「ハリアー II (航空機)」の版間の差分

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'''AV-8B ハリアー II'''(AV-8B Harrier II)は、[[マクドネル・ダグラス]](現[[ボーイング]])社が[[垂直/短距離離着陸機]][[ホーカー・シドレー ハリアー]]をに[[翼型#遷音速翼型|スーパークティル翼]][[高揚力装置|揚力強化装置]]を組み合わせて開発した[[攻撃機]]である
'''AV-8B ハリアー II'''({{Lang-en|AV-8B Harrier II}})は、[[マクドネル・ダグラス]](現[[ボーイング]])社が主体となって開発した[[垂直/短距離離着陸機]][[ホーカー・シドレー]](HSA; 現[[BAEシステムズ]])が開発した[[ホーカー・シドレー ハリアー|ハリアー]]をもとした発展型であり、[[アメリカ海兵隊]][[攻撃機]]て採用されほか、[[スペイン海軍]]や[[イタリア海軍]]では[[艦上攻撃機]]として運用した


また[[イギリス]]の[[ブリティッシュ・エアロスペース]](BAe)も、ほぼ同様の設計で細部のみを改訂した機体([[BAe ハリアー II]])を生産し、[[イギリス空軍]]の攻撃機として採用された。
すでに[[イギリス軍]]での運用は終了したが、[[軽空母]]や[[強襲揚陸艦]]、小規模な[[飛行場]]といった他機の活動が制約される環境下で[[近接航空支援]]と戦場[[航空阻止]]をこなすことができる唯一の攻撃機として、現在も[[アメリカ合衆国|アメリカ]]を始め、数ヶ国で運用されている。


== 開発経緯 ==
== 開発までの経緯 ==
[[イギリス]]において、世界初の実用[[垂直離着陸機]]として[[ホーカー・シドレー ハリアー]]が開発されると、[[アメリカ海兵隊]]は直ちに興味を示し、AV-8Aとして制式採用して、[[1970年]]度より調達を開始した{{Sfn|Calvert|2021}}。この導入にあたって、{{仮リンク|アメリカ合衆国下院軍事委員会|en|United States House Committee on Armed Services|label=下院軍事委員会}}はアメリカ国内で製造することを条件としており、[[マクドネル・ダグラス]]社(MDC)が製造権を取得したものの、同社の[[セントルイス]]工場に生産ラインを設置する場合、治具の移転とライン設置に2億4,000万ドルの費用がかかる上に機体の完成が1年遅れることが判明し、アメリカでの生産計画は放棄されて、AV-8Aは全機がイギリスで生産された{{Sfn|Calvert|2021}}。
[[画像:YAV-8B Harrier testing a ski jump.jpg|thumb|250px|left|[[パタクセント・リバー海軍航空基地]]([[メリーランド州]])で試験を行う海兵隊のYAV-8B ハリアー]]
[[アメリカ海兵隊]]ではハリアー GR.1の改良型である[[ホーカー・シドレー ハリアー|AV-8A ハリアー]]を[[1971年]]より部隊配備し、[[ホーカー・シドレー]](現[[BAEシステムズ]])社と[[マクドネル・ダグラス]]社はハリアー第二世代の開発に向けてパートナー・シップを結んだ。しかし、[[イギリス軍]]と[[アメリカ軍]]は、打撃・[[航空阻止]]の任務においては[[F-4 (戦闘機)|F-4]]、[[F/A-18 (航空機)|F/A-18]]や[[トーネード IDS]]といった[[攻撃機]]が必要であると考えていた。


このような経緯から、MDCはハリアーの製造権を取得しつつ行使しない状態だったこともあって、HSAと共同でハリアー後継機に関する研究に着手した{{Sfn|Calvert|2021}}。これは航続距離・[[ペイロード (航空宇宙)|ペイロード]]がAV-8Aの倍となることからAV-16「アドヴァンストハリアー」と称されており、胴体を2フィート延長するとともに[[翼型]]を超臨界翼とし、エンジンを推力{{Convert|24500|lbf|kN|lk=on}}の[[ロールス・ロイス ペガサス|ペガサス15]]に変更する計画で、またペガサスが[[アフターバーナー|プレナムチャンバー・バーニング(PCB)]]に対応すれば超音速も発揮可能と期待されていた{{Sfn|Calvert|2021}}。[[1973年]]度ではアメリカから研究資金も割り当られたものの、結局、研究開発は不首尾に終わった{{Sfn|Calvert|2021}}。
[[イギリス政府]]の支持を得られなかったホーカー・シドレー社は脱落したが、アメリカ海兵隊の認識は異なっていた。世界中に部隊を展開する上で[[滑走路]]や[[航空機]]用シェルターなど[[コンクリート]]で守りを固められた基地は数が限られており、[[兵器]]庫や燃料庫は攻撃目標として選定されやすいうえに攻撃に対して脆弱であった。また、上陸侵攻直後には滑走路の確保自体に問題が生じる可能性があった。[[垂直離着陸機]]は、規模が小さく設備の不十分な飛行場でも活動でき、そこが利点となる。


その後、HSAとMDCはそれぞれ独自にハリアー後継機に関する研究を継続したが、このうちMDCの案によって開発されたのがAV-8B「ハリアーII」であった{{Sfn|Calvert|2021}}。[[1976年]]7月27日には[[アメリカ国防総省]]によって開発が最終的に承認され、[[1978年]]11月9日には、既存のAV-8Aを改修した試作機であるYAV-8B初号機(#158394)が初飛行を行った{{Sfn|Calvert|2021}}。また[[1979年]]2月17日には、同じくAV-8Aを改修したYAV-8B 2番機(#158395)が試験に加わった{{Sfn|Calvert|2021}}。これに続いて、1979年度では量産機に準じた仕様の全規模開発機(FSD)4機の制作予算が認可されており、その初号機は[[1981年]]11月5日に初飛行した{{Sfn|Calvert|2021}}。これらの機体は[[アメリカ海軍|海軍]]の第5航空開発飛行隊{{Enlink|VX-9|VX-5}}に配備されて、[[1982年]]夏より運用試験・評価に供された{{Sfn|Calvert|2021}}。
アメリカ海兵隊は、[[武装]]搭載量の増大など、より実用的な垂直離着陸攻撃機を求めており、[[1975年]]にマクドネル・ダグラス社から提出されたハリアー改良案を了承した。これにより、オリジナルのハリアーに複合材料の導入などの軽量化策を施し、実質的な兵装搭載量を増大させたAV-8B ハリアー II(ハリアー・ツー)を開発することとなった。ハリアー IIは、AV-8A改造の試作機YAV-8Bが[[1978年]][[11月9日]]に初飛行を行っている。量産開始は[[1982年]]。
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File:YAV-8B construction NAN11-78.jpg|AV-8Aから改修されるYAV-8B
File:YAV-8B Harrier testing a ski jump.jpg|[[パタクセント・リバー海軍航空基地]]で試験を行うYAV-8B
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== 設計 ==
この機種をイギリス軍はGR.5として逆輸入し、さらに改良を加えたGR.7、電子機器の更新と兵装の強化を行ったGR.9を、[[2010年]][[11月24日]]の[[退役]]まで使用した。こうした経緯のため、ハリアー IIの製造者はBAEシステムズ社と[[ボーイング]]社の英米2社であるが、アメリカとイギリスのハリアーII自体の能力は異なる。
=== 機体構造 ===
[[画像:U.S. Marines with Marine Attack Squadron (VMA) 211 replace the wings of an AV-8B Harrier II aircraft at Camp Bastion in Helmand province, Afghanistan, Sept 120903-M-EF955-059.jpg|thumb|250px|right|整備中のAV-8Bから取り外された主翼部]]
[[画像:USMC-040917-M-0484L-004.jpg|thumb|250px|right|[[空中給油]]を受けるハリアー II]]
上記の経緯より、本機はハリアーの発展型として開発されており、基本的な機体形状はほぼ同様であるが、構造重量の26パーセントを[[複合材料]]とすることで、合計約{{Convert|500|lb|kg}}の重量軽減を達成した{{Sfn|山内|2021}}。複合材料としては、[[翼]]などでは[[エポキシ樹脂]]を母材とした[[炭素繊維強化プラスチック]](CFRP)が用いられているが、これは耐熱性が乏しいという欠点があり、エンジン付近の胴体などではビスマレイミド樹脂を母材としている{{Sfn|山内|2021}}。


主翼は複合材料で作られた最大の部位であり、翼幅を5フィート延長して翼面積を2.69[[平方メートル]]拡大したにも関わらず、重量は{{Convert|300|lb|kg}}減少した{{Sfn|Calvert|2021}}。主翼翼幅の延長に伴って、両側の下に[[ハードポイント]]が追加されたほか、アウトリガー降着装置は内側に移動した{{Sfn|Calvert|2021}}。前縁・翼端・ファスナーを除いて全てエポキシ系CFRP製であり、特に主翼上面・仮面は全幅{{Convert|28|ft|m}}のワンピース構造となっている{{Sfn|山内|2021}}。水平尾翼も部分的に[[アルミニウム合金]]・[[チタン合金]]を使用するほかはエポキシ系CFRP製である{{Sfn|山内|2021}}。
現在までに精密[[空襲|爆撃]]と夜間攻撃能力を備えたハリアー IIは、300機以上生産されている。
{{-}}


