メロトロン

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1999年発表のメロトロンMkVI

メロトロン(Mellotron)は、1960年代に開発された、アナログ再生式(磁気テープを媒体とする)のサンプル音声再生楽器である。アメリカハリー・チェンバリンが作成したチェンバリン(Chamberlin)を元に、イギリスのレスリー・フランク・ノーマンのブラッドレィ3兄弟が、設計と作成を行った。

概要[編集]

ハリー・チェンバリンが開発した"Chamberlin Rhythmate"という、テープ音源を用いたリズム/伴奏用のマシン(いわばホームオルガン用のカラオケマシン)が先祖である。彼自身がこれを応用したテープ音源のオルガンを製作したことからメロトロンの歴史は始まる。鍵盤に対応した音程でそれぞれ録音された、ある音声音色)を一式揃えておけば、音階を持った楽器として使用できる。これにより鍵盤楽器演奏者により、弦楽器管楽器などの音を奏でることを可能とした。また、一定の伴奏パターンや効果音が録音されたテープもあり、メロトロンの原案となったモデルでは(当然、そのコピーである初期のメロトロンでも)左手側の鍵盤に使用された。チェンバリンの会社ではこの楽器を大量生産するのは難しく、製造を依頼する目的でイギリスに持ち込まれ、目をつけたのが楽器用の再生ヘッドを発注されたブラッドレィ兄弟であった。

メロトロンは、1963年にブラッドレィ兄弟により設立された「ストリートリー・エレクトロニクス(Streetly Electronics)」社でチェンバリンの楽器を(無許可で)模倣・改良する形で製作され、「リヴィングルームに設置して一人または二人で気軽に演奏する、家庭用のオルガン」として販売された(販売はロンドンに本拠を置く「メロトロニクス(Mellotronics)」社)。ほどなく若干のマイナーチェンジを経て、ムーディー・ブルース、ビートルズ、キング・クリムゾンらが使用し、伝説を作った「MkII」となる。このモデルは1本のテープにつき3トラック×6ステーション(カセットテープの「頭出し」の要領で各ステーションに停止したテープは、そこから音色の再生を始める)の18音色を収録。左手および右手用として35鍵の鍵盤が2セット、並列に設けられたものである(左手用鍵盤には、前述の伴奏パターンを収録したテープがインストールされている)。一部アーティストによりステージでも使用されたものの、この楽器はあまりにも大きく繊細かつ高価であった。鍵盤を1セットにまとめた「M300」を経て、よりコンパクトなヴァリエーション「M400」が1970年に発表された。前述したステーション構造を廃し、鍵盤も1セットとした。選べる音色が18音色から3音色に減少したのを補うため、35本のテープを一度に交換できる「テープフレーム構造」を採用。MkIIと比べて軽量・コンパクトかつ耐久性のある(メカニズムの簡略化による)楽器となり、その白い外観も相まって認知度は一挙に高まる。ロックやジャズの領域拡大とともにメロトロンを録音やライヴで使用するアーティストは増えていき、観客はステージで奇妙な音を出す白い楽器を頻繁に見かけるようになる。

イギリスのミュージシャン・ユニオンは1967年、「メロトロンを使用することでヴァイオリンなどの演奏者を必要としなくなり、仕事を奪うものである」「音作りに協力したミュージシャンは、その音が他人に使われても全く収入にならない」という声明を出した。後者の訴えはBBCでも問題になり、メロトロニクス社は協力したミュージシャンに補償金を支払っている。

しかし実際にはその特徴的な音は生の管・弦楽器などを代替することはなく、早い内から実際の楽器音とは区別して使われるようになる。例えばレッド・ツェッペリンの「カシミール」などの曲では両者が併用され、それぞれの魅力が共存している。

原案者であるハリー・チェンバリンとブラッドレィ兄弟は特許および知的所有権で争っていたが、結果的に1966年、チェンバリンがブラッドレィ兄弟に権利を3万ドルで売り渡すこととなる。チェンバリンも1970年以降、自らの会社でテープ再生式の楽器を開発、販売した。もっとも普及した「M-1」はメロトロンよりコンパクトなボディと、よりハイファイなサウンドを持つ。マーヴィン・ゲイエルヴィス・コステロなど、こちらもメロトロンほどではないにせよ広く用いられた。

