安全剃刀

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ジレット安全剃刀の特許(#775,134)の図

安全剃刀(あんぜんかみそり)とは皮膚を刃の先端部分以外の全てから守る剃刀である。

通常の剃刀(straight razor)に比較して「安全」であるため安全剃刀(safety razor)と呼ばれる。従来の剃刀を使い怪我を負うことがあったため、そのような可能性をなるべく排除するよう設計されたといわれることが多い。

歴史

安全剃刀以前

安全剃刀の発明以前、男性がヒゲを剃るときは通常の剃刀を使っていた。そのような剃刀も今でも販売されているが正しい使用には熟練と注意を要するため、一般にはあまり使われなくなっている。

発明

最初の安全剃刀は18世紀末にフランス人ジャン=ジャック・ペレが発明した。ペレは(かんな)を見て思いついたという。彼は刃物の専門家であり、 Pogonotomy or the Art of Learning to Shave Oneself(ひげそり術)という本も出版している。1820年代末、それに似た剃刀がイギリスのシェフィールドで作られている。また1870年代ごろから鍬形のハンドルに片刃の剃刀を装着した形のものがイギリスやドイツで出回るようになっていった。ヨーロッパでは"Comfort"[1]の剃刀などが売られていたが、この時代の安全剃刀は本当に「安全」とは言えないものだった。

1880年、アメリカでKampfe Brothersが安全剃刀の特許を取得した。そこには「小さな刃は適当なフレームで保持され、刃の先端が皮膚に食い込むことを防止するガードがついている」とある[1]。この新たな剃刀は刃の先端に沿ってガードがあるのが特徴で刃は片方だけを使い、研ぐために頻繁に取り外せるようになっていた。

ジレットのイノベーション

両刃方の安全剃刀

1901年、アメリカの発明家キング・キャンプ・ジレットはウィリアム・ニッカーソンの補助を受け使い捨ての薄い刃を使った安全剃刀を発明した。ジレットは剃刀本体を安く売れば、替え刃の市場が生まれてそこで利益を上げられると思いついた。これを「剃刀と替え刃のビジネスモデル」あるいはロスリーダーなどと呼び、その後様々な製品で応用されるようになった。このアイデアを実現すべくジレットは1901年12月3日に特許を申請し、1904年11月15日にアメリカ合衆国特許 #775,134が発効した[2][3]

1902年、ジレットはこの剃刀の生産を開始したが本体51個、替え刃168枚しか売れなかった。しかし1904年新型を発売すると売り上げが急増し本体9万本、替え刃12万3000枚を売り上げた。ジレットの替え刃式安全剃刀のイノベーションは競合他社を打ちのめした。刃は剃刀本体でカバーされており、深い創傷を防ぐようになっていた。このため、大多数の人々が初めて自分で安全にヒゲを剃れるようになった。それ以前、髭剃りは家族にやってもらうか理髪店で剃ってもらうのが一般的だった。当時の競合他社も似たような安全剃刀を発売していたが、いずれも刃は使い捨てではなく研いで使い続ける方式だった。そのため、昔ながらの革砥を使うか専用の機械に刃を通して研ぐ必要があった。

第一次世界大戦

第一次世界大戦中ジレットは軍と契約し、ヨーロッパに出征する兵や将校の標準装備としてジレットの安全剃刀と替え刃を供給した。戦争が終わるまでに軍に350万本の剃刀本体と3200万枚の替え刃を供給し、おかげでアメリカ中の男性がジレットの安全剃刀を使うようになった。

