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}}
'''WM20シリーズ'''は、[[オランダ]]のシグナール(現在の[[タレス・グループ|タレス・ネーデルラント]])社が開発した艦載用の[[射撃統制システム#水上艦搭載FCS|射撃指揮装置(FCS)]]。
'''WM20シリーズ'''は、[[オランダ]]のシグナール(現在の[[タレス・グループ|タレス・ネーデルラント]])社が開発した艦載用の[[射撃統制システム#水上艦搭載FCS|射撃指揮装置(FCS)]]。


== 概要 ==
== 来歴 ==
[[1950年代]]、シグナール社は戦後第1世代のFCSとして、[[ボフォース 152mm砲]]用のM1、[[ボフォース57mm砲#Mk 1|ボフォースMk.1 57mm砲]]用のM2、[[ボフォース 40mm機関砲]]用のM4を開発した{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。M1・2は[[Sバンド]]で動作し、送信機の送信尖頭電力は400キロワット、パルス幅は0.5マイクロ秒、パルス繰返数は1,000 ppsで、アンテナとしては円形の[[パラボラアンテナ]]を用いた{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}。一方、M4は[[Xバンド]]で動作し、特徴的な形のパラボロイドアンテナを用いた{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}。
[[File:Karjala tulenjohtotutka Forum Marinum 2.JPG|thumb|left|M22]]
[[1950年代]]、シグナール社は戦後第1世代の[[射撃管制装置|FCS]]として、[[ボフォース 152mm砲]]用のM1、[[ボフォース57mm砲#Mk 1|ボフォースMk.1 57mm砲]]用のM2、[[ボフォース 40mm機関砲]]用のM4を開発した。これは、[[オランダ海軍]]を始めとして各国で採用されるとともに、改良型として[[シーキャット (ミサイル)|シーキャット]][[艦対空ミサイル#個艦防空ミサイル|個艦防空ミサイル]]用のM44、[[口径|中口径]]砲用のM45に発展した。このM40シリーズの改良型として、まず[[1960年代]]中盤にM20シリーズが開発された。M20シリーズは、基本的にはM40シリーズの技術を踏襲していたが、その追尾[[レーダー]]と同じ送信機を使用する目標捜索・[[捕捉レーダー]]を導入した。これらは特徴的な[[卵]]型の[[レドーム]]に収容されており、上側に追尾用[[アンテナ]]、下側に捜索・捕捉用アンテナが設置された<ref name="Friedman2006">{{Cite book|author=[[:en:Norman Friedman|Norman Friedman]]|title= The Naval Institute guide to world naval weapon systems|year= 2006|publisher=[[:en:United States Naval Institute|Naval Institute Press]]|isbn=9781557502629|url= https://books.google.co.jp/books?id=4S3h8j_NEmkC}}</ref>。また、[[1964年]]には、[[アメリカ海軍]]のアッシュビル級哨戒艇の一部艇向けとしてフォード社がM22を[[ライセンス生産]]し、'''Mk.87 FCS'''として制式化された<ref name="Jane's"/>。


これに続いて開発された'''M40'''シリーズでは、周波数はXバンド、またアンテナはエンクローズされたパラボラアンテナとなった{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。アンテナはロール方向およびピッチ方向に安定化されており、空中目標に対してはコニカルパターン、水上目標に対しては楕円パターンでのスキャンを行った{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。射撃計算およびレーダー情報処理のためにはSMRデジタルコンピュータが用いられていた{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。M44は[[シーキャット (ミサイル)|シーキャット個艦防空ミサイル]]、M45は砲熕兵器を管制するために用いられる{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。
これをもとに、再プログラム可能なデジタル・[[コンピュータ]]を採用し、コンバット・システムとして自己完結可能な改良型として開発されたのがWM20シリーズである<ref name="Friedman2006"/>。[[1970年]]に[[ノルウェー海軍]]のストルム級ミサイル艇がWM26を搭載したのを皮切りに、世界各国で採用された<ref name="Jane's">{{Cite journal|chapter=M20/WM20/WM22/WM25/WM27/WM28/Mk 92 (Netherlands), Command, surveillance and weapon control systems|title=Jane's Naval Weapon Systems|date=2012-05-25|url=http://articles.janes.com/articles/Janes-Naval-Weapon-Systems/M20-WM20-WM22-WM25-WM27-WM28-Mk-92-Netherlands.html|publisher=Jane's Information Group}}</ref>。

