脱ゆとり教育

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

脱ゆとり教育(だつゆとりきょういく)とは、日本ゆとり教育による学習量の削減から一転し、学習量の増加の方向へ進んだ教育のことを指す[1]。2015年(平成27年)現在、2011年度(平成23年度)から文部科学省による学習指導要領の改定に伴って始まった教育のことを指す。

概要[編集]

ゆとり教育は、1980年代から始まった教育方針であった。

この方針について文部科学省の出版する『学制百二十年史』では、各教科の指導内容大幅精選と思い切った授業時間削減が大きな特色とある[2]

なぜそのような教育方針が始まったのかというと、1970年代までに過剰に増大した学習量は「詰め込み教育」と呼ばれ、知識の暗記を重視したため、「なぜそうなるのか」といった疑問や創造力の欠如が問題視されたからである。このような学習方法はテストが終われば、忘れてしまう学力(剥落学力)であると批判された[3]

そのため、1980年代からは学習量の増大から一転して削減の方向へ進み、小中学校では2002年度(平成14年度)、高等学校では2003年度(平成15年度)から「総合的な学習の時間」をはじめとして各教科で「調べ学習」など思考力を付けることを目指した学習内容が多く盛り込まれ、教科書では実験、観察、調査、研究、発表、討論などの内容が多くなった。受け身の学習から能動的な学習、発信型の学習への転換が図られた。[4]
しかし、この教育方針は、OECD生徒の学習到達度調査 (PISA) などの国際学力テストで順位を落としたことなどから学力低下が指摘され、各方面から批判が起こった。中山成彬文部科学大臣は学力低下を認めるものの「生きる力」の「理念や目標には間違いがない」とし、また「その狙いが十分に達成されていないのではないか」と発言した。[5]小泉内閣の下、小坂憲次文部科学大臣は中央教育審議会に学習指導要領の見直しを要請し、安倍政権が引継くかたちで、教育再生(ゆとり教育の見直し)が着手された。マスコミは「脱ゆとり」という言葉を用いて報道していたが、小坂文部科学大臣も、安倍内閣下の伊吹文部科学大臣に至っても「ゆとり教育」の方向性自体をは問題視してはいなかった。2007年6月、安倍政権下の教育再生会議が授業時間増加を提言し、安倍内閣骨太の方針2007に授業時間数の1割増を明記した。[6]2008年(平成20年)、新しい学習指導要領が改訂され、ゆとり教育から脱却したということから「脱ゆとり教育」と称され[7][8][9]小学校では2011年度(平成23年度)、中学校では2012年度(平成24年度)、高等学校では2013年度(平成25年度)から完全実施された。この教育は、文部科学省によるとゆとり教育でも詰め込み教育でもなく、生きる力をはぐくむ教育とされている。[10]

ただし、2020年度以降(小学校が2020年度以降、中学校が2021年度以降、高等学校が2022年度入学生以降[11])に実施が予定されている教育[12]2006年(平成18年)4月2日生まれ以降が対象予定)については、脱ゆとり教育と呼ぶかどうかは不明である[要出典]

文部科学省の主旨[編集]

マスコミ等は、この新学習指導要領のことを脱ゆとり教育と呼ぶが、文部科学省の意向は、ゆとりでも詰め込みでもない教育としており、この学習指導要領の理念は、「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」を兼ね備えた「生きる力」をはぐくむための教育とし、勉強面では (1) 基礎的な知識・技能の習得、(2) 知識・技能を活用し、自ら考え、判断し、表現する力の育成、(3) 学習に取り組む意欲の養育を育成しようとしている[13]

移行期間[編集]

脱ゆとり教育が行われる前の数年間移行措置としての教育が行われる。これは、主に数学理科のカリキュラムを一部変更し、補助教材を使って行われる教育であり、ゆとり教育と脱ゆとり教育の間の教育のことである。小学校中学校では2009年度(平成21年度)から始まった。高校では2012年度(平成24年度)から数学と理科のみ脱ゆとり教育。

移行措置中の変更点の概要[編集]

移行期間での変更点の概要は以下のとおりである[14]