[[空気力学]]的特性の大きな変更点としては、遷音速域における抵抗減少を狙って、主翼の翼型を超臨界翼{{Enlink|Supercritical airfoil}}に変更した点がある{{Sfn|山内|2021}}。後退翼の角度も40度から36度に減少した{{Sfn|Calvert|2021}}。また[[高揚力装置#フラップ|フラップ]]の増積によって離着陸性能が向上し、AV-8Aでは96ノットで揚力を失ったのに対してAV-8Bでは42ノットまで揚力を維持できるようになったほか、[[補助翼|エルロン]]も増積されて、運動性能も向上した{{Sfn|山内|2021}}。更にAV-8B量産機では、主翼付け根前縁に延長部({{Lang|en|Leading Edge Root Extensions: LERX}})が装着された{{Sfn|Calvert|2021}}。これはイギリス空軍が[[ホーカー・シドレー ハリアー#ハリアーGR.3|ハリアーGR.3]]の旋回速度改善のために開発したもので、AV-8Bでは、当初は片側翼面積0.45平方メートルを追加する「65%バージョン」{{Sfn|Calvert|2021}}、ナイトアタック仕様では0.70平方メートルを追加する「100%バージョン」が装着された{{Sfn|Calvert|2021}}{{Sfn|山内|2021}}。
== 機体 ==
[[画像:USMC-040917-M-0484L-004.jpg|thumb|250px|right|[[空中給油]]を受けるハリアー II]]
[[画像:U.S. Marines with Marine Attack Squadron (VMA) 211 replace the wings of an AV-8B Harrier II aircraft at Camp Bastion in Helmand province, Afghanistan, Sept 120903-M-EF955-059.jpg|thumb|250px|right|整備中のハリアー II]]
[[ホーカー・シドレー ハリアー|ハリアー]]の発展型であり、基本的な機体形状はほぼ同等である。高翼配置の主翼を持ち、機首下部・左右主翼の端部・機体後部に、姿勢制御用のバルブ付の補助ノズルが取付けられているが、胴体幅が拡大されており、推力が20%向上している[[ロールス・ロイス ペガサス]][[エンジン]]を搭載している。そのため、垂直離陸時の最大離陸重量が増加している。胴体脇の計4ヶ所の排気口の形状は、斜めにテーパーを付けて切られていた形状をゼロスカーフ・ノズルと呼ばれるダクト形状に変更され、排気口が下向きになった際に、排気が地面で拡散されず上向きの推力が効率よく得られるようになっている。また、エンジンの空気取入れ口の改善を行い、1%のリカバリー向上とエンジン巡航時での効率の改善がなされている。


胴体下部両側にはLIDS({{Lang|en|Lift Improvement Devise Strake}})が装着された{{Sfn|山内|2021}}。これはAV-8Aが装着していた胴体下面両側の細い[[ストレーキ]]を大きく拡張したフェンスであり、下方に向けられたジェット噴流が地表や甲板に反射して吹き上がってきたものを胴体底面で捉えることで、垂直揚力を増強するための工夫である{{Sfn|山内|2021}}。なお[[ガンポッド]]を搭載する場合にはLIDSは取り外され、ポッド自体がその代用となる{{Sfn|山内|2021}}。ただしLIDSは開閉式であるため、ガンポッド未装着でLIDSのフェンスが閉じられた状態では、AV-8Aと見分けるのは難しくなる{{Sfn|石川|2004}}。なおエンジンの[[吸気]]を改善するため[[エアインテーク]]が拡大されたほか、ラム圧が期待できないVTOL時の大出力に備えて、AV-8Aでは1列だった補助エアインテークをYAV-8Bでは2列に増やしたものの、量産型では1列に戻された{{Sfn|山内|2021}}。
[[軍用機のコックピット|コックピット]]の座席を30cm高い位置に移動し、[[キャノピー]]は水滴型に変更して大型化され、下方視界が拡大している。コックピットには、前方中央上部にHUD([[ヘッドアップディスプレイ]])があり、その下にはテンキーとコマンド・ボタンを組合わせて、無線周波数や航法モードの操作を行うUFC(アップ・フロント・コントロール)がある{{Efn2|個別に配置されていた操作パネルをひとまとめにしたもので、操作性が格段に向上している}}。左側計器盤には、単色の多機能CRT表示装置があり、兵装状況や{{仮リンク|AN/ASB-19 ARBS|en|AN/ASB-19}}(Angle Rate Bombing System:角度率爆撃システム){{Efn2|アメリカのヒューズ社が開発したもので、地上の移動目標の追跡能力があり、テレビ・センサーとレーザー・センサーを収めたものを機首部に装備しており、コックピット内に装備された拡大テレビ映像でパイロットが目標を識別することができ、これらにより、目標の捕捉、誘導兵器の標準と誘導を行うことができる}}の情報などを選択して表示でき、右側計器盤にはエンジン回転数・排気温度・排気ノズルの排気口角度などのエンジンに関係する計器がまとめて取付けてある。また、[[操縦桿]]とエンジンの出力を制御するスロットル・レバーには、[[軍用機のコックピット#HOTAS概念|HOTAS概念]]を導入している。


[[軍用機のコックピット|コックピット]]においては、YAV-8BではAV-8Aの風防をそのまま流用したが、AV-8BではAV-8Aと比してパイロットの視線が{{Convert|10.5|in|m}}高くなる位置に座席を配置するとともに、前方の風防も後方の[[キャノピー]]もそれぞれ一体のものとして、後方を含めて広い視野を確保した{{Sfn|山内|2021}}。AV-8Bで[[射出座席]]として採用されたSJU-4/Aは、ゼロ高度・ゼロ速度で脱出可能であるだけでなく、ホバリングに近い状態での脱出も考慮して、座席が機体から離れた段階で前進用ロケットに点火して前進速度を加え、パラシュート開傘時間・空間を確保するようにしている{{Sfn|山内|2021}}。
主翼にはスーパークリティカル翼を採用して、翼幅が増加して翼面積も14%拡大しており、翼厚を厚くして翼内の燃料の搭載量が増加している。また、主翼付け根前縁にはLERXと呼ばれる小さな延長部が取付けられている。これは、空戦での機動性を向上させるもので、[[イギリス空軍]]のGR.5に装着されていたのだが、後に本機にも装着された。機体重量の軽量化を図るため、主翼・水平安定板・機首部には[[炭素繊維強化プラスチック]](CFRP)複合材料を使用しており、本機の機体構造重量におけるCFRPの使用比率は26%を占めている、主翼の[[ハードポイント]]も2ヶ所増設され、翼端にあった補助車輪が内側に移動している。また、ハリアーまたはAV-8と[[BAe シーハリアー|シーハリアー]]で使用されていたフェリー用翼端は使用されていない。


=== 動力系統 ===
胴体下の[[ガンポッド]]に[[ストレーキ]]が設けられ、VTOL時の揚力向上に寄与している。また、ガンポッドを使わない時は代わりに2枚のフェンスを装着し、胴体下部の中央に装備されている引き込み式のフェンスを組み合わせて囲い部分を構成する。左右のフェンスは、地面に当たって跳ね返ったエンジン噴流を効率良く反射して機体の揚力に変換し、引き込み式のフェンスは、排気がエンジンの空気取入れ口に入り込まないようにする{{Efn2|エンジン排気は温度が高く、エンジンがそれを吸い込むとエンジンの推力が低下するのを防止するもので、上昇して飛行状態になると、空気抵抗を作り出してしまうため、引き込み式となっている}}、LIDSと呼ばれる胴体揚力増強装置に取り替えることができる。そのため、垂直離陸での揚力が増加している。
[[エンジン]]は、AV-8Aでは[[ロールス・ロイス ペガサス#ペガサス10・11|ペガサス11]]の米海兵隊版であるF402-RR-401を搭載していたのに対し、AV-8Bではペガサス11-21の米海兵隊版であるF402-RR-406に換装されたものの、これによるパワーアップは3パーセントにも満たなかった{{Sfn|石川|2004}}。また上記の主翼面積増大に伴う空力抵抗の増加もあって、機体の軽量化が図られたにもかかわらず、水平最大速度はおおむね40ノットの低下となった{{Sfn|山内|2021}}。また脚上げ・フラップ上げ状態での最大許容速度は、AV-8Aではマッハ1.2だったのに対し、AV-8Bではマッハ1.0となり、例え急降下でも超音速で敵機を追尾することは許されない亜音速機となった{{Sfn|山内|2021}}。


[[ロールス・ロイス・ホールディングス|ロールス・ロイス]]社では、再設計したファンを組み込むなどしたペガサスの全面的な改良型としてペガサス11-61を開発しており、推力を{{Convert|22000|lbf|kN}}から{{Convert|23800|lbf|kN}}に強化したほか、信頼性も向上していた{{Sfn|Calvert|2021}}。米海兵隊はこれをF402-RR-408として採用、1987年7月には購入契約を締結し、NA仕様の27機目(163873号機)より搭載を開始した{{Sfn|Calvert|2021}}。ただし搭載開始直後にエンジントラブルが発生したために1991年には-408装備機を飛行中止としたのち、暫定的に-406Aに換装して飛行再開とする措置がとられたが、後にはエンジンの改修によって-408の搭載が再開され、既存の-406搭載機も-408に換装された{{Sfn|山内|2021}}。
== 実戦経験と評価 ==
[[画像:US_Navy_030425-N-4008C-508_An_AV-8B_Harrier_aircraft_hovers_above_the_flight_deck_of_the_amphibious_assault_ship_USS_Bataan_(LHD_5).jpg|thumb|250px|left|強襲揚陸艦「[[バターン (強襲揚陸艦)|バターン]]」の甲板に並べられているハリアー。[[イラク戦争]]での[[輸送]]中の様子]]
[[湾岸戦争]]では5機が[[撃墜]]され、2名が[[戦死]]し、1,000ソーティあたりの被撃墜は1.5機となっている。これは、同戦争に参加した[[A-10 (航空機)|A-10]][[攻撃機]]の3倍、[[F-16 (戦闘機)|F-16]][[マルチロール機|多用途戦闘機]]の7倍の損耗率である。[[アフガニスタン紛争 (2001年-)|アフガニスタン侵攻]]や[[イラク戦争]]では湾岸戦争での経験を生かし、高高度からの[[レーザー誘導爆弾]]による[[空襲|爆撃]]に戦術を切り替えたため、損失が格段に少なくなっている。