{{-}}
そして1950年代後半、これらの後継機として開発されたのが'''M20'''シリーズであり、[[1961年]]の[[ドイツ海軍 (ドイツ連邦軍)|ドイツ海軍]]の[[ツォーベル級魚雷艇]]の就役とともに装備化された{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。これはプログラム固定式のコンピュータを使用していたが、後にプログラム差し替え可能なコンピュータを用いたモデルも登場し、こちらは'''WM20'''シリーズと称された{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。WM20シリーズのローンチカスタマーは[[ノルウェー海軍]]で、[[1970年]]に[[ストルム級ミサイル艇]]にWM26を搭載して装備化した{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。
== 搭載艦艇 ==

{{Col|
== 設計 ==
M20/WM20シリーズのレーダー[[送信機]]としては、M40シリーズと同系列のものが用いられた{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}。送信尖頭電力も同じく180キロワットが標準だったが、WM25では1 MWの交差電力増幅管{{Enlink|Crossed-field amplifier|CFA}}を用いて200キロワットまで増強した{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。

M20/WM20シリーズの特徴として、[[追尾レーダー]]と送信機を共用する[[捕捉レーダー]]を導入した点がある{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。これらは特徴的な[[卵]]型の[[レドーム]]に収容されており、上側に空中目標追尾用のカセグレンアンテナ、下側に捕捉用の変形パラボロイドアンテナが設置された{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。ビーム幅は、捕捉用アンテナでは1.5×7.0度(後に7.7度)、追尾用アンテナでは2.4度であった{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。捕捉用アンテナは毎分60回転の高速で旋回しており、水上目標の追尾はこれを用いた[[捜索中追尾]](TWS)として行われた{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}。

レーダー性能はタイプによって異なるが、一般に、捕捉レーダーは水平距離にして{{Convert|16|-|17|nmi|km|abbr=on|lk=on}}、また高度7,600メートルまでの目標を探知できる{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。[[レーダー反射断面積]](RCS)2平方メートルの目標であれば、距離{{Convert|30500|yd|m|abbr=on|lk=on}}で探知、{{Convert|29000|yd|m|abbr=on|lk=on}}で捕捉可能とされる{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}。一方、追尾レーダーは約15.5海里(29km)までの範囲をカバーすることが可能であり、RCS 1平方メートルの空中目標なら最大速度{{Convert|900|m/s|kn|abbr=on|lk=on}}まで、また同程度の水上目標なら最大速度{{Convert|34|-|55|m/s|kn|abbr=on|lk=on}}まで対応可能である{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。また別体の追尾レーダーとして[[STIR/STING|STIR]]を連接して用いることもできる{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。

