キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス

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キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス
King George Vi And Queen Elizabeth S[1]
2010年優勝馬ハービンジャー
開催国 イギリスの旗イギリス
競馬場 アスコット競馬場
創設 1951年
2022年の情報
距離 芝11ハロン211ヤード(≒2406m)
格付け G1
賞金 賞金総額125万ポンド
出走条件 サラブレッド3歳以上
負担重量

定量戦

  • 3歳8st9lb(約54.9kg)
  • 4歳9st7lb(約60.3kg)
  • 牝馬3lb(約1.4kg)減
  • 南半球産4歳馬4lb(約1.8kg)減[1]
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キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスKing George VI and Queen Elizabeth Stakes)とはイギリスアスコット競馬場で開催される競馬の競走で、格付けは最高格のG1に位置付けられている。イギリス国内の平地競走としては、ダービー(150万ポンド)、チャンピオンステークス(130万ポンド)に次いで、125万ポンドを出す高額賞金競走(2018年現在)で、ヨーロッパを代表する中長距離の競走のひとつである。

夏に行われ、3歳と古馬の一流馬がクラシック距離(12ハロン=約2400メートル)で対戦する。中長距離の競走としては、凱旋門賞ダービーとならんでヨーロッパの最高峰のレースの1つとみなされている。

しばしば「KGVI & QES」とも略記される[注 1]。競走名は20世紀中盤のイギリス国王ジョージ6世とその王妃エリザベス・ボーズ=ライアンエリザベス2世の両親)に由来している。

歴史[編集]

競馬の発祥国であるイギリスでは伝統的に、サラブレッドの競走は年齢別に行われており、古い時代には3歳や4歳の馬は十分な成長を遂げていない若馬とみなされ、7歳や8歳になってようやく一人前と考えられてきた。しかし3歳馬による競走(ダービーなど)や2歳馬による競走が行われるようになって、7歳や8歳馬による4マイルや6マイルの長距離戦よりも、若い馬による2マイル(約3200メートル)や1マイル半(約2400メートル)の競走に人気が移ってきた。

3歳馬と古馬が対戦する大レースとしては、19世紀の終わりにエクリプスステークスが当時の最高賞金競走として創設されたが、初夏の若馬にも分があるように10ハロン(約2000メートル)で行われた。3歳の秋はセントレジャーを走り、そのあとはジョッキークラブステークスで1年を終え、翌年古馬になるとゴールドカップグッドウッドカップドンカスターカップといった長距離のカップ戦を目指すのが一流馬の王道だった。

第二次世界大戦が終わって国際間の競馬が復活すると、イギリスではアスコット競馬場が1946年の9月にキングジョージ6世ステークスを創設し、ヨーロッパの一流3歳馬を集めて2マイル(約3200メートル)の距離を争った。このレースには、この年のイギリス、アイルランドのダービー馬やフランスのパリ大賞典優勝馬が出走し、ヨーロッパ3歳チャンピオンを決めるに相応しいレースになった。しかしこのレースの日程は、フランスがヨーロッパ最大の競走を目論んで行っている凱旋門賞と1週の差しかなく、一流競走馬を奪い合って競合することになった[2]

フランス側は、はじめはイギリス競馬界へキングジョージ6世ステークスの日程変更を申し入れたが断られ、1949年に凱旋門賞の賞金を当時世界最高額となる3000万フランに増やすことで対応した。アスコット競馬場ではこれに対抗できる賞金を出すことができないため、凱旋門賞と競合することを断念し、1951年からキングジョージ6世ステークスを9月から夏へ時期を変更し、1948年より毎年夏に行われていたクイーンエリザベスステークス(1マイル半≒2400メートル)と統合することにした[3]

1951年は大英博覧会100周年の年で、国をあげて英国祭(en:Festival of Britain)が行われた。これにあわせて、キングジョージ6世ステークスとクイーンエリザベスステークスを統合した新レースは「フェスティヴァル・オブ・ブリテン・ステークス」と銘打ち、賞金を増やしてイギリス国内ではダービーに次ぐ2番めの高額賞金として行われた。凱旋門賞と競合しない国際大レースの創設はフランス競馬界からも歓迎され、前年の凱旋門賞優勝馬タンティエームを空輸で送り込んだ[注 2]。この「フェスティヴァル・オブ・ブリテン・ステークス」が、現在は第1回キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスとみなされており、翌1952年からは「第2回」キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスと名を変えて行われている[3][4][5][6]