なお主翼燃料容量の増加に伴って、機内燃料搭載量は、AV-8A/Cと比して50パーセント増の{{Convert|7759|lb|kg}}となった{{Sfn|山内|2021}}。
初期に開発されたハリアーは[[レーダー]]を装備しておらず、[[空対空ミサイル]]は[[赤外線]]誘導の短射程ミサイルのみだったが、[[AN/APG-65]]を搭載したAV-8B+ ハリアー II プラス(Harrier II Plus)は、[[スパロー (ミサイル)|AIM-7 スパロー]]ならびに[[AIM-120 (ミサイル)|AIM-120 AMRAAM]]中距離空対空ミサイルの搭載が可能であり、[[イタリア海軍]]と[[スペイン海軍]]は、本機を艦隊防空戦闘機としても運用している。


== 装備 ==
[[垂直離着陸機]]の実用性を示したという点で、ハリアーは一時代を築いた[[航空機]]だが、構造上、[[エンジン]]によって性能が確定してしまうにも関わらず、現実にはVTO時の余剰推力に乏しく、搭載量を向上させるために離陸時に後方斜め下にノズルを向けて滑走する[[航空機の離着陸方法#STOVL|STO]]方式が併用されるようになった。また、陸上基地から運用される空軍型や、大型の[[強襲揚陸艦]]から運用する[[アメリカ海兵隊]]に比べて、滑走距離をとれない艦艇でのSTO運用時の効率を高める方法として[[イギリス海軍]]においてスキージャンプ方式が開発され、他のハリアーユーザーであるイタリア海軍、スペイン海軍の[[軽空母]]にも採用されている。
=== 電装 ===
[[画像:020108-N-6610T-532_navy_AV-8B.jpg|thumb|250px|[[アメリカ海兵隊]]のAV-8B(ナイトアタック型)]]
[[アビオニクス]]における最大の変更点は、[[AN/AYK-14]]電子計算機を搭載するとともに、これを含む各種の電子機器を{{仮リンク|MIL-STD-1553|en|MIL-STD-1553|label=MIL-STD-1553B}}[[バス (コンピュータ)#データバス|データバス]]で連接した点である{{Sfn|山内|2021}}。2002年よりOSCAR({{Lang|en|Open Systems Core Avionics Requirement}})計画による[[商用オフザシェルフ]](COTS)化や能力向上が図られている{{Sfn|山内|2021}}。


[[射撃統制システム#航空機搭載FCS|火器管制システム(FCS)]]として、初期生産型162機は[[A-4 (航空機)#アメリカ海兵隊系|A-4M]]と同様の[[AN/ASB-19]] ARBS({{Lang|en|Angle Rate Bombing System}}: [[角速度]]爆撃システム)を搭載した{{Sfn|山内|2021}}{{Efn2|アメリカのヒューズ社が開発したもので、地上の移動目標の追跡能力があり、テレビ・センサーとレーザー・センサーを収めたものを機首部に装備しており、コックピット内に装備された拡大テレビ映像でパイロットが目標を識別することができ、これらにより、目標の捕捉、誘導兵器の標準と誘導を行うことができる}}。これはその名の通りの[[爆撃照準器]]として用いられるほか、空対空戦闘でも、空中目標を光学的に捕捉・追尾可能である{{Sfn|山内|2021}}。ただし視野が狭いほか、[[可視光線]]を用いるために基本的には[[昼]]間のみの運用となるという制約があった{{Sfn|山内|2021}}。
また、通常のターボファン機とは異なり、熱排気が低温のバイパス流と混和冷却されずに純ジェット同様に直接排出されることから、赤外線誘導ミサイルの追尾を受けやすいと言われるなどの生残性の問題や、<!-- しかも通常の機体はエンジンノズルが後部に有るが、ハリアーは機体中央部に有るため赤外線誘導ミサイルが機体中央部を狙って追尾し、損傷しやすい脆弱性も指摘されている{{誰}} -->性能向上にはエンジンの改良が必須でありながらその開発費が莫大であることから(そもそもハリアーの[[ペイロード (航空宇宙)|ペイロード]]レンジを2倍にするAV-16計画から、エンジン推力を2割強化するエンジン開発を費用の問題から断念して翼型などの要素研究をフィッティングしたものがハリアーIIである)、ハリアーを運用する各国もこれ以上の改良型の計画を持っていない。


その後、[[赤外線|遠赤外線(熱赤外線)]]を用いた[[暗視装置#熱赤外 (TIR) 帯域|熱線映像装置]](AN/AAR-51 [[FLIR]])を搭載するとともに、AN/AVS-9[[暗視装置#可視近赤外 (VNIR) 帯域|暗視ゴーグル(NVG)]]の使用にも対応して夜間攻撃能力を獲得したナイトアタック仕様({{Lang|en|Night Attack: NA}})も開発された{{Sfn|山内|2021}}。まず162966号機がNA仕様に改装されて1987年6月26日に初飛行したのち{{Sfn|Calvert|2021}}、1989年7月8日に初飛行した163853号機以降はこちらの仕様で生産されるようになった{{Sfn|石川|2004}}。NA仕様機は1989年度から1991年度にかけて66機が発注されたが、1991年度分の途中から生産はAV-8B+仕様に切り替えられたため{{Sfn|石川|2004}}、生産数は65機となった{{Sfn|Calvert|2021}}。
ただ、垂直離着陸機ないし[[航空機の離着陸方法#STOVL|短距離離着陸機]]のもつ運用上の利点は十分に認識されているため、ハリアーの占めてきたポジションの後継には[[統合打撃戦闘機計画|統合打撃戦闘機(JSF)計画]]に基づく[[F-35 (戦闘機)|F-35B ライトニング II]]が占める予定であり<ref>{{cite web |url=http://www.lockheedmartin.com/products/f35/index.html |title=アーカイブされたコピー |accessdate=2010年7月22日 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20100722081828/http://www.lockheedmartin.com/products/f35/index.html |archivedate=2010年7月22日 |deadlinkdate=2017年9月 }}</ref>、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]を中心とした国際共同による開発が行われている。


AV-8B+はレーダーハリアーとも通称されるとおり[[火器管制レーダー]]を搭載したもので、ARBSを撤去して機首を43センチ延長し、[[AN/APG-65]](V)2を搭載している{{Sfn|石川|2004}}。このAN/APG-65(V)2の多くは、[[F/A-18 (航空機)#F/A-18C/D|F/A-18C/D]]の火器管制レーダーをAN/APG-73に換装する際に撤去されたものをオーバーホールするとともに[[アンテナ]]を小型化したものであった{{Sfn|山内|2021}}。AV-8B+は輸出向けを含めて28機が新造されたほか、米海兵隊では、REMAN({{Lang|en|Remanufacture}})計画に基づき、既存の昼間攻撃機仕様の機体74機をAV-8B+仕様に改修した{{Sfn|Calvert|2021}}{{Sfn|石川|2004}}。
== 派生型 ==
[[画像:020108-N-6610T-532_navy_AV-8B.jpg|thumb|250px|[[アメリカ海兵隊]]のAV-8B(ナイトアタック型)]]
[[画像:Italian TAV-8B Harrier II.jpg|thumb|250px|[[イタリア海軍]]のTAV-8B]]
[[画像:BAe Harrier GR9 ZG502 landing arp.jpg|thumb|250px|イギリス最終型のハリアー GR.9]]
{{see also|BAe ハリアー II}}
; AV-8B ハリアー II
: 基本型。後期型は機首に[[FLIR]]を装備し、夜間攻撃能力を得たナイトアタック型となった。一部はプラス仕様へ改修。
; AV-8B+ ハリアー II プラス
: 機首を改良し、[[AN/APG-65]] [[レーダー]]を搭載。[[AIM-120 (ミサイル)|AMRAAM]]運用能力を獲得。
;; TAV-8B ハリアー II
: 複座練習機型。主翼下ハードポイントは片側1箇所に減らされている。
; ハリアー GR.5
: [[1976年]]から開発が始まった[[イギリス空軍]]向け初の第二世代ハリアー。[[1985年]][[4月30日]]に初飛行を行い、[[1987年]]に配備された。
;; ハリアー GR.5A
: GR.7への繋ぎのため小改良されたモデル。
; ハリアー GR.7
: [[イギリス]]向けのナイトアタック型で、[[1990年]]初飛行。[[1995年]]の[[コソボ空爆]]へ参加した結果、天候などに影響されない精密[[空襲|爆撃]]能力を求められ、[[AGM-65 マーベリック]][[空対地ミサイル]]と[[レーザー誘導]]の[[ペイブウェイ]]を搭載できるよう改修された。
: [[イギリス海軍]]で配備されたシーハリアーの退役に備えて、[[1997年]]からGR.7が[[インヴィンシブル級航空母艦|インヴィンシブル級軽空母]]と陸上基地の双方で運用されるようになり、[[2000年]]には運用部隊として空軍に[[ハリアー統合部隊]](Joint Force Harrier)が設置された。
: [[2010年]][[11月24日]]、国防予算縮減によりGR.7/9退役が決定。[[イギリス軍]]におけるハリアー運用が終了。
;; ハリアー GR.9
: GR.7の[[電子機器]]の更新と兵装の強化を行ったモデル。
: 2010年11月24日、国防予算縮減によりGR.7/9退役が決定。イギリス軍におけるハリアー運用が終了。
; ハリアー T.10
: GR.7向けの練習機にT.4の改修が検討されたが、耐用年数と修正の規模を考慮してTAV-8Bを参考に設計された。
; EAV-8B マタドールII
: [[スペイン海軍]]向けAV-8B。後にプラス仕様へ改修。なお、スペイン海軍では複座型を採用しておらず、パイロットの教育はシミュレーターを使って行っている。


なおAV-8Bでは[[ソノブイ]]の搭載・敷設にも対応しており、SUU-40/AまたはSUU-44/Aディスペンサーに各種ソノブイ4本を収容できた{{Sfn|山内|2021}}。これは[[揚陸艦]]部隊を援護し、その護衛艦の[[艦載ヘリコプター]]を補完して[[ソノブイ#バリアー|バリアー]]を構築するためのもので、[[音響信号処理]]は[[LAMPS]]ヘリコプターや護衛艦が行う方式であったが、遠距離に敷設したソノブイの信号を中継するためのAN/ARQ-41ポッドをAV-8に装着する計画もあった{{Sfn|山内|2021}}。また陸上においても、橋頭堡に接近する敵地上部隊を探知するため、ADSID-V振動探知機を搭載・運用することができる{{Sfn|山内|2021}}。
== 採用国 ==
; 配備中
{{USA}}
:[[アメリカ海兵隊]]


