レンズ付きフィルム

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レンズ付きフィルム

レンズ付きフィルム(レンズつきフィルム)は、フィルム交換をしないことを前提とした構造の、軽便なカメラである。

概要

一般的なフィルムカメラでは、あらかじめ購入しておいたカメラへ、別途購入したフィルムを使用者自身が装填する。撮影後にはこれまた使用者自身がフィルムを巻き上げ・巻き戻し等を行って取り出し、写真店などに持参して、現像・焼付け処理を依頼することになる。このような方法は機械の苦手な者には取っつきづらく、装填ミスや露光ミスが起こりうる。また、出先などで撮影しようにも、カメラ本体がなければ写真撮影ができない。

そこでフィルムをいちいち装填したり取り出したりするという考え方をやめ、カメラ機能をつけた筐体へフィルムを封じたのがレンズ付きフィルムである。したがって、フィルム装填・取り出しが必要なく、前述したミスも通常の使用では起こらない。撮影終了後はそのまま現像・プリントを依頼し、現像されたネガフィルムおよびプリントされた写真が返却されるシステムとなっている。

また、発売当時のカメラ自体もまだまだ高級品であり、カメラ自体を紛失したときの損失は大きかった。そうした時代背景の中での提案された手軽さが、デジタルカメラが開発される以前の発売初期に爆発的ヒットとなった理由の1つである。

外部のカメラ機能部分は現像後も返却されず、フィルムを使い切った時点でカメラとしての機能を果たさなくなることから使い捨てカメラ」と呼ばれることも多いが、最初にこれを発売した富士写真フイルムは品名として「レンズ付フィルム」、それ以外のメーカーは「使い切りカメラ」などと称している。これは、「カメラ」とした場合、現像後にユーザーからカメラ部分の返却を求められる可能性があること、使用済み筐体の再生利用が強化されていて「使い捨て」と呼ばれることは実態にそぐわないこと、などが理由としてあげられる[1]

時折インスタントカメラと呼ばれることがあるが、これは「インスタント」を「即席」ではなく「簡易」と解釈をしたことによる誤用である。インスタントカメラとは本来、ポラロイドカメラや富士フイルムの「フォトラマ」「チェキ」等、その場で紙焼写真が出来上がるカメラ方式のことを指す。

構造

カメラとしてはごく簡易な固定焦点式がほとんどで、シャッタースピードも固定されている。フィルムの巻き上げは撮影1枚ごとに指の腹でダイヤルを回転させる手動式[2]で、使いきり式であるためフィルムの自在な巻き戻しや交換はできず、裏蓋もない。

露出調整は高感度でラティチュードの広いネガフィルムに頼り、絞りもあらかじめ絞られて(F11 - 16程度)パンフォーカスによりピント調節を省略している。このため、ユーザーは最小限のカメラ操作で簡単に写真を撮影することができる。

もっとも近年は切替でピント・絞り・シャッター速度などを変更できる製品も登場している。

ISO400以上の高感度フィルムは、従前ポピュラーだったISO100クラスのフィルムに比べ、シャッタースピードを速くできるが、画質が粗い傾向があった。しかし1980年代には技術・品質の向上により、画質のザラツキ感がさほど感じられないようになった。これによって、焦点固定・シャッター速度固定のカメラでも、手ぶれや露光不足などの問題を伴わずに満足しうる質の写真を撮影できるようになった。また、同じ頃プラスチックレンズの品質が向上し、低コストで量産できるようになった。またコニカ製品の中には、レンズの低収差による描写力低下を補うためにフランジバック(フィルム面)を意図的に湾曲させ、非球面レンズと同様の効果を狙って画質の向上を狙った機種も現れていた。

歴史

かつて同じ趣旨の製品が数種類登場していたが、現像の取り扱いの問題もあり定着しなかった。

例えば、1949年にPhoto-Pacという会社はH. M. Stilesが発明した$1.29で製造できるボール紙でできた使い捨てカメラ (8枚撮り) を販売したが、流行らなかった[3]

1960年代には、フランスのFEXという会社が"Photo Pack Matic"というプラスチック製の使い捨てカメラ (12枚撮り、4x4 cm) を発売した。

一般的になったのは、1986年に富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)が「写ルンです」(うつるんです。日本国外名QuickSnap)を発売したことによる。同社では、外出時にカメラを忘れた場合などの際、臨時で買い求めるといった用途を想定した、一種のニッチ商品であったが、観光地など出先で買い求め即座に撮影できる手軽さでヒット作となり、急速に普及していった。

初期モデルは110カートリッジフィルム規格を採用。即座に撮影できる手軽さでヒット作となり、すぐにフィルムの主流規格である35ミリフィルムのISO400に仕様変更される。

ファイル:Konica nice shot.JPG
コニカ製品のOEM例。左上:ダイエー向けセービング商品、左下:ローソン向け商品、右上:三菱製紙向け商品、右下:コニカ自社向け製品

