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ベル・エキセントリック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『ベル・エキセントリック』
加藤和彦スタジオ・アルバム
リリース
録音
ジャンル
時間
レーベル ワーナー・パイオニア
プロデュース 加藤和彦
チャート最高順位
加藤和彦 アルバム 年表
  • ベル・エキセントリック
  • (1981年 (1981)
『ベル・エキセントリック』収録のシングル
  1. ロスチャイルド夫人のスキャンダル
    リリース: 1981年7月25日 (1981-07-25)
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ベル・エキセントリック』(BELLE EXCENTRIQUE)は、1981年7月25日 (1981-07-25)に発売された加藤和彦の7枚目のソロ・アルバム安井かずみとのコンビによるコンセプト・アルバム『ヨーロッパ三部作[注釈 1]の第3作であり、パリと東京でレコーディングされた。

解説

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『ベル・エキセントリック』は1920年代のパリをテーマとしたアルバムである。最初の構想は1979年の『パパ・ヘミングウェイ』制作中に加藤が発案したが、安井が準備期間を要求したため、次作として1980年にベルリンをテーマとしたアルバム『うたかたのオペラ』が制作された[1]。その翌年、あらためてピカソコクトーディアギレフアンリ・ド・ロチルドなどが生きた時代をコンセプトとするアルバムの制作に着手する。この時期、加藤と安井の実生活での話題はこの時代の事物で占められていたという[1]

本作でも『ヨーロッパ三部作』の他の作品と同じく、テーマに基づいた録音場所を選び、合宿による現地レコーディング[注釈 2]でミュージシャンのテンションを高めるという方針が踏襲され、レコーディングはフランスのパリ郊外、ヴァル=ドワーズ県にある古い城館を改装したシャトゥ・スタジオで行なうこととなった[注釈 3][注釈 4]。ミュージシャンは前作とほぼ同じだが、前回急病のため不参加だった坂本龍一が加わり、本作は『ヨーロッパ三部作』の中で唯一YMOのメンバー全員が海外でレコーディングしたアルバムとなった。

渡仏は1981年4月 (1981-04)で、細野晴臣久保田麻琴のレコーディング[2]で滞在していたスペインから、高橋幸宏大村憲司とともにソロ・アルバムの制作のため滞在していたイギリスから駆け付けた[3]。レコーディングは波乱含みだったが[注釈 5]、約1週間のシャトゥ滞在で6曲[注釈 6]、帰国後東京で打ち込みを主体にした4曲のレコーディングと綿密なスタジオ作業が行われた。サウンドの特徴としてはエフェクトの多用が挙げられるが、牧村憲一によれば、シャトゥ収録分のほとんどのトラックには何らかの加工が施されており、生音が残っていると思われる箇所は坂本によるチェンバリン[注釈 7]のパートのみとされる[5]

本作収録曲のうち、「ロスチャイルド夫人のスキャンダル」「浮気なGigi」「アメリカン・バー」「ディアギレフの見えない手」「ADIEU, MON AMOUR」の5曲は、2017年 (2017)リリースの高橋幸宏監修・選曲によるコンピレーション・アルバムヨーロッパ三部作・ベストセレクション[6]に収録された。

アートワーク

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アルバム・タイトルは、エリック・サティの作品である "風変わりな美女" から採られている[7]。アート・ディレクションは渡邊かをるが担当し、アルバム・カバーには安井かずみの友人である金子國義の絵画が使用された[注釈 8]。本作以後、加藤のソロ・アルバムのカバーにはすべて金子の絵画が使用されており、『パパ・ヘミングウェイ』と『うたかたのオペラ』のアルバム・カバーもリイシューの際に金子の絵画に差し替えられたが(『パパ・ヘミングウェイ』はCDのみ差し替え)、2004年のリイシューから再び元のデザインに戻されている。なお、本作のアルバム・カバーと歌詞カードの印刷には加藤の意向で特色とされる金色が使われ、歌詞は縦書きとなった[1]ライナーノーツには、海野弘が『フォール・エポックふたたび』と題する、1920年代のパリについての解説を寄せている。なお、初発売時のレコード帯には、以下のキャッチコピーが記載されている。