=== 兵装 ===
{{ESP}}
[[空対地ミサイル]]としては[[AGM-65 マーベリック|AGM-65E/Fマーベリック]]が用いられた{{Sfn|山内|2021}}。また[[対レーダーミサイル]]としては、AV-8Aの[[AGM-45 (ミサイル)|AGM-45シュライク]]にかえて[[サイドアーム (ミサイル)|AGM-122 サイドアーム]]が用いられた{{Sfn|山内|2021}}。[[誘導爆弾]]としては[[レーザー誘導]]の[[ペイブウェイ#ペイブウェイI|ペイブウェイI]]・[[ペイブウェイ#ペイブウェイII|II]]が用いられていたほか、NA仕様機やAV-8B+については、OSCAR改修によって[[JDAM]]の運用能力が付与されている{{Sfn|山内|2021}}。またOSCAR改修では[[ハープーン (ミサイル)|ハープーン空対艦ミサイル]]の運用能力も付与される予定だったが、予算不足でこれは断念された<ref>{{Cite news|title=Spain arms AV-8B with Penguin|date=6 June 2000|author=Paul Lewis|url=https://www.flightglobal.com/spain-arms-av-8b-with-penguin/32322.article|newspaper=[[フライト・インターナショナル|Flight International]]}}</ref>。なお、当初はAGM-65Fや[[レーザー誘導爆弾]]については地上部隊や他機による[[レーザー目標指示装置|レーザー目標指示]]が必要だったが、NA仕様機やAV-8B+で[[照準ポッド]]([[ライトニング (照準ポッド)#ライトニング II|AN/AAQ-28 ライトニング II]])の搭載に対応したことで、自ら誘導も行えるようになった{{Sfn|山内|2021}}。
:[[スペイン海軍]]


[[無誘導爆弾]]として[[Mk 81 (爆弾)|Mk.81]]・[[Mk 82 (爆弾)|82]]・[[Mk 83 (爆弾)|83]]の搭載に対応するほか、各種の[[クラスター爆弾]]も搭載できる{{Sfn|山内|2021}}。湾岸戦争では[[:en:CBU-100 Cluster Bomb|Mk.20 ロックアイII]]を多用して戦果を上げたものの、この時点では弾道コンピュータが同爆弾の高高度投下に対応しておらず、低空での投弾を余儀なくされ、このために損害を受けたこともあった{{Sfn|山内|2021}}。また[[Mk 77 (爆弾)|Mk.77 mod.2/4]] [[焼夷弾]]も搭載できる{{Sfn|山内|2021}}。
{{ITA}}
:[[イタリア海軍]]


[[空対空ミサイル]]としては、AV-8Aでは[[サイドワインダー (ミサイル)#アメリカ海軍 (-9C/D/G/H)|AIM-9B/D/G/Hサイドワインダー]]を2発搭載していたのに対し、AV-8Bでは搭載ミサイルを[[サイドワインダー (ミサイル)#AIM-9L|AIM-9L/M/X]]に更新したほか、ハードポイントの増設に伴って搭載数も4発に増加した{{Sfn|山内|2021}}。そしてAV-8B+では、[[視界外射程ミサイル]]である[[AIM-120 (ミサイル)|AIM-120 AMRAAM]]の運用にも対応している{{Sfn|山内|2021}}。
; 退役
{{UK}}
:[[イギリス空軍]]
:[[イギリス海軍]]


[[航空機関砲]]としては、AV-8Aでは原型のハリアーGR.1/1Aと同様に[[30mm口径弾|30mm口径]]の[[ADEN (機関砲)|ADEN Mk.5]]を搭載していたのに対し、AV-8Bでは[[25mm口径弾|25mm口径]]の[[GAU-12 イコライザー|GAU-12]]が搭載された{{Sfn|山内|2021}}。着脱可能なガンポッド2基としての搭載であり、砲身は左舷側、弾薬は右舷側に収容して、胴体底面に密着したブリッジ構造で左右を繋いで給弾する構造となった{{Sfn|山内|2021}}。
; 検討中
{{TUR}}
:トルコはF-35Bを導入する前に、アメリカ海兵隊で余剰となったAV-8Bを導入することに関心を示している<ref>{{cite news|title=Turkey Is Interested in Buying Surplus USMC AV-8B Harriers, Others Likely To Follow|newspaper=THE DRIVE|date=2017年12月6日|url=http://www.thedrive.com/the-war-zone/16759/turkey-is-interested-in-buying-surplus-usmc-av-8b-harriers-others-likely-to-follow|accessdate=2018年12月8日}}</ref>。


== 諸元・性能 ==
; 計画のみ
{{航空機スペック
{{JPN}}
|固定翼 or 回転翼?=固定翼
:[[海上自衛隊]] - AV-8B ハリアー II、AV-8B+ ハリアー II プラス、TAV-8B ハリアー II
|ジェット or プロペラ?=ジェット
:導入を検討したことがあり、[[海上自衛隊の航空母艦建造構想#洋上防空とDDV|搭載艦艇(DDV)の構想]]もあったが、政治的理由で頓挫している。
|出典={{Harvnb|山内|2021}}; {{Harvnb|Lambert|1991|pp=131-133}}; {{Harvnb|Polmar|2013|pp=381-382}}
|乗員=1名 / 2名 (TAV-8B)
|定員=
|ペイロード SI=
|ペイロード fp=
|全長 SI= 14.12 m / 14.55 m (AV-8B+) / 15.32 m (TAV-8B)
|全長 fp=
|スパン SI= 9.25 m
|スパン fp=
|全高 SI= 3.55 m
|全高 fp=
|面積 SI= 21.37 m{{sup|2}} (主翼)
|面積 fp=
|翼型=
|空虚重量 SI= 6,336 kg / 6,763 kg (AV-8B+) / 6,451 kg (TAV-8B)
|運用時重量 SI=
|運用時重量 fp=
|有効搭載量 SI=
|有効搭載量 fp=
|最大離陸重量 SI= 
** VTO時: 8,702 kg / 9,413 kg (AV-8B+)
** STO時: 14,061 kg / 14,515 kg (AV-8B+)
|その他の諸元=
|エンジン名(ジェット)=[[ロールス・ロイス ペガサス#ペガサス10・11|F402-RR-406/408]]
|エンジン種類(ジェット)=[[ターボファンエンジン]]
|エンジン数(ジェット)=
|推力 SI= 
** -406: {{Convert|22000|lbf|kN|abbr=on}}
** -408: {{Convert|23800|lbf|kN|abbr=on}}
|推力 more=
|最大速度 SI= 1,065 km/h
|最大速度 fp= 575ノット
|最大速度 more=
|戦闘行動半径 SI= 941 km
|戦闘行動半径 fp= 508海里
|戦闘行動半径 more= ※Mk.82SE制動爆弾6発・300ガロン増槽2基・25mm機関砲搭載、Hi-Lo-Hiプロファイル時
|フェリーレンジ SI= 3,641 km
|フェリーレンジ fp= 1,965海里
|フェリーレンジ more=※増槽4個搭載・中途投棄時
|上昇限度 SI= 15,240 m
|上昇限度 fp= 50,000 ft
|その他の性能=
|固定武装=[[GAU-12 イコライザー|GAU-12]] 25mm機関砲(300発)
|ハードポイント=7ヶ所, 最大搭載量 5,986 kg
|アビオニクス= 
** [[AN/ASB-19]] ARBS (AV-8B+以外)
** AN/AAR-51 [[FLIR]] (NA仕様機)
** [[AN/APG-65]] [[火器管制レーダー]] (AV-8B+)
}}


== 運用史 ==
{{KOR}}
=== アメリカ海兵隊 ===
:[[大韓民国海軍|韓国海軍]] - AV-8B ハリアー II
[[画像:US_Navy_030425-N-4008C-508_An_AV-8B_Harrier_aircraft_hovers_above_the_flight_deck_of_the_amphibious_assault_ship_USS_Bataan_(LHD_5).jpg|thumb|250px|[[イラク戦争]]中、ハリアー空母として活動する「[[バターン (強襲揚陸艦)|バターン]]」]]
:導入を検討したことがあり、韓国航空母艦(KCVX)計画の艦載機とするプランもあったが構想のみ。
[[1983年]]12月12日には訓練部隊{{Enlink|VMAT-203}}への配備が開始され、実施部隊のための要員育成が進められた{{Sfn|石川|2004}}。実戦部隊へのAV-8B配備の端緒となったのが第331海兵攻撃飛行隊{{Enlink|VMA-331}}で、A-4Mから機種転換して、[[1985年]]8月に[[初期作戦能力]](IOC)を達成した{{Sfn|Calvert|2021}}。またAV-8Aを運用していた飛行隊からの機種転換も進められ、1990年までに、{{仮リンク|ユマ海兵隊航空基地|en|Marine Corps Air Station Yuma}}の第13海兵航空群{{Enlink|Marine Aircraft Group 13|MAG-13}}と[[チェリー・ポイント海兵隊航空基地]]の第14海兵航空群{{Enlink|Marine Aircraft Group 14|MAG-14}}に4個ずつのAV-8B飛行隊が編成された{{Sfn|石川|2004}}。その後、1992年にVMA-331が解散して実戦飛行隊は7個となり、7個の[[海兵遠征部隊]](MEU)にそれぞれ1個ずつの分遣隊を派遣する体制となった{{Sfn|石川|2004}}。


