萩の月
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種類 | 銘菓 |
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発売開始年 | 1979年 |
会社名 | 菓匠三全 |
萩の月(はぎのつき)とは、1979年(昭和54年)9月から菓匠三全(宮城県仙台市)が販売しているカスタードクリームをカステラ生地で包んだ饅頭型の菓子のことである。正式名称は『仙台銘菓「萩の月」』(せんだいめいか はぎのつき)。
概要[編集]
萩の月は、明治初期誕生の笹かまぼこや昭和20年代誕生の仙台牛タン焼きと並び、昭和50年代誕生と歴史が浅いながら仙台土産の定番になっている。業界紙がアンケートを基に選んだ「20世紀を代表する土産品」では、北海道の白い恋人、福岡県の辛子明太子に次いで、宮城県の萩の月が全国3位になった[1]。現在では宮城県外の店舗でも販売され、1日あたり10万個が製造・販売されている[2]。
商品名は、「萩が咲き乱れる宮城野の空に浮かぶ満月」に由来している。松任谷由実の発言で全国的な知名度を得たと言われ、全国に模倣品が数百種はあると見られる。
業界では、食品の賞味期限延長に脱酸素剤を利用した先駆けの商品として知られる[3]。また、現在よりも高価な移動手段であった旅客機の機内で供された歴史から、ビニール包装の上、さらに小箱に個包装されているのが特徴。
メーカーが推奨したわけではなく、自然発生的に消費者自ら多様な食べ方をしているのも特徴である。常温のまま食べる方法の他、冷蔵庫で冷やしてから食べる方法や、松任谷由実が絶賛する冷凍庫で半ば凍らせアイスクリームのようにして食べる方法も著名である。このため、模倣品の中にはあらかじめ凍らせた状態で売られているものもある。逆に、温かい状態では中のカスタードクリームが軟化し、常温のそれより舌触りが良くて美味しいとサンドウィッチマンや熊田曜子や浅井宏祐らが絶賛している[4]。
商品名の由来[編集]
仙台平野は、古くから宮城野と呼ばれる歌枕であった。また、宮城野は萩の名所として知られ、中秋の名月の頃に咲く。これらから、月を連想させる黄色い丸形の商品を、萩が咲き乱れる宮城野の空に浮かぶ満月に見立てて命名している[6]。
その他、宮城県や仙台市における「月」や「萩」の訴求力の強さには、以下のような背景がある。
- 日本三景・松島は、月見の名所として著名である。
- 歌舞伎および浄瑠璃の演目に、伊達騒動を題材にした「伽羅先代萩」がある。
- 「伽羅先代萩」に因んで名付けられたと言われる「センダイハギ」(センダイハギ属、日本原産、初夏に黄色の花が咲く)という品種がある。
- 「ムラサキセンダイハギ」(ムラサキセンダイハギ属、北米原産、初夏に紫色の花が咲く)という品種がある。
- 1955年(昭和30年)3月22日に選定された宮城県の県花は「ミヤギノハギ」(ハギ属、日本原産、秋に紫色の花が咲く)である。
- 1958年(昭和33年)より、仙台市野草園で「萩まつり」が毎年開催されている。
- 1965年(昭和40年)7月15日に制定された宮城県旗は「ミヤギノハギ」をモチーフにしている。
- 1971年(昭和46年)に選定された仙台市の市花は「ハギ」である。
歴史[編集]
1964年(昭和39年)の東京オリンピックを境に主力商品のかりんとうの売り上げが芳しくなくなっていた三全工業(現菓匠三全)は1970年(昭和45年)、伊達騒動を描いたNHK大河ドラマ『樅ノ木は残った』の放送を機に観光客が増加していた宮城県で土産品に新規参入することを決意し、バウムクーヘンをもとに新商品「仙台銘菓 伊達絵巻」を開発した[3]。また、同商品は「個包装の上で箱に入れる」という方式を採った[3]。「伊達絵巻」は知名度の低さから当初、デパートでは扱ってもらえなかったが、仙台空港での販売が始まると売り上げを伸ばし、デパートや鉄道弘済会での取り扱いも始まって仙台土産としての地位を確立した[3]。
「伊達絵巻」の成功を機に同社は直営店展開も始めたが、品揃え拡充のために新商品開発にも取り掛かった[3]。当時、洋菓子店で一番売れている商品はシュークリームであり、贈答品として人気があるのはカステラであると同社は分析し、両者を組み合わせた「萩の月」を開発[3]。しかし、「萩の月」は保存料を使用しない生菓子だったため日持ちせず、土産品や贈答品としては不適だった[3]。そこで、1970年代中葉に三菱瓦斯化学(現三菱ガス化学)が商品化に成功した脱酸素剤を用いて、賞味期限延長の共同研究を始めた[3]。
1978年(昭和53年)3月1日、初めて仙台空港と福岡空港を繋ぐ定期便が就航したが、これに合わせて運行会社の東亜国内航空 (TDA) (→ 日本エアシステム (JAS) に社名変更 → 日本航空 (JAL) に吸収合併)が、提供する機内菓子を探していた[2]。それを知った菓匠三全が積極的に営業をかけたところ、同社の主力商品である「伊達絵巻」は採用されず、新製品である「萩の月」が採用された[2]。当時は1982年(昭和57年)6月23日の東北新幹線開業前であり、一般の旅行や移動には主に在来線等が利用され、航空便はビジネスマンやVIPが利用客の中心という時代であったため、機内菓子は高級に見せる必要があった。そのため「萩の月」は、デザインされた小さな箱に個包装されて供された[2]。
