電波相互乗り入れ

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電波相互乗り入れ(でんぱそうごのりいれ)とは、関東広域圏、近畿広域圏、中京広域圏以外の複数の府県に跨る民放テレビ局放送対象地域を指す(NHK総合テレビジョンに関しては各府県ともに県域放送である)。

現在、山陰地方鳥取県島根県)、岡高地区(通称。岡山県香川県)が該当する。一部通称などとして「準広域」という記述がある場合もあるが、正式にはこれらのエリアも「2つの県を放送対象地域とする県域放送」のエリアである。

山陰地方のケース

ここでは、相互乗り入れと不可分である山陰地方のラジオ放送を含めた放送事情についても記述する。ただし、コミュニティ放送については触れない。

山陰地方の放送局

略称・愛称
社名
テレビ ラジオ 所在地 備考
ID 系列 鳥取県開局 島根県開局 種別 系列 鳥取県開局 島根県開局
鳥取県の放送局
NKT
日本海テレビジョン放送
1 NNNNNS 1959年3月3日
JOJX-(D)TV
鳥取 1→鳥取 38
乗り入れ
松江 30→41
鳥取市 FMとアナログテレビ親局は厳密には湯梨浜町に所在。
NHK鳥取放送局 3 総合 1959年3月3日
JOLG-(D)TV
鳥取 3→鳥取 29
AM R1 1936年12月14日
JOLG
鳥取 1368kHz
FM FM 1969年3月1日
JOLG-FM
鳥取 85.8MHz
2 Eテレ 1962年12月28日
JOLC-(D)TV
鳥取 4→鳥取 20
AM R2 1950年4月25日
JOLC
鳥取 1125kHz
BSS
山陰放送
6 JNN 乗り入れ
鳥取 22→31
1959年12月15日
JOHF-(D)TV
松江 10→45
AM JRN
NRN
クロスネット
1954年3月1日
JOHF
米子 900kHz
米子市 AM開局当時はRSBラジオ山陰。
島根県の放送局
NHK松江放送局 3 総合 1959年10月28日
JOTK-(D)TV
松江 6→21
AM R1 1931年12月21日
JOTK
松江 1296kHz
松江市 AM親局は厳密には出雲市に所在。
FM FM 1969年3月1日
JOTK-FM
松江 84.5MHz
2 Eテレ 1962年12月28日
JOTB-(D)TV
松江 12→19
AM R2 1946年9月1日
JOTB
松江 1593kHz
TSK
山陰中央テレビジョン放送
8 FNNFNS 乗り入れ
鳥取 24→36
1970年4月1日
JOMI-(D)TV
松江 34→43
開局当時は島根放送、通称「テレビしまね」。
V-air
エフエム山陰
FM JFN 1986年10月1日
JOVU-FM
松江 77.4MHz
外国語放送放送大学以外で対象放送区域が複数都道府県にまたがる唯一のFM局。
※テレビの物理chは各県基幹局のもの。アナログ→デジタル。
※開局日の下はコールサイン(無き場合は基幹中継局)、親局(基幹中継局)所在地・物理ch・周波数。テレビはアナログの開始日、デジタルは2006年10月1日全局一斉開始。
※民放の演奏所は全社が本社に置く。

乗り入れの経緯とその後

鳥取・島根の山陰両県は元々結びつきが強く、特に県都・鳥取市から遠く離れ鳥取市とは別個の経済圏を形成していた鳥取県西部の中心・米子市とその周辺は、島根の県都・松江市とは距離も近く、隔てる山もほとんど無い地理上、米子と松江はそのどちらかに送信所を立てれば相互に電波が届く典型的スピルオーバー地帯であった。1954年(昭和29年)3月1日、山陰両県における最初の民間放送局としてAM放送を開始したのは米子市に本社を置くRSBラジオ山陰(現:BSS山陰放送)で、その地理を活かし放送開始時点で既に米子を本局として両県をカバーしてしまうことが出来た。その経緯から、RSB→BSSは両県の放送局で唯一県都以外に本社と演奏所を置いている[1]。島根県のみの単域局であるはずのNHK松江のエリアが鳥取県西部にまで及んでいるのもこのためである。

5年後の1959年3月3日、鳥取県最初のテレビ局・NKT日本海テレビジョン放送が鳥取市に開局。鳥取県内のみの放送を開始。RSBもテレビ兼営化を目指すものの、テレビ放送黎明期には「東名阪など大都市圏以外の各都道府県は1県にテレビは1局」という原則があり、RSBが本社を置く鳥取県は当時新局が設置できなかった。RSBとNKTの間で水面下の合併交渉が行われるも結局交渉は決裂。同年12月15日、RSBはNKTから9か月遅れて、それもまだテレビ局が無かった島根県でテレビを開局することになってしまったため「本社は鳥取県、ラジオは両県広域、テレビは島根県のみ」[2]というねじれ状態に陥ってしまう。電波を松江に届けやすい米子にラジオの本局を置いたのがテレビでは仇となってしまったのである。とはいえ米子の電波が松江に届く以上松江の電波も米子に届くため、鳥取県西部ではRSB→BSSが視聴可能ではあったがあくまで越境とされたため、本社所在地たる鳥取県へのエリア拡大を希望し続けたRSB→BSSであるがNKTが反対し続けたため実現せず、BSSとNKTの平行線は1960年代後半まで続き、全国各県で2局目・3局目のテレビが開局するようになってからもBSSはねじれ現象に苦しみ続けた。