AV-8B初の実任務は、第1次[[リベリア内戦]]に伴って1990年3月に行われた{{仮リンク|シャープエッジ作戦|en|Operation Sharp Edge}}であり、大使館員を輸送するヘリコプターを上空から援護したが、火力の使用はなかった{{Sfn|柿谷|2021}}。同年8月、[[イラク]]の[[クウェート侵攻]]に対して[[砂漠の盾作戦]]が発動されると、第一波としてVMA-311・542(各20機)が[[バーレーン]]に展開{{Sfn|柿谷|2021}}、特にVMA-311の20機のAV-8Bは[[タラワ級強襲揚陸艦]]「[[ナッソー (強襲揚陸艦)|ナッソー]]」艦上に展開して「ハリアー空母」としての作戦行動を実施した{{Sfn|Polmar|2008|loc=ch.25 Amphibious Assault}}。また第二波としてVMA-231の19機もサウジアラビアに展開したほか、VMA-513から派遣された6機を搭載した「[[タラワ (強襲揚陸艦)|タラワ]]」も到着した{{Sfn|柿谷|2021}}。これらの飛行隊は砂漠の盾作戦において計5,973[[ソーティ]]・7,080飛行時間を記録したのち、そのまま[[湾岸戦争#砂漠の嵐|砂漠の嵐]]作戦に投入され、42日間の作戦で3,380ソーティ・4,112飛行時間を記録し、600万ポンドに及ぶ兵器を投射した{{Sfn|柿谷|2021}}。空戦は発生せず、作戦の後期には空対空ミサイルの搭載も行われなくなっていたが、[[対空兵器]]によって5機が被撃墜、他に2機が被弾している{{Sfn|柿谷|2021}}。
{{ROC-TW}}
:[[中華民国空軍|台湾空軍]] - AV-8B ハリアー II
:滑走路が破壊された場合の戦力として導入が検討されるも、新造の機体が入手不能で、中国の動向を考慮した米政府の輸出許可が下りない可能性が高いため見送られている。2016年にF-35Bの導入によって米海兵隊で退役した中古のAV-8Bを余剰国攻防装備(Excess Defense Articles:EDA)として国防安全保障協力庁を通して、台湾へ販売する許可が出る可能性があると報じられるが、台湾空軍では寿命が短く改修・維持にコストがかかる割に、対空戦闘力が低く時代遅れの本機の導入に否定的である。


その後、[[1990年代]]を通じて、MEUとともに[[戦争以外の軍事作戦]]や[[低強度紛争]]に度々投入されたが、[[1998年]]に[[飛行禁止空域 (イラク)|イラク飛行禁止空域]]で行われた[[イラク武装解除問題#砂漠の狐作戦|砂漠の狐作戦]]や、[[コソボ紛争]]末期の[[1999年]]に行われた[[アライド・フォース作戦]]などを除いて、火力を使用する機会は少なかった{{Sfn|柿谷|2021}}。
== スペック(AV-8B+ ハリアー II プラス) ==
*乗員 1名
*全長 14.12m
*スパン 9.25m
*全高 3.55m
*面積 22.61m<sup>2</sup>
*空虚重量 6,742kg
*運用時重量 10,409kg
*滑走離陸時:14,061kg
*垂直離陸時:9,414kg
*エンジン [[ロールス・ロイス]]製 [[ロールス・ロイス ペガサス|ペガサス 105]][[ターボファンエンジン]]×1基・推力9,870kg
*最大速度 [[マッハ数|M]]0.89
*最大速度 1,085km/h
*航続距離 2,250km
*フェリーレンジ:3,300km
*上昇率 4,485m/min
*翼面(円板)荷重 460.4kg/m<sup>2</sup>
*推力重量比=0.95
*武装=[[ハードポイント]]×7箇所、計5,986kg(13,200lb)
**[[GAU-12 イコライザー|GAU-12U イコライザー]] 25mm[[ガンポッド|機関砲ポッド]](300発)
**GBU-12[[ペイブウェイ]]Ⅱ精密誘導爆弾×4発
**[[Mark77爆弾|Mk.77 Mod5]]燃料気化爆弾×4発
**CBU-87/B[[クラスター爆弾]]×4発
**CBU-100[[レーザー誘導爆弾]]×4発
**Mk.81自由落下爆弾×4発
**Mk.82[[無誘導爆弾|自由落下爆弾]]×4発
**B61核爆弾
**[[サイドワインダー (ミサイル)|AIM-9 サイドワインダー]]×4発
**[[AIM-120 (ミサイル)|AIM-120 AMRAAM]]×4発
**[[AGM-65 マーベリック]]空対地ミサイル×4発
**[[ハープーン (ミサイル)|AGM-84J ハープーン]]空対艦ミサイル×4発
**[[AGM-88 (ミサイル)|AGM-88E AARGM]]対レーダーミサイル×4発
**CRV-7ロケット弾19発内蔵LAU-5003ロケット弾ポッド×4基
**ハイドラ70ロケット弾19発内蔵LAU-5003ロケット弾ポッド×4基
**APKWS・70mmロケット弾19発内蔵LAU-5003ロケット弾ポッド×4基
**[[AN/APG-65]] [[射撃管制装置#火器管制システム (航空戦における射撃管制装置)|火器管制レーダー]]


[[2001年]]の[[不朽の自由作戦]]にあたり、10月初旬には「[[ペリリュー (強襲揚陸艦)|ペリリュー]]」[[両用即応群]](ARG)が[[アラビア海]]に派遣されており、同艦艦上にはVMA-311から派遣されて15MEUに配属されたAV-8Bが展開していたが、同海域から発進して[[アフガニスタン]]上空で作戦を行うには[[空中給油機]]の支援が必須であり、そして開戦直後には空中給油機は空軍機の支援で手一杯だったことから、AV-8Bの戦闘加入は11月3日まで遅れることになった{{Sfn|柿谷|2021}}。その後、同年12月に[[カンダハール国際空港]]が制圧され、また2005年に[[ヘルマンド州]]に[[:en:Camp Shorabak|キャンプ・バスティオン]]が設営されると、これらの現地拠点を利用した出撃も行われるようになった{{Sfn|柿谷|2021}}。[[2003年]]3月、対イラク武力行使([[イラク戦争|イラクの自由作戦]])が開始された時点で2個のMEU/ARGがアラビア海に展開しており、また[[第1海兵遠征軍 (アメリカ軍)|第1海兵遠征軍]]の地上戦加入に備えて順次に増強されていき、最終的に7隻の強襲揚陸艦と70機のAV-8Bが展開した{{Sfn|石川|2004}}。地上基地にも展開したが、特に「[[ボノム・リシャール (強襲揚陸艦)|ボノム・リシャール]]」と「[[バターン (強襲揚陸艦)|バターン]]」は24機ずつのAV-8Bを搭載して「ハリアー空母」として活動した{{Sfn|石川|2004}}。

しかしAV-8Bも老朽化・陳腐化が進んだことから、後継として[[F-35 (戦闘機)|F-35B]]が導入されることになり、[[2016年]]にはVMA-211がAV-8BからF-35Bへ機種転換して{{Sfn|柿谷|2021}}、[[2018年]]9月27日にはアフガニスタンにおいて初の実戦任務を成功させた<ref>{{Cite news|author=Tara Copp|author2=Valerie Insinna|date=2018/09/28|title=Marine Corps F-35 flies first combat mission in Afghanistan|url=https://www.marinecorpstimes.com/news/your-military/2018/09/27/f-35-flies-first-combat-mission-in-afghanistan/|newspaper=[[:en:Marine Corps Times|Marine Corps Times]]}}</ref>。海兵隊の計画では、2026年4月のVMA-231の機種転換をもって、AV-8Bの運用を終了することになっている{{Sfn|柿谷|2021}}。

=== スペイン海軍 ===
[[File:Spanish Navy AV-8B Harrier II 070223-N-3888C-004.jpg|thumb|250px|「プリンシペ・デ・アストゥリアス」に着艦するAV-8B+]]
[[スペイン海軍]]では、AV-8Aに準じた設計の[[ホーカー・シドレー ハリアー#AV-8S|AV-8Sおよび複座型TAV-8S]]をVA.1およびVAE.1として導入し、[[1976年]]より引き渡しを受けて第8飛行隊を編成して、[[軽空母]]「[[デダロ (空母)|デダロ]]」の[[艦上攻撃機]]として運用していた{{Sfn|小林|2004}}。しかしAV-8Sの性能に必ずしも満足しておらず、2個めの飛行隊にはAV-8Bを配備することにして、[[1983年]]3月に12機を発注した{{Sfn|Calvert|2021}}。MDC側ではEAV-8B(複座型は米軍仕様と同じTAV-8B)、またスペイン海軍ではVA.2(複座型はVAE.2)と呼称しており{{Sfn|Calvert|2021}}、1987年10月6日より順次に引き渡されて、[[ロタ海軍基地]]に空輸された{{Sfn|小林|2004}}。

EAV-8Bの運用部隊として、ロタ基地を拠点とする第9飛行隊が編成されており、1988年9月より、「デダロ」およびその後継艦である「[[プリンシペ・デ・アストゥリアス (空母)|プリンシペ・デ・アストゥリアス]]」における試験運用に着手した{{Sfn|Calvert|2021}}。なお、スペイン海軍ではVA.1/VAE.1に「マタドール」の制式愛称を付したのに続いて、VA.2/VAE.2も「マタドールII」と称することにしたものの、いずれも部隊にも国民にも浸透せず、あまり使われなかった{{Sfn|小林|2004}}。