=== 各タイプ概要 ===
[[File:Karjala tulenjohtotutka Forum Marinum 2.JPG|thumb|M22]]
; M20
; M20
: 空中目標1個と水上目標3個を追尾し、空中目標と水上目標各1個について砲熕兵器で交戦しつつ、魚雷2本を管制する能力を有する{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}。
* {{navy|GER}}
; WM20
** [[ツォーベル級魚雷艇]]
: 基本的にはM20と同様の交戦能力を有するが、必要に応じて更に1個の水上目標と砲熕兵器で交戦する能力を付与することができる{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。オペレータ3名または4名が配置される{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。
; M22
; M22
: [[フリゲート]]までの大きさの艦に搭載することを想定して、単独で用いるほかに[[早期警戒レーダー|対空捜索レーダー]]と連接しても用いることもできる{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。2または3基の砲熕兵器を管制する能力を有しており、砲熕兵器2基の場合は空中目標と水上目標各1個、3基の場合は更に水上目標1個と交戦することができる{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。オペレータ2名または3名が配置される{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。
* {{navy|IDN}}
** PB57型哨戒艇
* {{navy|SWE}}
** エルヴスボリ級機雷敷設艦
* {{navy|FIN}}
** {{仮リンク|トゥルンマー級砲艇|en|Turunmaa-class gunboat}}
* {{navy|MYS}}
** [[フリゲート]]「[[ラフマト級フリゲート|ラフマト]]」
; WM22
; WM22
: 基本的にはM22と同様の交戦能力を有するが、中口径砲2基と小口径砲2基を同時に管制できる{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。また捕捉レーダーにはデジタル式のMTIを、追尾レーダーにはパルスドップラー処理を導入することができる{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。
* {{navy|ARG}}
** リュールセンTNC 45型[[高速戦闘艇]]
** [[MEKO 140型フリゲート|エスポラ級コルベット]]
* {{navy|IDN}}
** マンダウ級ミサイル艇
* {{navy|CAN}}
** [[イロクォイ級ミサイル駆逐艦|イロクォイ級ヘリコプター駆逐艦]]<br/>(TRUMP改修により[[STIR/STING|STIR-180]]に換装)
* {{navy|MYS}}
** [[FS-1500型フリゲート|カスツーリ級フリゲート]]
* {{navy|THA}}
** フリゲート「[[ラフマト級フリゲート|マクット・ラジャクマーン]]」
** チョンブリー級哨戒艇
** PF103型コルベット
; WM24
; WM24
: WM22を元に[[対潜迫撃砲|対潜ロケット砲]]や魚雷の管制能力を付与したモデル{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。本シリーズのなかで唯一[[対潜戦]]に対応したモデルである{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}。
: 対空・対水上用に1つずつチャンネルを持つほか、ASW統制能力ももつ。
* {{navy|NGR}}
** [[ヴォスパー・ソーニクロフト・フリゲート#エリンミ級|エリンミ級コルベット]]
|
; WM25
; WM25
: フリゲートや[[駆逐艦]]への搭載を想定して{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}、[[艦対空ミサイル]]の誘導のための[[連続波]]照射(CWI)機能を付与したモデル{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}。またこれに加えて、2基の砲熕兵器を同時に管制することができる{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。オペレータ4または5名が配置される{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。なお、もっと小型の艦艇に搭載することもできるが、この場合は艦対空ミサイルの管制能力は削除される{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。
: [[艦対空ミサイル|SAM]]誘導のためCWI能力を有するほか、砲用に2つのチャンネルを持つ。
* {{navy|ARG}}
** [[アルミランテ・ブラウン級駆逐艦]]
* {{navy|BEL}}
** [[ウィーリンゲン級フリゲート]]
* {{navy|EGY}}
** [[デスクビエルタ級コルベット (1978)|デスクビエルタ級コルベット]]
* {{navy|GER}}
** [[ブレーメン級フリゲート]]
* {{navy|GRC}}
** [[エリ級フリゲート]]
** オスプレイ55型コルベット
* {{navy|JPN}}
** [[しらね型護衛艦]]
* {{navy|KOR}}
** [[蔚山級フリゲート]]
* {{navy|NLD}}
** [[トロンプ級フリゲート]]
** [[コルテノール級フリゲート]]
* {{navy|THA}}
** [[ラタナコシン級コルベット]]
** ラチャリット級ミサイル艇
* {{navy|TUR}}
** [[トルコのMEKO型フリゲート|ヤウズ級フリゲート]]
; WM26
; WM26
: [[高速戦闘艇]]への搭載を想定したモデルで、本シリーズのなかで唯一GW01レーダーを使用している{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。これは捕捉レーダーのみを半球形レドームに収容したもので、戦闘機サイズの航空機を約15海里(28 km)、高度15,250 m(50,000フィート)で、艦船を約12海里(22 km)で探知することができる{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。1基の中口径砲を制御して1つの水上または陸上目標と交戦しながら、局所制御で動作する小口径対空砲に目標を指定することができる{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。また[[艦対艦ミサイル]]の目標探知にも使用される{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。
: [[卵]]型[[レドーム]]を持たない唯一のバージョンであり、対水上射撃能力しか備えていない。
* {{navy|NOR}}
** [[ストルム級ミサイル艇]]
* {{navy|SGP}}
** 110フィートB型哨戒艇
|
; WM27
; WM27
: 高速戦闘艇への搭載を想定したモデルだが、艦対空ミサイルのほか[[電波ホーミング誘導|セミアクティブ・レーダー誘導]]の艦対艦ミサイルの運用も想定して、連続波照射(CWI)機能を付与されている{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。また魚雷2本を管制することもできる{{Sfn|Friedman|1997|pp=322-324}}{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。
: チャンネル数は、SAM用が1つ、対空砲用が1つ、対水上砲用が1つ、[[魚雷]]用が2つ。WM20を除けば、魚雷用のチャンネルを持つ唯一の機種であった。
* {{navy|GER}}
** [[アルバトロス級ミサイル艇]]
** [[ゲパルト級ミサイル艇]]
; WM28
; WM28
: WM28をもとに駆逐艦への搭載を想定して強化したモデルで、魚雷の運用機能を削除するかわりに、2基目の砲熕兵器の管制能力が付与されている{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。
: チャンネル数は、SAM用が1つ、砲用が2つ。[[アメリカ合衆国|アメリカ]]で'''Mk.92'''として[[ライセンス生産]]された。
* {{navy|ARG}}
** エスポラ級コルベット
* {{navy|BGD}}
** メグナ級哨戒艇
* {{navy|IDN}}
** [[練習艦]]「[[:id:KRI Ki Hajar Dewantara (364)|キ・ハジャル・デワンタラ]]」
** [[ファタヒラー級フリゲート]]
** PSK MK.5型哨戒艇
* {{navy|IRN}}
** [[ラ・コンバタント型高速戦闘艇|ラ・コンバタントII型ミサイル艇]]
* {{navy|KOR}}
** 蔚山級フリゲート
** [[浦項級コルベット]]
* {{navy|MAR}}
** [[フロレアル級フリゲート]]
* {{navy|NGR}}
** FPB57型哨戒艇
* {{navy|SGP}}
** FPB45型哨戒艇
* {{navy|THA}}
** プラブラパク級ミサイル艇
* {{navy|TUR}}
** ドガン級ミサイル艇
}}


