中尾睦

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なかお むつみ

中尾 睦
生誕 (1962-12-08) 1962年12月8日(61歳)
日本の旗 兵庫県神戸市
出身校 東京大学法学部
職業 財務官僚
東京海上日動火災保険顧問
著名な実績 福岡国税局長横浜税関長
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中尾 睦(なかお むつみ、1962年12月8日 - )は、日本財務官僚。元福岡国税局長、元横浜税関長森友学園をめぐる問題で、大阪府豊中市の国有地の売却交渉が行われたときと決裁文書の改ざんが行われたときに財務省理財局次長を務めた[1][2]

来歴[編集]

兵庫県神戸市出身。神戸大学附属明石中学校灘高等学校卒業。1985年3月、東京大学法学部卒業。同年4月、大蔵省入省[3][4][5]国際金融局調査課に配属される[6][7]。1990年7月 高松国税局八幡浜税務署長[8]

2001年 英国王立国際政治経済研究所研究官。2004年7月、三重県総務局長。2006年4月、三重県総務部[1]

2013年6月28日、内閣官房内閣審議官内閣官房副長官補付)兼内閣官房行政改革推進本部国家公務員制度改革事務局次長兼内閣府大臣官房行政改革関係組織検討準備室員に就任。2014年7月4日、福岡国税局長に就任[1]

森友学園問題[編集]

2015年7月7日、財務省理財局次長に就任[1]

2016年6月20日、財務省近畿財務局は、学校法人森友学園との間で豊中市の国有地についての売買契約を締結した。売却金額は非公開とされた[9][2]

2017年2月9日、朝日新聞が、払い下げの国有地に新設予定の安倍晋三記念小学校の名誉校長が安倍昭恵であること、森友学園側に契約違反があった場合、国が「1億3400万円」で買い戻す特約がついていたこと[注 1]、森友学園の籠池泰典理事長が売却額が買い戻し特約と同額と認めたこと、売却額は同じ規模の近隣国有地の10分の1であること、籠池が日本会議大阪の役員を務めていることなどを報じた[10]

同年2月17日、安倍晋三首相は衆議院予算委員会で野党から追及を受けると「私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい」と答弁した[11][12][13]。同年2月26日、財務省は、国有地売却の決裁文書から安倍昭恵、鴻池祥肇の秘書、平沼赳夫の秘書、北川イッセイの副大臣秘書官らに関する記述を「できる限り早急に」削除するよう、近畿財務局の職員7人にメールで指示。近畿財務局は同日から文書の改竄を開始した[14][15]。安倍首相と籠池の関係を指し示す記述も改竄が行われ、「籠池康博氏は、『日本会議大阪代表・運営委員』を始めとする諸団体に関与」「日本会議と連携する組織として、超党派による『日本会議国会議員懇談会』が平成9年5月に設立され、現在、会長に平沼赳夫議員、副会長に安倍晋三総理らが就任」などの文言が削除された[16][17][18]

同年3月22日、豊中市議会議員の木村真、市民ら230人は、土地の売却を担当した財務省近畿財務局の職員を氏名不詳のまま背任容疑で大阪地検特別捜査部に告発した[19][20]

同年4月3日、佐川宣寿理財局長は、衆議院決算行政監視委員会で、「行政文書は紙もパソコン上のデータも同様に取り扱いにしている。データは短期間で自動的に消去され、復元できないようなシステムになっている」と答弁した[21][22]。4月7日、中尾は衆議院内閣委員会で「自動消去という昨日は基本的にない。データを削除した場合は14日間は復元可能だが、それを超えると復元できない。通常の職員はそういうことはできない仕組みになっている」と述べ、佐川の答弁を事実上訂正した[22]

同年5月15日、市民団体「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」(代表:八木啓代)は、財務省が森友学園との交渉記録を廃棄したとして、中尾、佐川宣寿、迫田英典田中一穂武内良樹、田村嘉啓、池田靖ら7人に対する公用文書等毀棄容疑での告発状を東京地方検察庁に提出した[23][24][25](東京地検はのちに被疑事件を大阪地方検察庁特別捜査部に移送した[26])。

同年7月7日、中尾は人事院に異動。事務総局審議官に就任した。

大阪地検特捜部は木村真らによる刑事告発を受理したものの、背任容疑の捜査に手間取っていた。そこで近畿財務局のコンピュータから押収したデータをもとに、先に公文書の変造容疑を固めることにした。同年夏から秋にかけてDF(デジタルフォレンジック)センター準備室がデータの復元および解析を行い、決済文書改ざんの痕跡を突き止めた[27]

2018年3月7日、近畿財務局の元上席財産管理官の赤木俊夫が自殺[28]。同年5月31日、大阪地検特捜部は、中尾ら財務省幹部38人全員を不起訴処分とした[29][30]。同年6月4日、財務省は「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」を公表するとともに[31]、退職者2人を含む幹部ら20人の処分を発表した。中尾は戒告懲戒処分を受けた[32]。同年6月13日、「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」は不起訴処分を不服として、中尾ら被疑者24人について大阪検察審査会に申立てをした[33][34][35]