三菱瓦斯化学との3年以上にわたる共同研究の結果、脱酸素剤の原料の鉄の臭いが食品に移らないよう活性炭が加えられた脱酸素剤「エージレス」が完成[3]。酸素が入らないよう密閉したフィルムで個包装された生菓子「萩の月」は、この「エージレス」を同包することで、保存料なしでも日持ちする土産品「仙台銘菓 萩の月」へと生まれ変わった[3]。1979年(昭和54年)9月から一般発売[7]される際には、フィルム個包装した上にさらに機内菓子からの伝統の小さな箱で個包装して販売された。
航空便利用客の間で爆発的な人気となった[2]「萩の月」であったが、松任谷由実がラジオ番組内で「萩の月」を絶賛し、「萩の月を凍らせてから半解凍の状態で食べるのが一番好き」と語ったことがきっかけで一般にブレイクしたという逸話もある。また赤塚不二夫の漫画作品にも登場する[8]など、名称は全国区へ浸透した。
同社は、各地から来た人が集散する仙台駅・仙台空港・百貨店に店子店舗を展開し、さらに、モータリゼーション進展に合わせて主要幹線道路やインターチェンジ近くにお土産品ロードサイド店舗を展開し、「萩の月」は仙台土産として定着していった。また、お中元・お歳暮の贈答品として宮城県民が用いたことも、「萩の月」が全国に知られた銘菓となった要因と見られる。
「萩の月」の知名度が上がるにつれ、日本各地で模倣品が発売されるようになり、現在は菓子の1つのジャンルになりつつある。模倣品の商品名は、萩の月へのオマージュからか、「月」が名称に含まれる例が多い。
関連商品[編集]
萩の調[編集]
姉妹品としてチョコレートクリームを用いた萩の調(はぎのしらべ)が発売されている。第34回モンドセレクション特別金賞受賞。
東日本大震災後に販売休止となっていたが、2019年から期間と個数限定でオンラインショップでの販売を再開した[9]。
限定キャラクター商品[編集]
宮城県出身である武梨えり原作のアニメ『かんなぎ』のロケ地と推定され、「聖地巡礼」と称してファンが多く訪れた鼻節神社を擁する七ヶ浜町が、2009年(平成21年)夏に『かんなぎ』関連イベントを開催し、「萩の月」と「萩の調」の包装に同アニメのヒロインである"ナギ"を印刷して各々「ナギの月」と「ナギの調」と命名し、景品として配った[10]。
CM[編集]
テレビコマーシャルには、宝塚歌劇団に所属する生徒が出演している。代々宮城県出身の男役が起用されてきたが、海隼人の後任には礼真琴(東京都江戸川区出身)が起用された。
イメージキャラクター | 出身地 | |
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1 | 杜けあき(元雪組トップスター) | 仙台市 |
2 | 朝海ひかる(元雪組トップスター) | 仙台市 |
3 | 海隼人(元星組男役) | 大崎市 |
4 | 礼真琴(現星組トップスター) | 東京都江戸川区 |
このほか2014年10月から熊谷和徳と岩田華怜(当時AKB48)を起用したCMが放送を開始し[11]、2016年1月に新作が放送された[12]。2021年現在は宝塚歌劇団によるCMが放送されている[13]。
なお、CMソングは大和田りつこ「お菓子は夢のパスポート」(日本コロムビア 1998年02月21日発売)が使われた時期があるが、2008年(平成20年)からは浜田真理子が起用されている[14]。
脚注[編集]
- ^ 【社説】赤福偽装 “みそぎ”をしないと(東京新聞 2007年10月13日)
- ^ a b c d e IBEX TIMES「第11回 銘菓~萩の月~のふるさと探訪」(アイベックスエアラインズ)
- ^ a b c d e f g h i j 企業トップインタビュー「第15回 株式会社菓匠三全」(銀行員ドットコム)
- ^ TBCテレビ「サンドのぼんやり〜ぬTV」 2009年3月24日放送回より
- ^ 宮城・仙台 旅 しおり
- ^ 仙台に銘菓あり 萩の月(菓匠三全)
- ^ あゆみ(菓匠三全)
- ^ 『夜の赤塚不二夫』なりなれ社、2021年、35頁。
- ^ 萩の調 オンラインショップ期間限定販売 -菓匠三全
- ^ "巡礼" 町挙げ歓迎 アニメ「かんなぎ」聖地・七ヶ浜(河北新報 2009年7月24日)
- ^ “AKB48・岩田華怜、憧れのタップダンサー・熊谷和徳との競演に「夢のよう」”. マイナビニュース. (2014年10月16日) 2021年11月7日閲覧。
- ^ “新TV-CM完成!!「世界的タップダンサー熊谷和徳」と卒業を電撃発表した「AKB48岩田華怜」が出演!! ~「菓匠三全萩の月」新TV-CM 熊谷和徳「NYライブ篇」・岩田華怜「ライブ篇」~”. 菓匠三全. 2021年11月7日閲覧。
- ^ “新CMギャラリー|萩の月”. 萩の月公式ページ. 2021年11月7日閲覧。
- ^ 雪の朝 ハマダマリコ的こころ(浜田真理子オフィシャルブログ)
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 菓匠三全
- 「萩の月」を探せ(「萩の月」の模倣品を調べた個人のウェブサイト)
- 月とゆかいな仲間たち - ウェイバックマシン(2009年6月27日アーカイブ分)(「萩の月」の模倣品を調べた個人のウェブサイト)