戦国自衛隊
『戦国自衛隊』(せんごくじえいたい)は、日本のSF小説である。作家・半村良が中編小説として『SFマガジン』1971年の9月号・10月号に連載した。本作を直接の原作あるいは原案として映画・劇画・テレビドラマなど、『戦国自衛隊』を冠した作品が様々なジャンルで作られている(#派生作品)。
概説
「近代兵器で武装した現代の軍隊」と「弓矢や刀で武装した戦国時代の鎧武者軍団」が戦ったらどうなるのか?」という疑問に対して、あくまで現実的な回答を用意したSF小説の金字塔であり、架空戦記の元祖的作品である。
1974年刊行の中短編集『わがふるさとは黄泉の国』(早川書房)に収録され、1975年のハヤカワ文庫版の際に初めて表題作となって刊行された。のちに角川文庫(1978年[1]、1979年改版[2]、2005年新装版[3])、ハルキ文庫(2000年[4])からも再刊されている。
ストーリー
近代兵器を装備した自衛隊が、日本海沿岸一帯で大演習を展開していた。新潟県と富山県の県境(境川。東部方面隊と中部方面隊の守備境界である)に第十二師団、第一師団、海上自衛隊が集結して臨時の補給施設が設けられたが、そのうちの30名あまりを突如、「時震」が襲った。次の瞬間、伊庭義明(いば よしあき)・三等陸尉を中心とするその一団は、携えていた大量の補給物資や近代兵器とともに戦国時代へタイムスリップしていた。まもなく、戦国武将の1人である長尾景虎(後の上杉謙信)と邂逅した伊庭たちは、合戦三昧の世の中へ組み込まれていく。
やがて、伊庭たちはこの戦国時代に正史とは微妙なズレが生じていることや、斎藤道三や織田信長が存在していないことを知る。伊庭は景虎と手を組み、現代の兵器と戦術を用いることで戦国時代を勝ち続け、川中島の戦いを経て天下統一すら間近にするが、「我々が知る歴史と異なる歴史を持つこの世界における自らの役割は何か?」という疑問を拭えずにいた。
物語終盤、現代の物資も底を尽きかけていた状況で京都の妙蓮寺に宿泊していた伊庭たちは、自分たちを危険視していた細川藤孝に叛乱を起こされ、次々に殺されていく。燃え盛る炎の中で最期を悟った伊庭は短刀を喉に突き立てるが、それと同時に「この世界は我々が知る世界とは異なる歴史を持とうとしていたが、我々がこの世界へ来て(信長らの代役となったことで)、タイムパラドックスを修正してしまった」という皮肉な事実に気付くのだった。
登場兵器
- 60式装甲車[注釈 1]
- GMCカーゴトラック
- 三菱・ジープ
- 19号型哨戒艇
- 川崎重工KV107IIバートル
- 64式7.62mm小銃
- 64式対戦車誘導弾(MAT)
派生作品
映画
- 戦国自衛隊
- 詳細は「戦国自衛隊 (映画)」を参照
- 1979年の日本映画で、アクション監督・主演:千葉真一、監督:斎藤光正、製作:角川春樹事務所。配給収入13億円5千万円を計上した[5]。
- 戦国自衛隊1549
- 詳細は「戦国自衛隊1549」を参照
- 2005年の日本映画で、主演:江口洋介、監督:手塚昌明、製作:角川映画株式会社。福井晴敏がプロットを作り、1979年の映画のリメイク的、また続編的作品として製作された。福井による小説も書かれている。
劇画
田辺節雄により『戦国自衛隊』のタイトルで『プレイコミック』(秋田書店)に1975年から1976年まで連載され、原作に忠実に劇画化されている。田辺のオリジナルのストーリーによる続編『続・戦国自衛隊』が、2000年から2008年にかけて書き下ろしで刊行された。『続・戦国自衛隊』では関ヶ原の戦い、大坂の陣、島原の乱における自衛隊員たちの戦いが描かれている。また、『続・戦国自衛隊』は宇治谷順によってノベライズもされている。
上記とは別に、森秀樹による新たな劇画版『戦国自衛隊』が『コミック乱ツインズ 戦国武将列伝』(リイド社)に2013年から連載されている。こちらは、本能寺の変で自衛隊に助け出された織田信長が自衛隊と対立するという、原作を離れたオリジナルのストーリーとなっている。
テレビドラマ
『戦国自衛隊・関ヶ原の戦い』は、日本テレビ系列『DRAMA COMPLEX』枠で2006年1月31日・2月7日に放送された、前後編からなる長時間ドラマである。題名通り、関ヶ原の戦いを舞台とするが、劇画とは異なる独自のストーリーである。また、映画などの続編的要素もない。
演劇
劇団ゲキハロ第11回公演『戦国自衛隊』として、2011年9月から池袋サンシャイン劇場とシアターBRAVA!にて上演された。
Berryz工房と℃-uteのメンバーが、「月光組」と「風雲組」に分かれて公演を実施し、「月光組」は脚本・演出を大人の麦茶の塩田泰造が担当し、「風雲組」は脚本を林誠人、演出をTBSテレビの鈴木早苗が担当する[6]。
2014年、Berryz工房10周年記念舞台・演劇女子部『ミュージカル 戦国自衛隊』として新宿の全労済ホールスペース・ゼロにて上演された。
脚本は、加藤淳也、演出は大岩美智子が担当した。公演日時によりエンディングが2パターン用意された[7]。
ゲーム
カードバトルゲーム『生還せよ!戦国自衛隊』が、モバゲーにて2011年12月7日より配信されていたが、のちに終了している。
外伝小説