機構上の欠点として「モーターが非力なため、複数の鍵盤を同時に押さえると音程が下がる」「頻繁に再生・巻き戻しをさせられるテープが傷みやすい」「モーターの回転速度が電圧の影響を受けやすく、音程がフラつく」「複雑なメカニズムを内蔵しているため大きく重く、壊れやすい」「再生ヘッドの品質が悪く、出力された音は蓄音機のように劣化する」などが挙げられる。もっとも、現在ではこれらの特徴は殆どが「味」として再評価され、ノスタルジックかつサイケデリックな音色に魅せられる人はプレイヤー、リスナー問わず後を絶たない。

1970年代中盤にはポリフォニックシンセサイザーストリングアンサンブルが普及したため、問題を多く抱えるメロトロンのユーザーは次第に減少。経営が悪化したストリートリー・エレクトロニクス1977年、メロトロンの商標権をダラス・ミュージック・インダストリーへ売却する。その後、メロトロンの名称が使えなくなったストリートリー・エレクトロニクスは「ノヴァトロン(Novatron)」の名称で楽器の開発・販売を続けるが、1986年に倒産した。一方メロトロンの商標権はいくつかの業者の手をわたり、現在はメロトロン・アーカイヴス(Mellotron Archives)社を設立したデヴィッド・キーンが保有している。

1970年代後半になって、RMIや360 systemsといったメーカーからデジタル技術で録音された楽器音を演奏する楽器が登場。PCM音源の発達に伴い、1980年代にはフェアライトCMIシンクラビアなどの楽器がサンプリング機能を有し、音楽制作の現場で人気を博す。いつしかこの類の楽器はサンプラー(サンプリング・シンセサイザー)と呼ばれるようになった。先祖であるメロトロンの音も初期からサンプリングの対象になったが、代替品として使えるレヴェルになるのは1993年イーミュー社からプリセットサンプラー・モジュール「Vintage Keys」が発売されるのを待つこととなる。折からのヴィンテージ・キーボード・ブームも手伝い、この楽器はメロトロンのサウンド目当てのユーザーから高く評価された。メロトロンのサウンドは常に一定のニーズがあるため、いくつかのメーカーは、よりリアルなサンプルを提供するよう努力している。

なお、現在でもメロトロンは販売されている。カナダでメロトロンの商標を持っているメロトロン・アーカイヴス社は、モデル400シリーズの新型「MkVI」などを発売している。レスリー・ブラッドレィの息子らによって再建されたストリートリー・エレクトロニクスでもレストアされた旧型メロトロンを販売している。同社は2007年、M400と似た筐体の中にMkIIと同様のステーション構造をもつ新型メロトロン「M4000」を発表した。音源テープは、この2つの会社それぞれが新規で録音された物も含めて取り扱っている。

プログレッシヴ・ロックファンからはハモンドモーグと並び3大キーボードと呼ばれることもある。

発音機構[編集]

メロトロン発音機構の模式図

音源となるテープ(茶色の曲線)は鍵盤(1)と再生ヘッド(5)の間にセットされている。鍵盤にはテープを再生ヘッドに押し付ける「プレッシャーパッド(3)」と、モーターで駆動されたキャプスタン(6)に押し付ける「ピンチローラー(4)」が取り付けられており、それぞれネジ(2)で高さを調整可能。鍵盤を押し込むと、テープはキャプスタンとピンチローラーに挟まれて前進しつつ再生ヘッドに押し付けられて発音して、ストレージ・ビン(7)に格納される。鍵盤を離すとテープはキャプスタンの回転から開放され、テープ・リターンローラー(8)の端に取り付けられたスプリング(9)によりおよそ0.5秒で巻き戻される。この機構により、以下に列挙する独特の反応がみられる。

