アイリーン・アドラー

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シャーロック・ホームズシリーズ > アイリーン・アドラー

アイリーン・アドラーIrene Adler[1]は、イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルによって発表された推理小説シャーロック・ホームズシリーズに登場する架空の人物。アメリカ生まれのオペラ歌手で、女山師[2]、機略縦横の女性[3]、ただ一人名探偵を出し抜いた女性[4]などと評される。

アイリーンの登場する短編「ボヘミアの醜聞」の記述によれば、シャーロック・ホームズはアイリーンについて回想する際、彼女のことを常に「あの女性(ひと)」(the woman)と呼ぶ。

56作品発表された短編の第1作目に登場し、知性によって主人公シャーロック・ホームズを翻弄した作中でも数少ない人物の一人として、読者の人気も高い。

略歴[編集]

1858年生まれ、アメリカニュージャージー州出身。後にイギリスへと渡り、ロンドンの「ブライオニ荘」に居住。元オペラ歌手。声域はアルト。現役時代にはスカラ座への出演歴を持つ。 ワルシャワ帝室オペラに所属していた折、当時皇太子であったボヘミア国王と関係を結び、後に国王の結婚が発表された際には、かつて二人で撮影した写真を利用して脅迫を目論んだ。その後、弁護士のゴドフリー・ノートンと結婚し、ヨーロッパを離れる。その結婚式に際して立会人が必要であった二人は、ボヘミア国王の要請によってアイリーンを調査中、彼女達の後を追って偶然その現場へ居合わせたホームズに、そうとは知らず自分達の結婚立会人になる事を依頼した。この件で彼女から礼金として受け取ったソブリン金貨を、ホームズは大切に手元に残している。なお『ボヘミアの醜聞』の冒頭の記述で「The late Irene Adler」とあるため、作品が発表された1891年7月の時点で、結婚して姓が変わっているか、あるいは死亡しているものと思われる。

パスティーシュ作品など[編集]

ホームズシリーズの短編第1作に登場し、ホームズと読者に強い印象を残したアイリーンに対し、多くのシャーロキアンは彼女に関する様々な仮説を打ち立てていった。最も大胆な仮説の一つとして、彼女は他ならぬベーカー街221Bの女主人であるハドスン夫人と同一人物ではないか、というものがある。彼女が登場する『ボヘミアの醜聞』では、何故か下宿の女主人はターナー夫人であったことから、そのような推測が生まれた。それは極論として、ホームズが自他ともに認める女嫌いの性癖にも関わらず、ボヘミア王からいかなる報酬よりも彼女の写真を望んだほど心を動かされた「唯一の女性」との間に、何らかのロマンスを描きたい衝動を、後世の多くの作家達が禁じえなかったのは確かである。幸いにして、アイリーンとゴドフリー・ノートンとの結婚は、ホームズがそう語っているだけで、ワトスンが自ら目撃したものではなかった。そのため、あのジェームズ・モリアーティ教授の実在をいくらでも疑えるのと同じように、パスティーシュ作家達は彼女について以下に見られるような様々な解釈をしている。

『シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯』(1987年) - 河出書房文庫
W・S・ベアリング=グールドによる仮想ホームズ伝。ここでは、アイリーンはホームズとの間に男児をもうけたことになっている。彼はやがて長じて父親と同じ職業に就き、ネロ・ウルフの仮名で活動した、とベアリング=グールドは主張するのだが、レックス・スタウトはこれを否定しなかった。
『冬のさなかに ホームズ2世最初の事件』(1996年) - 創元推理文庫
アビイ・ペン・ベイカーによる、ホームズとアイリーンとの間に生まれた娘、マール・アドラー・ノートンを主人公とした小説。終盤でホームズと対面することとなるが、表向きの実父はゴドフリー・ノートンとなっており、ホームズもマールが自分の娘であると気付くまでは、彼女の存在を知らされていなかった。
名探偵コナン』(1994年 - 連載中) - 灰原哀
少年漫画。作中の科学者・宮野志保の「灰原哀」という偽名は、原作中ではコーデリア・グレイV・I・ウォーショースキーから取られているとされていたが、2014年、アイリーン・アドラーから取られていることが作者より公言された[5]
名探偵コナン ベイカー街の亡霊』(2002年
アニメ映画。ここでは、1888年という設定の場面で彼女が、ソプラノのアリア「歌に生き、愛に生き」(プッチーニ作の歌劇『トスカ』より)を唄っている。
『おやすみなさい、ホームズさん (アイリーン・アドラーの冒険)』「Good Night, Mr. Holmes」(1990年、日本語翻訳2011年11月) - 東京創元社
ISBN 978-4488223038 、下 ISBN 978-4488223045
キャロル・ネルソン・ダグラス著。
アイリーンを探偵役に据えたシリーズ。ホームズ物と同様にワトソン役となるペネロピーの視点から執筆されている。
Good Morning Irene、Irene at Large、Irene's Last Waltz、Chapel Noir、Castle Rouge、Femme Fatale、Spider Dance とシリーズを重ねている。
SHERLOCK
Sherlock, Arsène & Io (イタリアの作家Irene Adlerによる児童向けシリーズ)

脚注[編集]

  1. ^ 「Irene」の発音はアメリカでは「アイリーン」、イギリスでは「アイリーニ」、ドイツでは「イレーネ」。アイリーン・アドラーはアメリカ出身の設定だが、イギリス・グラナダTV製作のテレビドラマ版ではドイツ語流に「イレーネ」と発音するボヘミア国王に合わせてか、ホームズも彼女を「イレーネ」と呼んでいる(ただしNHK制作の日本語吹き替え版では「エレーナ」)。なお、「Adler」はドイツ語で「」を意味する。
  2. ^ ジャック・トレイシー『シャーロック・ホームズ大百科事典』日暮雅通訳、河出書房新社、2002年、26-27頁
  3. ^ マシュー・バンソン編著『シャーロック・ホームズ百科事典』日暮雅通監訳、原書房、1997年、10-11頁
  4. ^ ディック・ライリー、パム・マカリスター編『ミステリ・ハンドブック シャーロック・ホームズ』日暮雅通監訳、原書房、2000年、268頁
  5. ^ 『ダ・ヴィンチ』5月号(2014年4月5日発売) 34ページ 「祝!連載20周年『名探偵コナン』豪華W対談 佐藤健×青山剛昌」より