その成功に伴い、

  • コニカ(後のコニカフォトイメージング→コニカミノルタフォトイメージング→DNPフォトマーケティング→DNPフォトルシオ)
    • 「よく撮れぞうくん」シリーズ
    • 「撮りっきりコニカ NICE SHOT」シリーズ
    • コニカミノルタ 撮りっきりMiNi」シリーズ
  • コダック
    • 「スナップキッズ」シリーズ
  • アグフア
  • 三菱製紙
    • 「三菱カラー フィルム入りカメラ パシャリコ」(フィルム以外はコニカのOEM)

などの競合フィルムメーカーがこの分野に参入し、他にも

など家電メーカー等の参入が見られた。

また、ヒットに伴い望遠・広角、フラッシュ付き、パノラマ撮影仕様、セピア調撮影仕様、キャラクターもの、防水タイプなど、様々な付加機能やバリエーションを伴った製品が続々と発売された。特にフラッシュは、固定焦点カメラが不得意な光量不足の状況において非常に有効な対策となったことから、レンズ付きフィルムにおける標準的な装備品となった。近年では、より高感度(ISO800 - 1600)なフィルムを使用して夜景を綺麗に写せるもの、光センサーを搭載して自動で絞りを調節するものなど、高性能な機種も登場している。これらの高機能化は、後述するように、現在においてもレンズ付きフィルムに対する一定の需要を下支えする要素となっている。

2000年代始めからの、デジタルカメラと、デジタルカメラに必須となるデータメディアの低価格化・高性能化による急速な普及、携帯電話に搭載されるカメラ撮影機能の高性能化により、市場の需要は減少傾向にある。また、出荷メーカーは富士フイルム・コダック等のフィルムメーカーにほぼ限定されている。

しかし、テレビ番組がっちりマンデー!!が2009年に放送したところによると、レンズ付きフィルムにはいまだ一定の需要があるという。一例として、精密機械の塊であるデジタルカメラが苦手とする高温多湿環境、具体的には夏の海岸や冬のスキー場など、高価なデジタルカメラやカメラ機能付携帯電話の使用を躊躇してしまうような環境でも、レンズ付きフィルムなら安価なのでためらわずに使用できることに加え、前述の高性能化によりこれらの環境に対応したカメラが、同じ機能を持つ一般的なカメラに比べて格段に安価に必要なときだけ手に入るという合理性により選ばれているという。加えて、フィルム付カメラ発明の原点となった、「カメラを(自宅などに)忘れてきた」場面における需要、デジタルカメラが故障、充電切れ、メディア容量不足などで利用不能になった場合の代替品としての需要もある。さらに、パソコンに取り込んで容易に改ざんが出来るデジタルカメラに比べ、改ざんが非常に困難であるネガフィルムという証拠が残るため、証拠写真向けの需要もあるという。デジタルカメラの普及で、フィルム装填式のカメラを手放したユーザーが、ネガフィルムを残す必要があるときだけ、レンズ付フィルムを買うという、デジタルカメラの普及が新たに開拓したシェアもあるという。

文化

レンズ付きフィルムが登場するまで、カメラは低価格化・操作の容易さが進んでいたとはいえ、まだ高価な商品であり、紛失・盗難による事故や事件を防ぐ目的から、一部の学校では修学旅行など学校行事への個人所有カメラの持参は制限もしくは禁止していた。しかし、安価なレンズ付きフィルムなら持参を許可するという学校がある。このような学校の場合、やはり高価なデジタルカメラの持参は禁止という考えを貫いているところもある。また、教育上の視点から、携帯電話の携帯を禁止している学校は多い。

1990年代にかけては高校生を中心に、使い捨てフィルムを使用した自分撮りが流行り、超広角レンズと前面にミラーを配置して自分撮りのしやすいものやフィルムメーカー純正のセルフタイマー付き三脚も登場した。しかし、こちらは、プリクラの普及、自分撮りを意識したカメラ機能付携帯電話の登場、さらには、デジタル化され取り直しや簡単な加工も可能になった自動証明写真撮影機に取ってかわられている。

使用時の注意点

レンズ付きフィルムは、特別に写真についての知識のないユーザーでも気軽に使えるように設計されているが、操作の簡略化を実現するためにカメラの性能は限定的なものとなっており、撮影時に以下のような制約がある。これらはいずれも、パッケージに注意事項として記載されている。

レンズ付きフィルムの大部分は、日中の屋外での一般的な被写体を撮影することを想定しており、内蔵のフラッシュは日陰や逆光時の補助光源としての、ごく低出力のものである。また、ネガフィルムは露光過剰には強いが露光不足には弱い。このため、フラッシュ使用時に離れた被写体へ光が届きにくい[4]。また、本格的な夜景を撮影することは難しく、屋内での撮影も露光不足を起こしやすい[5]