  • 学習指導要領の総則や、道徳、総合的な学習の時間、特別活動については移行措置期間から先行実施。
  • 数学(小学校では算数)と理科に関しては、一部前倒しで実施。それに関する必要な教材は配布される。
  • それ以外の科目では、学校の判断に任せられる。
  • ただし、47都道府県の名称と位置、指導する曲数の増加、体育の授業時間数増加(小学校低学年)は先行実施される。
  • 外国語活動(主に英語、小学校5,6年生)は各学校の裁量で授業可(一部は総合的な学習の時間からの転用可)。
  • 小学校の総授業時間数は増加される。
  • 5時間授業→6時間授業の増加、総合学習を減らしたのみで授業実数に変化
  • 授業時間の変更

脱ゆとり教育の変更点[編集]

  • 言語活動理数教育の充実。
  • 伝統や文化に関する教育の充実。
  • 小・中学校ともに総合的な学習の時間を削減。
  • 中学校の選択教科の廃止
  • 総授業時数が小学校6年間で278時間増加。
  • 小学5・6年に「外国語活動」の時間を新設。
  • 総授業時数が中学校3年間で105時間増加。
  • 教科書のページ数が増量された(反復学習の増加)[15][16][17]。ただしページ数が増加した一方、学習内容については2002年以前の水準に完全に戻っているわけではない。
  • 教科書・ランドセルが2011年〜A4サイズに

授業時数[編集]

ゆとり教育と移行措置と脱ゆとり教育の学年別総授業時数の変化[18]
学年 ゆとり教育 移行期間 脱ゆとり教育
小学1年生 782 (23) 816 (24) 850 (25)
小学2年生 840 (24) 875 (25) 910 (26)
小学3年生 910 (26) 945 (27) 945 (27)
小学4年生 945 (27) 980 (28) 980 (28)
小学5年生 945 (27) 980 (28) 980 (28)
小学6年生 945 (27) 980 (28) 980 (28)
中学1年生 980 (28) 980 (28) 1015 (29)
中学2年生 980 (28) 980 (28) 1015 (29)
中学3年生 980 (28) 980 (28) 1015 (29)
  • ()内は週時間あたりの授業時数
ゆとり教育と移行措置と脱ゆとり教育の教科別授業時数の変化(小学校[18]
学年 ゆとり教育 移行期間 脱ゆとり教育
国語 1377 1377 1461
社会 345 345 365
数学 869 1011 1011
理科 350 405 405
生活 207 207 207
音楽 358 358 358
図画工作 358 358 358
家庭 115 115 115
体育 540 567 597
道徳 209 209 209
特別授業 209 209 209
総合的な学習の時間 430 345 - 415 280
外国語活動 0 0 - 70 70
ゆとり教育と移行措置と脱ゆとり教育の教科別授業時数の変化(中学校[18]
学年 ゆとり教育 移行期間1年目 移行期間2年目 移行期間3年目 脱ゆとり教育
国語 350 350 350 350 385
社会 295 295 295 295 350
数学 315 350 385 385 385
理科 290 315 350 385 385
音楽 115 115 115 115 115
美術 115 115 115 115 115
保健体育 270 270 270 270 315
技術家庭 175 175 175 175 175
外国語 315 315 315 315 420
道徳 105 105 105 105 105
特別活動 105 105 105 105 105
選択教科等 155 - 280 130 - 240 60 - 170 25 - 135 0
総合的な学習の時間 210 - 335 190 - 300 190 - 300 190 - 300 190

脱ゆとり教育を受ける年代[編集]

生まれた年と学習指導要領の対応表。
赤色が1998年(平成10年)改訂、2002年度(平成14年度)以降実施の行学習指導要領下での教育。橙色、緑色がそれ以前の学習指導要領下での教育。青色がそれ以降の学習指導要領下での教育である。なお、黄緑色、ピンクは移行措置間の教育であり、改訂前の教育と改定後の教育が混ざっている教育となっている。今後、新たに学習指導要領の改変が行われない限り、この表通りに教育が実行される。

以下に脱ゆとり教育を受ける年代の推移を表にしめす。

表の見方
黄色 黄緑
示している教育 ゆとり教育よりも前の教育[注 1] ゆとり教育 移行措置[注 2] 一部脱ゆとり教育[注 3][注 4] 脱ゆとり教育[注 3]