以来、イギリスの夏競馬を代表する高額大レースとして定着したが、1972年からはダイヤモンド会社のデビアスがスポンサーになった。そのため、エリザベス2世の承諾を得て、1975年からはレース名が「キングジョージ6世&クイーンエリザベス・ダイヤモンドステークス(King George VI and Queen Elizabeth Diamond Stakes)」と改称されている。デビアスは2006年を最後にスポンサーから撤退したため、2007年と2008年は「ダイヤモンド」がつかない「キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス」で行われた。2009年からはベットフェアー社(イギリスのインターネット・ブックメーカー会社)がスポンサーとなり、賞金を積増しして100万ポンドの大台に乗せた。賞金額では、チャンピオンステークスとイギリス国内2位の座を争っている[4]

近年はチャンピオンステークスブリティッシュ・チャンピオンズシリーズを中心にイギリス国内の競馬体系の再編が行われており、2014年からはカタール資本のQIPCO(Qatar Investment & Projects Development Holding Company)がスポンサーとなっている[4]

沿革[編集]

できごと[編集]

前哨戦[編集]

競走名 格付 施行競馬場 施行距離 出走資格
エクリプスステークス G1 イギリスの旗サンダウン競馬場 芝9ハロン209ヤード 3歳以上
プリンスオブウェールズステークス G1 イギリスの旗アスコット競馬場 芝9ハロン212ヤード 4歳以上
アイリッシュダービー G1 アイルランドの旗カラ競馬場 芝12ハロン 3歳牡馬・牝馬
サンクルー大賞 G1 フランスの旗サンクルー競馬場 芝2400m 4歳以上
英ダービー G1 イギリスの旗エプソム競馬場 芝12ハロン6ヤード 3歳牡馬・牝馬
コロネーションカップ G1 イギリスの旗エプソム競馬場 芝12ハロン6ヤード 4歳以上
英オークス G1 イギリスの旗エプソム競馬場 芝12ハロン6ヤード 3歳牝馬

歴代優勝馬[編集]

2006年から2008年までの3年間は3歳馬が1頭も出走しなかった。2010年は当年の英国ダービー馬でのちに凱旋門賞も制するWorkforceが出走したが5着に敗れているが、2011年Nathanielが出走して勝利を飾っている。