== Mk.92 ==
=== アメリカ仕様 ===
[[1964年]]、[[:en:Ford Instrument Company|フォード・インストゥルメンツ]]社(後の[[スペリー]]社)がM22の製造ライセンスを取得した{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。これは[[アメリカ海軍]]において'''Mk.87'''として制式化され{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}、{{仮リンク|アッシュヴィル級砲艇|en|Asheville-class gunboat}}の1964年度計画艇のうち2隻([[:en:USS Antelope (PG-86)|アンテロープ]]・[[:en:USS Ready (PG-87)|レディ]])に搭載された{{Sfn|Friedman|1987|pp=268-270}}。
[[File:HMAS_Adelaide_FFG01_gun_radar.jpg|thumb|STIR]]
WM28をもとに、[[スペリー]]社が[[ライセンス生産]]した[[アメリカ合衆国|アメリカ]]版であり、現在では[[ロッキード・マーティン]]社により生産されている。


[[1971年]]5月、[[アメリカ海軍作戦部長]](CNO)執行委員会は、当時計画されていた哨戒フリゲート(PF)にもMk.87を搭載することを決定したが、実際に建造された[[オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲート]]においては、より高性能な'''Mk.92'''が搭載された{{Sfn|Friedman|2004|pp=384-385}}。これはスペリー社によるWM28のライセンス生産版であり{{Sfn|Friedman|1997|pp=384-385}}、WM28の卵型レドームはMk.53 CAS({{Lang|en|Combined Antenna System}})となったほか、砲とともに[[スタンダードミサイル#SM-1シリーズ|SM-1MR艦対空ミサイル]]の射撃指揮も行うため、[[Mk.86 砲射撃指揮装置|Mk.86 GFCS]]で採用されていた[[AN/SPG-60]]に所定の改修を加えたうえでMk.53 STIR({{Lang|en|Separate Target Illumination Radar}})として組み込まれた{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。ペリー級の搭載システムでは、射撃計算などは艦の[[AN/UYK-7]]コンピュータで行っており、またCAS用にはMk.106、STIR用にはMk.107武器管制コンソールが配置された{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。オペレーターは4名が配置された{{Sfn|Hooton|2002|loc=&sect;COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS}}。
[[1970年代]]初頭、[[オート・メラーラ 76 mm 砲#コンパクト(コンパット)砲とスーパー・ラピッド砲|オート・メラーラ 76mmコンパット砲]]用の[[射撃管制装置|FCS]]として、WM28のライセンス生産版が'''Mk.92 FCS'''として制式化され、[[アメリカ海軍|海軍]]の[[オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲート]]のほか、[[アメリカ沿岸警備隊]]の[[ベア級カッター]]や近代化改修された[[ハミルトン級カッター]]に搭載された。


