被写界深度
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被写界深度(ひしゃかいしんど)とは、写真のピントが合っているように見える領域の広さのこと。写真用レンズにおいては、ある一つの設定で厳密な意味でピントが合っている場所は、一つの平面上にしかないが、感覚的にはその前後にも十分にはっきりと像を結んでいるように見える範囲がある。その範囲のことを被写界深度と呼んでいる。
右の二つの写真を比較してみるとわかると思うが、上の写真では、近くのバラにも、遠くの洋館にも焦点があっているように見える。焦点があっている範囲が広いのである。このような写真を「被写界深度が深い」または「パンフォーカス」であるという。
一方、下の写真では花の「シベ」の部分にしか焦点があっておらず、花びらでさえぼけている。焦点があっている範囲が狭いのである。このような写真を「被写界深度が浅い」という。
同じ内容を指して被写体深度と言う表記が用いられることがあるが、これは誤用である。また、焦点深度という言葉が用いられるが、実はまったく違う概念である。
被写界深度は英語でDepth of fieldといい、略称はDOFである。
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[編集] ピントが合っているとはどういうことか
理想的な写真レンズにおいてピントが合っていると言うことは被写体の位置に点光源があると想定したとき、その点光源から放たれた光が、フィルム面ないしは撮像素子表面においてもただ一点にのみ集中するということである。実際のレンズでは、諸収差のためそのような状態は実現できないのであるが、実用上は仮想的な点光源からの光がフィルム面上でもっとも強く収束するような条件を持って、ピントが合っていると考える。ピントが合っている状態から、先の仮想的な光源を前後に動かすとフィルム面上での像はよりぼやけることとなる。絞りの形状が円形であるならば点光源からの光がフィルム面上ではある円形の範囲に散らばる。このように、一般的にはピントが合っていてもいなくても点光源からの光がフィルム面上で結ぶ像は円形となり、この円のことを錯乱円と呼ぶ。錯乱円の大きさはレンズの焦点距離と絞り値に依存し、被写体の距離がピントが合っている場所から離れれば離れるほど大きくなる。
錯乱円の大きさが、フィルムに塗布された乳剤中の感光性物質の粒子の大きさや、撮像素子の画素ピッチよりも小さかったならば、ピントが厳密に合っているのかどうかを撮影された画像から区別することは不可能である。また、撮影された画像を鑑賞する際に、錯乱円の大きさが人間の目で見て点と区別がつかないほどに小さければ、その位置でもピントが合っているとみなしてかまわない。そのような最大の大きさを持つ錯乱円のことを特に許容錯乱円と呼び、フィルムや撮像素子のサイズなどによって異なってくる。
[編集] フィルムフォーマットごとの許容錯乱円の一覧
以下にさまざまなフィルムフォーマットにおける許容錯乱円の大きさについて典型的に使用される大きさを例示する。ただし、これらはあくまでも典型的な数値であり、大きく引き伸ばすときはこれより小さな数値が要求されるし、用途によってはもっと大きな数値で十分な場合もある。
| フィルム フォーマット |
フィルムのサイズ | 許容錯乱円の直径 |
|---|---|---|
| 小サイズ | ||
| APS-C | 22.5mm x 15.0 mm | 0.019 mm |
| 35mm | 36 mm x 24 mm | 0.026 mm |
| 中判 | ||
| 645 | 56 mm x 42 mm | 0.043 mm |
| 6x6 | 56 mm x 56 mm | 0.049 mm |
| 6x7 | 56 mm x 69 mm | 0.055 mm |
| 6x9 | 56 mm x 84 mm | 0.062 mm |
| 6x12 | 56 mm x 112 mm | 0.077 mm |
| 6x17 | 56 mm x 168 mm | 0.109 mm |
| 大判 | ||
| 4x5 | 102 mm x 127 mm | 0.100 mm |
| 5x7 | 127 mm x 178 mm | 0.135 mm |
| 8x10 | 203 mm x 254mm | 0.200 mm |
[編集] 焦点距離・絞りと被写界深度
一般に被写界深度はレンズの焦点距離、絞り、許容錯乱円の大きさに依存する。具体的には次のように計算される。
