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直列3気筒

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直列3気筒(ちょくれつさんきとう)とは、レシプロエンジンのシリンダー(気筒)配列の形式のひとつ。シリンダーが3つ直列に並んでいる。略して直3とも記載することもある。オートバイの場合には並列3気筒と呼ばれることもある。

解説

1970年代以降、小型エンジンのレイアウトとして普及している。日本における軽自動車(総排気量660ccまで)に採用例が多く、小型車にも広がりつつある。世界的にはもっぱら700cc~1,300cc程度までの小型車用小排気量エンジンに用いられる。

古典的な事例やトラクター用などを別とすれば、第二次世界大戦後の自動車用でもっとも排気量が大きかった直3エンジンはアルファ・ロメオ1984年33に搭載した1.8L(1,779cc)のディーゼルエンジンである。

同一総排気量で比較すると、4気筒よりも1気筒当たりの排気量が大きいために、4気筒エンジンよりも冷却・機械損失が小さく燃費が良く、2気筒エンジンよりは1回転でのトルク変動が小さいという長所で用いられる。一方、上位クラスで主流の4気筒エンジンと比較すると、4ストロークエンジンとしては振動特性面で劣るため、オートバイ用を除けば1300cc以上のエンジンではあまり用いられない。

同一の排気量であれば、2気筒は3気筒よりも低回転域のトルク特性に優れ、損失も少なく燃費向上も見込まれるが、絶対的振動や2気筒独特の音の問題は避けられない。かといって4気筒は3気筒に比べ、振動・騒音面では分があるものの、低回転域のトルクが細くなりがちで、損失も多く、燃費も悪くなる傾向にある。これらの為、出力の小さい小排気量車では、損失と振動、出力特性のバランスが取れる3気筒エンジンはベストとされる。

ほとんどの直列3気筒エンジンのクランクピンは回転バランスが取れる120度間隔で配置されている。しかし、完全バランスの直列6気筒エンジンとは異なり、対称の位置で逆方向に動くピストンがないため、両端のシリンダー内を上下する往復運動系がエンジンを揺らすことになる(偶力振動)。この偶力振動を抑制するため、バランスシャフトを逆位相で回転させることがある。

イタリアのen:Laverda社の一部エンジンでは、クランクピン位置が120度間隔でないものがある。これらのエンジンでは、外側のピストンが従来の並列2気筒エンジンのように共に上下し、内側の1気筒のクランクピンは外側に対し180度の位置にある。このエンジンでは、180度の回転で1番気筒が点火し、さらに180度回転後に2番気筒が点火、再び180度回転後に3番気筒が点火する。残り180度回転する間は燃焼行程のシリンダーが存在しないため、動力の供給がない。

オートバイ用ではイギリストライアンフが、多くの直列3気筒搭載車をラインアップしている。日本のメーカーでは、スズキスズキ・GT750、GT550、GT380)とカワサキカワサキ・マッハカワサキ・KHシリーズ)が2サイクルエンジンを、またヤマハ4サイクル750ccヤマハ・GX750)を生産・採用していた時期もあった。

2ストロークエンジンの場合には並列3気筒は中央シリンダーの排熱及びシリンダー内の吸排気ポート配置の面で課題が大きく、ホンダはV型3気筒、スズキ・カワサキ・ヤマハの3社はスクエア4気筒にそれぞれ移行していった経緯がある。

歴史

元々は19世紀末期、ガソリンエンジンが発明されて間もない時期に、2気筒以上の多気筒化試行の過程で生まれたレイアウトの一つである。20世紀初頭のガソリン自動車黎明期には最初期のロールス・ロイス(15HP サイドバルブ3リッター)やリー・フランシスなどのメーカーで少数の採用例があったが、4ストロークエンジン用の直列レイアウトとしては振動面での問題が多く、震動問題の少ない4気筒とより簡易な2気筒との間で、早くに廃れた。

2ストロークエンジン

2ストロークエンジンの分野では、直列3気筒はクランク位相と一致した完全等間隔点火が可能で、少なめの気筒数に比してスムースな回転が得られる、振動面での問題が生じにくいレイアウトという長所がある。

第二次世界大戦直後には、2ストロークエンジン技術で世界をリードしていた西ドイツDKWが、「(回転が最もスムースなエンジンレイアウトである)4ストローク6気筒に比肩する」スムースさを喧伝し、乗用車エンジンに採用した。当時のDKWには「3=6」という名称の3気筒エンジン車も存在していたほどであった。

DKWを範として、東ドイツでの同一祖型の派生型であるヴァルトブルクスウェーデンサーブも900ccクラスの小型乗用車に採用、日本でもDKWに倣って鈴木自動車工業(現・スズキ)三菱重工業(現・三菱自動車工業)が採用した例があるが、ほとんどが1960年代後期以降の2ストロークエンジンそのものに対する排気ガス規制強化で廃れた。

3気筒2ストローク車として遅くまで存続したのは、2ストローク車への需要があったスズキ軽自動車のごく一部と、排気ガス規制のない計画経済体制の東ドイツで、技術革新の恩恵や市場競争の影響を受けなかったヴァルトブルクであったが、前者は代替4ストロークエンジンの出現により、後者は設計・排ガス対策の旧弊化を放置させていた国家体制自体の終焉によって消えている。

4ストロークエンジン

4ストロークエンジンでは、用途上、震動問題を相当に度外視できる農業用トラクターなどの動力として、エンジンのモジュラー化などの見地から3気筒ガソリンエンジン・ディーゼルエンジンが用いられる事例があったものの、一般の自動車用としては長く廃れていた。

乗用車用エンジンとしての一般へのリバイバルは、1976年にダイハツが同社の小型乗用車「シャレード」用として、バランス・シャフトを装備した1,000ccのSOHCエンジンを開発し、実用水準に到達させてからである。ダイハツはシャレード用に、ガソリンエンジンの設計をベースにした1,000cc3気筒ディーゼルエンジン(ターボモデルも存在)も開発、市販した。

その後、1979年にスズキが軽自動車用550ccエンジンとして、バランサーを持たない低コストな直列3気筒4ストロークエンジンを開発、市販開始した。この程度の小排気量であれば、より大きなクラスの自動車に比べて4ストローク3気筒の欠点である震動が問題になりにくく、バランス・シャフトを省いて震動が増えたとしても、従前の軽自動車の主流レイアウトである直列2気筒4ストロークエンジンよりはまだしもスムースであると判断されたからである。

以後、既存の2気筒エンジンに1気筒を追加、もしくは既存の4気筒エンジンから1気筒を減らすという低コスト開発手法で、廉価型の小型車用エンジンとして市場投入する手法が1980年代に常道化、日本の軽自動車や1,000cc級小型車、ヨーロッパ製小型車の700cc-1,000cc級最廉価グレードのエンジンとして用いられるようになった。

この過程では廉価車向けエンジンという割り切りから、コストダウンのためにバランサーの装備自体が廃れ、直列3気筒見直しのきっかけを作ったダイハツもバランサーレスの3気筒1,000ccエンジン(例・EJ型エンジン1KR-FE型エンジン等)を作るようになっている。エンジンマウントの改良と、ある程度の震動に対する妥協が、バランサーレス4ストローク3気筒普及の背景にあると言える。

関連項目