[[File:HMAS_Adelaide_FFG01_gun_radar.jpg|thumb|STIR]]
ただし、ペリー級は[[ミサイル艦|ミサイルフリゲート]]であり、砲とともに[[スタンダードミサイル#SM-1シリーズ|SM-1MR]][[艦対空ミサイル]]の射撃指揮も行うことから、同級の搭載モデルにおいては、WM28の[[卵]]型[[レドーム]](Combined Antenna System, '''CAS'''と称されている)とともに、Mk.86 FCSで採用されていた[[AN/SPG-60]]に所定の改修を加えたSTIR(Separate Target Illumination Radar)も組み込まれている<ref name="Jane's"/>。


Mk.92には、下記のようなバリエーションがある。
Mk.92には、下記のようなバリエーションがある。
; Mod0
; Mod 0
: 海軍向けの最初期モデル。
: 海軍向けの最初期モデル。
; Mod1
; Mod 1
: 沿岸警備隊向けとして、SAM誘導能力とSTIRを省いたモデル。
: 沿岸警備隊向けとして、SAM誘導能力とSTIRを省いたモデル。
; Mod2
; Mod 2
: ペリー級ミサイルフリゲート向けのモデル。Mk.107コンソールを有し、対空用チャンネルが2つに増やされている。
: ペリー級ミサイルフリゲート向けのモデル。Mk.107コンソールを有し、対空用チャンネルが2つに増やされている。
; Mod5
; Mod 5
: [[バドル級コルベット]]向けのモデル。
: [[バドル級コルベット]]向けのモデル。
; Mod6
; Mod 6
: Mod2にCORT(Coherent Receiver Transmitter)を適用し、低空目標への対処能力などを強化した改良型。
: Mod 2にCORT(Coherent Receiver Transmitter)を適用し、低空目標への対処能力などを強化した改良型。
; Mod12
; Mod 12
: Mod6をもとに[[スタンダードミサイル#SM-2シリーズ|SM-2MR]]および[[ESSM]]の運用に対応したモデル。中間[[指令誘導]]に対応し、また、[[VLS]]にも対応させることができる。
: Mod 6をもとに[[スタンダードミサイル#SM-2シリーズ|SM-2MR]]および[[ESSM]]の運用に対応したモデル。中間[[指令誘導]]に対応し、また、[[VLS]]にも対応させることができる。
なお、米海軍のペリー級では、コスト低減のため、順次に[[スタンダードミサイル#RIM-66 SM-1MR|SM-1MR]]の運用能力を撤去しているが、これに伴ってMk.92のSTIRも撤去されている。
なお、米海軍のペリー級では、コスト低減のため、順次に[[スタンダードミサイル#RIM-66 SM-1MR|SM-1MR]]の運用能力を撤去しているが、これに伴ってMk.92のSTIRも撤去されている。
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=== 搭載艦艇 ===
== 採用国と搭載艦艇 ==
{{Columns-start|num=3}}
{{Col|
* {{navy|USA}}
* {{navy|USA}}
** {{仮リンク|アッシュヴィル級砲艇|en|Asheville-class gunboat}} - 一部にMk.87を搭載
** [[ペガサス級ミサイル艇]]
** [[ペガサス級ミサイル艇]] - Mk.92
** [[オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲート]] - Mk.92
* {{navy|USA|coast guard}}
* {{navy|USA|coast guard}}
** [[ベア級カッター]]
** [[ベア級カッター]] - Mk.92
** [[ハミルトン級カッター]]
** [[ハミルトン級カッター]] - Mk.92
* {{navy|PHI}}
* {{navy|ARG}}
** {{仮リンク|イントレピダ級魚雷艇|es|Clase Intrépida|en|Intrépida-class fast attack craft}}([[リュールセンTNC-45型高速戦闘艇|リュールセンTNC-45型]] - WM22
** [[グレゴリオ・デル・ピラール級フリゲート]]
** [[エスポラ級コルベット]](MEKO 140型) - WM22
** [[アルミランテ・ブラウン級駆逐艦]](MEKO 360型) - WM25
* {{navy|IRN}}
** [[ラ・コンバタント型高速戦闘艇|ラ・コンバタントII型ミサイル艇]] - WM28
* {{navy|IDN}}
** PB57型哨戒艇 - M22
** {{仮リンク|マンダウ級ミサイル艇|en|Mandau-class fast attack craft}} - WM22
** [[練習艦]]「[[:id:KRI Ki Hajar Dewantara (364)|キ・ハジャル・デワンタラ]]」 - WM28
** [[ファタヒラー級フリゲート]] - WM28
** PSK MK.5型哨戒艇
* {{navy|EGY}}
** [[デスクビエルタ級コルベット (1978)|デスクビエルタ級コルベット]] - WM25
* {{navy|AUS}}
** [[アデレード級フリゲート]] - Mk.92
* {{navy|NLD}}
** [[トロンプ級フリゲート]] - WM25
** [[コルテノール級フリゲート]] - WM25
* {{navy|JPN}}
** [[しらね型護衛艦]] - WM25{{Efn2|国産の[[FCS-2]]の開発遅延に伴い、代替装備として導入された{{Sfn|河野|2010}}。[[はつゆき型護衛艦]]への搭載も検討されたが、FCS-2の開発成功に伴ってこちらは回避された{{Sfn|河野|2010}}。}}
{{Column}}
* {{navy|CAN}}
** [[イロクォイ級ミサイル駆逐艦|イロクォイ級ヘリコプター駆逐艦]] - WM22<br/>(TRUMP改修により[[STIR/STING|STIR-180]]に換装)
* {{navy|GRC}}
** [[エリ級フリゲート]] - WM25
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== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
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* {{Citation|first=Norman|last=Friedman|title= The Naval Institute Guide to World Naval Weapon Systems 1997-1998|year=1997|publisher=Naval Institute Press|isbn=978-1557502681|ref=harv}}
* {{Citation|editor-first=E.R.|editor-last=Hooton|title= Jane's Naval Weapon Systems|edition=37th|year=2002|publisher=[[:en:Janes Information Services|Jane's Information Group]]|isbn=978-0710608932|ref=harv}}
* {{Citation|和書|last=河野|first=守雄|year=2010|chapter=射撃指揮装置GFCS-1及びFCS-2の研究開発|title=第1巻 射撃|series=海上自衛隊 苦心の足跡|publisher=[[水交会]]|pages=226-233|ref=harv}}


