非有基的集合論

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非有基的集合論(ひゆうきてきしゅうごうろん)は、集合がそれ自身の要素であることを認め、自己属集合(ある集合が自分自身の要素になっている集合)を許容する集合論である。

概要[編集]

数学で一般的に用いられる公理論的集合論は、集合の要素は集合自身を含まないという公理(正則性公理、基礎の公理、有基性公理とも呼ばれる)に基づいている。このため、自己参照的な概念のモデル化に用いることは困難だった。これに対して、自己属集合を許容する非有基的集合論は、自己参照や無限遡及を自然に扱うことができるために、計算機科学(プロセス代数と最終意味論)、言語学と自然言語意味論(状況意味論)、哲学(うそつきパラドックスに関する研究)[1]、非標準解析における非終了計算プロセスの論理モデリング、複雑系科学などに応用されている[2]

非有基的集合論の研究は、1917年から1920年にかけて発表されたドミトリー・ミリマノフが一連の論文によって先鞭がつけられた[3]。以後、複数の非有基的集合論の公理系が提案されたものの、専門分野内の議論にとどまり、応用されることは少なかった。応用が盛んとなったのは、グラフを用いることで有基性公理に基づく集合(well-founded set)とそれに基づかない非有基的集合(non-well-founded set)の両方を許容するHyperset論[4]ピーター・アクゼル1988年に発表した以降のことである。

脚注[編集]

  1. ^ Jon Barwise , John Etchemendy (1987). The Liar, An Essay on Truth and Circularity. Oxford University Prress 
  2. ^ 唐木 誠一 (2000). “複雑性の科学と社会システム理論”. 年報社会学論集 2000巻13 号: 38-49. doi:10.5690/kantoh.2000.38. 
  3. ^ Dellacherie, C. (1977), Les derivations en theorie descriptive des ensembles et le theoreme de la borne, Springer Berlin Heidelberg, pp. 34–46, ISBN 978-3-540-08145-6, https://doi.org/10.1007/bfb0087185 2023年7月17日閲覧。 
  4. ^ Aczel, Peter (1988). Non-well-founded sets. Menlo Park, Calif: Center for the Study of Language and Information. ISBN 978-0-937073-22-3 

外部リンク[編集]