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痛風

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痛風
尿酸
概要
診療科 リウマチ学, 内科学
頻度 1 to 2% (developed world)
分類および外部参照情報
ICD-10 M10
ICD-9-CM 274.0 274.1 274.8 274.9
OMIM 138900 300323
DiseasesDB 29031
eMedicine emerg/221 med/924 med/1112 oph/506 orthoped/124 radio/313
Patient UK 痛風
MeSH D006073

痛風(つうふう、gout)は、高尿酸血症を原因とした関節炎を来す疾患。名称は、痛み(発作の箇所)が風が吹く様に足・膝・腰・肩・肘や手など全身の関節・骨端を移動し、尚且つ風が強くなったり穏やかになったりする様に痛みが酷くなったり和らいだりを繰り返す(痛みの悪風に中(あた)る意、または吹いた風が当たっただけでも痛む、の説もある)ことから命名された。

原因

関節液の尿酸結晶

高尿酸血症の患者にきっかけが加わると発症する。何がきっかけなのか明確ではないことも多い。

健康状態における人体の血中には、ごく普通に尿酸が含有されているが、この濃度(血中尿酸値)が何らかの理由により著しく上昇すると、本来人体が持つ恒常化機能を超えて飽和解消できず、特に体温が低い足部などにおいて、尿酸が溶解しきれずに結晶化して関節包内などに付着することが知られている。この状況においては、白血球群のうち、特に好中球が尿酸結晶を攻撃(捕食活動)を行うことが広く知られている。

好中球による尿酸結晶捕食活動が激化すると、その活動による過大なエネルギーや、尿酸を抱え込んで死亡した好中球の遺骸そのものによる影響などから、血管壁がダメージを受けて大きな炎症を発生する。当然に、当該部位周囲の神経組織をも相当に刺激し、患者は「内側からの激痛」を感じることとなる。

また、血中含有尿酸の濃度が急激に低下した場合においても、痛風発作が生じることが知られている。これは、好中球が攻撃対象である尿酸結晶の行方を急激に見失うと、対象を探し続けて活動を激化させることによるためとも言われているが異論も多く、血中尿酸値急降下時の明確な発作システム自体の解明はなされていない。ただし後述の通り、疫学的には、血中尿酸値の上昇とともに血中尿酸値の急降下も、痛風発作の要因であることは広く知られており、痛風発作時における尿酸生成阻害剤や尿酸排出促進剤などの服用は禁忌とされていることが多い。

必ずしも恒常的な高尿酸血症患者がすべて痛風発作を起こすわけではなく、そのメカニズムは解明しきれていないが、よく知られている発作のきっかけとしては、脱水症状に伴う急激な尿酸値の変動、物理的衝撃による結晶の剥落、不適切なタイミングでの尿酸コントロール薬の投与、激しすぎるスポーツなどが考えられている。アルコールの痛飲はアルコール代謝に水が回ることで起こる脱水症状に加え、乳酸と尿酸の競合による尿酸排出の遅れによって尿酸値を激しく変動させ、翌日朝に痛風を起こすきっかけとなることが多いともされる。

あくまで、高尿酸血症の患者でも痛風を起こさないケースは少なくないため、引き金となる要因が全て分かっているわけではない。米国で、高尿酸血症の患者に尿酸値を下げる薬を処方しないのはその考え方に基づいているが、高尿酸血症は腎臓結石など別の病気のリスク要因であることは忘れるべきではない。

2012年(平成24年)、東京薬科大学防衛医科大学校東京大学のグループが、尿酸を体から排出するタンパク質の動きを調べた。このタンパク質を作り出す遺伝子を排除したマウスでは、尿酸を排出する機能は腎臓では変わらなかった一方で、小腸や大腸で大きく低下することを確認し、これまで原因とは考えられて来なかった「腸の働き」が痛風に関わりがある可能性を発表した[1]