[[Category:タレス・グループの艦載レーダー]]
[[Category:タレス・グループの艦載レーダー]]

2022年12月3日 (土) 06:39時点における版

WM20シリーズ
Mk.92 FCSのCASレーダー。WM28のアンテナと同型である
種別 射撃指揮装置
開発・運用史
開発国 オランダの旗 オランダ
就役年 1960年代
送信機
周波数 Xバンド
パルス 0.22マイクロ秒/0.45マイクロ秒
パルス繰返数 3,600 pps / 1,800 pps
送信尖頭電力 180-200 kW
アンテナ
アンテナ利得 33.5 dB
ビーム幅 捜索用:1.5×7.0度
追尾用:2.4度
走査速度 60 rpm
テンプレートを表示

WM20シリーズは、オランダのシグナール(現在のタレス・ネーデルラント)社が開発した艦載用の射撃指揮装置(FCS)

来歴

1950年代、シグナール社は戦後第1世代のFCSとして、ボフォース 152mm砲用のM1、ボフォースMk.1 57mm砲用のM2、ボフォース 40mm機関砲用のM4を開発した[1][2]。M1・2はSバンドで動作し、送信機の送信尖頭電力は400キロワット、パルス幅は0.5マイクロ秒、パルス繰返数は1,000 ppsで、アンテナとしては円形のパラボラアンテナを用いた[1]。一方、M4はXバンドで動作し、特徴的な形のパラボロイドアンテナを用いた[1]

これに続いて開発されたM40シリーズでは、周波数はXバンド、またアンテナはエンクローズされたパラボラアンテナとなった[1][2]。アンテナはロール方向およびピッチ方向に安定化されており、空中目標に対してはコニカルパターン、水上目標に対しては楕円パターンでのスキャンを行った[1][2]。射撃計算およびレーダー情報処理のためにはSMRデジタルコンピュータが用いられていた[2]。M44はシーキャット個艦防空ミサイル、M45は砲熕兵器を管制するために用いられる[1][2]