[[1993年]]にはAV-8B+ 8機を発注し、スペインの[[コンストルクシオネス・アエロナウティカス S.A.|CASA]]社で[[ノックダウン生産]]して、[[1996年]]1月から[[1997年]]7月にかけて納入され{{Sfn|Calvert|2021}}、第8飛行隊に配備された{{Sfn|小林|2004}}。また既存のEAV-8BをAV-8B+仕様に改修することも計画されたが{{Sfn|小林|2004}}、予算上の理由から改修されたのは5機に留まり、また3機が事故などで登録抹消され、残り4機はエンジンを-408に換装するなどのSNUG({{Lang|en|Spanish Harrier Upgrade}})改修を受けた{{Sfn|Calvert|2021}}。なお第8飛行隊は1997年に解散し、以後は第9飛行隊が唯一のハリアー飛行隊として活動している{{Sfn|小林|2004}}。
{{-}}
=== イタリア海軍 ===
[[画像:Italian TAV-8B Harrier II.jpg|thumb|250px|[[イタリア海軍]]のTAV-8B]]
[[イタリア海軍]]は、[[1937年]]の空軍法によって[[固定翼機]]の運用を禁止されていた分、[[艦載ヘリコプター]]の運用には積極的で、早くから航空運用能力を備えた艦を整備していた{{Sfn|小林|2004}}。[[1967年]]には、HSA社がイタリア海軍のヘリコプター巡洋艦「[[アンドレア・ドーリア (ヘリコプター巡洋艦)|アンドレア・ドーリア]]」でハリアーの発着デモを行ったことに触発されて、ハリアーGR.50の購入契約を締結するに至ったものの、後に空軍法違反が指摘されて契約を破棄する騒ぎとなった{{Sfn|小林|2004}}。

しかしその後もイタリア海軍はハリアー導入の夢を捨てておらず、1980年代初頭に「[[ジュゼッペ・ガリバルディ (空母)|ジュゼッペ・ガリバルディ]]」を建造する際には、全通[[飛行甲板]]を備えた[[ヘリ空母]]とするとともに、「甲板への波浪の影響を避けるため」と称して[[スキージャンプ (航空)#VTOL機での使用 (STOVL方式)|スキージャンプ勾配]]も設置しており、1988年にはアメリカ海兵隊のAV-8Bおよびイギリス海軍のシーハリアーがクロスデッキを行って、固定翼V/STOL機の運用適合性を確認した{{Sfn|小林|2004}}。1987年にAV-8B+の開発計画が発表されるとこれにも関心を寄せ、開発推進の一助となった{{Sfn|Calvert|2021}}。

1989年2月に法律が改正されて、海軍が固定翼機を保有・運用できるようになると、5月にはTAV-8B練習機2機を発注するとともにアメリカ海兵隊に要員を派遣して、操縦訓練を開始した{{Sfn|小林|2004}}。1990年には{{仮リンク|ターラント=グロッターリエ空港|en|Taranto-Grottaglie Airport|label=グロッターリエ基地}}において受け入れのための地上施設の建設に着手するとともに、AV-8B+ 16機を発注した{{Sfn|小林|2004}}。TAV-8B 2機は1991年8月に引き渡されたほか、AV-8B+もまず3機が1994年4月に引き渡されて、アメリカのチェリー・ポイント海兵隊航空基地においてイタリアから派遣された要員の訓練に供されたのち、11月に派米された「ジュゼッペ・ガリバルディ」に搭載されて回航され、12月にグロッターリエ基地に到着、第1遠征航空飛行隊を編成した{{Sfn|小林|2004}}。1995年1月には、早速、[[第二次国際連合ソマリア活動]]の撤退支援のために出撃し、初の実戦参加となった{{Sfn|Polmar|2008|loc=ch.21 Lessons and Finances}}。このときには、3機のハリアーIIが上空警戒と武装偵察を実施して、良好な結果を残した{{Sfn|石川|2004}}。
{{-}}
== 登場作品 ==
== 登場作品 ==
{{main|ハリアーに関連する作品の一覧}}
{{main|ハリアーに関連する作品の一覧}}
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=== 出典 ===
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|first=Denis J.|last=Calvert|year=2021|chapter=AV-8A/B開発概史|series=世界の傑作機 No.204|title=AV-8A/B ハリアー/ハリアーII|publisher=文林堂|pages=34-47|isbn=978-4893193353|ref=harv}}
* {{Cite book|first=Mark|last=Lambert|year=1991|title=[[:en:Jane's All the World's Aircraft|Jane's All the World's Aircraft]] 1991-92|publisher=[[:en:Jane's Information Group|Jane's Information Group]]|isbn=978-0710609656|ref=harv}}
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* {{Citation|和書|title=AV-8Bとアメリカ海兵隊 (特集 世界唯一の実用垂直離着陸(V/STOL)機 BAE/ボーイング ハリアーの系譜)|last=石川|first=潤一|journal=[[航空ファン (雑誌)|航空ファン]]|publisher=文林堂|volume=53|number=6|pages=50-58|year=2004|month=06|naid=40006169355|ref=harv}}
* {{Citation|和書|last=柿谷|first=哲也|year=2021|chapter=アメリカ海兵隊ハリアー部隊配備と運用、実践|title=AV-8A/B ハリアー/ハリアーII|series=世界の傑作機 No.204|publisher=[[文林堂]]|isbn=978-4893193353|ref=harv}}
* {{Citation|和書|title=英米以外のハリアー部隊--各国軽空母とのコンビネーション (特集 世界唯一の実用垂直離着陸(V/STOL)機 BAE/ボーイング ハリアーの系譜)|last=小林|first=健|journal=航空ファン|publisher=文林堂|volume=53|number=6|pages=59-61|year=2004|month=06|naid=40006169356|ref=harv}}
* {{Citation|和書|last=山内|first=秀樹|year=2021|chapter=AV-8B構造とシステム|title=AV-8A/B ハリアー/ハリアーII|series=世界の傑作機 No.204|publisher=文林堂|pages=100-115|isbn=978-4893193353|ref=harv}}


== 関連項目 ==
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== 外部リンク ==
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* [http://www.boeing.com/boeing/history/mdc/harrier.page AV-8B Plus product page] Boeing.com
* [http://www.boeing.com/boeing/history/mdc/harrier.page AV-8B Plus product page] Boeing.com
* [https://web.archive.org/web/20111204032951/http://www.navair.navy.mil/index.cfm?fuseaction=home.display&key=40EAA7E2-1C25-4857-A429-E2D7D16ED62B ファクトシート] Navy.mil
* [https://web.archive.org/web/20111204032951/http://www.navair.navy.mil/index.cfm?fuseaction=home.display&key=40EAA7E2-1C25-4857-A429-E2D7D16ED62B ファクトシート] Navy.mil
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2022年3月19日 (土) 00:05時点における版

AV-8B ハリアー II

AV-8B ハリアー II英語: AV-8B Harrier II)は、マクドネル・ダグラス(現ボーイング)社が主体となって開発した垂直/短距離離着陸機ホーカー・シドレー(HSA; 現BAEシステムズ)が開発したハリアーをもとにした発展型であり、アメリカ海兵隊攻撃機として採用されたほか、スペイン海軍イタリア海軍では艦上攻撃機として運用した。

またイギリスブリティッシュ・エアロスペース(BAe)も、ほぼ同様の設計で細部のみを改訂した機体(BAe ハリアー II)を生産し、イギリス空軍の攻撃機として採用された。

開発までの経緯

イギリスにおいて、世界初の実用垂直離着陸機としてホーカー・シドレー ハリアーが開発されると、アメリカ海兵隊は直ちに興味を示し、AV-8Aとして制式採用して、1970年度より調達を開始した[1]。この導入にあたって、下院軍事委員会英語版はアメリカ国内で製造することを条件としており、マクドネル・ダグラス社(MDC)が製造権を取得したものの、同社のセントルイス工場に生産ラインを設置する場合、治具の移転とライン設置に2億4,000万ドルの費用がかかる上に機体の完成が1年遅れることが判明し、アメリカでの生産計画は放棄されて、AV-8Aは全機がイギリスで生産された[1]

このような経緯から、MDCはハリアーの製造権を取得しつつ行使しない状態だったこともあって、HSAと共同でハリアー後継機に関する研究に着手した[1]。これは航続距離・ペイロードがAV-8Aの倍となることからAV-16「アドヴァンストハリアー」と称されており、胴体を2フィート延長するとともに翼型を超臨界翼とし、エンジンを推力24,500重量ポンド (109 kN)のペガサス15に変更する計画で、またペガサスがプレナムチャンバー・バーニング(PCB)に対応すれば超音速も発揮可能と期待されていた[1]1973年度ではアメリカから研究資金も割り当られたものの、結局、研究開発は不首尾に終わった[1]

その後、HSAとMDCはそれぞれ独自にハリアー後継機に関する研究を継続したが、このうちMDCの案によって開発されたのがAV-8B「ハリアーII」であった[1]1976年7月27日にはアメリカ国防総省によって開発が最終的に承認され、1978年11月9日には、既存のAV-8Aを改修した試作機であるYAV-8B初号機(#158394)が初飛行を行った[1]。また1979年2月17日には、同じくAV-8Aを改修したYAV-8B 2番機(#158395)が試験に加わった[1]。これに続いて、1979年度では量産機に準じた仕様の全規模開発機(FSD)4機の制作予算が認可されており、その初号機は1981年11月5日に初飛行した[1]。これらの機体は海軍の第5航空開発飛行隊 (VX-5に配備されて、1982年夏より運用試験・評価に供された[1]

設計

機体構造

整備中のAV-8Bから取り外された主翼部
空中給油を受けるハリアー II

上記の経緯より、本機はハリアーの発展型として開発されており、基本的な機体形状はほぼ同様であるが、構造重量の26パーセントを複合材料とすることで、合計約500ポンド (230 kg)の重量軽減を達成した[2]。複合材料としては、などではエポキシ樹脂を母材とした炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が用いられているが、これは耐熱性が乏しいという欠点があり、エンジン付近の胴体などではビスマレイミド樹脂を母材としている[2]

主翼は複合材料で作られた最大の部位であり、翼幅を5フィート延長して翼面積を2.69平方メートル拡大したにも関わらず、重量は300ポンド (140 kg)減少した[1]。主翼翼幅の延長に伴って、両側の下にハードポイントが追加されたほか、アウトリガー降着装置は内側に移動した[1]。前縁・翼端・ファスナーを除いて全てエポキシ系CFRP製であり、特に主翼上面・仮面は全幅28フィート (8.5 m)のワンピース構造となっている[2]。水平尾翼も部分的にアルミニウム合金チタン合金を使用するほかはエポキシ系CFRP製である[2]