症状

関節に激烈な痛みが起こり、発赤や発熱を伴う。尿酸の結晶は比重が高く重力に引かれて足部に沈着しやすいため、痛風発作(痛風性関節炎)は足趾(特に母趾MP関節)に好発する。初発症状は足部であることが多いが、足関節、膝関節から発症することもある。発作を繰り返すたびに症状は増悪する。発作の痛みは骨折の痛み以上といわれ、非常に苦痛を伴う。また、耳介などに痛風結節と呼ばれる皮下結節を作ることがあり、これが診断の助けとなる。X線では骨髄腫のように"punched out"と呼ばれる骨破壊像が見える。痛風と鑑別を要する関節炎の疾患としては関節リウマチ変形性関節症偽痛風がある。

疫学

患者の90%以上が男性。最近の疫学的研究によると、アルコールは痛風のリスクを高めるが、特にビールは最もリスクが高い[2](ただしプリン体は比較的少ない)。ワインは飲んでも痛風のリスクを高めない[3]尿酸とはプリン体と呼ばれる物質の代謝産物であり、プリン体を多く摂取すると高尿酸血症、さらには痛風の引きがねとなると考えられる。のみならずに含まれるプリン体も痛風のリスクを高めるが、野菜に含まれるプリン体麦芽[4]類に多い)は高めない[5]。また、フルクトース(果糖)は急速に代謝されてアシドーシスを引き起こしやすく[6]、酸性下で尿酸が析出しやすくなるため、フルクトースを構成体に持つ砂糖の多いドリンクを週に5~6杯飲む場合やフルクトースを含むフルーツジュースの摂取も痛風のリスクを増大させる[7]。近年、高尿酸血症に関わる遺伝子が各国(含日本)で発見されている。

そのほか、精神的ストレスや水分摂取の不足も発症の引きがねとなる。特に水分摂取の不足に関しては、日常的に意識して水分を多めに取り、血中尿酸濃度を(排尿によって体外に出す事で)低く保つことが勧められている。

検査

  • 痛風を発症する患者では、少なくとも非発作時には血液検査での高尿酸血症が見られるが、25%の患者で発作時に尿酸値が正常である。
  • 関節穿刺液検査における多形核細胞の増加と尿酸結晶の証明(これが一番大事だが、感度は100%ではない。85%程度とする文献がある)。

治療

対症療法

好中球の活動抑制、炎症鎮痛、患部の管理、緩やかな尿酸の排出、尿酸値上昇要因の排除、の5手法併用を以って行う。

好中球の活動抑制

  • コルヒチン製剤力価0.5mgを、発作を起こすに足る程度の好中球の活動の抑制が果たされるまで、概ね4時間以上の間隔で経口投与することが多い。
  • 日本において認可されているコルヒチン剤は製品名「コルヒチン」として塩野義製薬が生産していたが、2010年4月に高田(タカタ)製薬に販売が継承された。国内では先発品の本剤しかないが、薬価が安いことがあり、ジェネリック品は開発されていない。海外においてもインガラボラトリ社インド)の製品名「ガウトニル」など対外向けジェネリック産品が生産されているが、日本においては未認可である。

消炎鎮痛

現状では、非ステロイド系鎮痛消炎薬を使用することが多い。例えば、力価60mgのロキソプロフェンナトリウム製剤を、その投入が不要と認められるまで、概ね8時間以上の間隔で経口投与することが多い。ロキソプロフェン製剤服用にあたっては、壁へのダメージを避ける目的で、テプレノン製剤レバミピド製剤などの胃粘膜保護剤を併せて処方することが多い。

  • NSAIDs(非ステロイド系抗炎症鎮痛薬)と呼ばれる種類の痛み止めの薬で対症療法を行う。インドメタシンなどに、臨床研究に基づく科学的根拠がある(根拠に基づいた医療)。
  • 疼痛が強い患者では、ステロイドの全身投与や、単関節炎患者では関節内投与が極めて有効である。最近では、最初にNSAIDsではなくステロイドを服用したほうが、効果は同等で副作用(悪心消化管出血など)は少ないとする報告がある[8]

患部の管理

  • 発作を起こしている関節ないし周辺部位は、安静および冷涼に保持する必要があり、患部を動かしたり熱温する行為は炎症を重篤化させることが知られている。特に、発作時患部の駆動および温度上昇の双方を同時にもたらす入浴は禁忌とする。医療資格を持たない一般人が、安易に民間療法的な発想で、痛風発作と同様に関節部に痛みを伴う関節リウマチの慢性期療法等の温泉療法を連想し入浴を行うと、痛風発作の症状をほぼ100%悪化させる。