そして1950年代後半、これらの後継機として開発されたのがM20シリーズであり、1961年ドイツ海軍ツォーベル級魚雷艇の就役とともに装備化された[2]。これはプログラム固定式のコンピュータを使用していたが、後にプログラム差し替え可能なコンピュータを用いたモデルも登場し、こちらはWM20シリーズと称された[1][2]。WM20シリーズのローンチカスタマーはノルウェー海軍で、1970年ストルム級ミサイル艇にWM26を搭載して装備化した[2]

設計

M20/WM20シリーズのレーダー送信機としては、M40シリーズと同系列のものが用いられた[1]。送信尖頭電力も同じく180キロワットが標準だったが、WM25では1 MWの交差電力増幅管 (CFAを用いて200キロワットまで増強した[2]

M20/WM20シリーズの特徴として、追尾レーダーと送信機を共用する捕捉レーダーを導入した点がある[1][2]。これらは特徴的な型のレドームに収容されており、上側に空中目標追尾用のカセグレンアンテナ、下側に捕捉用の変形パラボロイドアンテナが設置された[1][2]。ビーム幅は、捕捉用アンテナでは1.5×7.0度(後に7.7度)、追尾用アンテナでは2.4度であった[2]。捕捉用アンテナは毎分60回転の高速で旋回しており、水上目標の追尾はこれを用いた捜索中追尾(TWS)として行われた[1]

レーダー性能はタイプによって異なるが、一般に、捕捉レーダーは水平距離にして16–17 nmi (30–31 km)、また高度7,600メートルまでの目標を探知できる[2]レーダー反射断面積(RCS)2平方メートルの目標であれば、距離30,500 yd (27,900 m)で探知、29,000 yd (27,000 m)で捕捉可能とされる[1]。一方、追尾レーダーは約15.5海里(29km)までの範囲をカバーすることが可能であり、RCS 1平方メートルの空中目標なら最大速度900 m/s (1,700 kn)まで、また同程度の水上目標なら最大速度34–55 m/s (66–107 kn)まで対応可能である[2]。また別体の追尾レーダーとしてSTIRを連接して用いることもできる[2]

各タイプ概要

M22
M20
空中目標1個と水上目標3個を追尾し、空中目標と水上目標各1個について砲熕兵器で交戦しつつ、魚雷2本を管制する能力を有する[1]
WM20
基本的にはM20と同様の交戦能力を有するが、必要に応じて更に1個の水上目標と砲熕兵器で交戦する能力を付与することができる[2]。オペレータ3名または4名が配置される[2]
M22
フリゲートまでの大きさの艦に搭載することを想定して、単独で用いるほかに対空捜索レーダーと連接しても用いることもできる[1][2]。2または3基の砲熕兵器を管制する能力を有しており、砲熕兵器2基の場合は空中目標と水上目標各1個、3基の場合は更に水上目標1個と交戦することができる[2]。オペレータ2名または3名が配置される[2]
WM22
基本的にはM22と同様の交戦能力を有するが、中口径砲2基と小口径砲2基を同時に管制できる[2]。また捕捉レーダーにはデジタル式のMTIを、追尾レーダーにはパルスドップラー処理を導入することができる[2]
WM24
WM22を元に対潜ロケット砲や魚雷の管制能力を付与したモデル[1][2]。本シリーズのなかで唯一対潜戦に対応したモデルである[1]
WM25
フリゲートや駆逐艦への搭載を想定して[2]艦対空ミサイルの誘導のための連続波照射(CWI)機能を付与したモデル[1]。またこれに加えて、2基の砲熕兵器を同時に管制することができる[2]。オペレータ4または5名が配置される[2]。なお、もっと小型の艦艇に搭載することもできるが、この場合は艦対空ミサイルの管制能力は削除される[2]
WM26
高速戦闘艇への搭載を想定したモデルで、本シリーズのなかで唯一GW01レーダーを使用している[2]。これは捕捉レーダーのみを半球形レドームに収容したもので、戦闘機サイズの航空機を約15海里(28 km)、高度15,250 m(50,000フィート)で、艦船を約12海里(22 km)で探知することができる[2]。1基の中口径砲を制御して1つの水上または陸上目標と交戦しながら、局所制御で動作する小口径対空砲に目標を指定することができる[2]。また艦対艦ミサイルの目標探知にも使用される[2]
WM27
高速戦闘艇への搭載を想定したモデルだが、艦対空ミサイルのほかセミアクティブ・レーダー誘導の艦対艦ミサイルの運用も想定して、連続波照射(CWI)機能を付与されている[1][2]。また魚雷2本を管制することもできる[1][2]
WM28
WM28をもとに駆逐艦への搭載を想定して強化したモデルで、魚雷の運用機能を削除するかわりに、2基目の砲熕兵器の管制能力が付与されている[2]

