ナン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
インドのナーン

ナンペルシア語ウルドゥー語ウイグル語 نان‎ nān ナーンヒンドゥスターニー語 nān / नान / نان ナーンタミル語 நான் nān英語 naan/nan ナーン/ナン)は、インドパキスタン中央アジアタジキスタン中国新疆ウイグル自治区ウズベキスタンアフガニスタンイランクルディスタンなどで食べられるパンである。

語源はペルシア語。平たく楕円形で、大きな草履のような独特の形をしていて、所々ぽこぽこ膨れているものが多い。インドのものは他国と異なり、二等辺三角形あるいはへら型をしている。パキスタンやウイグルのナンは丸いものが多い。ウイグルのギルデ・ナン(girde nan)は中央に穴があいており、形はベーグルとよく似ている。

小麦粉、水、酵母を主材料とし、国によってはヨーグルト牛乳、油脂、時には鶏卵、少量の砂糖スパイス類も入ることがある[1]

各国のナン[編集]

インド[編集]

インドのナーン

自然種(小麦などに含まれる野生酵母菌を自然発酵させた種)で発酵させた生地を、へら型にのばしてタンドゥールと呼ばれるの内壁に貼り付けて焼いたもの[2]。精製した小麦粉を使い、生地にヨーグルト、牛乳、ギー、少量の砂糖を加える。厳格な菜食主義者は鶏卵は使用しない。ローティー(パン類の総称)の一種である。

インド料理店ではカレーを食べる際に提供される事が多い。最近ではファミリーレストラン学校給食、カレー専門店の中にもナーンを提供する店が多くなった。このため、インド風のナーンを焼くために小麦粉などを調整したナンミックスや業務用の冷凍食品も流通している。スーパーマーケットでも家庭用に焼いたものや、冷凍食品が売られている場合も多い。

ナーンはインド国外ではインド料理を代表するパンとして良く知られているが、インドでは大きなタンドゥールを持つ家庭は少なく、精白した小麦粉で作るナーンは贅沢品である。日常的に食べられるのはむしろ少しの燃料とタワー(鉄板)があれば焼ける全粒粉フラットブレッドの一種チャパティである。

パキスタン[編集]

ウルドゥー語で「ナーン نان」という。ローティーの一種。インドのナーンと同じようにタンドゥールの中で焼き、焼きたてはふんわりしているが、形は丸いものが多く、草履型のものもある。煮込み料理(カレー)を付けたり、すくったりしながら手で食べることが多い。

イラン[編集]

ナーネ・サンギャクを焼く男性、テヘランにて
ナーネ・ラヴァーシュ、エレバンにて

ペルシア語では、「ナーン」(口語では「ヌーン」と発音する事もある)とはパン類の他、クッキーなどの菓子類をも指す単語である。例えば、揚げ菓子の一種ハトゥン・パンジェレはナーン・パンジェレとも呼ばれる[3]

主な種類は次のとおり。

ナーネ・バルバリー(نان بربری
インドのナンと似ているが、ヨーグルトや、卵は入らない。
ナーネ・シールマール(نان شیرمال
ナーネ・バルバリーと似ているが、乳と砂糖が入る。
ナーネ・ラヴァーシュ(نان لواش
ごく薄くのばして焼き、保存するためのナン。アルメニアでも作られている。
ナーネ・サンギャク(نان سنگک
小麦粉の全粒粉で作ったナン。
ナーネ・ギースー(نان گیسو
アルメニア人復活祭に食べる甘い三つ編みパン。チョレグ英語版とも。


アフガニスタン[編集]