ステンレスへの移行

ジレットは1960年代まで炭素鋼の刃を製造していた。これはびやすく、頻繁に刃を変える必要があった。1965年、イギリスのウィルキンソン・ソードステンレス鋼製の刃を発売した。これは錆びにくく、刃がなまくらになるまで繰り返し使用可能である。ウィルキンソンはイギリスを含めたヨーロッパ市場で急速にシェアを伸ばしたため、ジレットはそれに対抗するためステンレス鋼への転換を余儀なくされた。今日では安全剃刀の刃はほとんどがステンレス鋼製である。今でも炭素鋼製の刃も使われており、以前に比べればかなり進歩している。最近の炭素鋼製の剃刀は、使う度にアルコールですすげば錆びない。実はジレットは以前からステンレス鋼の剃刀の特許を持っていたが使っていなかった。このため顧客に錆びやすい剃刀(の替え刃)を売りつけているとして告発されたことがある[4]

片刃

両刃の替え刃

安全剃刀と一口に言っても、様々な剃刀がある。その中でもそれほど一般的ではないものとして、片刃の安全剃刀がある。この場合、剃刀の刃の部分が両刃ではなく片刃になっている。今では生産されていないが、世界中で使われている。片刃の安全剃刀ではAmerican Safety Razorが"Ever-Ready"のブランドで販売していたものが有名で、その刃の部分は"'Radio' Blades"と呼ばれていた。同社は"The Honest Brush"の製品名でシェービングブラシも製造していた。また、Gem Safety Razorは"Gem Damaskeene Razor"の製品名で片刃の安全剃刀を販売していた。剃り味がよいことから欧米では片刃の安全剃刀の愛好者がおり、替え刃もドラッグストアなどで比較的容易に入手できる。

最近の安全剃刀

カートリッジ方式

1970年代初めごろまで、安全剃刀の替え刃は一枚の使い捨て式の刃だった。刃は両刃か片刃で、安全剃刀本体の設計に応じて使い分ける。このような安全剃刀はアメリカでは既に生産されておらずドイツのMerkur、パキスタンのTreet、中国のWeishi、インドのParkerといった企業が今も生産している。替え刃はアメリカ、イスラエル、ロシア、日本、エジプト、イギリスなど世界各国で生産されている。

替え刃の交換の際に手を切ってしまう危険性をなくすため、刃を含むヘッド部分をカートリッジにして交換する方式が考案された。この、刃をプラスチック製の外枠に固定したカートリッジが今も使われている。1965年、ジレットは鋼製の帯によるカートリッジを採用したテクマテック(Techmatic)という安全剃刀を発売した[5]

ジレットやシックがなぜカートリッジ式に移行したのかについては、これまでもよく議論されてきた。1つの説は、カートリッジ方式にすることによってその企業の替え刃へのコントロールが強化されるからというものである[6]。カートリッジ以前には、世界中でサードパーティ製の替え刃が販売されていた。それが熾烈な価格競争を生じ、結果として企業の利益を圧迫していた。両刃の替え刃を製造する企業は、今も世界中に20社以上存在する(ASR, Dinosaur, Goldcow, Bic, Merkur, Wilkinson, Gillette, Panda, Feather, Derby, Crystal, Astra など)。しかしジレットがTrac IIを発売したとき、そのカートリッジを発売できたのは数社に過ぎない。替え刃へのコントロールが維持できれば、メーカーはその価格を自由に上げることができる。アメリカでのカートリッジ式替え刃の価格は高くても3.24ドル程度だが、両刃の替え刃は安いものでは10セントである。

2枚刃

1971年ごろ、ジレットはFrancis DorionがデザインしたTrac IIを発売した(日本ではGII)。これはアメリカで最初に発売された複数刃の安全剃刀である。そのカートリッジには刃が2枚装備されている。Trac IIを特許で制御することで、ジレットは2枚刃カートリッジを確実に何度も購入してもらえるようにした。これは、かつての剃刀と替え刃の販売哲学の自然な発展である。ジレットは2枚刃カートリッジを従来のものより高い価格で販売し、利益を増やしていった。競合するシックなどもこの動きに素早く追随し、それぞれ2枚刃式の安全剃刀を発売した。各ブランドのカートリッジには互換性がなく、各社はベンダロックインを狙っていた。