リミックス

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本作を含む『ヨーロッパ三部作』は、1982年 (1982)リリースのコンピレーション・アルバムアメリカン・バー』収録に際しデジタル・リミックスされ、オリジナル・マスター音源との相違が認められるリミックス音源が作られた、この音源は加藤がソニー移籍後の1985年 (1985)リリースのコンピレーション・アルバム『Le Bar Tango』や、1988年 (1988)および2004年 (2004)のリイシューでも使用されたが、2014年 (2014)から初出時のオリジナル音源に戻されている。

ノベルティ

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本作発売当時、プロモーション用としてワインが頒布されている。ボトルに貼られたラベルにはアルバム・カバーと同じ金子國義の絵画が使われていた。

収録曲

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  • 全作詞:安井かずみ、全作編曲:加藤和彦(特記除く)
  • アナログ・レコードでは#1~5までをA面、#6~10をB面にそれぞれ収録。
  • 楽曲の時間表記は初出アナログ・レコードに基づく。
  1. ロスチャイルド夫人のスキャンダル (SCANDALE DE Mme ROTHCHILD)  – (2:51)
    この楽曲は#2とのカップリングでシングル・カットされた。
  2. 浮気なGigi (GIGI, LA DANSEUSE)  – (4:40)
    歌詞にアルバム・タイトルとなった“ベル・エキセントリック”というフレーズが登場する。
  3. アメリカン・バー (BAR AMÉRICAIN)  – (3:23)
  4. ディアギレフの見えない手 (DIAGHLEV, L'HOMME-ORCHESTRE)  – (2:55)
  5. ネグレスコでの御発展 (LES NUITS FOLLES DE L'HOTEL NEGRESCO)  – (1:05)
    インストゥルメンタル
  6. バラ色の仮面をつけたMme M (MASQUE ROSE DE Mme M)  – (2:58)
  7. トロカデロ (TROCADÉRO)  – (3:51)
  8. わたしはジャン・コクトーを知っていた (JE CONNAISSAIS JEAN COCTEAU)  – (2:36)
  9. ADIEU, MON AMOUR  – (2:55)
  10. ジュ・トゥ・ヴー (JE TE VEUX)  – (3:12)
    エリック・サティの作品。ピアノ演奏は坂本龍一によるもので、楽譜は滞仏中に矢野顕子がパリで購入してきたものを使用し、早朝にシャトゥの最上階にあるスタジオでレコーディングされた[1]。のちに最終コーラス部分にシンセサイザーとドラムスがダビングされている。

クレジット

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  • All Song Written & Arranged by Kazuhiko Kato
    Except "JE TE VEUX" Composed by Erik Satie Arranged by Ryuichi Sakamoto
    "MASQUE ROSE DE Mme M", "JE CONNAISSAIS JEAN COCTEAU" Arranged by Kato & Sakamoto
    "DIAGHILEV, L'HOMME-ORCHESTRE", "ADIEU, MON AMOUR" Arranged by Kato & Shimizu
    "LES NUITS FOLLES DE L`HOTEL NEGRESCO", "TROCADÉRO" Arranged by Shimizu
  • Lyrics Written by Kazumi Yasui
  • Recorded at Le Château, Paris, April 1981
    • Engineerd by Boa, Yuichi Shima & Masayoshi Okawa
    • Assistant Engineerd by Daniel Desabres
  • Remixed & Masterd at Hitokuchizaka Studios, May 1981
    • Remixed & Mastering Engineered by Masayoshi Okawa & Kazuhiko Kato
    • Assistant Engineerd by Masato Kitagawa
  • Produced by Kazuhiko Kato
  • Executive Producer  – Ikuzo Orita
  • The Special Arrangements by Ichiro Asatsuma, Kenichi Makimura & Akira Terabayashi
  • Crews  – Kenichi Okeda, Hidenori Ogawa, Yoichi Ito & Takeshi Fujii
  • We'd like to Express our Gratitudes to Mr.Gerald Duchemann for Serving us with Nice Meals
  • Special thanks to Ichiro Fukuda, Gagi, Peter, Nicolett Van Galen, Laurent Thibault, John Rutledge, Katherine Thierry-Miee, Nadia Dancourt & Hiroshi Okura
  • Art Director by Kaoru Watanabe
    • Designed by Kaoru Watanabe / Shuichi Yokoyama
    • Painting by Kuniyoshi Kaneko

