ニックス (競馬)
ニックスとは競走馬の生産において、優秀な競走馬の生まれる可能性が高い血統の組み合わせのことをいう[1]。
概要
[編集]ニックスは「結果として出た成功例から、傾向や特徴を割り出す」概念であって、結果が出ていない状況下で成功例を推測する性質のものではない[2]。ある繁殖馬が優れた産駒を生み出した場合、生産者は二番煎じの形で同じ組み合わせの交配を試みる傾向がある[3]。そうして生産された競走馬がさらに成功を収めた場合、その組み合わせはニックスとしてますます注目され、模倣されていく[4]。
世界におけるニックス
[編集]1970年代のアメリカ競馬界では、ボールドルーラー×プリンスキロの組み合わせがニックスとして注目を浴び、これを模倣した配合から多くの優れた競走馬が生産された[5]。
多くの生産者が特定のニックスを実践し成功を収めた場合、似通った血統構成をもつ種牡馬や繁殖牝馬が多く生まれ、そのために適切な交配相手を見つけにくくなるという問題が生じることもある[6]。
日本におけるニックス
[編集]日本でも、メジロマックイーンを父に持つ繁殖牝馬にステイゴールドを配合した数少ない産駒[7]から、重賞・G1を制した馬を多数輩出[8]し、新たなニックスとして生産界から注目を集めた[9]。また2012年から11年連続でリーディングサイアーを獲得したディープインパクトについては、ストームキャットやフレンチデピュティ、アンブライドルズソングとの相性が良いことで知られており、これらもニックス/黄金配合と呼ばれた[10][11][12]。 2021年には父にキングヘイローを持つ繁殖牝馬と、ディープインパクト(全兄ブラックタイドを含む)を父に持つ種牡馬から産まれた産駒が重賞競走を次々と制覇し話題となる。キングヘイローの父系とディープインパクトの母系が似通った血統構成であることや、父父ディープインパクトとの配合が適度な同系交配となることから非常に相性が良いと見られており、これもニックスの一種と見られている[13]。
父ステイゴールド、母父メジロマックイーンの産駒の重賞勝ち馬
[編集]- 2004年産駒
- 2008年産駒
- オルフェーヴル(母:オリエンタルアート)(中央競馬クラシック三冠、有馬記念2勝、宝塚記念、スプリングステークス、神戸新聞杯、フォワ賞2勝、大阪杯)
- フェイトフルウォー(母:フェートデュヴァン)(京成杯、セントライト記念)
- 2009年産駒
父ディープインパクト、母父ストームキャットの産駒の重賞勝ち馬
[編集]- 2010年産駒
- 2011年産駒
- 2012年産駒
- 2015年産駒
- 2016年産駒
- 2018年産駒
※他にも父ディープインパクト、母父父ストームキャットの配合では重賞馬としてビューティーパーラー(母父ジャイアンツコーズウェイ)を輩出している。
父ディープインパクト、母父フレンチデピュティの産駒の重賞勝ち馬
[編集]- 2008年産駒
- 2010年産駒
- 2011年産駒
- 2013年産駒
- 2014年産駒
- カデナ(母:フレンチリヴィエラ)(弥生賞、京都2歳ステークス、小倉大賞典)
- アンジュデジール(母:ティックルピンク)(JBCレディスクラシック、エンプレス杯、スパーキングレディーカップ、マリーンカップ)
- 2016年産駒
- 2018年産駒
※他にも父ディープインパクト、母父父フレンチデピュティの配合では重賞馬としてステファノス、レイパパレ、シャイニングレイ、ベストアクター、カワキタエンカ、プラダリアを輩出している(母父はいずれもクロフネ)。
父ディープインパクト、母父アンブライドルズソングの産駒の重賞勝ち馬
[編集]- 2012年産駒
- ダノンプラチナ(母:バディーラ)(朝日杯フューチュリティステークス、富士ステークス)
- 2017年産駒
- コントレイル(母:ロードクロサイト)(クラシック三冠、ジャパンカップ、ホープフルステークス、神戸新聞杯、東京スポーツ杯2歳ステークス)
- レッドベルジュール(母:レッドファンタジア)(デイリー杯2歳ステークス)
- 2018年産駒
- レッドベルオーブ(母:レッドファンタジア)(デイリー杯2歳ステークス)
父父ディープインパクトまたはブラックタイド、母父キングヘイローの産駒の重賞勝ち馬
[編集]- 2017年産駒
- 2019年産駒
- ウォーターナビレラ(父:シルバーステート、母:シャイニングサヤカ)(ファンタジーステークス)
- イクイノックス(父:キタサンブラック、母:シャトーブランシュ)(天皇賞・秋2勝、ジャパンカップ、有馬記念、ドバイシーマクラシック、宝塚記念、東京スポーツ杯2歳ステークス)
※母父キングヘイロー産駒としては他に父ネオユニヴァース系からアサマノイタズラ、メイショウムラクモ、ディープインパクト系と同様にヘイローとリファールの双方を4代父に持つモーリス産駒からピクシーナイトを輩出しており、これらの産駒が全て2021年中に開催された重賞を制している。また2022年にはピクシーナイトの半弟でブラックタイド産駒のフェーングロッテンが重賞を勝利している。
脚注
[編集]- ^ 吉沢2008、178-179頁。
- ^ 吉沢2008、187-188頁。
- ^ マーケットブリーダーの場合、馬主の購買意欲を刺激するための特長を作り出すことが重要となる(吉沢2008、184-188頁。)。
- ^ 吉沢2008、188頁。
- ^ 吉沢2008、193頁。
- ^ 吉沢2008、192頁。
- ^ 2009年産までにこの配合でデビューした競走馬はわずか7頭である。
- ^ 2012年6月24日現在、本文後述の4頭で重賞競走を18勝(うちG1競走:9勝)している。
- ^ マックイーンの娘、乗馬から繁殖へ…奇跡の血が蘇る
- ^ “【ダノンキングリー】国内だけでなく欧州でも実績残すディープ×ストームキャット”. 東スポ競馬. 2021年10月27日閲覧。
- ^ “競馬の黄金配合とは?ニックスの意味と代表的な血統の組み合わせ”. 競馬情報. 2021年11月9日閲覧。
- ^ “JRA驚異の勝ち上がり率“95%”!ディープインパクトの“超ニックス”配合、レッドベルオーブが土曜新潟で初陣!”. GJ. 2021年11月9日閲覧。
- ^ “[インタビュー]母父キングヘイローが大ブレイク! 血統評論家・栗山求氏の考える「ブレイクの要因」とは。”. ウマフリ. 2021年12月26日閲覧。
参考文献
[編集]- 吉沢譲治『新説母馬血統学 進化の遺伝子の神秘』講談社〈講談社+α文庫 G168-1〉、2008年。ISBN 4062811685。