されていないビジネスジェットを『乗り合いエアタクシー』として共用することで需要を平滑化している。

ドナルド・トランプの所有していたボーイング757-200『トランプ・フォース・ワン』

ジェット族以上の大富豪や資産家は航空会社向けに販売される大型・中型の旅客機を購入・チャーターし、ビジネスジェット感覚で利用している。これらはビジネスジェットではなく『プライベート機』と呼ばれることが多い。

需要の増加により、エアバスAirbus Corporate Jets)とボーイングBBJ)も既存の機体をベースに内装を調整した中型機を投入している。

中古機および未購入機[編集]

現在、世界のビジネスジェット市場はアメリカが最大規模で、ヨーロッパがこれに次いでいるが、アジア中米などでもニーズは高まりつつある。またNARA (National Aircraft Resale Association) などの中古機市場も盛んである。 また「未購入機」の取引市場も形成されている。こういう市場が成立するのは、一般に飛行機は発注してから納品されるまで2、3年かかるので、発注したものの資金が足りなくなる者もあれば、急に活動範囲が広がり、すぐにも入手したい者もあるからである。

日本の実情[編集]

ビジネスジェット機はそのほとんどがN類小型機(最大離陸重量5,670 kg・12,500 lb以下)の枠に収まらず、日本の法律下においては空港への着陸制限、ランプ使用制限、飛行計画の提出期限など運航に対する規制が多い。航空法自体が大手航空会社の定期路線を想定して制定されたのが理由ともいわれ、運行コストが下がらず、柔軟な運航ができない原因となっている。

例として
  1. 空港によっては、事前に許可を取得する必要があり、突然の出発や到着ができない。東京国際空港飛行計画を遅くとも7日前までに提出し、許可を申請するよう義務化している。
  2. 欧米に比べて耐空証明書、予備品証明などの各種書類の手続きが複雑であること。
  3. 施設利用料や着陸料が欧米に比べて高額であること。
  4. 地価を反映してか、格納庫などの使用料が高額。台湾フィリピンタイなどの空港に定置し、必要に応じて日本にフェリーする例もある。
  5. 航空法第78条により最大離陸重量5.7 tを超える飛行機は技能検定に合格した運航管理者(ディスパッチャー)を必要とする。

日本の主要都市の空港の多くはビジネス機が自由に利用できる環境になかったため、ビジネス機の導入が欧米諸国と比べ遅れていた。近年では首都圏空港や地方大都市空港においてビジネスジェットを積極的に受け入れる気運が高まっている。

日本では新幹線という高速鉄道網が主要都市を結んでいるため、旅客機と新幹線が競合するという問題も大きい。特に新幹線のは主要都市の中心部にあるか、距離的に近いことが多く、他の交通機関への乗り換えも便利であるのに対し、飛行場は主要都市郊外にあり、乗り換えの利便性と所要時間で劣ると言う問題もある。本州内のみの移動に至っては、新幹線と航空機の移動時間差はそれほど大きいとは言えず、それに加え前後の地上交通との乗り換えまで考慮すると航空機が不利な場所も多い。24時間利用できる大規模空港は利用料が高いだけでなく発着枠に余裕がないためフライトプランの自由度が少ない、地方の空港は夜間の発着に制限が多く乗り換えも不便な場所が多い。また、天候による影響も新幹線の方が圧倒的に小さく、墜落事故の不安や乗車前の検査なども無い新幹線に比べてステータス以外のビジネスジェットのメリットはあまり大きくない(ただし、新幹線は概ね0時から6時まで運転されていない)。また日本の国土はアメリカと比べると格段に小規模であるため、国内移動に飛行機を利用しなければ時間浪費につながるというケースは、北海道-九州間など南北を長距離移動する場合や沖縄など離島へ移動する際程度であることも傾向に拍車をかけている。

日本は他国と比較して治安が良いため、航空会社によって運航される旅客機が欧米のようにテロリズムの爆破対象となったり、アメリカ同時多発テロ事件のような破壊活動に使われたりする可能性が低く、ビジネスジェットのセキュリティ面での優位性も希薄である。

これらの要因から日本におけるビジネスジェットのユーザーは、航空事業会社の報道機や空撮機、自衛隊や海上保安庁が利用する捜索救難機や飛行点検機などの改造ベースが主流であり、官民合わせても2018年時点で90機ほどとされ企業や個人の移動用として利用は少ない[1]。ビジネスジェットを運航する航空会社も少なく、ボンバルディアの代理店となっている双日が子会社を設立し自社取り扱い機を運航している[2]が、利用状況は年間で約400時間と欧米に比べ非常に少ない[3]

本田技研工業が航空事業へ参入するため設立したホンダ エアクラフトの本社とHondaJetの工場は共に最大の市場であるアメリカに設立された。

日本人の利用は少ないが大規模空港では外国からの乗り入れを考慮し、空港にビジネスジェット用の施設が建設されている。中部国際空港ではビジネスジェット専用の格納庫、VIPラウンジを併設したターミナル、専用CIQエリアを24時間利用可能とし、使用料も不定期の個人客や定期使用のビジネス客に対応したプランを用意している。東京国際空港(羽田空港)でも国際線ターミナル内にビジネスジェット専用ゲートが存在する[4]

ホンダ エアクラフトは日本での需要の掘り起こしを狙い、国内でHondaJetの販売を開始するとした[1]

ANAと双日は、2018年にANAビジネスジェットを設立し、ビジネスジェットのチャーター手配事業に参入している。

メーカー一覧[編集]

超軽量ジェット機[編集]

脚注[編集]

外部リンク[編集]