日本の救急医療

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日本の救急医療(にほんのきゅうきゅういりょう)とは、急性期の疾病や怪我を有する傷病者に対して行う医療である。

概要[編集]

日本においては特に戦後、自動車の普及に伴って交通事故が激増し、これに対応する形で各地で救急告示医療機関救命救急センターの数が増加し、さらに内科系疾患にも対応する形となって現在に至っている。

現在の日本における救急医療体制は、都道府県が作成する医療計画に基づいており、二次医療圏までで対応させるとしている。また、その重症度に応じて以下の3段階で対応することとされている。救急告示医療機関もこれらの段階のうちどの段階まで対応するか想定した上で患者受け入れ体制をとっている。しかし、こうした重症度に応じた体制には限界があり、重症度を問わず診療する北米型のERシステムを採用する病院も出てきている。

救急医療体制[編集]

都道府県ごとに作成される医療計画において、機能別に初期救急医療・二次救急医療・三次救急医療に階層化されている[1]

初期救急医療[編集]

一次救急とも呼ばれる。「比較的軽症の救急患者」に対応する医療機関が救急医療を行う[2]。入院治療の必要性がなく、自力で医療機関を受診することができ、受診後は帰宅が可能な軽症患者に対応する。疾患は、上気道炎を主とする小児の発熱が最多であり、打撲切創、挫創、長管骨でない単純骨折等軽微な外傷などがある[1]

二次救急医療[編集]

入院治療を必要とする救急患者」に対応する救急告示医療機関が救急医療を行う[2]。二次救急は、救急隊による搬送であるかどうかにかかわらず、地域で発生する救急患者への診療や応急処置を行い、必要に応じて手術や入院治療を行う。疾患は、大腿骨頸部骨折、敗血症でない腎盂腎炎、汎発性腹膜炎に至らない急性虫垂炎尿路結石、自然気胸脳卒中心筋梗塞などがある[3]

三次救急医療[編集]

重症及び複数の診療領域にわたる重篤な救急患者」に対応する救急告示医療機関が救急医療を行う[2]。主に救急車で搬送される、二次救急医療では対応できない重症患者、および複数の診療科領域にわたる重篤な救急患者などが対象となる。それらの患者に、24時間体制で緊急手術集中治療管理などの高度な医療を総合的に提供する。代表的な疾患は、心肺停止[4]心筋梗塞肺塞栓症くも膜下出血急性大動脈解離敗血症多発外傷、広範囲熱傷、急性中毒などがある[5]

現状[編集]

多くの病院では当直医の人数が少なく、なおかつ当直している医師は一般の内科医外科医である[6]。ほとんどの病院で救急科専門医は不在であるため、臓器別の外科や内科の医師が救急を担当する病院が主流である[7]。例えば呼吸困難なら呼吸器科医師救急疾患として対応し、激しい下血なら消化器科医師が救急疾患として対応するほか、心不全で通院していた患者が心肺停止なら循環器科が、肝不全からの心肺停止なら肝臓内科が、胃ガンなら消化器科が対応する。このように救急診療は臓器別診療科の業務の一部として行われている現状がある[7]

救急外来はあくまでも救急搬送された重症患者が対象であるが、休日や夜間の救急外来を訪れる患者の多くは軽症患者である。こうした軽症患者の診療に追われて、ほぼ不眠で翌日も診察や手術を続ける勤務医が少なくない。安易な救急外来受診が勤務医を疲弊させて、医療崩壊を招く大きな原因となっている。こうして二次救急、三次救急を担っている病院に一次救急の軽症患者が集中し、当直医や救急医の疲弊につながっている。卒後臨床研修制度の導入で大学医局が人手不足となり、地域の関連病院へ派遣していた医師を引き上げたことで地域の病院は医師不足に陥った。加えて、卒後臨床研修制度では大学の研修医が夜間や休日に市中病院でアルバイトをせずに研修に専念できるよう給与が設定されたことで、地域の病院では当直医の確保も難しくなった[6]

救急車の出動件数も年々増加の一途をたどり、これに伴って救急車の到着時間、病院収容までの時間が延びている現状がある。その背景として 「無料である」、「虫歯が痛い」、「夜間のタクシー代わり」、「どこの病院に行っていいかわからないから」、「救急車を使えば優先的に診てもらえるから」 という悪質な利用もみられ、社会問題化している。このため、総務省消防庁では「救急車利用の適正化」を訴えている[8]

上記のような悪質な利用者や救急車の必要がない軽症患者に対して、三重県松阪市では「救急車の有料化」が導入され、入院に至らなかった軽症の場合は7,700円を徴収するとしている。ただし、軽症でも緊急性が高かった場合は医師の判断で徴収の対象外とする[9]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b 一次救急 | 看護師の用語辞典 | 看護roo![カンゴルー]”. 看護roo!. 2024年4月9日閲覧。
  2. ^ a b c d e f 疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について”. 厚生労働省. 2024年4月9日閲覧。
  3. ^ 二次救急 | 看護師の用語辞典 | 看護roo![カンゴルー]”. 看護roo!. 2024年4月9日閲覧。
  4. ^ 三次救急医療機関 | 公益社団法人 日本薬学会”. www.pharm.or.jp. 2024年4月9日閲覧。
  5. ^ 三次救急 | 看護師の用語辞典 | 看護roo![カンゴルー]”. 看護roo!. 2024年4月9日閲覧。
  6. ^ a b 本田宏『本当の医療崩壊はこれからやってくる』洋泉社[要ページ番号]頁。 [要文献特定詳細情報]
  7. ^ a b 「救急科専門医による救命救急医療体制」の構築を目指す | 医療現場最前線 | Pharma DIGITAL 旭化成ファーマ医療関係者向けサイト”. akp-pharma-digital.com. 2024年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年7月19日閲覧。
  8. ^ 救急車の適正な利用について”. 総務省消防庁. 2015年4月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月19日閲覧。
  9. ^ 救急車“有料化” 入院なしなら7700円 「出動限界」三重・松阪市が導入へ”. テレビ朝日 (2024年1月24日). 2024年2月8日閲覧。