ほとんどのレンズ付きフィルムのピントが合う撮影距離は1m以上となっており、被写体に近づきすぎるとピンぼけになる。また、レンズがボディに埋没した形状のため、撮影時に指の位置に気をつけないと、撮影者の握り込んだ指が写り込んでしまう 。

一般的なレンズ付きフィルムでは、巻き取り機構の簡素化と撮影済み画像の保護の目的から、フィルムはパトローネから引き出された状態で装填されている。撮影が進むにつれて撮影済み分のフィルムはパトローネに巻き込まれる。従ってネガ上のナンバーと画像の撮影順が逆になる(小さいナンバーの画像ほど新しい画像になる)ため、焼き増しなどの際にはネガフィルムの確認に注意を要する。

リサイクル

「使い捨てカメラ」と呼ばれている理由の1つに、登場初期は回収されたカメラ機能付フィルムケースは回収された後廃棄されていたという経緯がある。レンズ付フィルムが爆発的ヒットを飛ばす中、大量の産業廃棄物を出すこの商品は、大量消費社会の象徴として取り上げられたり、時に環境保護団体やマスコミから槍玉に挙げられることもあった。

そこで、当時の富士写真フィルムは、回収したケースの再利用を進めた。現在は、他メーカーもほとんどの商品がリサイクルされている。ほとんどの部品は分解のうえ、点検して再利用、破砕して原料として用いるなどの手法でリサイクルされる。

フラッシュの電源として内蔵されているアルカリ乾電池についても、途中で取替えが出来ないという製品の構造上、余裕を持った容量設計となっていることもあり、消耗度が少ない(最大枚数の39枚に全てフラッシュを使用したとしても電池の余力は十分に残っている)。この電池も、再利用されている。店舗によっては電池をもらうことができるほか、障害者支援の一環として、梱包を委託した上、リサイクル乾電池として販売しているケースもある。

一方で、メーカーの意図しないリサイクルがなされていた事例もある。1990年代前半頃から、メーカーとは無関係の企業によって、使用後の製品にフィルムを再装填した商品がディスカウント店などで市販されていた。現在は、メーカー側が構造部品に再装填を防止する対策を施したため、近年ほとんど見られなくなった。

なお、フラッシュ内蔵の商品には電子回路が内蔵されているため、不用意に分解すると感電の恐れがあるので、一般の使用者は避けた方がよい。

流通チャネル

現在もなお、様々な流通チャネルで販売されているのも、現在でも一定の需要がある理由の1つといえる。カメラ店はもちろん、コンビニエンスストアスーパーマーケットホームセンターディスカウントストア[6]、観光地のお土産物売り場など様々である。有名観光地には、自動販売機が設置されているが、台数は減少傾向にある。

インスタントカメラへの間接的影響

ポラロイドに代表されるインスタントカメラは、インスタントフィルムの価格が高価で、すぐに写真が必要となる特殊用途での需要にとどまっていたが、レンズ付フィルムで流行した「自分撮り」需要などのマーケット分析がなされ、フィルムサイズを小さくし、カメラも構造をシンプルにして、本体・フィルム価格を大幅に値下げしたインスタントカメラ・チェキなどは、自分撮りのメインユーザーであった若い女性、とりわけ女子高生のニーズを捉え、ヒット商品となった。しかし、カメラ機能付携帯電話には、自分撮りが簡単に出来る機能が盛り込まれており、レンズ付フィルムとは異なり、ヒットは収束している。ポラロイド社の倒産は、それを如実に物語る一つの事例である。

同種製品

  • 使い切りのデジタルカメラも存在するが[7]、コスト面など様々な問題から、普及するには至っていない。

脚注

  1. ^ 初期の製品は「フィルム」として販売していることを強調するため、一般に認知度の高いフィルムのパッケージと同様の厚紙製の外装を、レンズ付きフィルム本体に施していたものが多かった。
  2. ^ オリンパス・ペンなどに先例のある、簡易な巻き上げ方式である。逆転防止ラッチが内蔵されて回転方向を一方向へ規制しており、誤操作を防止している。
  3. ^ The First Disposable Camera”. 2008年11月25日閲覧。
  4. ^ 特に記念写真などで大人数を写す場合、全員をフレームに収めようとするとどうしても撮影者は後ろへ下がる必要があり、フラッシュ光が届かなくなりやすい。
  5. ^ 近年の製品では露光不足対策が進んで露光不足を起こしにくくなった。
  6. ^ 近年、一部のコンビニエンスストアでは、デジタルカメラ用のメディアや充電池代替となる乾電池を販売している店もあるが、多種多様なメディア種別・電池種別に対応できているわけではない。スーパーマーケットやホームセンターでも同様である。
  7. ^ 一例として【レポート】世界初の液晶付き使い切りデジカメ試用レポート - デジカメWatchなど

関連項目