緩やかな尿酸の排出

  • 体内の尿酸を自然に排泄する手段として、水分を多めに摂り排尿を促す。
  • 尿酸排泄促進薬の使用中は酸性尿となるため尿路結石や腎障害を発症しやすく、尿アルカリ化薬を併用する。
  • 痛風発作中に尿酸降下薬の投与を開始すると発作を増悪させるので、投与を開始してはならない。ただし尿酸降下薬の投与中は原則として服用を中止しない。

尿酸値上昇要因の排除

  • 血内の尿酸を濃化させる行為を慎む。具体的には、業務・対人などストレスを発生させる行為の中止、負荷のかかる運動の中止(負荷のかかる運動によって死滅した筋細胞はプリン体の主要な供給源のひとつである)、プリン体を多く含む食材の摂食中止、飲酒の中止などを行う。
食事療法
  •  高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインの「生活指導」では、特に「1日400mgを目安にしたプリン体の摂取制限」が示されている[9]

予防

高尿酸血症患者においては、その治療方法そのものが、すなわち痛風発作の予防方法のほぼ全てを充足するほか、非高尿酸血症者においても、日常において血中尿酸の急激な濃淡を起こさないような体調・ストレスの管理を要する。

  • 尿酸産生抑制剤であるアロプリノールや、尿酸排泄促進剤であるベンズブロマロン(分泌後再吸収阻害剤)、プロベネシド(分泌前再吸収阻害剤)を予防的に経口投与し、高尿酸血症を改善する。これらは、高尿酸血症の原因が、尿酸産生過剰によるものか尿酸排泄能力低下によるものか、あるいは薬効の患者への影響度などを見極めて使い分ける。
  • 血中尿酸値の濃化・淡化を問わず、その急激な変動そのものが痛風発作の原因となるため、これらの薬剤については、急激な尿酸値低下による発作の悪化や再発を誘引せぬよう、痛風発作の発現中ならびに寛解直後数週間の服用は推奨されていない。
  • 『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』[10]では、「適度な量の飲酒」、「プリン体の摂取を控えめにする」、「十分な水分摂取」、「尿をアルカリ性に保つ」、「運動」、「ストレスの解消」がすすめられている。
  • 帝人ファーマが創製し、武田薬品工業が米国で開発したフェブキソスタットが新規痛風治療薬として2009年に承認された。

その他

  • 痛風患者は発作の前兆を感じることがあると言われ、そのときコルヒチンを飲むと発作を予防する効果があるとされている。しかしこの治療法に臨床研究に基づく根拠はない。ただし、発作の初期症状である発作発現部に感じる「違和感」や、ごく軽い内部から感じる痒み等については、痛風発作の初発患者のほとんどがこれを軽微な思い過ごしと見過ごして発作を激痛による歩行困難となるまで重篤化させるが、再発患者は既にその初期症状の特徴である患部の微妙な違和感を体験しているため、痛風発作発生のごく初期にいち早く診療を受けてコルヒチンを処方され服用して、激痛が発生する前に発作の進行を抑制・寛解させるケースが非常に多い。これは、痛風発作の激痛に懲りた経験のある患者にとって再度くりかえし過酷な発作を蒙りたくないと考えるゆえの当然の行動によるものであり、あくまで発作歴のある患者が発作初期の患部の違和感を素早く感知して早期に対症療法を受けたことによる成果であって、「前兆」「予感」等ではなく発作の「自覚症状」にもとづくものであり、その診療経緯は当然に診察医のカルテにも記録されるので、疫学的に反映させることが可能なものである。

遺伝

その遺伝によって、人それぞれの痛風を患う可能性が変わる遺伝子がある。

民間療法と喫茶の歴史

水分を多めに摂る事で、非常な痛みを伴う症状の発生を予防できる事は、古くから経験によって知られていた。これは排尿によって血中尿酸濃度を下げる効果があるため、関節への尿酸結晶の発生を避けられるためである。