吉田親司による外伝小説『自衛隊三国志』が、2008年に刊行されている。2002年に死去した半村良に代わる著作権管理者の許諾を取り、『戦国自衛隊』と同じ世界観で描かれているが、この小説では自衛隊が三国志の時代にタイムスリップする。旧『戦国自衛隊』の中心メンバーだった伊庭三尉の娘や、『続・戦国自衛隊』の登場人物の息子が自衛官として登場する。
類似した設定を持つ作品
『戦国自衛隊』の発表後、似た世界観や設定を持つ架空戦記の小説や漫画が多く刊行された。
- スーパー戦国記
- 中島徳博の漫画。1976年、『月刊少年ジャンプ』に連載された。
- ジェット機に乗っていた高校生3人がジェット機ごと戦国時代にタイムスリップ。そこでは先にタイムスリップしていたアメリカ兵が今川義元に味方し、桶狭間の戦いで織田信長を殺害していた。高校生3人は、信長、豊臣秀吉、徳川家康の役割を担うことになってゆく。
- 地球から来た傭兵たち
- ジェリー・パーネルの小説。1979年、アメリカ。
- アンゴラ内戦に参加し、キューバ軍に追い詰められたアメリカ人の傭兵たちが異星人に救われ、ローマ帝国や中世騎士道文化、ギリシア都市国家やスコットランド高地人が混在する中世レベルの文明の惑星に連行され、ある仕事を強要される。
- 「補給に限りがある現代兵器の使用をなるべく避け、先進的な戦術を用いて敵を撃破する」という点で小説『戦国自衛隊』に近い。
- ファイナル・カウントダウン
- 1980年のアメリカ映画。
- アメリカ海軍の空母「ニミッツ」が第二次世界大戦中にタイムスリップし、 F-14 とゼロ戦が戦う。
- タイムパラドックスをどう防ぐか試行錯誤する点で、『戦国自衛隊1549』に近い。
- 前年に公開された映画『戦国自衛隊』は『ファイナル・カウントダウン』の盗作ではないかとも言われたが、その原作の小説がさらに以前に発表されていたため、大きな問題とはならずに終息した。この件については、劇画版『戦国自衛隊』のコンビニコミック版単行本(下巻)のあとがきでも触れられている。
- 聖ミカエラ学園漂流記
- 高取英の戯曲・小説。1983年。
- 私立ミカエラ学園の生徒達が、学園長が隠匿していた兵器を奪って過去へタイムスリップし、島原の乱で幕府軍を打ち破って歴史を変えてしまう。
- 異聞・ミッドウェー海戦―タイムパトロール極秘ファイル
- 豊田有恒の短編小説集。表題作『異聞・ミッドウェー海戦』(1987年)は、歴史改変を目論む未来人によって海上自衛隊の護衛艦くらまが、ミッドウェー海戦の最中にタイムスリップするというもの。現代の軍艦が第二次世界大戦にタイムスリップする、歴史改変はならずに元の時代へ戻されるという点で、『ファイナル・カウントダウン』と設定が酷似している。
- 大逆説!PKO軍、関ヶ原合戦に突入す
- 志茂田景樹の小説。1992年。
- 自衛隊がカンボジアのPKO活動への派遣中、関ヶ原合戦直前にタイムスリップ。自衛隊員は佐々木小次郎らを配下にし、生き残りを賭けて戦い抜いていく。
- 戦国の長嶋巨人軍
- 志茂田景樹の小説。1995年。
- 長嶋巨人軍が戦国にタイムスリップし、織田信長と共闘する。日高建男により『戦国の長縞GB軍』として漫画化されている(『コミック乱』連載、2013年)。
- 天軍
- 2005年の韓国映画。
- 韓国軍・朝鮮人民軍の兵士が、李舜臣が存在する時代にタイムスリップ。両軍は李舜臣を守りながら、現代に帰る方法を探す。
- ポスターが『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』のポスターに似ていたり、内容も『戦国自衛隊』に似ていることから、一時的に騒動となった。
脚注
- 注釈
- ^ 60式自走無反動砲と混同されたのか、劇画では60式装甲車とジープ搭載型60式106mm無反動砲各1台に修正されている。
- 出典
- ^ 表紙イラスト、本文イラストが永井豪。戦国自衛隊 (角川書店): 1978|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
- ^ 劇場版公開に合わせて表紙が映画のスチル(千葉真一と夏木勲)に。本文イラストはそのまま。16行43文字。解説は石上三登志。ISBN 4041375096
- ^ 『1549』公開に合わせ、2005年1月25日改版初版。表紙イラストは、ビジュアルワーク:ROBOT/カバーデザイン:高柳雅人(角川書店装丁室)/©2005「戦国自衛隊1549」製作委員会。本文イラストは消滅。16行40文字。解説は川又千秋。ISBN 404137533-9
- ^ 表紙イラストは西口司郎、装幀は芦澤泰偉。15行40文字。解説は笹川吉晴。最初の角川文庫版表紙イラストが永井豪であったことはこの解説に拠る。
- ^ “1980年(1月~12月)”. 過去配給収入上位作品(配給収入10億円以上番組). 一般社団法人日本映画製作者連盟. 2014年7月14日閲覧。
- ^ アイドルグループ「Berryz工房」と「℃-ute」の主演で、SF小説「戦国自衛隊」を舞台化(シアターガイド、2011年6月10日)2014年07月13日閲覧。
- ^ Berryz工房10周年記念舞台 演劇女子部『ミュージカル戦国自衛隊』 本日開幕(PR TIMES、2014年5月12日)2014年07月13日閲覧。