ミュージシャン

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  • Kazuhiko Kato  – Vocal, Guitar (omit on #5, #10)
  • Kenji Omura  – Guitar (#1, #2, #3, #8)
  • Yukihiro Takahashi  – Drums (#1, #2, #3, #8, #10)
  • Haruomi Hosono  – Bass (#1, #2, #3, #8)
  • Ryuichi Sakamoto  – Acoustic Piano, Chamberlin, Prophet5 (#1, #2, #3, #6, #8, #10)
  • Akiko Yano  – Acoustic Piano (#1, #2, #3, #8)
  • Nobuyuki Shimizu  – Acoustic Piano, Synthesizer, Marimba, Tympani (#4, #5, #9)
  • Hideki Matsutake  – MC-8 (#4, #5, #7, #9)
  • Nadia Dancourt  – Voice (#8)
  • Yukihiro Takahashi, Haruomi Hosono & Ryuichi Sakamoto Appears Through the Courtesy of Alfa Records.
  • Akiko Yano Appears Courtesy of Yano Music / Japan Record.

発売履歴

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形態 発売日 レーベル 品番 アートワーク 解説 リマスタリング 初出/再発 備考
LP
1981年07月25日 ワーナー・パイオニア K-12501W 金子國義 海野弘 なし
初出
E式ジャケット
LP
1983年09月21日 CBS/SONY 28AH1653 金子國義 海野弘 なし
再発
E式ジャケット 真空パッケージ
1981年07月25日 ワーナー・パイオニア LKF-8003 金子國義 なし なし
初出
ドルビーシステム仕様
CT
1983年09月21日 CBS/SONY 28KH1359 金子國義 なし なし
再発
ドルビーシステム仕様
CD
1988年04月06日 EASTWORLD CT32-5165 金子國義 なし 加藤和彦
初出
デジタル・リミックス
CD
2004年10月20日 オーマガトキ (卸販売:CME) OMCA-1034 金子國義 海野弘/岩本晃市郎/加藤和彦 加藤和彦
再発
デジタル・リミックス/紙ジャケット
CD
2014年03月20日 リットーミュージック RMKS-007 金子國義 海野弘/折田育造/牧村憲一/大川正義 大川正義
再発
CD付き書籍
CD
2015年05月20日 日本コロムビア COCP-39096 金子國義 海野弘/立川直樹 大川正義
再発

