トヨタ・ハイブリッド・システム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

TOYOTA Hybrid System(トヨタ・ハイブリッド・システム、THS)とは、トヨタ自動車が開発したハイブリッドカーの機構。2018年現在はTHS-IIの名称で知られる。

概要[編集]

このTHSでは、発電用と駆動用の2つのモーターを採用するスプリット式ハイブリッドまたは、シリーズパラレル式ハイブリッドと呼ばれ、1997年の初登場以来世界のハイブリッドの一線で活躍してきた。

一般的にこのシステムでのトランスミッションは「電気式無段変速(E-CVT)」などと表記されるが、厳密にはトランスミッションが存在せず、代わりに遊星ギアとよばれる動力分割機構の制御により、エネルギーを駆動や充電に振り分けている。これによりエンジンを発電にも駆動にも用いることができ、なおかつ、余ったエンジンのエネルギーは同時にバッテリーに充電することが可能である。また高効率・低出力なアトキンソンサイクル(ミラーサイクル)エンジンとは非常に相性が良いため、現在トヨタの全てのTHS搭載車がこれを採用している。

一般的なハイブリッドのパラレル式と比較すると、トランスミッションが必要ない分軽量化できる点や、走行中でもエンジンを完全停止することができる点が優れている。一方でパドルシフト含め有段変速にすることが容易ではない。そのため、車マニアからは退屈と言われることが多い。またTHSは多くのスペースを必要とするため四輪駆動とも相性は良くなく、小さめの車種に四輪駆動版の『E-Four』が搭載されることはまずない。

バッテリーにはニッケル水素電池を開発当初から第三世代まで採用していた。これは、リチウムイオン電池と比べると充放電効率やエネルギー密度では劣るが、比較的安価で気温の変化にも左右されづらい点で優れていた[1]。ただし第四世代目以降はリチウムイオン電池の採用も増えてきている。

モーターは第二世代目まで高トルク・低回転傾向であったが、第三世代目以降は一転して低トルク・高回転型へとシフトしている。

THS搭載車は2017年に世界累計販売1000万台を突破した[2]

第一世代[編集]

初代プリウス

トヨタのハイブリッド研究は1975年に発電用ガスタービンを採用したセンチュリーのコンセプトカーに遡る。同年代のオイルショックの影響もあってモーター駆動の研究は進められ、1992年にはEV開発部が誕生。タウンエースクラウンマジェスタRAV4などの電気自動車(EV)や、シリーズ式ハイブリッドのバスコースターなどが公道モデルとして開発され、THSの礎を築いた[3]

1997年に世界初のスプリット式ハイブリッドである初代プリウスが登場。バッテリーはEVのRAV4開発で培ったニッケル水素タイプ。当時「売れば売るほど赤字が出る」とされていたハイブリッドだが[4]、トヨタはこれをわずか215万円で販売し、エコ技術の普及に励んだ。

この頃はCVTを組み合わせたTHS-Cを採用したエスティマ・ハイブリッドや、マイルドハイブリッドシステムのTHS-Mを搭載したクラウン、燃料電池自動車のハイブリッド「FCHV」など、現在知られるTHSとは異なった機構も開発されており試行錯誤していた事が見られる。

第一世代は次世代登場までに、世界で13万台の売上を記録した[5]

第二世代[編集]

2003年発売の2代目プリウスとともに、「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」を掲げるTHS-Ⅱが発表された。エンジン・モーター・バッテリー・制御技術などがブラッシュアップされた上、走行中にエンジンを止めることが可能な『EVモード』が追加され、燃費を大きく向上させた[4]

また四輪駆動版のE-Fourも開発され、ハリアーハイブリッドなどの大型車に搭載されていった。

一方レクサスではFR車専用となる2段リダクション機構付き機構が開発された。6速ATと同等のサイズとなるこの機構は、電子制御により「Lo」と「Hi」2つのギヤを走行状態に応じて自動的に切り替えることで、従来の3倍のエネルギー効率とパワー向上を実現した[6]

第三世代[編集]