ジレットは次にAtra(Contourとも、日本ではアクタス)を発売。これは首振り式でヘッド部分が動くようになっていて、皮膚の形状に密着しやすいとされていた。その後、いわゆる「スムーサー」を導入したTrac II PlusやAtra Plusが登場。

ジレットは次に2枚ある刃をそれぞれ独立サスペンションで調節するSensor(センサー)を導入した。

使い捨て剃刀

もう1つのイノベーションは1974年ビックが発売した使い捨て式の安全剃刀である。つまり、刃を交換するのではなく安全剃刀全体を使い捨てできるものにした。ジレットはこれに対抗してGood Newsという使い捨て式安全剃刀を北米で1976年に発売した。この時点でビックは北米市場に参入できていなかった[7]。ジレットはさらにスムーサーを追加したGood News Plusを発売。日本では「ブルーII」という製品名で1986年に発売した。

3枚刃や4枚刃のカートリッジ

1998年、ジレットは初の3枚刃カートリッジ式安全剃刀Mach3(日本では「マッハシンスリー」)を発売。後にSensorを3枚刃にしたSensor3を発売した。このころからシックとの開発競争が激化する。両社の開発競争は1970年代からパロディ化されており、1975年の『サタデー・ナイト・ライブ』でもそのようなネタのエピソードがあった。2004年The Onionに掲載された風刺記事"Fuck Everything, We're Doing Five Blades"では5枚刃の登場を予言していた[8]。これは実際に5枚刃カートリッジが登場する2年前のことである[9]

シックはMach3にQuattroで対抗した。世界初の4枚刃カートリッジである。これらのイノベーションを市場に投入する際は、より簡単によりよい剃り味を達成できると喧伝している。

最近の開発

ジレットの Fusion Power.

ジレットの最新主力製品はFusion(フュージョン5+1)で、5枚刃の他にトリミング用の刃が付いている。

また、電池を装備して刃を振動させるM3Power(エムスリー・パワー)なども発売している。この振動は、毛を剃る前に立たせて剃りやすくするのだという。この主張は法廷で「確証がなく不正確」だとされた[10]。なお、シックも同様の電動機能を持つSchick Quattro Powerを発売している。

2008年、イギリスのKing of Shavesは4枚刃のAzorを発売した。Azorは競合製品よりも構造が単純だが、首振り式ではなく自在ヒンジを採用している。同社は刃の枚数よりも刃の鋭利さと清潔さが重要だとしている。

男性用と女性用の違い

女性用安全剃刀

安全剃刀は男性用と女性用が別々に製品化されている。単に色が違うだけの使い捨て式のものもあれば、設計原則が全く異なるものもある。女性用の安全剃刀は柄が長く握りやすさを考慮したものが多い。また、剃る場所によって柄の形状を特化させたものもある。

脚注・出典

  1. ^ Frederick Kampfe, Richard Kampfe, Otto Kampfe、1888年7月3日アメリカ合衆国特許第 385,462号 "Safety-Razor"
  2. ^ Sewell, Karen. “Patent for Safety Razor Issued November 15, 1904”. United States Patent and Trademark Office. 2007年4月27日閲覧。
  3. ^ King C. Gillette、1904年11月15日アメリカ合衆国特許第 775,134号 "Razor"
  4. ^ The Blade Battle”. Time magazine (1965年1月29日). 2007年2月17日閲覧。
  5. ^ Vintage Gillette Techmatic Safety Razor
  6. ^ "Why Straight Razors in the 21st Century?"” (Webpage Article). Classicshaving.com. 2007年4月27日閲覧。
  7. ^ Cuttingedge:Gillette's journey to global leadership
  8. ^ Kilts, James M.. “Fuck Everything, We're Doing Five Blades”. The Onion. 2009年11月21日閲覧。
  9. ^ Gillette unveils 5-bladed razor New system, available in early 2006, to have lubricating strips on both the front and back sides.”. CNNMoney.com (2005年9月14日). 2009年11月21日閲覧。
  10. ^ Judge rules Gillette M3Power ads are false”. Associated Press. 2007年2月17日閲覧。

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