a)演奏する際には鍵盤を押した指から力を抜くと音が掠れて止まってしまうことがある。
b)同音連打を行うと、テープが途中から再生されるため、独特なニュアンスとなる。
c)スタッカートでの演奏は、音がきちんと発音されないことが多い。
d)速く鍵盤を押し込むと、テープが再生ヘッドに叩き付けられて「プツッ」というノイズが出て、音の立ち上がりが強調される。
e)遅く鍵盤を押し込むと、テープの走行がスタートした後にゆっくりと再生ヘッドに接触するため、立ち上がりの遅い音になる。
f)鍵盤を強く押さえつけると、テープが強く押し付けられて音量の増大・音程の低下がそれぞれ少しだけ起こる。
g)複数(多くは4つ以上)の鍵盤を同時に押すと、摩擦の増加により音程が下がりやすい。特に音の立ち上がりで顕著。

最初は戸惑う鍵盤タッチだが、使いこなすと鋭いアタックから逆回転風サウンドまで指のタッチでコントロールでき、初期の電子楽器としては表現力はなかなか高い(ただし、旧型のメロトロンの鍵盤は歪みを生じ易い上に、プレッシャーパッドやピンチローラーの調整具合によってはこのような変化を生じない。現行生産のものは歪みにくい木材を鍵盤に採用し、なおかつタッチによる表現を行い易く調整されている)。このような有限の長さのテープを用いた面倒な機構を採用したのは、ピアノなどの減衰音の再生を可能とするためである。楽器音で5.5~8秒と短い持続時間のため、演奏者は長い持続音や和音を演奏するために様々な工夫をした。

音色[編集]

  • 隣り合う2つの音色はM300以外の機種ではミックスして使うことも可能。MkI/ IIでは5ポジションの音色ボタン(A・A+B・B・B+C・Cの5つ。リズムトラック用の左手側鍵盤のボタンは3つで、ミックスポジション無し)があり、M400などでは音色切り替えレヴァーを中間位置で止めることで行う。なお、ミックスされた音色は音量が半分強程度となる。
  • 最も普及したM400に標準でセットされたテープはFlute/ 3 Violins/ 'Celloで、ロバート・フリップジョン・ポール・ジョーンズなどのようにこのセットのまま使用する奏者も多かったが、好みの3音色を並べたテープセットも受注していた。例えばトニー・バンクスはM400導入後、コンサートではBrass/ 3Violins/ 8 Choirというセットを使用していた。なお、テープは全ての音程が一本のテープに収録され、音程ごとにパンチ穴で目安が付けられている。購入した後は自分でカットし、別途購入したテープフレームに取り付ける。また、楽音部分以外のメロトロンでは再生出来ない部分には弦楽器の弓を置いたり咳払いや談笑をしたりする音まで収録されている。
  • メロトロンの為に録音された音は、大きなノイズが含まれたり、過大入力により潰れたり、音程が正確でなかったりと劣悪なものが多かったが、その分大音量のロックバンドの中でも明確に個性を主張することになった。

他のアナログ式プレイバック楽器との比較[編集]