2009年の三代目プリウスからは、全体の9割以上を新開発した「リダクション機構付きTHS-Ⅱ」を採用。これにより軽量・小型化・低コスト化が進み、カローラアクシオヴィッツのような5ナンバー大衆車にもハイブリッドが採用されるなど、爆発的にハイブリッドカーを普及させた。特にハイブリッド専用コンパクトカーアクアはプリウスとともに日本の乗用車市場を支配し続けた。

また三代目プリウスでは排気量が拡大されている。当時は、燃費追求においてエンジンの小型化こそが正義とされていたため賛否両論を生んだが、大型化により中速域のトルクをアップさせたことで、苦手とされていた高速域の巡航でも安定した燃費を確保することが可能になった[7]。またクールドEGRも採用され、実用燃費は大幅に向上した。

プリウスは大容量リチウムイオン電池を採用したプラグインハイブリッド(PHV)もリース販売され、2012年には一般の消費者にも販売されるようになった。

第三世代は息が長く、第四世代登場から4年が経った2019年現在もトヨタの多くの車種にラインナップされている上、アクアが月間販売台数で1位を獲得するなどその勢いは衰えていない。また上述の通り高速での弱点を克服したことから海外でもTHSが評価され始め、現在トヨタは欧州で最もハイブリッド販売率が高いメーカーとなっている。

第四世代[編集]

プリウスPHV GR SPORT

2015年発売の4代目プリウスでは最大出力を下げたものの、JC08モードで40.8km/Lという圧倒的な低燃費を達成。それと同時にTNGAの思想の元に「走る喜び」も追求された。またこのプリウスからはニッケル水素電池に加え、上級グレードにはリチウムイオン電池も採用されることになった。ただし不公平感があってはいけないという配慮から、コスト・性能面は同等のものが用意された。

第三世代とはほぼ全く異なる機構となっているものの、根本的な思想は変わっていないという点や、依然として多数ラインナップされる第三世代が古いものにならないようにという配慮から、引き続き名称は『THS-II』が用いられることとなった[8]

2016年以降に発売されたトヨタ車は、OEMハイラックスを除く全車がTHS-IIをラインナップしている。2018年に20年ぶりにフルモデルチェンジされた国賓車センチュリーも、国産唯一であったV12エンジンをやめてV8+THS-IIを採用した。

レクサス・LC500hには、従来トランスミッションを搭載することが困難であったTHSに4段変速(疑似10速)を採用し、ドリフトも可能とする『マルチステージハイブリッド』が開発されている。

モータースポーツ[編集]

2005年末にトヨタはモータースポーツ向けハイブリッドの開発を決定。東富士研究所のモータースポーツ部において、村田久武をリーダーとするプロジェクトチームを立ち上げた。当時はまだハイブリッドカーの競技自体が成立していなかったが、耐久レースという厳しい環境下で得たノウハウを、市販車へフィードバックするという先行開発的な役割を期待された。レース仕様ではエネルギーの出し入れの応答性が良いキャパシタを蓄電装置に選んでいる。

2006年の十勝24時間レースでは、ニッケル水素バッテリーにキャパシタを追加した[9]レクサス・GS450hを参戦させ、完走を果たした。2007年にはモーター・ジェネレーター・ユニット (MGU) とキャパシタを搭載した、GT500ベースのスープラ HV-Rで参戦し、総合優勝を果たした[10]。これらの実験段階を経て、本格的なレース仕様のハイブリッドシステム「THS-R」 (Toyota Hybrid System-Racing) の研究開発に移った。

ル・マン24時間擁するFIA 世界耐久選手権 (WEC) 初年度の2012年に、ドイツのトヨタ・モータースポーツ有限会社 (TMG) を前線基地として、スーパーキャパシタを搭載するTS030 HYBRIDで同選手権に 参戦を開始した。2014年にはモーターの480馬力と合わせて最大1000馬力を発生するTS040 HYBRIDを投入し、同年のWEC年間チャンピオン(ドライバー・マニュファクチャラーズの2冠)に輝いた。2016年からは高容量のリチウムイオン電池を搭載したTS050 HYBRIDにスイッチし、2018年にはトヨタ史上初めてル・マン24時間レースを制覇した。

