広島レモン

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生口島レモン谷にあるオブジェ
生口島レモン谷

広島レモン(ひろしまレモン)は、広島県で生産されているレモン。瀬戸内広島レモンとも[1]

広島県果実農業協同組合連合会(JA広島果実連)によって地域団体商標申請され2008年認定[2]。同県内の地域ブランドに大長レモン(おおちょうレモン)がありこちらはJA広島ゆたかによって地域団体商標申請され2009年認定されている[3]。本項ではそれを含め同県内で栽培されているレモンについて述べる。

特徴[編集]

日本のレモンの食料自給率は1割を越えるかそれに満たないほどで、国内に流通しているレモンの殆どが外国産である[4][5]。自給率が上がらない理由にはいくつかあるが、一つには国内ではレモンが栽培できる気候条件にあう場所は限られていること[6]が挙げられる。ただ外国産レモンは輸送に時間がかかることから未成熟のまま防カビ剤防腐剤が使われた状態で船積みされるのに対し、国産レモンはその薬剤は使用せず完熟した新鮮なものを市場に出せるという大きな強みがある[5][7][8]。年々食の安全が注目されていったことにより、需要が高まっている[6][5]

その中で広島レモンは栽培面積・生産量共に日本一であり、現在流通する国産レモンの半数以上を占めている[1][4][7]。減農薬あるいは無農薬で栽培され防腐剤やワックスは使用していないため、安全に皮ごと食べられる[1][9]。季節関係なく1年中生のレモンを食べられる体制を確立している[1]。初めて栽培されたのは明治時代であり、1964年輸入自由化により壊滅的な状態にまで落ち込んだが、食の安全性からその存在が見直され、2000年代に入り地域ブランド化・6次産業化に向けて産官民連携で積極的に栽培普及および広報活動を行っている[6][7][10]

背景[編集]

地理[編集]

大長地区。斜面で柑橘栽培が行われている。左奥の黄色や右端の大きめの船は「みかん船」と呼ばれる運搬用の農船で、島の中だけでは土地が足りないために、近くの島に設けた畑にその船で行く出作が行われていた[11]

[12]

保存されている、みかん船の「大長丸」
瀬戸田PA付近。斜面で柑橘栽培が行われている。

広島県内でのレモンの産地は瀬戸内海沿岸部、特に芸予諸島内にある[1][7]。具体的には東から、尾道市三原市芸備群島豊田郡上大崎群島東広島市大芝島呉市下大崎群島蒲刈群島、呉市と江田島市安芸群島、にあたる[7]

このうち特に産地として有名なのが、呉市豊町大長を中心にJA広島ゆたか管内の大崎下島豊島大崎上島で栽培されている「大長レモン」[3]、尾道市瀬戸田町JA三原管内の生口島高根島で栽培されている「瀬戸田レモン」[5][9]である。大長は広島県におけるレモン栽培発祥の地であり生産面積で見ると3島分である大長レモンが日本一である[1][6]。島単体で見ると生口島で最も生産されており多々羅大橋近辺の垂水地区にはレモン谷と呼ばれる一大産地がある[9][13]。これらの地理的特徴は以下の通り。

  • 気候は瀬戸内海式気候であり、年間を通じて温暖で梅雨や台風を除くと降水も少ない。台風自体も少ない。更に海水は一度温まると冷めにくいため、島全体の気温が下がりにくい[6][7][8][14]
  • 平野が狭く、海岸付近まで丘陵が迫っている[14]。地質はほぼ花崗岩とその風化残留土であるまさ土であり、水はけはいい[5][14]。海辺に近い狭い平野では米作が難しかったため古くから製塩が盛んで、近代に入り新しい産業としてミカン・ネーブルオレンジハッサクなどの柑橘栽培が取り組まれた。
  • 大崎上島を除き、栽培されている島はしまなみ海道安芸灘とびしま海道など離島架橋で繋がっている。つまり陸路のみで市場まで運搬できる。

この地域のみでレモンが育てられている理由は、レモンが他の柑橘に比べて栽培できる気候条件が難しいためである。条件には、気温マイナス3度になると枯死するため温暖な気候であること、レモン(リスボン種)の枝には長いトゲがあり強い風が吹くと葉や実を傷つけてカンキツかいよう病の原因となるため台風などの強風が吹かない地であること、水はけもよく霧の発生が少ないこと、などがある[6][8]。そのため国内でもレモンが育てられる適正地は少ない。