回数 施行日 調教国・優勝馬 性齢 タイム 優勝騎手 管理調教師 馬主
第1回 1951年7月21日 イギリスの旗Supreme Court 牡3 2:29.66 C.エリオット E.ウィリアムズ
第2回 1952年7月19日 イギリスの旗Tulyar 牡3 2:33.20 C.スマーク M.マーシュ
第3回 1953年7月18日 イギリスの旗Pinza 牡3 2:33.60 G.リチャーズ N.バーティー
第4回 1954年7月17日 イギリスの旗Aureole 牡4 2:44.00 M.スミス C.ボイドロックフォート
第5回 1955年7月16日 フランスの旗Vimy 牡3 2:33.76 R.ポワンスレ A.ヘッド
第6回 1956年7月21日 イタリアの旗Ribot 牡4 2:40.24 E.カミーチ U.ペンコ
第7回 1957年7月20日 フランスの旗Montaval 牡4 2:41.02 F.パーマー G.ブリグランド
第8回 1958年7月19日 アイルランドの旗Ballymoss 牡4 2:36.33 A.ブリースリー M.V.オブライエン
第9回 1959年7月18日 イギリスの旗Alcide 牡4 2:31.39 W.カー C.ボイドロックフォート
第10回 1960年7月16日 イギリスの旗Aggressor 牡5 2:35.21 J.リンドリー T.ゴスデン
第11回 1961年7月15日 フランスの旗Right Royal 牡3 2:40.34 R.ポアンスレ E.ポレ
第12回 1962年7月21日 フランスの旗Match 牡4 2:32.02 Y.サンマルタン F.マテ
第13回 1963年7月20日 アイルランドの旗Ragusa 牡3 2:33.80 G.ブゴール P.プレンダーガスト
第14回 1964年7月18日 フランスの旗Nasram 牡4 2:33.15 W.パイアーズ E.フェローズ
第15回 1965年7月17日 アイルランドの旗Meadow Court 牡3 2:33.27 L.ピゴット P.プレンダーガスト
第16回 1966年7月16日 イギリスの旗Aunt Edith 牝4 2:35.06 L.ピゴット N.マーレス
第17回 1967年7月15日 イギリスの旗Busted 牡4 2:33.64 G.ムーア N.マーレス
第18回 1968年7月27日 イギリスの旗Royal Palace 牡4 2:32.22 A.バークレー N.マーレス
第19回 1969年7月26日 イギリスの旗Park Top 牝5 2:32.46 L.ピゴット B.ヴァン・カッツェム
第20回 1970年7月25日 アイルランドの旗Nijinsky II 牡3 2:36.16 L.ピゴット M.V.オブライエン
第21回 1971年7月24日 イギリスの旗Mill Reef 牡3 2:32.56 G.ルイス I.ボールディング
第22回 1972年7月22日 イギリスの旗Brigadier Gerard 牡4 2:32.91 J.マーサー W.ハーン
第23回 1973年7月28日 フランスの旗Dahlia 牝3 2:30.43 W.パイアーズ M.ジルベール
第24回 1974年7月27日 フランスの旗Dahlia 牝4 2:33.03 L.ピゴット M.ジルベール
第25回 1975年7月26日 イギリスの旗Grundy 牡3 2:26.98 P.エデリー P.ウォールウィン
第26回 1976年7月24日 イギリスの旗Pawneese 牝3 2:29.36 Y.サンマルタン A.ペンナ
第27回 1977年7月23日 アイルランドの旗The Minstrel 牡3 2:30.48 L.ピゴット M.V.オブライエン
第28回 1978年7月22日 イギリスの旗Ile de Bourbon 牡3 2:30.53 J.リード R.ジョンソン・ホートン
第29回 1979年7月28日 イギリスの旗Troy 牡3 2:33.75 W.カーソン W.ハーン
第30回 1980年7月26日 イギリスの旗Ela-Mana-Mou 牡4 2:36.39 W.カーソン W.ハーン
第31回 1981年7月25日 イギリスの旗Shergar 牡3 2:35.40 W.スウィンバーン M.スタウト
第32回 1982年7月24日 イギリスの旗Kalaglow 牡4 2:31.88 G.スターキー G.ハーウッド
第33回 1983年7月23日 アイルランドの旗Time Charter 牝4 2:30.79 J.マーサー H.キャンディ
第34回 1984年7月28日 イギリスの旗Teenoso 牡4 2:27.95 L.ピゴット G.ラグ
第35回 1985年7月27日 イギリスの旗Petoski 牡3 2:27.61 W.カーソン W.ハーン
第36回 1986年7月26日 イギリスの旗Dancing Brave 牡3 2:29.49 P.エデリー G.ハーウッド
第37回 1987年7月25日 イギリスの旗Reference Point 牡3 2:34.63 S.コーセン H.セシル
第38回 1988年7月23日 イギリスの旗Mtoto 牡5 2:37.33 M.ロバーツ A.ステュワート
第39回 1989年7月22日 イギリスの旗Nashwan 牡3 2:32.27 W.カーソン W.ハーン
第40回 1990年7月28日 イギリスの旗Belmez 牡3 2:30.76 M.キネーン H.セシル
第41回 1991年7月27日 イギリスの旗Generous 牡3 2:28.99 A.ムンロ P.コール
第42回 1992年7月25日 アイルランドの旗St.Jovite 牡3 2:30.85 S.クレイン J.ボルジャー
第43回 1993年7月24日 イギリスの旗Opera House 牡5 2:33.94 M.ロバーツ M.スタウト
第44回 1994年7月23日 イギリスの旗King's Teatre 牡3 2:28.92 M.キネーン H.セシル
第45回 1995年7月22日 アラブ首長国連邦の旗Lammtarra 牡3 2:31.01 L.デットーリ S.ビン・スルール
第46回 1996年7月27日 イギリスの旗Pentire 牡4 2:28.11 M.ヒルズ G.ラグ
第47回 1997年7月26日 アラブ首長国連邦の旗Swain 牡5 2:36.45 J.リード S.ビン・スルール
第48回 1998年7月25日 アラブ首長国連邦の旗Swain 牡6 2:29.06 L.デットーリ S.ビン・スルール
第49回 1999年7月24日 アラブ首長国連邦の旗Daylami 牡5 2:29.35 L.デットーリ S.ビン・スルール
第50回 2000年7月29日 フランスの旗Montjeu 牡4 2:29.98 M.キネーン J.ハモンド
第51回 2001年7月28日 アイルランドの旗Galileo 牡3 2:27.71 M.キネーン A.オブライエン
第52回 2002年7月27日 イギリスの旗Golan 牡4 2:29.70 K.ファロン M.スタウト
第53回 2003年7月26日 アイルランドの旗Alamshar 牡3 2:33.26 J.ムルタ J.オックス
第54回 2004年7月24日 アラブ首長国連邦の旗Doyen 牡4 2:33.18 L.デットーリ S.ビン・スルール
第55回 2005年7月23日 アイルランドの旗Azamour 牡4 2:28.26 M.キネーン J.オックス
第56回 2006年7月29日 フランスの旗Hurricane Run 牡4 2:30.29 C.スミヨン A.ファーブル
第57回 2007年7月28日 アイルランドの旗Dylan Thomas 牡4 2:31.11 J.ムルタ A.オブライエン
第58回 2008年7月26日 アイルランドの旗Duke Of Marmalade 牡4 2:27.91 J.ムルタ A.オブライエン
第59回 2009年7月25日 イギリスの旗Conduit 牡4 2:28.73 R.ムーア M.スタウト
第60回 2010年7月24日 イギリスの旗Harbinger 牡4 2:26.78 O.ペリエ M.スタウト
第61回 2011年7月23日 イギリスの旗Nathaniel 牡3 2:35.07 W.ビュイック J.ゴスデン
第62回 2012年7月21日 ドイツの旗Danedream 牝4 2:31.62 A.シュタルケ P.シールゲン
第63回 2013年7月27日 ドイツの旗Novellist 牡4 2:24.60 J.ムルタ A.ヴェーラー
第64回 2014年7月26日 イギリスの旗Taghrooda 牝3 2:28.13 P.ハナガン J.ゴスデン
第65回[9] 2015年7月25日 イギリスの旗Postponed 牡4 2:31.25 A.アッゼニ L.クマーニ
第66回[10] 2016年7月23日 アイルランドの旗Highland Reel 牡4 2:28.97 R.ムーア A.オブライエン
第67回[11] 2017年7月29日 イギリスの旗Enable 牝3 2:36.22 L.デットーリ J.ゴスデン
第68回[12] 2018年7月28日 イギリスの旗Poet's Word 牡5 2:25.84 J.ドイル M.スタウト
第69回 2019年7月27日 イギリスの旗Enable 牝5 2:32.42 L.デットーリ J.ゴスデン
第70回 2020年7月25日 イギリスの旗Enable 牝6 2:28.92 L.デットーリ J.ゴスデン
第71回 2021年7月24日 イギリスの旗Adayar 牡3 2:26.54 W.ビュイック C.アップルビー
第72回 2022年7月23日 イギリスの旗Pyledriver 牡5 2:29.49 P.J.マクドナルド W.ミューア&C.グラシック
第73回 2023年7月29日 イギリスの旗Hukum 牡6 2:33.95 J.クローリー O.バローズ