はじめに、その距離の被写体にピントを合わせたとき無限遠が被写界深度の後端ぎりぎりに入るような距離(これを過焦点距離と呼ぶ)を計算する。過焦点距離をH、レンズの焦点距離をf、レンズの絞り値をN、許容錯乱円の直径をcとするとその関係は
となる。
つぎに、任意の距離の被写体に焦点を合わせたときの被写界深度の前端と後端をそれぞれ計算する。被写体の距離をs、被写界深度の前端後端をそれぞれDN、DFとすると
となる。
上記の式を見ればわかるように、被写界深度はレンズの焦点距離が短い(広角より)なほど、また絞りを絞り込むほど深くなる。この性質を利用して、トイカメラやレンズつきフィルムなどの多くは、ピント合わせのための機構を省略したパンフォーカスの設定で使用することが多い。
しかしながら、絞り値をあまり大きくすることにも問題がある。ある程度以上絞り込んだ場合、絞りによる光の回折現象によっていわゆる小絞りボケと呼ばれる現象が発生する。許容錯乱円の大きさが小さい、小サイズフォーマットほどこの傾向は顕著となり、デジタルカメラなどで問題とされるケースがある。
また、被写界深度はフィルムフォーマットの影響も受ける。同じ画角で撮影しようとしたとき、焦点距離はフィルムサイズに比例し許容錯乱円の直径もまた大雑把にはフィルムのサイズに比例する。このため、同じ画角同じ距離同じ絞り値で撮影したときの焦点深度はフィルムサイズが小さいほど深くなることになる。デジタルカメラなど、既存の35ミリフィルムサイズよりも小さな撮像素子を使っていることが多い(フルサイズ機を除く)ので被写界深度が深くなり、ボケを生かした撮影などには不向きであるといわれている。
[編集] 被写界深度を生かした写真表現
[編集] パンフォーカス
遠くのものも、近くのものもハッキリ写ってほしいという願望は、平均的なカメラ利用者にとって、ごく自然なものといえよう。たとえば、観光地に行って背景と、手前の人物の両方にピントが合ってなければ記念写真としては失格である。そのため、こういう場合は、被写界深度を深くし、パンフォーカス状態で撮るのが適切である。できるだけ、広角レンズを用い、絞りを絞り込んで(F値を大きくする)撮影するのが基本である。ただ、絞り込むと、どうしてもシャッタースピードが遅くなり、暗いところではブレの原因になる。ある程度、感度を上げてシャッタースピードを短縮することも一つの工夫である。また、絞りすぎると、光の回折現象のため小絞りボケが生じるので注意が必要である。携帯電話のカメラ、コンパクトカメラやレンズ付きフィルムはパンフォーカスに適合して設計されることが多い。
パンフォーカスは、風景写真などにもよく利用される。またスナップ写真に用いると、ピント合わせの時間が省略でき、シャッターチャンスをつかみやすい。
[編集] ぼけ表現
逆に、被写界深度を浅くして、主役のみに焦点を当て、背景や前景をぼかす写真表現もある。ポートレートなどではこの方法が多用される。焦点距離の比較的ながい望遠レンズを用い、絞りを開き、背景をぼかし、人物を浮かび上がらせるという手法である。花などの写真にも取り入れられている。
これは日本発祥の方法で、2000年ごろから外国でも「ボケ」(en:Bokeh)という言葉が使われ、斬新な表現手法として注目されている。
[編集] その他
視力の弱い人が物を凝視するとき、顔をしかめることがよくある。 この行動も、まぶたを狭めて(絞り込んで)被写界深度を深くとるためのものであり、 上記の理屈で説明できる。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- Hummel, Rob (editor). American Cinematographer Manual, 8th edition. Hollywood: ASC Press, 2001.
[編集] 外部リンク
以下は英語版より
- Depth of field calculator
- Demonstration that all focal lengths have identical depth of field
- Depth of Field: illustrations and terminology for photographers
- Explanation of why "... all focal lengths have identical depth of field" is true only in some circumstances.