ゆとり教育を受けた世代と関係する各教育制度が実施された時期を次の表にしめす。

ゆとり教育と脱ゆとり教育受ける年代の変化
年度生まれ 小1 小2 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3 高校・大学入試
1993 (H5) 850 910 910 945 945 945 980 980 980 ゆとり教育[注 5]
1994 (H6) 850 840 910 945 945 945 980 980 980
1995 (H7) 782 840 910 945 945 945 980 980 980
1996 (H8) 782 840 910 945 945 945 980 980 980 一部脱ゆとり教育[注 4][注 6]
1997 (H9) 782 840 910 945 945 980 980 980 1015 脱ゆとり教育[注 7]
1998 (H10) 782 840 910 945 980 980 980 1015 1015
1999 (H11) 782 840 910 980 980 980 1015 1015 1015
2000 (H12) 782 840 945 980 980 980 1015 1015 1015
2001 (H13) 782 875 945 980 980 980 1015 1015 1015
2002 (H14) 816 875 945 980 980 980 1015 1015 1015
2003 (H15) 816 910 945 980 980 980 1015 1015 1015
2004 (H16) 850 910 945 980 980 980 1015 1015 1015
  • 補足
誕生年度は原級留置(留年)などの処置を受けなかった場合のものである。なお、4月1日生まれの者は前年度生まれ扱いとなる。また、高校では基本的に入学時の教育が卒業するまで継続されるため[19]、1994年度(平成6年度)生まれや1995年度(平成7年度)生まれが高校の途中から脱ゆとり教育を受けたりすることは原則なく、大学受験も、原則現役の高校生が受けた内容で出題される[20]。なお、移行期間とは、算数、数学、理科、外国語活動(小学校)に関して脱ゆとり教育の内容を一部先行実施したものである(その他の変更点は文部科学省のHPを参照)。また、センター試験においては経過措置があるため、旧課程履修者は現役生とは異なり旧課程での受験が可能である[21][22]
  1. ^ ここでのゆとり教育よりも前の教育とは1989年(平成10年)改訂学習指導要領による教育を指す。
  2. ^ 脱ゆとり教育の一部を先行実施。
  3. ^ a b ここでの脱ゆとり教育とは2008年(平成20年)改訂学習指導要領の教育を指す。
  4. ^ a b 理数のみ脱ゆとり教育
  5. ^ 2006年から2014年の大学入試
  6. ^ 2015年の大学入試
  7. ^ 2016年以降の大学入試

脱ゆとり教育に対する評価[編集]

ベネッセ教育研究開発センターが全国の公立小学校校長および教員に行った2011年1学期を対象にした調査によると、「国語では4割、算数では3割弱の教員が授業進度に遅れが出ている」と回答した。児童の変化については、「分かりやすく伝えたり、説明できる児童」、「感じたことを表現できる児童」などの増加がみられたものの、「疲れている児童」や「授業についていけない児童」が増加し、教員の4割が「児童間の学力格差が広がった」と感じている。また、9割以上の教員が「教材研究、教材準備の時間不足」を悩みとしており、「学力が低い児童の学習意欲を保つことの困難性」や「児童間の学力差」も7割以上の教員が悩みとして回答している。

2011年(平成23年)には、小学4年生と中学2年生を対象とした国際数学・理科教育動向調査の結果、小学4年生の学力に改善傾向が見られ、文部科学省は脱ゆとり教育の成果と見ている[23]が、法政大学左巻健男教授は、「新指導要領への過渡期で、判断は早計。次回の結果を見ないと分からない」と指摘した[24]

脱ゆとり教育は、ゆとり教育での問題を解決するために作られたのだが、うまく対応できなければついていけない子どもが増えるのではないかと懸念するものもおり[25]、また、暗記や暗唱が中心の教育に戻したり授業時間を増やしたりする方法では日本の教育が抱えている諸問題は解決できないと述べている者もいる[26]