ちなみに大長は、広島県におけるミカン栽培発祥の地でもあり(地域団体商標大長みかん)、昭和30年代には国内の早生温州ミカンの4割を大長のものが占めていたことがあった[6]。日本で初めて動力式柑橘選果機を導入した地であり、加島正人によって日本で初めてミカンの缶詰製造が始まった地である[15]アヲハタ廿日出要之進も大長の出身である。

普及[編集]

戦前、この地方で栽培される柑橘の海外輸出権獲得に尽力した望月圭介逓信大臣[16]。広島県大崎上島出身。
レモン輸入自由化に踏み切った池田勇人首相。広島県竹原市出身。戦後のこの地方の発展に大きく関与した人物でもある[17]

日本にレモンが伝わったのが1873年(明治6年)旅行中のイタリア人が熱海の旅館の庭に植えたのが始まりと言われている[5]

広島県には、1897年(明治31年)大長で植えられたもので、和歌山県から買ったネーブルの苗木にたまたまリスボン種のレモン苗木3本が混入していたことから試植したのが最初と言われている[1]。食べ方がわからなかった農家は、大長の南にある御手洗に寄港する船乗りから教わったという[18]。栽培面積は広がり、大正時代には海外に輸出されていたこともあった[19][20]。瀬戸田には少し遅れて1928年(昭和3年)から始まる[9]。ただしこれらの地も含め瀬戸内の島嶼ではあくまでミカンやハッサク・ネーブル栽培が中心であった。

戦前の国産レモンは国際情勢の影響で外国産が輸入禁止となったことで需要が高騰した[9]。本格的なレモンブームは戦後の1949年(昭和24年)からで、右肩上がりで価格は上がっていき、瀬戸内の沿岸部や島嶼では栽培面積が増えていった[9][19]。1953年(昭和28年)には広島県の生産量は日本一となり、1963年(昭和38年)には国産レモンの半数以上を占めるようになった[1]

1964年(昭和39年)レモン輸入自由化、1970年(昭和45年)レモン果汁も自由化となり、価格競争に負けた国産は一気に下火となる[1][4][9]。さらに1976-77年寒波昭和52年豪雪)、1980-81年寒波(五六豪雪)で多くのレモンの木が枯死し減反してしまった[1]。大長においては一時はごく僅かな生産者が観光みやげ物用に栽培してる程度であったという[4]

そこで1980年代以降になって、広島県内の農協(JA)はレモン増産に踏み切るわけである[19]。これには以下の要因があった。

  • 1975年(昭和50年)輸入レモンから毒性を持つ防カビ剤OPPが検出されたことにより「日米レモン戦争」と呼ばれた社会問題が起こる。そこで消費者グループや生活協同組合を中心に安全なレモンを欲する声が挙がるようになる[1][19][9]
  • この地域の主産品であるミカンは、1960年代に全国で増産されたことにより1970年代には供給過多となったこと、果物の多様化によりミカン以外のものも好まれるようになったこと、1970年代以降続いたオレンジの輸入枠拡大そしてついに1991年(平成3年)オレンジ輸入自由化となったこと、などによって年々生産調整に迫られていた[21]。つまり価格低迷の続くミカンよりも、需要があり産地特性を活かせるレモンの方が高い収益性を見込めた[6][22]
  • 1970年代以降生協広島・生協大阪が共同で広島果実連からレモンの購入を続けており、つまり大口かつ確実な取引先を確保できていた[4][19]
  • レモンは四季成り性、条件さえ整えば1年中実が取れる特徴があり、ミカンなど他の品目と栽培両立が可能である[1][22]。従来の柑橘栽培+収益性の高いレモンで収入が安定すれば、若者が帰農する可能性があるとして後継者不足に悩む農家にとっては好材料であった[10]
  • 島嶼では近年鳥獣被害、特にイノシシによる農作物被害が深刻なものとなっているが、レモンはその酸味を鳥獣が避けるため被害が回避できる[22]

1982年(昭和57年)生口島で全国に先駆けて全島でレモン増殖運動を展開したことにより生産量が増えていった[9]。大長では1990年代から本格的に取り組まれ、その管轄であるJA広島ゆたかは2002年(平成14年)「レモン日本一産地化計画」を打ち出した[4][19]。この中で栽培普及と安全性のある流通に加え、周年供給可能な技術開発、加工品目の増加を目指した[4][22]

広島果実連は2008年(平成20年)「広島レモンプロジェクト」を発足、同年広島レモンが2009年(平成21年)大長レモンが地域団体商標に認定された[22]。そして県をあげて振興するため2012年(平成24年)に県の関係機関・各産地のJAで「広島レモン振興協議会」を発足、同年の県による観光PR「おしい!広島県」キャンペーンに合わせて積極的に広島レモンをアピールした[23][24]。また2014年(平成26年)からは、「フレッシュレモンになりたいのぉ〜」をキャッチコピーにしているNMB48市川美織を「広島レモン大使」として起用し[25]、PR活動を展開。市川は広島県も根拠地とするSTU48発足後も大使としての活動を継続している。

