トヨタ・ハイブリッド・システム

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TOYOTA Hybrid System(トヨタ・ハイブリッド・システム、THS)とは、トヨタ自動車が開発したハイブリッドカーの機構。2021年現在はTHS-IIの名称で知られる。

概要[編集]

世界初の量産ハイブリッドシステムであり、発電用(MG1)と駆動・回生ブレーキ用(MG2)の2つのモーターを採用するスプリット式ハイブリッドシリーズパラレル式ハイブリッド、ストロングハイブリッド)の代表格として、1997年の登場以来世界のハイブリッド戦線の第一線で活躍している。

一般的にこのシステムでのトランスミッションは「電気式無段変速機(E-CVT)」などと表記されるが、厳密にはトランスミッションは存在せず、代わりに遊星ギアによる動力分割機構の高度な制御により、エネルギーを駆動や充電に振り分けている。これによりエンジンを駆動に使いつつ同時に発電にも用いることを可能としている。また高効率・低出力なアトキンソンサイクル(ミラーサイクル)エンジンとは非常に相性が良いため、現在トヨタの全てのTHS搭載車がこれを採用している。

マイルドハイブリッドに代表される一般的なハイブリッドのパラレル式と比較すると、システムの判断で自在にエンジンを回したり止めたり(EV走行)することができる上、エンジンが回っている間は同時にバッテリーへの充電もできるため、安定的かつ圧倒的な低燃費を可能としている。一方でパドルシフトを含め有段変速にすることが容易ではなく、車マニアからは退屈と言われることが多い。また、従来は大きなスペースを必要としたため四輪駆動とも相性は良くなく、2020年登場のヤリス(4代目ヴィッツ)まで小さめの車種に四輪駆動版の『E-Four』が搭載されることは無かった。また複雑さゆえにコスト・価格が高いため、その普及率とは裏腹にトヨタのハイブリッド車の販売比率はパラレル式をメインとするメーカーより低い[1]。なおトヨタは費用対効果の観点から、現在マイルドハイブリッドを一切用いていない。

バッテリーは以前はニッケル水素電池が多かった。これはリチウムイオン電池と比べると充放電効率やエネルギー密度では劣るが、比較的安価で気温の変化にも左右されづらい点で優れていた[2]。ただし第4世代目以降はリチウムイオン電池への移行が進んでいる。

モーターは第2世代目まで大トルク・低回転傾向であったが、小型化・軽量化を図るため、第3世代目以降は一転して小トルク・高回転型へとシフトしている。プリウスで比較すると、第1世代のモーターは最大30 kw/5,600回転で5.1 Lの容積を必要としたが、2020年現在の第4世代は53 kw/17,000回転で2.2 Lと半分以下の大きさで1.7倍の出力を得ている[3]

THS搭載車は2017年に世界累計販売1,000万台を突破した[4]

系譜[編集]

第1世代[編集]

初代プリウス

トヨタのハイブリッド研究は、1975年に発電用ガスタービンを採用したセンチュリーのコンセプトカーに遡る。同時期に発生したオイルショックの影響などもあってモーター駆動の研究が進み、1992年にはEV開発部が誕生。タウンエースクラウンマジェスタRAV4などをベースにした電気自動車 (EV) や、シリーズ式ハイブリッドのコースターなどが公道モデルとして開発され、THSの礎を築いた[5]

そして1997年に、世界初のスプリット式ハイブリッドシステムを搭載した初代プリウスが登場。バッテリーはRAV4 EVの開発で培ったニッケル水素タイプを採用した。当時「売れば売るほど赤字が出る」とされていたハイブリッドだが[6]、トヨタはこれをわずか215万円で販売し、エコ技術の普及に励んだ。またこの頃はCVTを組み合わせた「THS-C」を採用したエスティマ・ハイブリッドや、マイルドハイブリッドシステムの「THS-M」を搭載したクラウン燃料電池自動車のハイブリッド「FCHV」など現在知られるTHSとは異なった機構もいくつか開発されており、試行錯誤していた様子が覗える。

第1世代は次世代登場までに、世界で13万台の売上を記録した[7]

第2世代[編集]

