G級駆逐艦 (2代)

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G級駆逐艦
基本情報
種別 駆逐艦
命名基準 "G"で始まる英単語
運用者  イギリス海軍
 カナダ海軍
 ポーランド海軍
 オランダ海軍
就役期間 1936年 - 1947年
前級 F級
準同型艦 ギリシャの旗ヴァシレフス・ゲオルギオス級
アルゼンチンの旗ブエノスアイレス級英語版スペイン語版
次級 H級
要目
基準排水量 1,335トン
全長 98.45 m
99.67 m (嚮導艦)
最大幅 10.13 m
10.28 m (嚮導艦)
吃水 2.59 m
2.64 m (嚮導艦)
ボイラー 水管ボイラー×3缶
主機 蒸気タービン×2基
推進器 スクリュープロペラ×2軸
出力 34,000馬力
38,000馬力 (嚮導艦)
速力 36.0ノット
36.5ノット (嚮導艦)
航続距離 4,800海里 (15kt巡航時)
燃料 重油470トン
乗員 145名
兵装45口径12cm砲×4門
62口径12.7mm機銃×8門
・53.3cm4連装魚雷発射管×2基
爆雷投射機×2基
・爆雷×20発
ソナー 121型 探信儀
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G級駆逐艦英語: G-class destroyer)は、イギリス海軍駆逐艦の艦級。ロンドン海軍軍縮条約を受けて、E/F級をもとに艦型の圧縮を図り、1933-4年度計画で9隻が建造された[1][2]。「グレイハウンド」をネームシップとして、グレイハウンド級Greyhound-class)と称することもある[3]

来歴[編集]

イギリス海軍は1924-5年度より駆逐艦の建造を再開し、まず改W級駆逐艦をもとに第一次世界大戦の戦訓や新しい技術を盛り込んだプロトタイプとして「アマゾン」と「アンバスケイド」を建造したのち、1927-8年度で量産型としてA級、続く1928-9年度で小改正型のB級が建造された。また1929-30年度のC級では大型化して燃料の搭載量増加を図り、1930-1年度のD級では対潜戦能力を強化、1931-2年度のE級では艦砲を改良、1932-3年度のF級では水雷兵器を更新するなど、順次に拡大・強化を重ねつつ建造されていた。しかし当時はロンドン海軍軍縮条約体制下であり、駆逐艦の艦型抑制が必要になった。このことから1933-4年度の建造艦は、機関部の設計変更によって艦型の圧縮を図ることとなった。これが本級である[3][4]

設計[編集]

船首楼型、2本煙突という基本構成はC~F級と同様である。E級の一部で採用した三脚式後檣をさらに改善して全艦に設置している[1]

機関構成もE級以来の方式がおおむね踏襲され、アドミラルティ式3胴型水管ボイラーを(圧力300 lbf/in2 (21 kgf/cm2)、温度326.7℃)、タービンはパーソンズ式オール・ギヤード・タービンを搭載した[5]。ただし上記の艦型圧縮の要請から、巡航タービンを省いて、機関部の短縮を図った。これは、第一次世界大戦中の主機使用状況を分析した結果、15ノット以下での航行は稀であり、したがって巡航タービンの恩恵も小さいと判断されたためであった[3]。また嚮導艦「グレンヴィル」はヤーロウ式水管ボイラーを搭載している[1]

装備[編集]

兵装は、おおむねF級の構成が踏襲され、艦砲は45口径12cm砲(QF 4.7インチ砲Mk.IX)を仰角40度の両用砲であるMk.XVII砲架と組み合わせて4基(嚮導艦「グレンヴィル」では5基)、また対空兵器は4連装12.7mm機銃を搭載した[2][3][6]。なお当時、大日本帝国海軍吹雪型駆逐艦50口径12.7cm砲を搭載したのに対抗して、C級嚮導艦「ケンペンフェルト」で50口径13cm砲(QF 5.1インチ砲Mk.I)の搭載試験が行われており、本級への後日装備化も検討されていたが、成績不良のため実現しなかった[3]

水雷兵器も、F級と同様、4連装21インチ魚雷発射管2基とMk.IX魚雷の組み合わせを基本とした。ただし1933年の演習により、特に夜襲においては、多数艦による攻撃では特定目標に対して攻撃が過度に集中することが判明し、所要隻数を減らすため個艦あたりの射線数を増やすことが求められたことから、「グローウォーム」では試験的に5連装発射管2基の搭載となった[1]。また対潜戦用としてASDIC(アクティブ・ソナー)と対潜爆雷投射機、対機雷戦用として2速駆逐艦掃海具(TSDS)も併載された[3]

