数の子

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数の子(かずのこ、鯑、鯡子)とは、ニシン魚卵および、ニシンの卵巣をそのまま塩漬けまたは乾燥させたもの。

概要

子持昆布

語源は「かどの子」の訛りとされており、これは近世までニシンを「かど(カドイワシ)」と呼称していた名残である。

基本的にはメスの腹から取り出した魚卵の塊そのものをそのまま食さず、一度「天日干し」または「塩漬け」にしたものの方を食用とする。ニシンの卵の一粒一粒は非常に細かいが、無数の卵が相互に結着しているので、全体としては長さ約10cm、幅約2cm前後の細長い塊となっている。

ニシンが昆布に卵を産みつけたものを「子持ち昆布」と呼び、こちらは珍味としてそのまま食用としたり、高級なお寿司屋さんでは寿司のネタとしても利用されているが基本的には価格が高い。また、その見た目が「黄金色(こがね色)」をしている様子から「黄色いダイヤ」の異称を持っている。

食用

日本の市場流通しているものの殆どは「干し数の子」「塩蔵数の子」「味付け数の子」に分類され、一般には味付け数の子よりも塩蔵、塩蔵数の子よりも干し数の子の方が高級なものとして取り扱われている。干し数の子や塩蔵数の子は通常そのままでは食さず、一度「水戻し」または「塩抜き」をしてから食用とする。

食通で知られる北大路魯山人は「数の子は塩漬けや生よりも一旦干した物をで戻したものが美味い、数の子に他の味を染込ませてはならない」と書き記している。また「数の子は音を食うもの」とも言っている。イクラタラコカラスミ等の他の魚卵の塊と比較すると非常に硬い点から、その味の他に歯ごたえや咀嚼時のプチプチという音も楽しめる。

日本以外の地域では、近隣のアジア諸国、およびニシンの漁獲量が多い北米ロシア欧州等の地域でも、数の子を食用にする習慣は基本的に一般的とは言えない。それらの地域では、日本に輸出を開始する以前は数の子を全て廃棄していた。

数の子にはコレステロールが含まれているが、そのコレステロールを消し去るだけのEPA(エイコサペンタエン酸)が含まれている。コレステロール値が減少する結果も出ている。また痛風の原因となるプリン体は、意外にもごく僅かしか含まれていない。

歴史

日本では、室町幕府13代将軍、足利義輝に数の子が献上されたという記録がある。その後、流通量は増加し、正月のおせち料理結納において、数の子の粒の多さが子孫繁栄を連想させる比喩から「縁起物」として用いられる事例が増加した。

上述の「縁起物」として用いられる点から、俳句短歌では新年の寿ぎや新しい出来事を連想させる季語としても度々引用される。俳人小説家で知られる高浜虚子は、この「数の子」で「数の子に老の歯茎を鳴らしけり」という俳句も詠んでいる。

享保の改革によって倹約を進めた江戸幕府8代将軍、徳川吉宗が「正月だけは、富める者も貧しい者も同じものを食べて祝って欲しい」と願い、数の子をおせち料理に加えるのを推奨している事例から、当時でも江戸市中では入手が容易(著しく高価では無く倹約の対象にならないもの)だったと考えられる。

昔の数の子は、干し数の子が一般的で、塩蔵数の子が製造され始めたのは1900年代(明治30年代以降)に入ってからだと言われている[1]

漁獲地

日本の明治から大正を経て、及び昭和の初期頃までは北海道を中心としてニシン漁が盛んであり、その様子は「ソーラン節」にも謡われ、漁師の中には鰊御殿と呼ばれる大邸宅を持つものもあった。したがって日本産の数の子の入手も比較的容易だった。

しかし、乱獲または気候変動による海流の変化により、1955年昭和30年)頃を境にしてニシンの水揚げ量が激減し、日本産の数の子は一気に貴重品となり、これに対して輸入品が台頭する、危殆に瀕する事態となった。1980年昭和55年)には、数の子の買い占めが原因で倒産した水産会社が頻りに続出する騒動もあった。

1996年平成8年)以降、日本においてもニシンの水揚げにようやく回復の兆候が見られ、若干量だが国内産の数の子も再び見られる様になった。なお、国内におけるニシン加工業の殆どが北海道留萌市で占めている。また、同市の特産品にもなっており[2]ふるさと納税のお礼品にもなっている[3]

日本国外では、カナダアメリカ合衆国アラスカ州イギリススコットランドロシア等で水揚げされるニシンから数の子が作られ、日本もこれらの地域産のものを輸入している。

これらの地域の中、アラスカ等の北米大陸西海岸側のものは主に塩蔵数の子として、カナダのニューファンドランド島等の北米大陸東海岸側のものは主に味付け数の子として、またヨーロッパ産のものは塩蔵数の子、味付け数の子双方として、それぞれ加工される傾向が多いとされている。

脚注

  1. ^ 吟醸百選2007-2008(佐藤水産パンフレットp34)
  2. ^ “車窓”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 3. (2007年10月16日) 
  3. ^ 平成28年度版留萌市ふるさと納税お礼品カタログ(留萌市ホームページ)

関連項目

外部リンク