2003年発売の2代目プリウスとともに、「ハイブリッド・シナジー・ドライブ (HYBRID SYNERGY DRIVE)」を掲げるTHS-IIが発表された。エンジン、モーター、バッテリー、制御技術などの各部がブラッシュアップされた上、時速55km以下での走行中にエンジンを停止し、バッテリーのみで駆動させることが可能な「EVモード」が追加され、燃費を大きく向上させた[6]。走りの質感も大幅に向上し、北米カー・オブ・ザ・イヤーおよび欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。

また後輪に駆動用モーターを追加した四輪駆動版の「E-Four」も開発され、ハリアーハイブリッドなどの大型車に搭載されていった。

一方、レクサスでは後輪駆動車専用となる2段リダクション機構付き機構が開発された。6速ATと同等のサイズとなるこの機構は、電子制御により"Lo"と"Hi"の2つのギヤを走行状態に応じて自動的に切り替えることで、従来の3倍のエネルギー効率とパワー向上を実現した[8]

第3世代[編集]

2009年の3代目プリウスに、全体の9割以上を新開発した「リダクション機構付きTHS-II」を初採用。モータートルクを増幅させるリダクションギアの開発により軽量化・小型化・低コスト化が大きく進み、従来のTHS車がベース車に比べ200kg~400kgもの重量増を強いられていたのを、この第3世代では最低で50kg差にまで抑えることに成功している。11代目カローラシリーズ(2代目カローラアクシオ/3代目カローラフィールダー)や3代目ヴィッツ(3代目ヤリス)のような5ナンバー大衆車シエンタのような小型ミニバンにもハイブリッドが採用されるなど、爆発的にハイブリッドカーを普及させた。特にハイブリッド専用コンパクトカーアクアは、プリウスとともに日本の乗用車市場を支配し続けた。 プリウスは大容量リチウムイオン電池を採用したプラグインハイブリッド (PHV) モデルもリース販売され、2012年には一般の消費者にも販売された。

なおプリウスは従来より排気量が拡大されており、ダウンサイジングコンセプトがもてはやされエンジンの小型化こそが正義とされていた当時は賛否両論を生んだが、大型化により中高速域のトルクをアップさせたことで、苦手とされていた高速道路の巡航でも安定した燃費・動的質感を確保することが可能になった[9]。加えてクールドEGRも採用され、実用燃費は大幅に向上した。これらのことから海外でもTHS-IIが評価され始め、2020年現在ではトヨタが欧州で最もハイブリッド販売率の高いメーカーとなっている。

レクサスではCT200hに6段パドルシフトが採用されているが、他の車種には展開されず、有段変速は今しばらくの時を待つこととなる。

第3世代は息が長く、第4世代の登場から4年後の2019年にもプロボックス/サクシードに第3世代の搭載グレードが追加された。市場での評価も高く、アクアはこの年に月間販売台数で1位を獲得する勢いを見せた。2021年現在もこれらを含め多数の第3世代搭載車の販売が続けられている。

第4世代[編集]

プリウスPHV GR SPORT

2015年発売の4代目プリウスで採用。リダクション機構の平行軸歯車化や、エンジンの動力伝達軸からの走行用モーターの切り離しなど多くの部分で変更があり、第3世代とは大きく異なる機構となっているものの、根本的な思想は変わっていないという点や、引き続き多数ラインナップされる第3世代モデルが旧式にならないようにという配慮から、引き続き名称は『THS-II』が用いられることとなった[10]。プリウスは最大出力こそ下げた(136→122馬力)ものの、実用領域でのトルクとドライバビリティを向上させ、JC08モードで40km/Lに到達するという圧倒的な低燃費を実現した。

EV走行可能な速度は110km/hを超え、車種によっては135km/hに達する。

プリウスPHVはエンジンとトランスアクスルの間にワンウェイクラッチを採用することで、発電専用であったMG1も駆動に参加させることが可能となる『デュアルモータードライブ』を採用[11]。バッテリー容量の拡大と合わせて力強い加速を可能とした。