その後、第二次世界大戦が勃発すると護衛駆逐艦としての改装が行われ、20mm機銃の増設、また後部魚雷発射管をバーターにした45口径7.6cm高角砲(QF 3インチ砲Mk.I)の搭載による防空火力の強化、ヘッジホッグ対潜迫撃砲の搭載、爆雷搭載数の増加がなされた[1][2]

同型艦[編集]

9隻が建造され、後に2隻がポーランド海軍カナダ海軍へ引き渡され、ポーランド海軍の艦は戦後にいったんイギリスに返還されたのち、オランダ海軍に売却された。

第二次世界大戦では、6隻が戦没し、1隻が全損判定を受け閉塞船として自沈させられた。このため、外国に貸与された2隻のみが終戦まで生き残った。

# 艦名 造船所 進水 就役 その後
H03 グレンヴィル
HMS Grenville
嚮導艦仕様
ヤーロウ 1935年
8月15日
1936年
7月1日
1940年1月19日、テムズ川河口にて触雷、沈没。
H59 ギャラント
HMS Gallant
アレクサンダー・
スティーブンス
英語版
1935年
9月26日
1936年
2月25日
1941年1月10日パンテッレリーア島南西沖で触雷。マルタ島に曳航後座礁。
1942年4月5日の空襲により全損判定。1943年9月にセントポールズ・ベイ英語版閉塞船として自沈。
H37 ガーランド
HMS Garland
フェアフィールド英語版 1935年
10月24日
1936年
3月3日
1940年5月2日に自由ポーランド海軍に貸与されたが、艦名は変更なし (ORP Garland)。1946年7月23日にイギリスに返還。
1946年11月14日にオランダ海軍に売却。「マルニックス」(Hr.Ms. Marnix)として再就役。1964年1月31日退役。
H63 ジプシー
HMS Gipsy
1935年
11月7日
1936年
2月22日
1939年11月21日ハリッジ近海で触雷、沈没。
H92 グローウォーム
HMS Glowworm
ソーニクロフト 1935年
7月22日
1936年
1月22日
1940年4月8日トロンヘイム沖海戦においてドイツ海軍の重巡洋艦「アドミラル・ヒッパー」と交戦、沈没。
H89 グラフトン
HMS Grafton
1935年
9月18日
1936年
3月20日
1940年5月29日、ベルギーのニーウポールト沖にて沈没しつつあった友軍駆逐艦「ウェイクフル英語版」の乗員救助中に、
ドイツ海軍の潜水艦「U-62」の雷撃を受け艦尾を破壊される。
同日、救助に駆け付けた友軍駆逐艦「アイヴァンホー」の魚雷攻撃により撃沈処分。
H86 グレネード
HMS Grenade
アレクサンダー・
スティーブンス
1935年
11月12日
1936年
3月28日
1940年5月29日、ダンケルク撤退時に空襲を受け沈没。
H05 グレイハウンド
HMS Greyhound
ヴィッカース・
アームストロング
1935年
8月15日
1936年
2月1日
1941年5月22日クレタ島の戦いにおいてドイツ空軍の急降下爆撃機の攻撃を受け、撃沈。
H31 グリフィン
HMS Griffin
1935年
8月15日
1936年
6月6日
1943年4月7日、カナダ海軍に譲渡され「オタワ」 (HMCS Ottawa) として再就役。
1945年10月31日に退役[7]。1946年8月にスクラップとして売却され解体。

参考文献[編集]

  1. ^ a b c d e 中川務「イギリス駆逐艦史」『世界の艦船』第477号、海人社、1994年2月、72-73頁、ISBN 978-4905551478 
  2. ^ a b c Roger Chesneau, Robert Gardiner (1980). Conway's All the World's Fighting Ships 1922-1946. Naval Institute Press. p. 39. ISBN 978-0870219139 
  3. ^ a b c d e f Friedman, Norman (2009). “A New Standard Design - The A-I Series”. British Destroyers From Earliest Days to the Second World War. Annapolis, Maryland: Naval Institute Press. ISBN 978-1-59114-081-8 
  4. ^ 中川務「イギリス駆逐艦建造の歩み」『世界の艦船』第477号、海人社、1994年2月、149-155頁、ISBN 978-4905551478 
  5. ^ 阿部安雄「機関 (技術面から見たイギリス駆逐艦の発達)」『世界の艦船』第477号、海人社、1994年2月、164-171頁、ISBN 978-4905551478 
  6. ^ 高須廣一「兵装 (技術面から見たイギリス駆逐艦の発達)」『世界の艦船』第477号、海人社、1994年2月、172-179頁、ISBN 978-4905551478 
  7. ^ Sandy McClearn (1997-2006). “RIVER Class destroyer” (英語). 2017年4月1日閲覧。