アフガニスタンのナーン

ダリー語でも、「ナーン」は「パン」の意。ウズベク語では「ノン」(non)という。全粒粉で作ることが多い。

主な種類は次のとおり。

ナーン(نان
全粒粉で作ったナン。生地にヨーグルトや乳、卵は入らない。焼く前に、女性が作る場合は指で、男性が作る場合は刃のある道具でへこみをつけ、胡麻ニオイクロタネソウ英語版の種をふりかける。
ナーネ・ウズベキー(نان ازبکی
ウズベク人のナン。円形で少し厚め、釘や針金を埋め込んだスタンプで模様をつけ、溶き卵や乳を塗ってつやを出す。
ナーネ・ロウガニー(نان روغنی
上記のナンの生地に油脂が入ったもの。溶き卵を塗ってつやを出す。
ナーネ・ラワウシャ(نان لووشه
イランのナーネ・ラヴァーシュと同様の、ごく薄いナーン。
ナーネ・パラーター(نان پراتا
砂糖をまぶした薄い揚げパン。精製した小麦粉で作るが、生地の製法はインドのパラーターと似ている。

旧ソ連邦の中央アジア5か国[編集]

今はそれぞれ独立国となった旧ソ連中央アジア5か国(ウズベキスタンカザフスタンキルギスタンタジキスタントルクメニスタン)でも、ナンは常食となっている。

ウズベキスタンではサマルカンドのナンが伝統的に一番美味といわれ、サマルカンドのナンは5cmくらいの厚みがあり、中央が深くくぼんでいて(くぼみに装飾を施す場合もある)、堅く焼きあがってすぐ食べる時には中央のくぼみへバターを置いて多少溶かし、手でナンをちぎると同時にバターもすくいながら食べるのが一般的である[4]。 ウズベキスタンにはナンにまつわるさまざまな逸話が伝わっており、兵士が出征する前にナンを壁に貼り付け、落ちてしまったら不吉の前兆で、無事出征から帰ったらナンを壁から外して祝う。 [5]

ウイグル[編集]

カシュガルのギルデ・ナンを焼く風景

中国新疆ウイグル自治区などに住むウイグル人ナン(nan、نان)、中国語饢/馕」(拼音: náng ナン)を主食のひとつとして食べている。焼いて作るパンの総称であるが、生地を円盤状にのばし、ゲズネ(gezne、گەزنە)と呼ばれる板を使ってトヌル(tonur、تونۇر)と呼ばれるかまどの内側に貼り付けて焼くものが多い。インドやパキスタンのものと異なり、1cm程度の厚みがあり、しっかりした硬い焼きあがりである。家庭の食卓の上に常時保管され、基本的に茶やスープと共に食べる。硬くなりやすいため、割ってからこれらに漬けて食べることも多い。ウイグルのナンは中国各地の大都市のウイグル料理店や露天商が作って売っており、漢民族回族などにも消費されている。このためナンを表す漢字」がある。

主な種類は次のとおり。

カクチャ(kakcha、كاكچا)
大きく円盤状のもの
トカチ(toqach、توقاچ)
小さい円盤状のもの
アク・ナン(aq nan、اق نان)
模様を押し入れたもの
ギルデ・ナン (girde nan、گىردە نان)
中央に穴の開いたもの。ベーグルとよく似ているが、焼く前に茹でない点がベーグルと異なる
ゴシナン (goshnan、گۆشنان)
挽肉を包んだ平たい円盤状のミートパイ
ナーンビャとマトンスープ

ミャンマー[編集]

ミャンマーのナンはナーンビャ(naan bya)と呼ばれ、しばしば紅茶コーヒーと共に朝食に食べられる。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 井上好文『パンの辞典』旭屋出版 2007,p143、144、145
  2. ^ 長野 (2010)、pp.264, 270
  3. ^ ペルシア語版ウィキペディア―項目「نان」(ナーン)
  4. ^ サマルカンドでナンを食する(ウズベキスタン)
  5. ^ 出征兵士とナン

参考文献[編集]

  • Helen Saberi. Afghan Food and Cookery. Hippocrene, New York, 2000.
  • Najmieh Batmanglij. New Food of Life. Mage, Washington D. C., 2001.
  • 長野宏子 「フィールドからみた世界のパン」『麦の自然史 : 人と自然が育んだムギ農耕』 佐藤洋一郎、加藤鎌司編著、北海道大学出版会、2010年、ISBN 978-4-8329-8190-4