空気力学的特性の大きな変更点としては、遷音速域における抵抗減少を狙って、主翼の翼型を超臨界翼 (Supercritical airfoilに変更した点がある[2]。後退翼の角度も40度から36度に減少した[1]。またフラップの増積によって離着陸性能が向上し、AV-8Aでは96ノットで揚力を失ったのに対してAV-8Bでは42ノットまで揚力を維持できるようになったほか、エルロンも増積されて、運動性能も向上した[2]。更にAV-8B量産機では、主翼付け根前縁に延長部(Leading Edge Root Extensions: LERX)が装着された[1]。これはイギリス空軍がハリアーGR.3の旋回速度改善のために開発したもので、AV-8Bでは、当初は片側翼面積0.45平方メートルを追加する「65%バージョン」[1]、ナイトアタック仕様では0.70平方メートルを追加する「100%バージョン」が装着された[1][2]

胴体下部両側にはLIDS(Lift Improvement Devise Strake)が装着された[2]。これはAV-8Aが装着していた胴体下面両側の細いストレーキを大きく拡張したフェンスであり、下方に向けられたジェット噴流が地表や甲板に反射して吹き上がってきたものを胴体底面で捉えることで、垂直揚力を増強するための工夫である[2]。なおガンポッドを搭載する場合にはLIDSは取り外され、ポッド自体がその代用となる[2]。ただしLIDSは開閉式であるため、ガンポッド未装着でLIDSのフェンスが閉じられた状態では、AV-8Aと見分けるのは難しくなる[3]。なおエンジンの吸気を改善するためエアインテークが拡大されたほか、ラム圧が期待できないVTOL時の大出力に備えて、AV-8Aでは1列だった補助エアインテークをYAV-8Bでは2列に増やしたものの、量産型では1列に戻された[2]

コックピットにおいては、YAV-8BではAV-8Aの風防をそのまま流用したが、AV-8BではAV-8Aと比してパイロットの視線が10.5インチ (0.27 m)高くなる位置に座席を配置するとともに、前方の風防も後方のキャノピーもそれぞれ一体のものとして、後方を含めて広い視野を確保した[2]。AV-8Bで射出座席として採用されたSJU-4/Aは、ゼロ高度・ゼロ速度で脱出可能であるだけでなく、ホバリングに近い状態での脱出も考慮して、座席が機体から離れた段階で前進用ロケットに点火して前進速度を加え、パラシュート開傘時間・空間を確保するようにしている[2]

動力系統

エンジンは、AV-8Aではペガサス11の米海兵隊版であるF402-RR-401を搭載していたのに対し、AV-8Bではペガサス11-21の米海兵隊版であるF402-RR-406に換装されたものの、これによるパワーアップは3パーセントにも満たなかった[3]。また上記の主翼面積増大に伴う空力抵抗の増加もあって、機体の軽量化が図られたにもかかわらず、水平最大速度はおおむね40ノットの低下となった[2]。また脚上げ・フラップ上げ状態での最大許容速度は、AV-8Aではマッハ1.2だったのに対し、AV-8Bではマッハ1.0となり、例え急降下でも超音速で敵機を追尾することは許されない亜音速機となった[2]

ロールス・ロイス社では、再設計したファンを組み込むなどしたペガサスの全面的な改良型としてペガサス11-61を開発しており、推力を22,000重量ポンド (98 kN)から23,800重量ポンド (106 kN)に強化したほか、信頼性も向上していた[1]。米海兵隊はこれをF402-RR-408として採用、1987年7月には購入契約を締結し、NA仕様の27機目(163873号機)より搭載を開始した[1]。ただし搭載開始直後にエンジントラブルが発生したために1991年には-408装備機を飛行中止としたのち、暫定的に-406Aに換装して飛行再開とする措置がとられたが、後にはエンジンの改修によって-408の搭載が再開され、既存の-406搭載機も-408に換装された[2]

なお主翼燃料容量の増加に伴って、機内燃料搭載量は、AV-8A/Cと比して50パーセント増の7,759ポンド (3,519 kg)となった[2]

装備

電装

アメリカ海兵隊のAV-8B(ナイトアタック型)

アビオニクスにおける最大の変更点は、AN/AYK-14電子計算機を搭載するとともに、これを含む各種の電子機器をMIL-STD-1553B英語版データバスで連接した点である[2]。2002年よりOSCAR(Open Systems Core Avionics Requirement)計画による商用オフザシェルフ(COTS)化や能力向上が図られている[2]

火器管制システム(FCS)として、初期生産型162機はA-4Mと同様のAN/ASB-19 ARBS(Angle Rate Bombing System: 角速度爆撃システム)を搭載した[2][注 1]。これはその名の通りの爆撃照準器として用いられるほか、空対空戦闘でも、空中目標を光学的に捕捉・追尾可能である[2]。ただし視野が狭いほか、可視光線を用いるために基本的には間のみの運用となるという制約があった[2]

その後、遠赤外線(熱赤外線)を用いた熱線映像装置(AN/AAR-51 FLIR)を搭載するとともに、AN/AVS-9暗視ゴーグル(NVG)の使用にも対応して夜間攻撃能力を獲得したナイトアタック仕様(Night Attack: NA)も開発された[2]。まず162966号機がNA仕様に改装されて1987年6月26日に初飛行したのち[1]、1989年7月8日に初飛行した163853号機以降はこちらの仕様で生産されるようになった[3]。NA仕様機は1989年度から1991年度にかけて66機が発注されたが、1991年度分の途中から生産はAV-8B+仕様に切り替えられたため[3]、生産数は65機となった[1]

AV-8B+はレーダーハリアーとも通称されるとおり火器管制レーダーを搭載したもので、ARBSを撤去して機首を43センチ延長し、AN/APG-65(V)2を搭載している[3]。このAN/APG-65(V)2の多くは、F/A-18C/Dの火器管制レーダーをAN/APG-73に換装する際に撤去されたものをオーバーホールするとともにアンテナを小型化したものであった[2]。AV-8B+は輸出向けを含めて28機が新造されたほか、米海兵隊では、REMAN(Remanufacture)計画に基づき、既存の昼間攻撃機仕様の機体74機をAV-8B+仕様に改修した[1][3]

なおAV-8Bではソノブイの搭載・敷設にも対応しており、SUU-40/AまたはSUU-44/Aディスペンサーに各種ソノブイ4本を収容できた[2]。これは揚陸艦部隊を援護し、その護衛艦の艦載ヘリコプターを補完してバリアーを構築するためのもので、音響信号処理LAMPSヘリコプターや護衛艦が行う方式であったが、遠距離に敷設したソノブイの信号を中継するためのAN/ARQ-41ポッドをAV-8に装着する計画もあった[2]。また陸上においても、橋頭堡に接近する敵地上部隊を探知するため、ADSID-V振動探知機を搭載・運用することができる[2]

兵装

空対地ミサイルとしてはAGM-65E/Fマーベリックが用いられた[2]。また対レーダーミサイルとしては、AV-8AのAGM-45シュライクにかえてAGM-122 サイドアームが用いられた[2]誘導爆弾としてはレーザー誘導ペイブウェイIIIが用いられていたほか、NA仕様機やAV-8B+については、OSCAR改修によってJDAMの運用能力が付与されている[2]。またOSCAR改修ではハープーン空対艦ミサイルの運用能力も付与される予定だったが、予算不足でこれは断念された[4]。なお、当初はAGM-65Fやレーザー誘導爆弾については地上部隊や他機によるレーザー目標指示が必要だったが、NA仕様機やAV-8B+で照準ポッドAN/AAQ-28 ライトニング II)の搭載に対応したことで、自ら誘導も行えるようになった[2]

無誘導爆弾としてMk.818283の搭載に対応するほか、各種のクラスター爆弾も搭載できる[2]。湾岸戦争ではMk.20 ロックアイIIを多用して戦果を上げたものの、この時点では弾道コンピュータが同爆弾の高高度投下に対応しておらず、低空での投弾を余儀なくされ、このために損害を受けたこともあった[2]。またMk.77 mod.2/4 焼夷弾も搭載できる[2]

空対空ミサイルとしては、AV-8AではAIM-9B/D/G/Hサイドワインダーを2発搭載していたのに対し、AV-8Bでは搭載ミサイルをAIM-9L/M/Xに更新したほか、ハードポイントの増設に伴って搭載数も4発に増加した[2]。そしてAV-8B+では、視界外射程ミサイルであるAIM-120 AMRAAMの運用にも対応している[2]

航空機関砲としては、AV-8Aでは原型のハリアーGR.1/1Aと同様に30mm口径ADEN Mk.5を搭載していたのに対し、AV-8Bでは25mm口径GAU-12が搭載された[2]。着脱可能なガンポッド2基としての搭載であり、砲身は左舷側、弾薬は右舷側に収容して、胴体底面に密着したブリッジ構造で左右を繋いで給弾する構造となった[2]

諸元・性能

出典: 山内 2021; Lambert 1991, pp. 131–133; Polmar 2013, pp. 381–382

諸元

  • 乗員: 1名 / 2名 (TAV-8B)
  • 全長: 14.12 m / 14.55 m (AV-8B+) / 15.32 m (TAV-8B)
  • 全高: 3.55 m
  • 翼幅: 9.25 m
  • 翼面積: 21.37 m2 (主翼)
  • 空虚重量: 6,336 kg / 6,763 kg (AV-8B+) / 6,451 kg (TAV-8B)
  • 最大離陸重量:  
    • VTO時: 8,702 kg / 9,413 kg (AV-8B+)
    • STO時: 14,061 kg / 14,515 kg (AV-8B+)
  • 動力: F402-RR-406/408 ターボファンエンジン、 
    • -406: 22,000 lbf (98 kN)
    • -408: 23,800 lbf (106 kN) ×

性能

  • 最大速度: 1,065 km/h (575ノット)
  • 戦闘行動半径: 941 km (508海里) ※Mk.82SE制動爆弾6発・300ガロン増槽2基・25mm機関砲搭載、Hi-Lo-Hiプロファイル時
  • フェリー飛行時航続距離: 3,641 km (1,965海里) ※増槽4個搭載・中途投棄時
  • 実用上昇限度: 15,240 m (50,000 ft)