特に利尿作用のある緑茶紅茶コーヒー等を多量に摂取して大量に排尿すれば、それだけ大量の尿酸が体外に排泄される事にも繋がるため、より症状発生の予防ができるとされている。しかし利尿作用も度が過ぎると、脱水症状を起こして症状が悪化したり、尿路結石が出来る可能性もある。

ヨーロッパに喫茶の習慣が伝えられると、痛風の症状を緩和できたり予防できるとして、盛んに喫茶が流行・奨励された。

なお当時の緑茶が、日本中国などのアジアでしか生産されていなかった事もあり、大変贅沢な療法とされ、オランダが日本産や中国産の、イギリスが中国産の緑茶を独占的に扱っていたため、緑茶が高価過ぎて手が出せない事情から、フランスドイツでは、コーヒーの飲用が流行したという。紅茶は、保存に便利で効果の程は緑茶と大きく変わらないとして、後々のイギリスにおける紅茶文化発展の元となった。

今日では、これらの飲料は大変安価なものになったため、気軽に試せる民間療法ではあるが、前記の通り、現代医学の上では問題点も提起されているし、何より飲み過ぎれば安眠を阻害することにも繋がる。

また、尿酸値を下げることが発作のリスクを抑えるという観点から、肝機能向上(中性脂肪を減らし、肝臓内に蓄えられているプリン体自体を減らす)と腎機能向上(腎臓の負担を減らし、効率的に尿酸の排出をうながす)は重要な療法といえる。具体的には、散歩などの有酸素運動、低塩分、低カロリーな食事、カリウムを多く含む食品の摂取、十分な水分補給と入浴、睡眠などが効果があるとされる。

アメリカでは尿酸値を下げる効果と痛風発作の痛みを緩和する効果があるといわれるアメリカン・チェリーは、アントシアニンなどのポリフェノール類が働いているといわれている(効果はあるようだが、まだ臨床と研究段階でメカニズムは解明されていない)。

経験的な民間療法として、スライスした生たまねぎを半分から一個分、水にさらさずに食べることにより、発作時の劇的な痛みを軽減し、また痛みの続く期間を短くするという説がある。また、日常的に摂取することにより、発作を抑え、痛風体質の改善にも高い効果があると言われている。これは、たまねぎに多く含まれているクェルセチンの炎症抑制効果と、尿酸の増加を抑制する効果のためではないかと言われている。ただし、生のたまねぎの摂取は、体質によって胃が痛むなどの副作用もあり、この点には注意が必要である。

参考文献

  1. ^ “痛風の発症 腸の働きが影響か”.  NHK. (2012年4月4日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120404/k10014195551000.html 
  2. ^ Choi HK; Atkinson K; Karlson EW; Willett W; Curhan G. Alcohol intake and risk of incident gout in men: a prospective study. Lancet 2004 17;363:1277-81.
  3. ^ Choi HK; Atkinson K; Karlson EW; Willett W; Curhan G. Alcohol intake and risk of incident gout in men: a prospective study. Lancet 2004 17;363:1277-81.
  4. ^ KIRIN_お問い合わせ プリン体と人体の関係について(参考)
  5. ^ Choi HK; Atkinson K; Karlson EW; Willett W; Curhan G. Purine-rich foods, dairy and protein intake, and the risk of gout in men. NEJM. 2004 11;350:1093-103.
  6. ^ http://www.umin.ac.jp/fukusayou/adr123e.htm
  7. ^ Hyon K Choi, Gary Curhan. Soft drinks, fructose consumption, and the risk of gout in men: prospective cohort study BMJ 2008; 336: 309-12.
  8. ^ Man CY et al. Comparison of oral prednisolone/paracetamol and oral indomethacin/paracetamol combination therapy in the treatment of acute goutlike arthritis: A double-blind, randomized, controlled trial. Ann Emerg Med 2007;49:670-7.
  9. ^ 食品・飲料中のプリン体含有量/公益財団法人痛風財団
  10. ^ 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン ダイジェスト版』日本痛風・核酸代謝学会、2002年9月。ISBN ISBN 4-901935-02-X
  11. ^ この遺伝子は発現させるたんぱく質同様ABCG2と呼ばれる

関連項目

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