  • M-1以降のチェンバリン(Chamberlin)各機種はテープの巻き戻しにもモーターを使用しており、テープは常にリールに巻き取られている。そのため、筐体を小型化することが可能だったが、メカニズムは複雑化した。メロトロンはテープの巻き戻しはシンプルな機構で確実に行われ、M400の場合は不具合があってもテープフレームを交換すれば済む。しかし筐体はある程度大きくならざるを得なかった。なお、音質はメロトロンに比べて高品質と評価される。生産台数は、最も多く作られたM-1でさえ300台程度と少ない。このM-1はステレオヘッドを装備し、8音色を使用可能。デュアルマニュアルのM-2、デュアル×2段鍵盤のM-4、MIDI対応のキーボードレスモデルRemoteというバリエーションも展開された。
  • テープ以外のメディアを用いたサンプル・プレイバック・キーボードには、光学式ディスクを用いる「オプティガン(OPTIGAN)」という楽器が挙げられる。これはマテル社が児童向けに開発したものだが、チャイルトン社による発展型の「タレントメーカー」を経てプロ用の「オーケストロン(Vako Orchestron)」が生産されるに至った。オーケストロンの場合、音色は光学式ディスク1枚につき1つずつ、トラックごとに各音程がループの形で記録されている。音色のループポイントやディスクの汚れ(音色を変えるごとに手で触れられるため)などに起因するノイズが問題視されたほか、オーケストロンに関して言えば高額であったため、メロトロンほどには人気を獲得出来なかった。現在も光学式ディスクは少数生産されている。
  • メロトロンの欠点であった「大きく重く、かさばる」「音色を3つしか選べない」「8秒以上音を伸ばせない」点を改良するために、デヴィッド・バイロは8トラックテープを用いた「バイロトロン(Birotron)」を開発。リック・ウェイクマンが出資したほか、数々の著名ミュージシャンが予約したことで話題になった。しかし開発は遅れに遅れ、結局17台が試作されたのみ。市場には出回らなかった。37の鍵盤に対して19本の8トラックカセットをセット(カセット1本あたり鍵盤2つ分の音源を持つ)し、4つのループされた音色を選択可能。シンセサイザー同様のエンベロープ・ジェネレーターで音の立ち上がりや減衰を調節できる。リック・ウェイクマンが1977年から数年間使用し、同時期のイエスのツアー、アルバム「トーマト」、ソロアルバム「罪なる舞踏」でフィーチャーされた。著名な使用者としては他にタンジェリン・ドリームが挙げられ、アルバム「Force Majeure」、「Hyperboria」で使われている。現存しているのは5台ほどで、演奏可能なものは2台のみと言われている。

メロトロン機種リスト[編集]

Mellotron MkI
Chamberlin 660 Musicmasterを元にして作られた最初のモデル。左右に35ずつの鍵盤を持つ。6ステーション×3トラック。55台前後生産され、一部は出荷前にMkII仕様に改造された。
Mellotron MkII