武装

お知らせ。 使用されている単位の解説はウィキプロジェクト 航空/物理単位をご覧ください。

運用史

アメリカ海兵隊

イラク戦争中、ハリアー空母として活動する「バターン

1983年12月12日には訓練部隊 (VMAT-203への配備が開始され、実施部隊のための要員育成が進められた[3]。実戦部隊へのAV-8B配備の端緒となったのが第331海兵攻撃飛行隊 (VMA-331で、A-4Mから機種転換して、1985年8月に初期作戦能力(IOC)を達成した[1]。またAV-8Aを運用していた飛行隊からの機種転換も進められ、1990年までに、ユマ海兵隊航空基地英語版の第13海兵航空群 (MAG-13チェリー・ポイント海兵隊航空基地の第14海兵航空群 (MAG-14に4個ずつのAV-8B飛行隊が編成された[3]。その後、1992年にVMA-331が解散して実戦飛行隊は7個となり、7個の海兵遠征部隊(MEU)にそれぞれ1個ずつの分遣隊を派遣する体制となった[3]

AV-8B初の実任務は、第1次リベリア内戦に伴って1990年3月に行われたシャープエッジ作戦英語版であり、大使館員を輸送するヘリコプターを上空から援護したが、火力の使用はなかった[5]。同年8月、イラククウェート侵攻に対して砂漠の盾作戦が発動されると、第一波としてVMA-311・542(各20機)がバーレーンに展開[5]、特にVMA-311の20機のAV-8Bはタラワ級強襲揚陸艦ナッソー」艦上に展開して「ハリアー空母」としての作戦行動を実施した[6]。また第二波としてVMA-231の19機もサウジアラビアに展開したほか、VMA-513から派遣された6機を搭載した「タラワ」も到着した[5]。これらの飛行隊は砂漠の盾作戦において計5,973ソーティ・7,080飛行時間を記録したのち、そのまま砂漠の嵐作戦に投入され、42日間の作戦で3,380ソーティ・4,112飛行時間を記録し、600万ポンドに及ぶ兵器を投射した[5]。空戦は発生せず、作戦の後期には空対空ミサイルの搭載も行われなくなっていたが、対空兵器によって5機が被撃墜、他に2機が被弾している[5]

その後、1990年代を通じて、MEUとともに戦争以外の軍事作戦低強度紛争に度々投入されたが、1998年イラク飛行禁止空域で行われた砂漠の狐作戦や、コソボ紛争末期の1999年に行われたアライド・フォース作戦などを除いて、火力を使用する機会は少なかった[5]

2001年不朽の自由作戦にあたり、10月初旬には「ペリリュー両用即応群(ARG)がアラビア海に派遣されており、同艦艦上にはVMA-311から派遣されて15MEUに配属されたAV-8Bが展開していたが、同海域から発進してアフガニスタン上空で作戦を行うには空中給油機の支援が必須であり、そして開戦直後には空中給油機は空軍機の支援で手一杯だったことから、AV-8Bの戦闘加入は11月3日まで遅れることになった[5]。その後、同年12月にカンダハール国際空港が制圧され、また2005年にヘルマンド州キャンプ・バスティオンが設営されると、これらの現地拠点を利用した出撃も行われるようになった[5]2003年3月、対イラク武力行使(イラクの自由作戦)が開始された時点で2個のMEU/ARGがアラビア海に展開しており、また第1海兵遠征軍の地上戦加入に備えて順次に増強されていき、最終的に7隻の強襲揚陸艦と70機のAV-8Bが展開した[3]。地上基地にも展開したが、特に「ボノム・リシャール」と「バターン」は24機ずつのAV-8Bを搭載して「ハリアー空母」として活動した[3]

しかしAV-8Bも老朽化・陳腐化が進んだことから、後継としてF-35Bが導入されることになり、2016年にはVMA-211がAV-8BからF-35Bへ機種転換して[5]2018年9月27日にはアフガニスタンにおいて初の実戦任務を成功させた[7]。海兵隊の計画では、2026年4月のVMA-231の機種転換をもって、AV-8Bの運用を終了することになっている[5]

スペイン海軍

「プリンシペ・デ・アストゥリアス」に着艦するAV-8B+

スペイン海軍では、AV-8Aに準じた設計のAV-8Sおよび複座型TAV-8SをVA.1およびVAE.1として導入し、1976年より引き渡しを受けて第8飛行隊を編成して、軽空母デダロ」の艦上攻撃機として運用していた[8]。しかしAV-8Sの性能に必ずしも満足しておらず、2個めの飛行隊にはAV-8Bを配備することにして、1983年3月に12機を発注した[1]。MDC側ではEAV-8B(複座型は米軍仕様と同じTAV-8B)、またスペイン海軍ではVA.2(複座型はVAE.2)と呼称しており[1]、1987年10月6日より順次に引き渡されて、ロタ海軍基地に空輸された[8]

EAV-8Bの運用部隊として、ロタ基地を拠点とする第9飛行隊が編成されており、1988年9月より、「デダロ」およびその後継艦である「プリンシペ・デ・アストゥリアス」における試験運用に着手した[1]。なお、スペイン海軍ではVA.1/VAE.1に「マタドール」の制式愛称を付したのに続いて、VA.2/VAE.2も「マタドールII」と称することにしたものの、いずれも部隊にも国民にも浸透せず、あまり使われなかった[8]

1993年にはAV-8B+ 8機を発注し、スペインのCASA社でノックダウン生産して、1996年1月から1997年7月にかけて納入され[1]、第8飛行隊に配備された[8]。また既存のEAV-8BをAV-8B+仕様に改修することも計画されたが[8]、予算上の理由から改修されたのは5機に留まり、また3機が事故などで登録抹消され、残り4機はエンジンを-408に換装するなどのSNUG(Spanish Harrier Upgrade)改修を受けた[1]。なお第8飛行隊は1997年に解散し、以後は第9飛行隊が唯一のハリアー飛行隊として活動している[8]

イタリア海軍

イタリア海軍のTAV-8B

イタリア海軍は、1937年の空軍法によって固定翼機の運用を禁止されていた分、艦載ヘリコプターの運用には積極的で、早くから航空運用能力を備えた艦を整備していた[8]1967年には、HSA社がイタリア海軍のヘリコプター巡洋艦「アンドレア・ドーリア」でハリアーの発着デモを行ったことに触発されて、ハリアーGR.50の購入契約を締結するに至ったものの、後に空軍法違反が指摘されて契約を破棄する騒ぎとなった[8]

しかしその後もイタリア海軍はハリアー導入の夢を捨てておらず、1980年代初頭に「ジュゼッペ・ガリバルディ」を建造する際には、全通飛行甲板を備えたヘリ空母とするとともに、「甲板への波浪の影響を避けるため」と称してスキージャンプ勾配も設置しており、1988年にはアメリカ海兵隊のAV-8Bおよびイギリス海軍のシーハリアーがクロスデッキを行って、固定翼V/STOL機の運用適合性を確認した[8]。1987年にAV-8B+の開発計画が発表されるとこれにも関心を寄せ、開発推進の一助となった[1]

1989年2月に法律が改正されて、海軍が固定翼機を保有・運用できるようになると、5月にはTAV-8B練習機2機を発注するとともにアメリカ海兵隊に要員を派遣して、操縦訓練を開始した[8]。1990年にはグロッターリエ基地英語版において受け入れのための地上施設の建設に着手するとともに、AV-8B+ 16機を発注した[8]。TAV-8B 2機は1991年8月に引き渡されたほか、AV-8B+もまず3機が1994年4月に引き渡されて、アメリカのチェリー・ポイント海兵隊航空基地においてイタリアから派遣された要員の訓練に供されたのち、11月に派米された「ジュゼッペ・ガリバルディ」に搭載されて回航され、12月にグロッターリエ基地に到着、第1遠征航空飛行隊を編成した[8]。1995年1月には、早速、第二次国際連合ソマリア活動の撤退支援のために出撃し、初の実戦参加となった[9]。このときには、3機のハリアーIIが上空警戒と武装偵察を実施して、良好な結果を残した[3]

登場作品

脚注

注釈

  1. ^ アメリカのヒューズ社が開発したもので、地上の移動目標の追跡能力があり、テレビ・センサーとレーザー・センサーを収めたものを機首部に装備しており、コックピット内に装備された拡大テレビ映像でパイロットが目標を識別することができ、これらにより、目標の捕捉、誘導兵器の標準と誘導を行うことができる

出典

参考文献

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  • Polmar, Norman (2008). Aircraft Carriers: A History of Carrier Aviation and Its Influence on World Events. Volume II. Potomac Books Inc.. ISBN 978-1597973434 
  • Polmar, Norman (2013). The Naval Institute Guide To The Ships And Aircraft Of The U.S. Fleet (19th ed.). Naval Institute Press. ISBN 978-1591146872 
  • 石川潤一「AV-8Bとアメリカ海兵隊 (特集 世界唯一の実用垂直離着陸(V/STOL)機 BAE/ボーイング ハリアーの系譜)」『航空ファン』第53巻、第6号、文林堂、50-58頁、2004年6月。 NAID 40006169355 
  • 柿谷哲也「アメリカ海兵隊ハリアー部隊配備と運用、実践」『AV-8A/B ハリアー/ハリアーII』文林堂〈世界の傑作機 No.204〉、2021年。ISBN 978-4893193353 
  • 小林健「英米以外のハリアー部隊--各国軽空母とのコンビネーション (特集 世界唯一の実用垂直離着陸(V/STOL)機 BAE/ボーイング ハリアーの系譜)」『航空ファン』第53巻、第6号、文林堂、59-61頁、2004年6月。 NAID 40006169356 
  • 山内秀樹「AV-8B構造とシステム」『AV-8A/B ハリアー/ハリアーII』文林堂〈世界の傑作機 No.204〉、2021年、100-115頁。ISBN 978-4893193353 

関連項目

外部リンク