参考文献

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  • 海野弘『四都市物語 ‐ ヨーロッパ・1920年代』冬樹社、1979年10月。 
  • 平凡パンチ 1981年6月22日号』平凡出版、1981年6月。 
  • ミュージック・マガジン 1981年9月号』株式会社ミュージック・マガジン、1981年9月。 
  • 無線と実験編 プロフェッショナル・オーディオ 1981年12月号』誠文堂新光社、1981年12月。 
  • 『加藤和彦スタイルブック あの頃、マリー・ローランサン』CBSソニー出版、1983年11月。ISBN 978-4-78-970111-2 
  • 安井かずみ・加藤和彦『ワーキングカップル事情』(文庫版)新潮社、1986年3月。ISBN 978-4-10-145101-5 
  • 高橋幸宏『犬の生活』JICC出版局、1989年4月。ISBN 978-4-88-063550-7 
  • ジャネット・フラナー 著、宮脇俊文 訳『パリ・イエスタデイ』白水社、1997年10月。ISBN 978-4-56-004640-1 
  • 『ミュージック・マガジン 2004年6月号』株式会社ミュージック・マガジン、2004年6月。 
  • 『ミュージック・マガジン 2009年12月号』株式会社ミュージック・マガジン、2009年12月。 
  • 松木直也 (聞き手・構成) 編『加藤和彦 ラスト・メッセージ』文藝春秋、2009年12月。ISBN 978-4-16-372280-1 
  • 文藝別冊 編『加藤和彦 あの素晴しい音をもう一度』河出書房新社、2010年2月。ISBN 978-4-30-997731-7 
  • サウンド&レコーディング・マガジン 2010年3月号』リットーミュージック、2010年3月。 
  • 牧村憲一『ニッポン・ポップス・クロニクル 1969-1989』スペースシャワーネットワーク、2013年3月。ISBN 978-4-90-670078-3 
  • 前田祥丈 (聞き手・構成) 編『エゴ〜加藤和彦、加藤和彦を語る』スペースシャワーネットワーク、2013年7月。ISBN 978-4-90-670088-2 
  • 牧村憲一 (監) 編『バハマ・ベルリン・パリ〜加藤和彦 ヨーロッパ3部作』リットーミュージック、2014年3月。ISBN 978-4-84-562367-9 
  • ギター・マガジン 編『大村憲司のギターが聴こえる』リットーミュージック、2017年2月。ISBN 978-4-84-562991-6 

脚注

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注釈

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  1. ^ パパ・ヘミングウェイ』(1979年 (1979))、『うたかたのオペラ』(1980年 (1980))、『ベル・エキセントリック』(1981年 (1981))の3枚の海外レコーディングによるアルバム。
  2. ^ 加藤はヨーロッパ三部作の海外レコーディングを「高級合宿」と称していた[1]
  3. ^ 坂本は、自身がDJを務めるNHK-FM『サウンドストリート』1981年4月21日放送回にて、現地で録音してきた音声を公開している。
  4. ^ このスタジオの日本語による呼称は、ほかにも「ストロベリー・スタジオ」、「ル・シャトー」、「シャトー・デ・エルビーユ」、「シャトー・ヴェルヴィル」など種々あるが、本項は1981年発売のオリジナル・アナログ・レコードの表記に拠る。なお、le Château d'Hérouvilleは通常「ル・シャトー・デルヴィル」と仮名書きし、厳密にいえば「シャトゥ」や後者2件については誤記とされる。
  5. ^ シャトゥは専属のシェフによる賄いつきで、ワインセラーがあり、テニスや乗馬も可能な環境にあったが、当時の就寝設備や水道などの居住環境は劣悪で、不安定な電圧や乏しい機材、楽曲の不備にも悩まされながら作業が進められた。ことに楽曲は大部分が現地で作られ、加藤と安井は昼間のレコーディングが終了したのち、翌日に録音する楽曲の作詞作曲をするという状況だった[4]
  6. ^ 楽曲毎のレコーディングは#1,2,3,6,8,10がシャトゥ・スタジオ、#4,5,7,9が東京の一口坂スタジオ
  7. ^ この楽器は メロトロンの前身にあたる鍵盤楽器で、偶然シャトゥに放置されていた機器だという[4]
  8. ^ 油彩画『聖痕』1978年作[4]

出典

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  1. ^ a b c d e 加藤 & 前田 2013.
  2. ^ SUNSETZ『HEAT SCALE』(1981年、アルファレコード
  3. ^ 高橋 1989.
  4. ^ a b c 牧村 2014.
  5. ^ 牧村 2013.
  6. ^ ヨーロッパ三部作・ベストセレクション』 2017年10月25日 (2017-10-25)発売 UNIVERSAL MUSIC JAPAN CD:UPCY-7443
  7. ^ MM 2004, p. 42.

外部リンク

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日本コロムビア