Mk Iの改良型。外観は同一だが、ステーション切り替え用チェーンの強化、ステーション切り替え中の鍵盤ロック機構追加、パワーアンプがソリッドステート化。また、リードとリズムの音色配列も変更された。1960年代末にイギリスの大物アーティストが頻繁に使うようになり、伝説的存在となっている。
Mellotron M300
52鍵の小型化モデル。左側18鍵は伴奏用(ピアノとオルガンの低音部も含まれ、リードと音色を一致させることで52鍵の音域を使用することも可能)。内蔵スピーカーは廃止された。6ステーション×2トラックで、音色は専用のものが用意された。トラック選択はロッカースイッチで、ミックスは不可。後期型は音程調節つまみが廃止される。
Mellotron M400
もっとも普及した白い塗装のステージモデル。プリアンプがソリッドステート化し、ステーション構造は廃止。代わりに35本のテープを取り外し可能なフレームに固定し、一度に交換出来るようになった。35鍵、3トラック。初期型はモーターの安定度が低い。ストリートリー・エレクトロニクスが部品を供給して作られたEMI製のモデルもあるがこちらは外観が異なり、鍵盤下部を斜めに切り取って膝が当たらないようにし、つまみも独自のものを採用。塗装も木目を活かしたクリア塗装である。また、後年Novatron名義で作られたものは黒い塗装が標準となった。
Mellotron MkV
2台のM400を左右に繋げたようなモデル。しかし、モーターとキャプスタンは左右の鍵盤で共有している。コントロールパネルは鍵盤前面に配置された。
Novatron T550
M400の機構を小型化してフライトケースと一体化したモデル。わずか3台のみが作られた。大きさ自体はさほどコンパクトになったわけではないが、テープフレームを2セットとボリュームペダルを収納できるスペースを設けている。
Mellotron 4 Track
M400を4トラック仕様に改良したモデルで、Mellotron USAが4台のみ生産。コントロール部はミキサーとなっており、再生ヘッドを移動させることなく任意の複数トラックをイコライジング及びミックス可能。筐体はアルミニウム合金製。
Mellotron MkVI
M400の改良型で、ドイツ製の高品質な鍵盤と真空管プリアンプを採用。低速スイッチを追加。これは基本的には音程が1オクターブ下がるように調整されているが、モーターコントロールカードのつまみを回すことで任意に設定可能。筐体を約5cm高くし、立って演奏しやすいように改良。モーターの安定性も高くなった。Mellotron Archives製。
Mellotron MkVII
Mellotron Archives製、MkVIのデュアル・バージョンで、いわばMkVの現代版。コントロールパネルは先祖と異なりトップカバー前面中央に配置される。
M4000
新生Streetly Electronics製。M400とよく似た筐体にステーション構造を内蔵。8ステーション×3トラック。「inching」という、テープの再生開始ポイントを変えられるメカニズム、正圧防塵装置搭載。新生Streetly Electronics製。こちらにもデュアル・バージョンの「M5000」が発表されているが、実際には生産されていない(その一方、M400の復刻モデル(モデル名なし)を少数限定で生産)。