受験産業の反応としては、学習内容が多くなる、難しくなるという部分を押し出しており、ゆとり教育時の反応とは違う反応を示している。また、ゆとり教育による公立学校不信を背景に起こった私立中学受験ブームも、公立学校での脱ゆとり教育の実施に加え、2008年(平成20年)のリーマン・ショック後の不況や、2011年(平成23年)3月11日以降の東日本大震災東北地方太平洋沖地震)の影響もあり、かなり沈静化している。

超少子化[編集]

少人数学級[編集]

文部科学省は1クラス当たりの生徒数の削減を目指しており[27]、脱ゆとり教育が始まる2011年度(平成23年度)から小学校1年生が40人学級から35人学級となり[28]、今後、さらなる拡大を模索している[29]

脚注[編集]

  1. ^ 新語時事用語辞典 脱ゆとり
  2. ^ 一 教育課程の改訂 昭和五十二年の小・中学校の教育課程の改訂”. 文部科学省. 2016年11月13日閲覧。
  3. ^ 教育改革の基本的方向http://www.nier.go.jp/zenkyou/zenkyou/02taikai/taikai1.html
  4. ^ 教育改革の基本的方向http://www.nier.go.jp/zenkyou/zenkyou/02taikai/taikai1.html
  5. ^ [参考資料「学力の現状」「教育内容」に関するこれまでの国会答弁]
  6. ^ 〈選択のとき:3〉学力伸ばす教育とは 朝日新聞2007年07月08日
  7. ^ 脱ゆとり教育”教科書公開。[リンク切れ] - NHKニュース 2011年5月23日
  8. ^ 教科書25%ページ増 文科省検定 中学、脱「ゆとり」鮮明[リンク切れ] - 東京新聞 2011年3月31日
  9. ^ 脱「ゆとり」 どう変わる学校の教科書[リンク切れ] - 日本経済新聞 2011年4月13日
  10. ^ 現行学習指導要領・生きる力 文部科学省公式
  11. ^ 課題解決型の能力重視…学習指導要領
  12. ^ 知識の詰め込みではなく実社会で役立つスキルを 指導要領改訂のポイントとは
  13. ^ 新学習指導要領・生きる力 保護者用リーフレット (PDF) - 文部科学省
  14. ^ 小・中学校学習指導要領の改訂に伴う移行措置の概要 (PDF) - 文部科学省
  15. ^ 小学校教科書検定、ゆとり転換鮮明 ページ3割増 :日本経済新聞2013年4月6日閲覧。
  16. ^ 時事ドットコム:【図解・社会】教科書のページ数推移(中学校)[リンク切れ]2013年4月6日閲覧。
  17. ^ 高校教科書、ページ15%増 「脱ゆとり」総仕上げ :日本経済新聞2013年4月6日閲覧。
  18. ^ a b c 移行措置期間中の標準授業時数について (PDF) - 文部科学省
  19. ^ 新学習指導要領・生きる力 新指導要領の説明でも、開始時期が○○年4月〜と表記される小中学校と違い、高校では2013年度(平成25年度)入学生からという表記になっている。
  20. ^ 前述のとおり大学入試は2015年(平成27年)、2016年(平成28年)に変更される。
  21. ^ 旧課程履修者に対する経過措置
  22. ^ 2015年度入試 国公立大 旧課程履修者に対する経過措置
  23. ^ 理数学力改善 文科省「脱ゆとりの効果」 国際学力テスト - MSN産経ニュース[リンク切れ]2013年4月6日閲覧。
  24. ^ 脱ゆとり効果「判断は早計」と専門家 国際学力テスト+(1-2ページ) - MSN産経ニュース[リンク切れ]
  25. ^ 2008年2月26日 中日新聞 社説 より
  26. ^ 比較・競争とは無縁 学習到達度「世界一」のフィンランド”. 朝日新聞 (2005年2月25日). 2010年11月23日閲覧。
  27. ^ 小学校1・2年生における35人学級の実現”. 文部科学省. 2011年10月4日閲覧。
  28. ^ 小学1年の35人学級 法改正が成立 今年度から”. 2011年10月4日閲覧。[リンク切れ]
  29. ^ 小学2年の35人学級化へ予算 文科省要求、耐震化も”. 2011年10月4日閲覧。[リンク切れ]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]