エンジン側の改善も進み、4代目プリウス/初代C-HR/12代目カローラシリーズセダン/ツーリング/スポーツ/クロス(日本市場未発売))の2ZR-FXE型エンジンで燃焼効率40%、10代目カムリ/5代目RAV4(日本市場4代目)/4代目ハリアーなどへ搭載された「ダイナミックフォースエンジン」のM20A-FXS型、および4代目ヤリス(日本仕様初代)へ搭載された同「ダイナミックフォースエンジン」のM15A-FXE型エンジンではそれぞれ41%に達している。

2018年発表の2.0Lダイナミックフォースエンジン版では、加速時にエンジン回転数を下げるという従来の常識とは逆の制御によりリニア感を高めている[12]。この2.0L版は先述の2ZR-FXE版と搭載車種が被るが、こちらはシステム合計183馬力と逆に高出力化されており、欧州を中心に展開されている。また1.5L版もダイナミックフォースエンジンの採用により馬力を向上(100→115馬力)させていることから、"第4.5世代"とも呼ぶべきシステムの変化がエンジンの世代交代とともに起きているといえる。

システム自体の小型化・軽量化もなされており、4代目ヤリスは後輪サスペンションを2リンク式のダブルウィッシュボーン式サスペンションにして省スペース化することで、小型車で初めてE-Fourの搭載を可能とした。

2016年以降に発売されたトヨタ車は、OEM販売車種やスポーツカーピックアップトラックなどの例外を除く全乗用車がTHS-IIをラインナップしている。2018年にフルモデルチェンジされたセンチュリーも、国産唯一であったV型12気筒エンジンを廃止してV型8気筒+THS-IIへ改められた。

このほかレクサス・LC500hには、従来トランスミッションを搭載することが困難であったTHSに4段変速(疑似10速)を採用した『マルチステージハイブリッド』を新開発。LCとプラットフォーム(GA-Lプラットフォーム)が共通のLSおよびクラウンにも搭載された。

モータースポーツ[編集]

2005年末、トヨタはモータースポーツ向けハイブリッドの開発を決定。東富士研究所のモータースポーツユニット開発部において、村田久武をリーダーとするプロジェクトチームを立ち上げた。当時はまだハイブリッドカーの競技自体が成立していなかったが、耐久レースという厳しい環境下で得たノウハウを、市販車へフィードバックするという先行開発的な役割を期待された。レース仕様ではエネルギーの出し入れの応答性が良いキャパシタを蓄電装置に選んでいる。

2006年の十勝24時間レースでは、ニッケル水素バッテリーにキャパシタを追加した[13]レクサス・GS450hを参戦させ、完走を果たした。2007年にはモーター・ジェネレーター・ユニット (MGU) とキャパシタを搭載した、GT500ベースのスープラ HV-Rで参戦し、総合優勝を果たした[14]。これらの実験段階を経て、本格的なレース仕様のハイブリッドシステム「THS-R」 (Toyota Hybrid System-Racing) の研究開発に移った。

THS-R[編集]

ル・マン24時間擁するFIA 世界耐久選手権 (WEC) 初年度の2012年に、ドイツの トヨタ・モータースポーツ(現TOYOTA GAZOO Racing-Europe TMG、現TGR-E) を前線基地として、バッテリーにスーパーキャパシタを採用した『THS-R』を搭載するTS030 HYBRIDで同選手権に参戦を開始した。2014年にはモーター480馬力、エンジン520馬力で合わせて最大1000馬力を発生する新THS-Rを搭載したTS040 HYBRIDを投入し、同年のWEC年間チャンピオン(ドライバー・マニュファクチャラーズの2冠)に輝いた。2016年からは高容量のリチウムイオン電池を搭載したTS050 HYBRIDにスイッチし、2018年にはトヨタ史上初めてル・マン24時間レースを制覇した。

2021年からはLMH規定に則り、今までのレースで培った技術をより進化させた『Racing HYBRID』を搭載したGR010 HYBRIDを投入する。

トヨタ系以外のTHS採用車[編集]