代表的なユーザーとエピソード[編集]

  • 1960年代のロック成長期には、ビートルズの、「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」(1967年2月発売)他、ローリング・ストーンズ「2000光年のかなたに」、デヴィッド・ボウイスペイス・オディティ」、ムーディー・ブルースの「サテンの夜」などの曲で使用されている(1972年に再ヒット)。なお、メロトロンの音が最初に録音されたのは1965年グレアム・ボンドのシングル「Lease On Love/ My Heart's In Little Places」であるとされている。
  • 1970年代には、コンパクトなM400の発売もあってユーザーは一気に増え、イギリスやアメリカ以外でもオランダのフォーカスなどのバンドも導入した。メロトロンというとプログレッシヴ・ロックのイメージが強いが、ユーライア・ヒープブラック・サバスエルトン・ジョン10ccなど、使用歴のあるバンドは実に多い。代表的なものはキング・クリムゾンクリムゾン・キングの宮殿」やレッド・ツェッペリン「レイン・ソング」など。また、ヤン・ハマーリターン・トゥ・フォーエヴァーなど、ジャズのクロスオーヴァーの分野でも使用された例がある。
  • 伝説的なメロトロン・プレイヤーとして、ムーディー・ブルースのマイク・ピンダーが挙げられる。彼はメロトロンの出荷前点検をしていた経歴があり、馴染み深いこの楽器を最大限に活かす演奏をした(よくある誤解だが、彼は開発にはタッチしていない)。また彼のメロトロンMkIIは俗に「ピンダートロン」と呼ばれている。通常リズム音源を入れておく左手鍵盤にもリード音源を入れている他、プリアンプをソリッドステートに交換し、内蔵スピーカーを取り外し、運搬やステージでの演奏における機能性を追求している。
  • イアン・マクドナルドはキング・クリムゾン脱退後はこの楽器を使っていない。「本当は本物を使いたい」とキーボードマガジンのインタビューで述べている[1]が、同インタビューで使用していない理由としてメンテナンスの大変さのため実用性に欠けることを挙げている[1]。彼が2002年に21st Century Schizoid Bandで来日した際、厚見玲衣からの「メロトロンを用意しますからステージで使ってください」という依頼を断った逸話がある[要出典]。なお、同バンドのライブでメロトロンのパートを演奏するときはサンプリングされた同楽器の音ではなく、メル・コリンズとともにKorg 01/Wの音色を使って再現している[1]
  • リック・ウェイクマンは不安定なこの楽器に業を煮やし、自宅の庭に引きずり出してガソリンを掛け、火を放ったことがある。彼はその後非常に後悔したという。燃やしたもの以外にも数台を所有していたが、現在は全て売却済み。2006年に発表した「RETRO」という、ビンテージ楽器を多数用いたアルバムの制作にあたっては、イングランドのベーシスト、リー・ポメロイからM400を借りて使用した。
  • トニー・ケイも同様に、かなりイライラしてステージで使用していた。ツアーの最後のショーが終わると、ステージの上から落として破壊したと言っている。
  • キース・エマーソンは初期のインタヴューで「メロトロンは嫌いだ」と度々発言している(ザ・ナイスのレコーディングで使用歴あり)。1972年のツアーでELPが「奈落のボレロ」を演奏した際、モーグ多重録音によるオーケストレーションを再現するのにメロトロンを使用した。演奏者はグレッグ・レイク。厳密には、バッキングパターンが録音された特注のテープを入れ、順番に打鍵していた(ミニモーグでメロディーも演奏)。なお、それでも足りないパートはさらにテープで流している。
  • レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズ1972年にメロトロンを導入。スタジオでは聖なる館、ライヴでは同年の日本ツアーでお披露目された。よく誤解されるが、「天国への階段」のスタジオ録音では使われていない(リコーダーの多重録音)。ツアーへの導入がされていない時期を収録したライヴ版「伝説のライヴ:How The West Was Won」では実際にはハモンドオルガンで演奏されていた冒頭のパートが、レコード化されるにあたって別時期のライブで演奏されたメロトロンに差し替えられている。また、1977年のツアーではジミー・ペイジ所有のMkVを使用した。
  • BBCなどの放送局にはマイク・ピンダーらとは逆に、全ての鍵盤に効果音を仕込んだ「FXコンソール」というものが導入された。生放送や収録などの際、リアルタイムで効果音を出すことができ、それなりに利用されたようだ。MkIIとM400をベースに製作され、いずれも筐体は青みがかったグレーに塗装された。
  • ポール・マッカートニー(Abbey Road Studio Live)、PFM(初期のテレビ出演)、ジャン・ミッシェル・ジャール(Oxygene - Live in Your Living Room)が、実際に音を出しながらメロトロンの説明をしている映像がある。
  • 冨田勲は1970年代の作品で使用しており、特に混声合唱の音色を使って重厚なサウンドを構築している。
  • 厚見玲衣VOWWOW時代に黒い筐体のノヴァトロン400を導入。MkIIや青みがかった白に塗装されたノヴァトロンも所有。ZONEやPANGAEAなどの録音でも演奏している。自身がプロデュースしたPANGAEA唯一の作品「UNU」ではイアン・マクドナルドらの参加により、往年のプログレッシブ・ロックの世界を再現した。
  • 成毛滋は、生前このメロトロンに独自の改良を加え、「ナルモトロン」としてレコーディングで使用していた。
  • 小室哲哉はMkVIを導入し、2000年代を通じてTM NETWORKglobeのライヴやアルバムにて使用した。
  • 近年でもイギリスではオアシスシャーラタンズ、アメリカではヴィンセント・ギャロやビッグエルフ、日本ではaikoの楽曲などで本物のメロトロンが使われているほか、サンプリングされた音は広く用いられている。