日本調教馬の成績[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 「キングジョージ」と略す向きもある。なお、同じイギリス国内には「キングジョージステークス英語版」というG2の重賞もあるが、これはジョージ5世に由来する別の競走である。
  2. ^ 結果的にはこの「空輸」が裏目に出た。嵐で飛行機が激しい揺れに見舞われて、イギリスへ到着した頃には既にタンティエームは消耗してしまっていて、3着に終わった。

出典[編集]

  1. ^ a b IFHA Race Detail King George Vi And Queen Elizabeth S 2014年11月12日閲覧。
  2. ^ 『凱旋門賞の歴史』第1巻,p230
  3. ^ a b 『凱旋門賞の歴史』第1巻,p264
  4. ^ a b c Galopp-Sieger King George Vi And Queen Elizabeth S 2014年11月12日閲覧。
  5. ^ 『凱旋門賞の歴史』第1巻,p262
  6. ^ 『凱旋門賞の歴史』第1巻,p300
  7. ^ CHANGES TO FLAT RACE DISTANCE MEASUREMENTS - British Horseracing Authority、2017年7月31日閲覧
  8. ^ 【海外競馬】キングジョージ6世&クイーンエリザベスSの賞金が倍以上に増額 | 競馬ニュース”. netkeiba.com. 2021年3月10日閲覧。
  9. ^ 2015年結果 レーシングポスト、2015年7月26日閲覧
  10. ^ 2016年結果 レーシングポスト、2016年7月24日閲覧
  11. ^ 2017年結果 レーシングポスト、2017年7月29日閲覧
  12. ^ 2018年結果 レーシングポスト、2018年7月29日閲覧

参考文献[編集]

  • アーサー・フィッツジェラルド 著、草野純 訳『凱旋門賞の歴史』 1巻、財団法人競馬国際交流協会、1995年。 
  • アーサー・フィッツジェラルド 著、草野純 訳『凱旋門賞の歴史』 2巻、財団法人競馬国際交流協会、1996年。 
  • アーサー・フィッツジェラルド 著、草野純 訳『凱旋門賞の歴史』 3巻、財団法人競馬国際交流協会、1997年。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]