鳳凰
鳳凰(ほうおう、拼音: )は、中国神話の伝説の鳥、霊鳥である。鳳皇とも。日本や朝鮮など東アジア全域にわたって、装飾やシンボルや物語・説話・説教などで登場する。
凰はメス、鳳はオスを指し[1]、『本草綱目』によれば、羽ある生物の王であるとされる。「聖天子の出現を待ってこの世に現れる」といわれる瑞獣(瑞鳥)のひとつで、『礼記』では麒麟・霊亀・応竜とともに「四霊」と総称されている。
特徴
中国最古の類語辞典『爾雅』によれば、嘴は鶏、頷は燕、頸は蛇、背は亀、尾は魚で、色は黒・白・赤・青・黄の五色で、高さは六尺程とされる[2]。
後世の中国や日本では変異があり、日本では一般に、背丈が4~5尺はあり、その容姿は前は麟、後は鹿、頸は蛇、背は亀、頷(あご)は燕、嘴は鶏、尾は魚だとされる[1]。五色絢爛な色彩で、羽には孔雀に似て五色の紋があり、声は五音を発するとされる。
また、現代の中国では一般に、頭はキンケイ、胴体はオシドリ、尾は孔雀、足は鶴、嘴はオウム・インコ、翼はツバメとされる。
鳳凰は、霊泉を飲み、竹の実を食物とし、梧桐の木にしか止まらないという。『詩経』には「鳳凰鳴けり、彼の高き岡に。梧桐生ず、彼の朝陽に」[3]とある。
また仙人たち(八仙など)が住むとされる伝説上の山崑崙山に鳳凰は住んでいるともいわれる[4]。
歴史
殷の時代には風の神、またはその使者(風師)として信仰されていたといわれる。また「風」の字と、「鳳」の字の原型は、同じであったともいわれる[5]。
春秋時代の『詩経』『春秋左氏伝』『論語』などでは、「天子が正しい政治を行った際に現れる」「聖天子の出現を待ってこの世に現れる瑞獣」といわれる。『礼記』では麒麟・霊亀・応龍とともに「四霊」とのひとつとされる。
後には五行説の流行により、四神のひとつ朱雀と同一視される。例えば漢代の緯書には、鳳凰を火精としているものがある。
史書における記述
- 『山海経』「南山経」ではニワトリに似ており、首には「徳」、翼に「義」、背に「礼」、胸に「仁」、腹に「信」の紋があるとされ、同じく『山海経』「西山経」ではヤマドリに似ているとされた。
- 前2世紀頃前漢の時代に成立されたという中国最古の類語辞典『爾雅』17章によれば、嘴は鶏、頷は燕、頸は蛇、背は亀、尾は魚で、色は黒・白・赤・青・黄の五色で、高さは六尺程とされる[6]。
- 後漢の字典『説文解字』では、顔は鴻、前半身は雁またはオオハクチョウ、後半身は麟、首は蛇、尾は魚、額は鸛、髭は鴛鴦、紋様は龍、背中は亀、嘴は鶏、頷は燕と記された。また「東方君子の国に産し、四海の外を高く飛び、崑崙山を過ぎ、砥柱で水を飲み、弱水で水浴びをし、日が暮れれば風穴に宿る」とも記された。
- 南朝の時代に成立した『宋書』志第十八では、頭はヘビ、首はツル、背は魚、腹はスッポン、尾羽は魚の尾鰭、前半身は鴻に似ており、頭は青く、翼を並べるとされる。
- 同じく『宋書』巻二十八ではクジャクに似ているとされる。
- 唐の時代の『酉陽雑俎』では、骨が黒く、雄と雌は明け方に違う声で鳴くと記述される[7]。
- また南宋の『癸辛雑識』では高さ一丈(約3.07m)ほどで、尾は鯉に似、色が濃いとされた[8]。
鳳凰の異名・種類
鳳凰の異名または同系名鳥王、雲作、雲雀、凰、叶律郎、火離、五霊、仁智禽、神鳥、仁鳥、聖禽、丹山隠者、長離、鳳、朋、明丘居士、鸞(らん)、霊鳥、鵷鶵(えんすう)などがある。
また前述の通り、鳳凰は朱雀と同一視されることもある。またその形態から、インド神話の神で、マレー半島、インドネシアの聖鳥ガルダ(迦楼羅)との類似が指摘されている。
『山海経』には、五色の鳥として鳳鳥・鸞鳥・皇鳥の三つが挙げられるほか、黄鳥・狂鳥・孟鳥・夢鳥なども鳳凰と同一とする説もある[9]。
「毛詩陸疏広要」によれば、鳳凰のうち赤いのを鳳、青いのを鸞、黄色いのを鵷鶵、紫のをガクサク、白いのを鵠としている。
鳳凰・鸞・朱雀
同じ霊鳥として、鸞があり、鳳凰と混同または同一視される。唐の『初学記』(727)によれば、鸞とは鳳凰の雛のこととされる。また江戸時代の『和漢三才図会』は鸞を実在の鳥とし、中国の類書『三才図会』からの引用で、鸞は神霊の精が鳥と化したものとする。また鳳凰が歳を経ると鸞になるとも、君主が折り目正しいときに現れるとしている[10]。またその声は5音の律、赤に5色の色をまじえた羽をたたえているとされ、鳳凰の伝承と混合しているのがみられる。朱雀は四神の一つであり、南と火を司る神あるいは聖なる動物とされる。その姿が鳥であることや、他の四神との兼ね合い(龍、虎、亀は縁起のいい動物である)から鳳凰と同一視されることがあるが、鳳凰と朱雀は厳密には別物である。ただし、鳳凰と朱雀が鳥の中でも特別な存在であることから、朱雀が鳳凰と同類であっても大きな不都合はない。