メロトロンの代替機種[編集]

楽器としてのメロトロンは概要の通り取り扱いにくい面を持つ為、シンセサイザー・サンプラーなどで代用音源・音色などがシミュレートされてきた。しかし、メロトロンの「味」は楽器の機械的特性に因るところも大きく、完全なる再現には程遠い。シンセサイザー内蔵音源ではメモリ節約および使い易さを狙ってループ処理されているものが多いが、不安定な音源をループ化するのは困難で、いずれも繋ぎ目がはっきりと聴き取れる(逆にスムーズにループ化すると、メロトロンと認識出来ないような音になる。初期のサンプラーはメモリの容量が小さかったので、当時の数少ないメロトロンのサンプルは0.5〜1秒程度でループされており、個性はほぼ消失していた)。

  • 代替機種として代表的なのは、前述したイーミュー社のプリセットサンプラー・モジュール「Vintage Keys」である。改良型として「Vintage Keys Plus」、廉価版「Classic Keys」、最終バージョン「Vintage Pro」が発売された。イーミュー社の個性か、コンプレッションの掛かったような太くまろやかな音色が特徴で、3 Violins、8 Choir、Brass、Fluteが用意されている。音色の編集も可能。イーミュー社はハードウェア製造からは撤退したため現在は全て生産中止だが、現在もスタジオ、ライヴを問わず広く使われている。
  • ローランドのXPシリーズからFantom-Xシリーズまでのデジタルシンセサイザー用の拡張ボードの一つ、"Keyboards Of The 60'S & 70's"、"Ultimate Keys"にメロトロンのループ波形が幾つか搭載されていた。3秒程度のループで全てのキーからはサンプルが採られていないものの、リアルな音色でそれなりに人気を博していた。
  • 2004年、G-ForceよりVSTインストゥルメント「M-Tron」が発売。スタンドアローン、また各デジタルオーディオワークステーションプラグインとして動作するする。メロトロン・チェンバリン等の、代表的な音色を収録。2009年から「M-Tron Pro」に発展している。
  • 2006年にはメロトロンM400の白いボディとよく似た外観をもつデジタル楽器「メモトロン(Memotron)」がドイツのManikin Electronicというメーカーから発売された。専用のCD-ROMもしくは上記M-Tron用のものからサンプルを読み込んで使用する。ただし、メロトロンの機械的特性の再現には至っておらず、あくまでも「実物同様のコントロールが可能なプリセットサンプラー」に留まっている。ラックマウントバージョンも発売。
  • 2007年スウェーデンクラヴィア社の新製品「nord wave」にメロトロンのマスターテープからサンプリングした波形が搭載された。サンプルの提供はメロトロン・アーカイヴス。この波形をベースとしてアナログシンセサイザー同様の音作りが可能。クラヴィア社のサイトから、リード・リズム両者を豊富にそろえたライブラリーをダウンロード可能。現在は同社の他機種にも使用可能。
  • メロトロン・アーカイヴス社はMkVIを発表する前年の1998年に、マイク・ピンダー監修のサンプル・ライブラリーを発売。CD-ROMで提供され、AKAIフォーマットで使用できる。音色はリズム音源も含めて潤沢に用意されている。音色・音程は非常に安定している。2010年に「デジタル・メロトロンM4000D」を発表した。MkVIと同一の木製鍵盤(鍵盤数は低音側に2鍵増えた37鍵)、実機の上半分を切り取って若干上下幅を切り詰めたような大型の筐体を採用。鍵盤の押し込み具合で音の立ち上がりが変化したり、同音連打すると音色が途中から再生されるというような実機の特徴も再現している。チェンバリンやメロトロンの各機種用のマスターテープからサンプリングされたライブラリーから同時に2音色を選択し、単独またはミックスして使用できる仕様となっている。ラックマウントバージョン(2012年)、Mini(2013年。小型軽量化しタッチセンスを省略)、Micro(2016年。25鍵)のバリエーション展開あり。
  • 2009年5月、「Manetron」という名称のiPhone / iPod touch用のメロトロン・シミュレーションアプリが登場した。M400からサンプリングされたFlute、3 Violins、'Celloという基本的な3音色を選択、演奏することができるだけでなく、モーターの作動音やテープの巻き戻し音も再現している。iPad用の「Manetron MkII」のリリースを経て、2013年には第2世代として大幅に改良された「Super Manetron」が発売となった。こちらは音色数が大幅に増え、テープの巻き上げアニメーションを見る事やiPhone本体を傾けることで音程を揺らす事も可能となっている。
  • コルグのシンセサイザーKRONOSには代表的なメロトロンの音源波形が搭載されており、さらに別売サウンドライブラリーを追加可能。サンプル提供はM-Tron、メモトロン同様のクラウス・ホフマン=フック。シンセサイザー音色として複雑にエディットすることで実機の特徴を再現することも可能であり、プリセット音色もこだわって作られている。
  • その他様々なメーカーから、サンプラー用のライブラリーとしてメロトロンのサンプルが提供されているほか、フリーウェアとしてインターネット上にソフトウェアシンセサイザーが提供されている。

出典[編集]

  1. ^ a b c キーボードマガジン, 2002年12月号, p53-54.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]