技術革新[編集]

品種
国産レモンの代表品種は大きく分けて2つ、リスボン種とビラフランカ種になる。更に県内では管内の農家が改良育成した「石田系リスボン」「竹下系リスボン」「道谷系ビラフランカ」などが育てられている[1]
古くからリスボン種が主力であったがその幹には長いトゲがあり、これはかいよう病になる主原因であり、手入れや収穫の邪魔になるため栽培を嫌がる農家もいた。そこでJA広島ゆたか管内の農家・道谷勇一がビラフランカ種を改良育成した道谷系ビラフランカを栽培普及した。これは従来のものよりトゲの少なく小さい、かつ収穫量が多い特徴がある[1][4][22]
更に県農業技術センターはこの道谷系ビラフランカの自然交雑実生から三倍体を選んで育成した新品種「イエローベル」を開発した。これは道谷系の特徴を持ちながら、コンパクトであるため収穫しやすい、種が極めて少ない、皮が薄い、などの特徴がある。栽培は2014年から始まっている[26][27]
MA包装英語版
出荷時期
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
露地栽培
ハウス栽培
(包装)貯蔵






それまでの国産レモンの出荷スケジュールは、5月開花→9月グリーンレモン収穫出荷→12月イエローレモン収穫出荷→5月まで、というもので特に消費が増える夏場には対応できていなかった[1][28]。これに周年供給を目指していたJA広島ゆたかが試行錯誤を始めるも、貯蔵技術が確立していなかった当時、6月7月ではよかったが8月9月になると腐敗が多くなり外観の品質も低下していた[28][29]
そこで2004年から産官民の連携で研究が始まり「MA包装を用いた長期貯蔵技術」を確立した[28][22][29]。これはレモン1個々々を鮮度保持効果のあるフィルムで包装し特殊な温度管理を行うことで長期貯蔵を可能にしたもので、従来9月までの腐敗率は4割ほどであったものがこの技術導入により1割以下にまで抑えることに成功した[28][29]。市場には2006年から出回っている[28]
ハート型
瀬戸田で栽培されているレモン。6月下旬から7月頃の若い柔らかい状態のレモンに型枠を付けて成熟した10月以降に出荷される[30]
きっかけは偶然ハート型に育ったレモンを見た農家が量産できれば付加価値を見いだせると独自に研究したもので、成功率が低かったため2011年から県立総合技術研究所西部工業技術センターが型枠研究に着手し3Dプリンターを用いて理想の形状および取り付けしやすい型枠を完成した[30]

収穫量[編集]

農林水産省 特産果樹生産動態等調査より。なお1969年まではいよかん、はっさくも含む。

年度 収穫量(t) 備考
000000 000000 全国 広島
2013
 
9,446 5,753
2012
 
8,681 4,946
2011
 
6,582 3,287 平成24年豪雪
2010
 
6,629 3,402 平成23年豪雪
2009
 
9,410 5,542
2008
 
7,594 4,291 地域団体商標登録
2007
 
6,187 4,064
2006
 
4,916 2,994
2005
 
4,827 2,992
2004
 
4,932 3,205
2003
 
4,007 2,492 平成15年台風第10号
2002
 
4,194 2,672
2001
 
4,455 2,832
2000 -
1999
 
2,832 1,493 6.29豪雨災害台風16号
1998
 
3,523 2,109
1997
 
3,449 2,020
1996
 
2,791 1,505
1995
 
2,768 1,500
1994
 
2,646 1,458
1993
 
2,482 1,219
1992
 
2,169 1,178
1991
 
1,707 1,061 平成3年台風第19号
1990
 
2,027 1,139
1989
 
1,902 820 台風11号12号13号
1988
 
2,414 1,060
1987
 
2,579 1,593
1986
 
1,279 421
1985
 
1,179 373
1984
 
530 167
1983
 
358 120
1982
 
319 175
1981
 
234 23 五六豪雪
1980
 
450 219
1979
 
661 513
1978
 
688 499
1977 - 昭和52年豪雪
1976
 
838 635
1975 - OPP問題
1974
 
573 351
1973 -
1972
 
449 285 昭和47年台風第9号
1971 -
1970
 
452 250 昭和45年台風第10号
1969 -
1968
 
732 406
1967 -
1966
 
883 500
1965 -
1964
 
841 521 輸入自由化
1963
 
1,197 868

加工品[編集]