ねじれ現象に苦しむBSSを図らずも救済することになったのは、ねじれ発生から10年4か月後の1970年4月1日に島根県2局目のテレビ局として松江市に開局したTSK“テレビしまね”こと島根放送(現:山陰中央テレビジョン放送)である。この開局によって、2県合わせても当時で人口140万人に満たない地域に3局のテレビ局ができたことになり、鳥取・島根のそれぞれの県単位でこれ以上民放テレビ局を設立させるのは経営的に不可能だと考えられ、そしてBSSのねじれ現象の解消の必要性が考慮され、旧郵政省(現:総務省)は、テレビについても山陰両県を単一放送区域にすることを認可。TSK開局の約2年半後となる1972年9月22日、BSS・NKT・TSKのテレビ3局による鳥取・島根相互乗り入れ放送が開始され、BSSは(NKTが折れる形で)悲願の鳥取県進出を果たし、約12年9か月もの間BSSを苦しめたねじれ現象もようやく解消された。当時民放テレビを3系列以上視聴できたのは、東名阪広域圏と北海道宮城県広島県福岡県くらいであり、山陰地方の単一放送区域化は先進的な試みといえた。

相互乗り入れ開始4年後の1986年10月1日、両県唯一の民間FM放送局・V-airエフエム山陰が松江市に開局。V-airも両県をエリアとしたため、「テレビ・AM・FM全局が、NHKは県域、民放は準広域(厳密には2県域)」という全国唯一の構図が成立した(FMに至ってはV-airと放送大学以外に複数都道府県にまたがる放送局は全て外国語放送である)。

乗り入れ直後の一時期は、テレビ朝日系列の同じワイドショー番組がNKT・BSS両局で同時放送または時差放送されたことがあった。また、乗り入れ後、NKTとTSKの間で腸捻転が発生するも、読売フジサンケイ間でお互いの資本を交換したことでネットチェンジに発展することなく腸捻転は解消された。

しかし、BSSのねじれ現象はその後も現在に至るまで尾を引き続け、現在もBSSはラジオとテレビの親局所在地が異なる。また、テレビ朝日を幹事局とする民間放送教育協会にはNKT(鳥取)とBSS(島根)の2局が現在も加盟している。

2006年10月1日に全局が一斉に放送を開始した地上デジタルテレビ放送でも、親局所在地でリモコンキーIDが分かれた。鳥取県に親局があるテレビ局、即ちNKTとNHK鳥取はアナログ放送のチャンネルと同じIDを取得した(NKTが「1」、NHK鳥取の総合が「3」。なお、アナログVHF6chだったNHK松江の総合も鳥取に合わせて「3」、Eテレは全国共通で「2」)が、島根県に親局がある民放テレビ局は各キー局と同じIDが割り当てられ、元々アナログUHF34chだったTSKはフジテレビ(および準キー局の関西テレビ、系列局の沖縄テレビ)と同じ「8」を取得したが、BSSもアナログVHF10chからの「10」(こうなったのは読売テレビのみ)ではなくTBSテレビ(および系列局のIBC岩手放送北陸放送)と同じ「6[3]を取得、結果的に富山県とはIDもチャンネル数も山陰両県と全く同一パターン[4]になり、現在に至る。呼出名称に至っても民放は親局所在地で分かれ、NKTは「にほんかいテレビデジタルテレビジョン」(通称+デジタルテレビジョン)だが、BSSとTSKは「BSSまつえデジタルテレビジョン」「TSKまつえデジタルテレビジョン」(略称+地名(松江)+デジタルテレビジョン)になった。

岡高地区のケース

脚注

  1. ^ BSSと同じTBS系列では、他にチューリップテレビテレビユー山形が県都以外に本社を置くが、演奏所は2社共県都に置く放送センターである。
  2. ^ 「ラジオ2県1波、テレビ1県1波」は今日の長崎放送京都放送と同じ体系(逆のパターンが山陽放送西日本放送)だが、RSB→BSSはその通り本社所在地とテレビのエリアが異なっている決定的な相違点がある。
  3. ^ BSSの津和野中継局が6chで、BSS単体としても全くの無縁でもなかった。
  4. ^ 1:北日本放送[日テレ系]、2・3:NHK富山、6:チューリップテレビ、8:富山テレビ[フジ系]。

関連項目