同年7月27日、財務省財務総合政策研究所副所長に就任[1]

2019年3月15日、大阪第一検察審査会は、不起訴処分とした38人のうち、有印公文書変造・同行使容疑などで中尾ら6人、背任容疑などで管財部次長の小西眞ら4人について「不起訴不当」と議決した[注 2]。しかし同年8月9日、大阪地検特捜部は中尾ら10人を再び不起訴処分とした[39]。この間、中尾は7月5日に横浜税関長に就任した[40]

2020年3月18日発売の『週刊文春』3月26日号が、総計15ページにわたる森友学園問題の特集記事を組み、赤木が死の直前に書いた手記全文を掲載した[28][41]。手記の中で赤木は「元は、すべて、佐川理財局長の指示です」と記し、「刑事罰、懲戒処分を受けるべき者」として、中尾、佐川宣寿、中村稔冨安泰一郎、田村嘉啓、理財局国有財産審理室課長補佐(当時)の杉田尚央の6人を挙げた[42][28]

同年7月16日、内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)兼内閣官房TPP等政府対策本部国内調整統括官に就任[43]。2021年7月、財務省大臣官房付、退官。同年11月1日、東京海上日動火災保険顧問に就任[44]

略歴[編集]

大蔵省同期[編集]

大蔵省入省同期に、可部哲生藤井健志矢野康治岡村健司小部春美中島淳一森田宗男中井徳太郎岡本直之野島透岸本浩川嶋真田中秀明らがいる。

著書[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 2017年6月29日、近畿財務局は買戻権を行使し、森友学園に売却した土地は大阪航空局所管の土地となった。所有権移転の登記手続も行われ、同日を異動年月日として国有財産台帳へ新たに記録された[9]
  2. ^ 「不起訴不当」とされた10人の内訳は下記のとおり[36][37][38]
    • 背任容疑など(4人) - 小西眞、池田靖、三好泰介、国土交通省大阪航空局の職員。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g 副所長 Executive Vice President 中尾 睦 NAKAO Mutsumi財務省財務総合政策研究所
  2. ^ a b 森友学園問題年表(関連情報を含む)”. 政府の公文書のあり方を問う弁護士・研究者の会. 2023年4月22日閲覧。
  3. ^ 「官庁ふるさと人脈⑱ 兵庫県(上)=灘高の出身者が多数」『医薬経済 1481号』(2014年12月01日発売) 医薬経済社
  4. ^ 「附属中等教育学校で「財務省との連携による財政教育プログラム」を開催しました」神戸大学附属学校部
  5. ^ 財務省 横浜税関長に中尾氏Daily-Cargo 2019年7月9日 18時1分
  6. ^ 『大蔵省国際金融局年報』金融財政事情研究会、1985年8月1日発行
  7. ^ 神一行『大蔵官僚 超エリート集団の人脈と野望』講談社、1986年10月1日発行、807頁
  8. ^ a b c d e 『財務省名鑑 2019年版』時評社、2019年1月9日発行、98頁
  9. ^ a b 会計検査院(2017年11月22日).
  10. ^ 吉村治彦、飯島健太 (2017年2月9日). “学校法人に大阪の国有地売却 価格非公表、近隣の1割か”. 朝日新聞. http://www.asahi.com/articles/ASK264H4YK26PPTB00J.html 2017年5月14日閲覧。 
  11. ^ 第193回国会 衆議院 予算委員会 第12号 平成29年2月17日”. 国会会議録検索システム. 2022年3月18日閲覧。
  12. ^ 小西洋之 (2018年7月20日). “安倍総理の「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」発言に関する質問主意書”. 参議院. 2022年3月18日閲覧。
  13. ^ 「私や妻が関係していたら辞める」のあと記録廃棄”. NHK (2018年6月4日). 2023年4月1日閲覧。
  14. ^ 原田晋也、皆川剛 (2021年6月23日). “森友問題「赤木ファイル」黒塗りでも読み解けたこと、残った謎 安倍昭恵氏の削除は初日に指示”. 東京新聞. https://www.tokyo-np.co.jp/article/112153 2021年9月21日閲覧。 
  15. ^ 渥美龍太、森本智之、桐山純平 (2021年6月23日). “決裁文書「議員に持って行くつもりない」 森友問題「赤木ファイル」ににじむ財務省の「本音」”. 東京新聞. 2023年4月1日閲覧。
  16. ^ 財務省(2018年3月12日), p. 44.
  17. ^ 決裁文書改ざんの財務省報告詳報”. 西日本新聞 (2018年3月12日). 2023年5月26日閲覧。
  18. ^ 朝日新聞取材班 2018, p. 193.
  19. ^ 朝日新聞取材班 2018, p. 132.