レモン増産体制に入った1990年代から個別に加工品目について練られていた。2012年県の観光PRおしい!広島県キャンペーンの際には広島レモンの知名度アップに「ハート型レモン」[31]や「レモン鍋」[32]が広告塔として活用された。こうしたアピールの中でサッポロホールディングスカゴメアヲハタなどの民間企業とレモン利用協定を結び[24]、更にひろしま菓子博2013開催で更に企業にも認知度が上がり[23]、加工品目も増えている。2014年には塩レモンブームが起こり、それに関連した加工品も出ている[33]

以下2017年現在流通している品目例を列挙する。

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 瀬戸内 広島レモンとは”. 広島県. 2017年2月3日閲覧。
  2. ^ 広島レモン (PDF)”. 特許庁. 2017年2月3日閲覧。
  3. ^ a b 大長レモン (PDF)”. 特許庁. 2017年2月3日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h 根岸 2009, p. 41.
  5. ^ a b c d e f 昭雄さんのにっぽん農業ノート 広島県『レモン』”. ザ!鉄腕!DASH!! (2013年3月24日). 2017年2月3日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h 根岸 2009, p. 40.
  7. ^ a b c d e f 広島県は日本一のレモン産地 (PDF)”. 広島県立総合技術研究所. 2017年2月3日閲覧。
  8. ^ a b c レモン摘みに行ってきました”. Cafe&Meal MUJI(無印商品) (2011年2月4日). 2017年2月3日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g h i 生口島とレモン”. 島ごころ. 2017年2月3日閲覧。
  10. ^ a b 内田 2016, p. 386.
  11. ^ 豊町の紹介”. 呉市. 2017年2月3日閲覧。
  12. ^ 大長みかん - 呉市豊町観光協会
  13. ^ レモン谷”. ひろしま観光ナビ. 2017年2月3日閲覧。
  14. ^ a b c 広島県の地域概況”. 広島県. 2017年2月3日閲覧。
  15. ^ 概要”. JA広島ゆたか. 2017年2月3日閲覧。
  16. ^ 内田 2016, p. 372.
  17. ^ 内田 2016, p. 387.
  18. ^ 【にほんのものづくり物語】広島レモン (1/4ページ)”. 産経新聞 (2013年10月12日). 2017年2月3日閲覧。
  19. ^ a b c d e f 内田 2016, p. 378.
  20. ^ 大長レモン”. カンパイ!広島県. 2017年2月3日閲覧。
  21. ^ 内田 2016, p. 375.
  22. ^ a b c d e f g 内田 2016, p. 379.
  23. ^ a b 内田 2016, p. 381.
  24. ^ a b 内田 2016, p. 382.
  25. ^ 市川美織さんが広島レモン大使に就任”. JA広島果実連. 2017年7月20日閲覧。
  26. ^ イエローベル(レモン新品種)の品種識別技術を開発しました”. 広島県. 2017年2月3日閲覧。
  27. ^ 趣旨が少なく酸味がマイルドなレモン新品種「イエローベル」 (PDF)”. 日本政策金融公庫. 2017年2月3日閲覧。
  28. ^ a b c d e 根岸 2009, p. 42.
  29. ^ a b c 広島レモンのブランド化に関する研究成果 (PDF)”. 広島県総合技術研究所. 2017年2月3日閲覧。
  30. ^ a b 「おしい! 広島県」が放つ、数量限定の貴重なハート型レモン”. Excite Bit. 2017年2月3日閲覧。
  31. ^ おしい!広島県 (PDF)”. 経済産業省中国経済産業局. 2017年2月3日閲覧。
  32. ^ 今年の鍋は「レモン鍋」に決定 ! ! 瀬戸内 広島レモンを皮ごと使った「レモン鍋」 2012年10月9日(火)解禁のお知らせ”. PR TIMES. 2017年2月3日閲覧。
  33. ^ 香りの調味料「塩レモン」ブームの兆し!”. 日経ウーマンオンライン. 2017年2月3日閲覧。
  34. ^ 「瀬戸内ブランド商品・サービス」を認定しました (PDF)”. 広島県 (2016年3月3日). 2017年2月3日閲覧。
  35. ^ レモスコ”. ザ・広島ブランド. 2017年2月3日閲覧。
  36. ^ 広島レモンサイダー 海人の藻塩プラス”. ザ・広島ブランド. 2017年2月3日閲覧。
  37. ^ 淡雪花”. ザ・広島ブランド. 2017年2月3日閲覧。

参考資料[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]