またスーパーGTのGT300クラスでも2012年から、THSとV8エンジンを採用したプリウスがaprのオペレーションで参戦し、年間総合2位の好成績を収めている。

トヨタ系以外のTHS採用車[編集]

2004年に日産はトヨタからTHSの供給を受けたコンセプトカーを登場させ、2006年から実際に北米市場で販売した。2.5LのQR25DEエンジンを搭載し、システム最大出力は198馬力を発生した[11]。しかし販売は3万5000台と振るわず、2011年に生産終了した。
ディーゼルガソリン車のみを販売していたマツダが、ハイブリッドをラインナップに欲する販売店の強い要望を受け、2013年から発売。ミラーサイクル化されたSKYACTIV-Gの直噴2リッター直4自然吸気エンジンに、3代目プリウス用のTHS-Ⅱを組み合わせている。エンジン・モーターの出力は「色々試したがこれが最も効率が良かった」として、プリウスと全く同じ数値にチューニングされている[12]。マツダはこれに独自の走りの味付けをしてSKYACTIV-HYBRIDと名乗った。なおTHSの制御の難しさから、発売後1年半は他のアクセラでは標準装備だった衝突被害軽減ブレーキが搭載されていなかった。売れ行きはアクセラ全体の1割未満、2018年の売上は月50台程度と全く伸びなかった[13]
日本名『XV』のPHV版で、2018年10月に北米で発売することが発表された。動力はTHS-Ⅱをベースに開発され、リチウムイオンバッテリーやパワーコントロールユニットなどもトヨタ製のものを用いる一方、スバルの代名詞であるリニアトロニックCVT+縦置き水平対向エンジン+シンメトリカル4WDを揃えており、独自色が強い[14]。モーターのみで28kmの走行を可能とする。

脚注[編集]

  1. ^ なぜプリウスは今でもニッケル水素バッテリーを使うのか? WEB CARTOP 2016年12月14日
  2. ^ トヨタ自動車、ハイブリッド車のグローバル累計販売台数が1,000万台を突破 TOYOTA Global News 2017年2月14日
  3. ^ ハイブリッドカー誕生(1997年) GAZOO.com 2015年11月16日
  4. ^ a b トヨタ「プリウス」がフルモデルチェンジ! webCG 2003年9月1日
  5. ^ トヨタ、新世代ハイブリッドシステム「THSII」を開発 ―制御系の進化とモーター高出力化により、さらなる燃費向上と走りの魅力を飛躍― TOYOTA newsroom 2003年4月17日
  6. ^ FR乗用車専用ハイブリッドシステム TECNO RADER 38
  7. ^ エンジンは永久に不滅です! 現代の主流「排気量をアップして燃費向上」のカラクリに迫る ベストカーWEB 2018年10月18日
  8. ^ チーフエンジニアを直撃! 4代目プリウスはなぜまだ“社会人1年生”なんですか? 日系トレンディネット 2015年12月3日
  9. ^ トヨタ2012年ル・マン24時間参戦までの開発を(簡単に)振り返る”. 世良耕太のときどきF1その他いろいろな日々. (2011年10月15日). 2018年10月31日閲覧。
  10. ^ レーシングハイブリッド「THS-R」進化の歴史 TOYOTA GAZOO Racing
  11. ^ 日産 アルティマハイブリッド 【ロジャー安川の米国自動車浪漫】 カーセンサー 2008年11月14日
  12. ^ マツダ 新型 アクセラハイブリッド SKYACTIV-HYBRID 試乗レポート/渡辺陽一郎(2/4)オートックワン
  13. ^ 【売れない車に愛を】販売台数は少ないけど応援したい国産車 5選 ベストカー 2018年6月17日
  14. ^ THS-IIの技術をベースに生まれたスバル初のPHVモデル「クロストレック ハイブリッド」Carview! 2018年11月24日

関連項目[編集]