また、鳳凰・鸞・朱雀は、装飾や図像表現においては、厳密に区別されない場合が多い。
鳳凰と鵷鶵
鳳凰の一種に鵷鶵(えんすう)がいるとされる。山海経では鳳凰とともに住むとされる。また『荘子』秋水篇には「鵷鶵、南海を発して北海に飛ぶ。梧桐に非ざれば止まらず、練実(竹の実)に非ざれば食わず、醴泉(甘い味のする泉の水)に非ざれば飲まず」とある。またのちに「鳳凰は梧桐にあらざれば栖まず、竹実にあらざれば食わず」ともいわれるようになる[11]。
鳳凰とフェニックス
東西の聖なる鳥の代表としてよく混同される両者だが、フェニックスのルーツはエジプトにあり、歴史書によれば、形態は猛禽類(エジプトで愛好されていた鷹)に近い。
これに対して、鳳凰は長い首、尾羽など孔雀に近い見た目をしている。それ以上に、鳳凰は雌雄の別があり卵も産むのに対してフェニックスは単性(雄)生殖をするとされているところに大きな違いがある。
フィクションにおいてしばしば同一視される背景として、両者は共に「火の属性」を持つという共通点が指摘できる(鳳凰本来の属性は風であるが、朱雀と混合され火となった)。鳳凰は南方(五行思想で火を表す)を守護する朱雀と同一視され、フェニックスは自身を炎で焼いて再生するという伝承がある。
鳳凰は英語ではチャイニーズフェニックスとも呼ばれている。
モデル(実在の鳥)の比定
また江戸時代の『和漢三才図会』は鸞を実在の鳥としているが、鳳凰のモデルとなった実在の鳥類について諸説ある。
- マレー半島に生息するカンムリセイラン(鳥類学者蜂須賀正氏はケンブリッジ大学に提出した卒業論文「鳳凰とは何か」において、鳳凰のモデルを、カンムリセイランとした[12]。頭がニワトリに似、首がヘビのようで、背中に亀甲状の模様があり、尾が縦に平たく魚に似ている、といったカンムリセイランの特徴を挙げた[13]
- ツバメ説(袁珂の説。『爾雅』の記述に鳳凰の別名エンを「燕」と解釈[14]。)
- 笹間良彦は鳳凰の相似霊長である鸞について、キヌバネドリ目のケツァールが、鸞の外観についての説明に合致するという[15]。
装飾における鳳凰
古代から中世にかけて東アジア全域にわたってその意匠が装飾に使用された。中国の殷王朝期の陶器に見られる。
日本では伝説にちなんで桐の家具に鳳凰を彫刻するものが流行したと『枕草子』にある[16]。装飾芸術としては宇治平等院鳳凰堂が最も有名である。
ほか京都鹿苑寺金閣の屋上にあるものも有名である。なお鳳凰堂のものはデザイン化されて、2004年から発行されている新一万円札の裏面を飾っている。
学校では、専修大学や創価学園が、それぞれの校章に鳳凰の翼の意匠を取り入れている。
賞状の、縁の部分にデザインされている鳥は鳳凰である。左が鳳・右が凰で、中央には雲竜・下部には桐をモチーフにした図柄が用いられるのが一般的である。[17]
地名
脚注
- ^ a b 『大辞林』三省堂、1988年
- ^ 『爾雅』17章。《尔雅•释鸟》郭璞の注による。鳳凰特徵是:“雞頭、燕頷、蛇頸、龜背、魚尾、五彩色, 高六尺许”。
- ^ 『詩経』大雅巻阿
- ^ 曽布川寛著『崑崙山への昇仙:古代中国人が描いた死後の世界』中公新書、1981年
- ^ 白川静『字統』
- ^ 《尔雅•释鸟》郭璞の注による。鳳凰特徵是:“雞頭、燕頷、蛇頸、龜背、魚尾、五彩色,高六尺许”。
- ^ 『酉陽雑俎』巻十六羽篇
- ^ 『癸辛雑識』別集巻下
- ^ 袁珂『中国神話・伝説大事典』大修館書店 、1999年
- ^ 寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注『和漢三才図会』 6巻、平凡社〈東洋文庫〉、1987年、319-320頁頁。ISBN 978-4-582-80466-9。
- ^ 『晋書』14・苻堅載記下、『魏書』21下・彭城王勰伝
- ^ 荒俣宏『大東亜科学奇譚』ちくま文庫、1996年
- ^ 荒俣宏『大東亜科学奇譚』ちくま文庫、1996年、荒俣宏編『世界大博物図鑑 4 鳥類 別巻1 絶滅・希少鳥類』平凡社
- ^ 『中国の神話伝説』上下、青土社 、1993年『中国神話・伝説大事典』大修館書店 、1999年
- ^ 笹間良彦『図説・日本未確認生物事典』柏書房、1994年、163頁頁。ISBN 978-4-7601-1299-9。
- ^ 現代の植物学ではアオギリと桐は相が異なるため、誤りともいえる。
- ^ ご贈答マナー【賞状について】
参考文献
- 袁珂『中国の神話伝説』上下、青土社 、1993年
- 袁珂『中国神話・伝説大事典』大修館書店 、1999年。