2004年に日産はトヨタからTHSの供給を受けたコンセプトカーを登場させ、2006年から実際に北米市場で販売した。2.5LのQR25DEエンジンを搭載し、システム最大出力は198馬力を発生した[15]。しかし販売は3万5000台と振るわず、2011年に生産を終えている。
ディーゼルガソリン車のみを販売していたマツダが、ハイブリッドをラインナップに欲する販売店の強い要望を受け、2013年から発売。ミラーサイクル化されたSKYACTIV-Gの直噴2リッター直4自然吸気エンジンに、3代目プリウス用のTHS-IIを組み合わせている。エンジン・モーターの出力は「色々試したが、これが最も効率が良かった」として、プリウスと全く同じ数値にチューニングされた[16]。マツダはこれに独自の走りの味付けをしてSKYACTIV-HYBRIDと名乗った。なお、THSの制御の難しさから、発売後1年半は他のアクセラでは標準装備だった衝突被害軽減ブレーキが搭載されていなかった。
売れ行きはアクセラ全体の1割未満、2018年には月50台程度と全く伸びず、2019年のフルモデルチェンジ・MAZDA3へのモデルネーム変更とともに廃止された[17]。なおMAZDA3になってから登場したSKYACTIV-Xエンジン(火花点火制御圧縮着火エンジン)採用モデルもハイブリッドシステムこそ搭載しているが、THS-IIではなく「M Hybrid」(エムハイブリッド)という名称のマイルドハイブリッドシステムである。
日本名『XV』のPHV版で、2018年10月に北米で発売することが発表された。動力はTHS-IIをベースに開発され、リチウムイオンバッテリーやパワーコントロールユニットなどもトヨタ製のものを用いる一方、スバルの代名詞であるリニアトロニックCVT+縦置き水平対向エンジン+シンメトリカル4WDを揃えており、独自色が強い[18]。モーターのみで28kmの走行を可能とする。

OEM供給車[編集]

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ 【なぜホンダと日産の方が上!?】 王者トヨタのハイブリッド率が意外と低いワケベストカーweb 2019年8月3日
  2. ^ なぜプリウスは今でもニッケル水素バッテリーを使うのか? WEB CARTOP 2016年12月14日
  3. ^ 電気モーターに生きる内燃機関の技術…トヨタ電動化技術RESPONCE.jp 2020年8月28日閲覧
  4. ^ トヨタ自動車、ハイブリッド車のグローバル累計販売台数が1,000万台を突破 TOYOTA Global News 2017年2月14日
  5. ^ ハイブリッドカー誕生(1997年) GAZOO.com 2015年11月16日
  6. ^ a b トヨタ「プリウス」がフルモデルチェンジ! webCG 2003年9月1日
  7. ^ トヨタ、新世代ハイブリッドシステム「THSII」を開発 ―制御系の進化とモーター高出力化により、さらなる燃費向上と走りの魅力を飛躍― TOYOTA newsroom 2003年4月17日
  8. ^ FR乗用車専用ハイブリッドシステム TECNO RADER 38
  9. ^ エンジンは永久に不滅です! 現代の主流「排気量をアップして燃費向上」のカラクリに迫る ベストカーWEB 2018年10月18日
  10. ^ チーフエンジニアを直撃! 4代目プリウスはなぜまだ“社会人1年生”なんですか? 日系トレンディネット 2015年12月3日
  11. ^ お問い合わせ・よくある質問トヨタ自動車公式サイト 2021年4月11日閲覧
  12. ^ 2.0Lトヨタハイブリッドシステム(THSⅡ)Toyota newsroom 2020年7月11日閲覧
  13. ^ トヨタ2012年ル・マン24時間参戦までの開発を(簡単に)振り返る”. 世良耕太のときどきF1その他いろいろな日々. (2011年10月15日). 2018年10月31日閲覧。
  14. ^ レーシングハイブリッド「THS-R」進化の歴史 TOYOTA GAZOO Racing
  15. ^ 日産 アルティマハイブリッド 【ロジャー安川の米国自動車浪漫】 カーセンサー 2008年11月14日
  16. ^ マツダ 新型 アクセラハイブリッド SKYACTIV-HYBRID 試乗レポート/渡辺陽一郎(2/4)オートックワン
  17. ^ 【売れない車に愛を】販売台数は少ないけど応援したい国産車 5選 ベストカー 2018年6月17日
  18. ^ THS-IIの技術をベースに生まれたスバル初のPHVモデル「クロストレック ハイブリッド」Carview! 2018年11月24日

関連項目[編集]