アメリカ仕様

1964年フォード・インストゥルメンツ社(後のスペリー社)がM22の製造ライセンスを取得した[2]。これはアメリカ海軍においてMk.87として制式化され[2]アッシュヴィル級砲艇英語版の1964年度計画艇のうち2隻(アンテロープレディ)に搭載された[3]

1971年5月、アメリカ海軍作戦部長(CNO)執行委員会は、当時計画されていた哨戒フリゲート(PF)にもMk.87を搭載することを決定したが、実際に建造されたオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートにおいては、より高性能なMk.92が搭載された[4]。これはスペリー社によるWM28のライセンス生産版であり[5]、WM28の卵型レドームはMk.53 CAS(Combined Antenna System)となったほか、砲とともにSM-1MR艦対空ミサイルの射撃指揮も行うため、Mk.86 GFCSで採用されていたAN/SPG-60に所定の改修を加えたうえでMk.53 STIR(Separate Target Illumination Radar)として組み込まれた[2]。ペリー級の搭載システムでは、射撃計算などは艦のAN/UYK-7コンピュータで行っており、またCAS用にはMk.106、STIR用にはMk.107武器管制コンソールが配置された[2]。オペレーターは4名が配置された[2]

STIR

Mk.92には、下記のようなバリエーションがある。

Mod 0
海軍向けの最初期モデル。
Mod 1
沿岸警備隊向けとして、SAM誘導能力とSTIRを省いたモデル。
Mod 2
ペリー級ミサイルフリゲート向けのモデル。Mk.107コンソールを有し、対空用チャンネルが2つに増やされている。
Mod 5
バドル級コルベット向けのモデル。
Mod 6
Mod 2にCORT(Coherent Receiver Transmitter)を適用し、低空目標への対処能力などを強化した改良型。
Mod 12
Mod 6をもとにSM-2MRおよびESSMの運用に対応したモデル。中間指令誘導に対応し、また、VLSにも対応させることができる。

なお、米海軍のペリー級では、コスト低減のため、順次にSM-1MRの運用能力を撤去しているが、これに伴ってMk.92のSTIRも撤去されている。

各モデルのチャンネル数と能力[6]
Mod番号 AAW ASuW SAM誘導能力
0 1 2
1 1
2 2
5 1
6 2
12 2

採用国と搭載艦艇

脚注

注釈

  1. ^ 国産のFCS-2の開発遅延に伴い、代替装備として導入された[7]はつゆき型護衛艦への搭載も検討されたが、FCS-2の開発成功に伴ってこちらは回避された[7]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Friedman 1997, pp. 322–324.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am Hooton 2002, §COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, NETHERLANDS.
  3. ^ Friedman 1987, pp. 268–270.
  4. ^ Friedman 2004, pp. 384–385.
  5. ^ Friedman 1997, pp. 384–385.
  6. ^ MK 92 Fire Control System Manufacturer Doc.”. GlobalSecurity.org. 2009年2月26日閲覧。
  7. ^ a b 河野 2010.

参考文献

  • Friedman, Norman (1987), U.S. Small Combatants, Including PT Boats, Subchasers, and the Brown-Water Navy: An Illustrated Design History, Naval Institute Press, ISBN 978-0870217135 
  • Friedman, Norman (2004). U.S. Destroyers: An Illustrated Design History, Revised Edition. Naval Institute Press. ISBN 1-55750-442-3 
  • Friedman, Norman (1997), The Naval Institute Guide to World Naval Weapon Systems 1997-1998, Naval Institute Press, ISBN 978-1557502681 
  • Hooton, E.R., ed. (2002), Jane's Naval Weapon Systems (37th ed.), Jane's Information Group, ISBN 978-0710608932 
  • 河野守雄「射撃指揮装置GFCS-1及びFCS-2の研究開発」『第1巻 射撃』水交会〈海上自衛隊 苦心の足跡〉、2010年、226-233頁。