  20. ^ 近畿財務局を告発 森友に格安売却“国に損害”豊中市議ら”. しんぶん赤旗 (2017年3月23日). 2023年5月18日閲覧。
  21. ^ 南彰; 栗林史子 (2017年4月10日). “森友との交渉記録、データ復元の可能性 財務省認める”. 朝日新聞デジタル. http://digital.asahi.com/articles/ASK4B64WJK4BUTFK018.html 
  22. ^ a b 朝日新聞取材班 2018, pp. 124–126.
  23. ^ 財務省幹部の告発状提出 森友問題、記録廃棄の疑い”. 日本経済新聞 (2017年5月15日). 2023年4月21日閲覧。
  24. ^ 報道関係者各位(2017年5月15日)”. 健全な法治国家のために声をあげる市民の会 (2017年5月15日). 2023年4月21日閲覧。
  25. ^ 告発状”. 健全な法治国家のために声をあげる市民の会 (2017年5月15日). 2023年4月21日閲覧。
  26. ^ 処分通知書(2017年9月15日)”. 東京地方検察庁 (2017年9月15日). 2023年4月21日閲覧。
  27. ^ 森功 2019, pp. 12, 161–162.
  28. ^ a b c 相澤冬樹 (2020年3月17日). “森友自殺 財務省職員 遺書全文公開「すべて佐川局長の指示です」 妻は佐川元理財局長と国を提訴へ”. 文春オンライン. 2023年3月22日閲覧。
  29. ^ 森友改ざん・背任容疑、佐川氏ら全員を不起訴 大阪地検”. 朝日新聞 (2018年5月31日). 2023年4月19日閲覧。
  30. ^ 処分通知書(2018年6月1日)”. 大阪地方検察庁 (2018年6月1日). 2023年4月21日閲覧。
  31. ^ 財務省(2018年6月4日).
  32. ^ “財務省が処分する20人”. 日本経済新聞. (2018年6月4日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31324100U8A600C1EAF000/ 2023年4月21日閲覧。 
  33. ^ 報道関係者各位(2018年6月13日)”. 健全な法治国家のために声をあげる市民の会 (2018年6月13日). 2023年4月21日閲覧。
  34. ^ 公用文書等毀棄罪(文書廃棄)についての申立書”. 健全な法治国家のために声をあげる市民の会 (2018年6月13日). 2023年4月21日閲覧。
  35. ^ 虚偽有印公文書作成及び行使(文書改ざん)についての申立書”. 健全な法治国家のために声をあげる市民の会 (2018年6月13日). 2023年4月21日閲覧。
  36. ^ 一色涼、多鹿ちなみ (2019年3月29日). “「注目集めた事件、公開の法廷で」検審、佐川氏らに議決”. 朝日新聞. 2023年4月22日閲覧。
  37. ^ 森友問題 佐川元局長ら 「不起訴不当」検察審査会”. NHK (2019年3月29日). 2023年4月22日閲覧。
  38. ^ 背任罪に関する議決の要旨”. 大阪第一検察審査会 (2019年3月29日). 2023年4月22日閲覧。
  39. ^ 佐川氏ら再び不起訴 大阪地検、森友問題の捜査終結”. 日本経済新聞 (2019年8月10日). 2023年4月21日閲覧。
  40. ^ a b 「横顔/横浜税関長に就任した中尾睦氏」日刊工業新聞2019/8/27 05:00
  41. ^ デモクラシータイムス (2020年3月24日). “緊急特集 赤木さんの真実 〜「森友」を忘れない 200324”. YouTube. 2023年3月24日閲覧。
  42. ^ 「すべて、佐川局長の指示です」自殺した職員の手記全文”. 朝日新聞 (2020年3月18日). 2023年3月22日閲覧。
  43. ^ 令和2年7月16日発令財務省
  44. ^ a b 国家公務員法第106条の25第1項等の規定に基づく国家公務員の再就職状況の報告(令和3年10月1日~同年12月31日分)令和4年3月25日 内閣官房 内閣人事局
  45. ^ 官報 号外第94号』1990年7月21日発行
  46. ^ 『職員録 平成5年版 上巻』大蔵省印刷局、1992年11月発行、505・506頁

参考文献[編集]

関連項目[編集]

官職
先代
澁谷和久
日本の旗 内閣官房TPP等政府対策本部国内調整統括官
2020年 - 2021年
次代
田島淳志
先代
大鹿行宏
日本の旗 横浜税関長
2019年 - 2020年
次代
冨山一成
先代
飯塚厚岡本宰
日本の旗 財務省理財局次長
北村信と共同
2015年 - 2017年
次代
市川健太・富山一成
先代
中村信行
日本の旗 福岡国税局長
2014年 - 2015年
次代
垣水純一
先代
飯塚厚
日本の旗 三重県総務局長
2004年 - 2006年
次代
総務部長に改組
先代
垣水純一
日本の旗 東京国税局査察部
2003年 - 2004年
次代
茶谷栄治