ファルコン9

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ファルコン9
Falcon 9 COTS Demo F1 Launch.jpg
ファルコン9
基本データ
運用国 アメリカ合衆国
開発者 スペースX
使用期間 2010年以降
射場 ケープカナベラル空軍基地
ヴァンデンバーグ空軍基地
打ち上げ数 8(成功7)
打ち上げ費用

全て2011年見積もり LEO (<80% cap.) $49.9M [1]
LEO (>80% cap.) $56.0M [1]
GTO (<3,000 kg) $49.9M [1]

GTO (>3,000 kg) $56.0M [1]
原型 ファルコン1
公式ページ SpaceX - Falcon 9
物理的特徴
段数 2段
ブースター なし
総質量 333,400 kg
全長 54.3 m(v1.0), 68.4m(v1.1)
直径 3.66 m
軌道投入能力
低軌道 10,450 kg(v1.0), 13,150 kg(v1.1)
静止移行軌道 4,540 kg(v1.0), 4,850 kg(v1.1)
テンプレートを表示

ファルコン9英語: Falcon 9)はアメリカ合衆国の民間企業スペースX社により開発され、打ち上げられている2段式の商業用打ち上げロケット低周回軌道に10,450kg (v1.0), 13,150 kg (v1.1) の打ち上げ能力を持つ中型クラスのロケット。 2010年6月4日に初打ち上げが行われて成功した。

ファルコン9ロケットの名前は、スターウオーズのミレニアム・ファルコン号に由来しており、ファルコンロケットシリーズの後ろにつく1と9の数字は1段エンジンの数を表す[2]

設計[編集]

ファルコン1、ファルコン9 Ver1.0、Ver1.1、ファルコンヘビー

ファルコン9は大型の貨物や有人宇宙船の打ち上げを想定して設計されており、 アメリカ航空宇宙局 (NASA) の商業軌道輸送サービス (COTS) 計画の下で開発したドラゴン補給機を使ってISSへの補給を行う商業補給サービス (CRS) の契約をNASAから受注しており、その打上げロケットとしても使われる。

ファルコン9は同社が開発したファルコン1を基に機体を大型化し、液体酸素/RP-1を推進剤としたエンジンを使用する2段式のロケットである。第1段は海面高度での推力556 kN (125,000 lbf) で総離陸推力 5.0 MN (1.1 million lbf) のスペースX社のマーリン1Cロケットエンジンを9基クラスターして使用した[3]。第1段の点火剤として自然発火性物質であるトリエチルアルミニウム-トリエチルボラン (TEA-TEB) を使用している[4]

上段には真空中での運転の為にノズルの膨張比を117:1に高めて燃焼時間を345秒に改良した1基のマーリンバキュームロケットエンジンを使用。さらに再着火時の信頼性を高めるため、このエンジンには2重冗長構成の自己発火性を持つ点火器(TEA-TEBを使用)が備えられている[3]。スペースX社では両方の段を回収して将来的には再利用したいと考えており[5]、実際にパラシュートを装着した飛行も行ったが、ファルコン9 v1.0では1度も成功しなかった。

ファルコン9の上段と下段を接続する段間構造は炭素繊維アルミニウムコア複合材を使用している。1,2段の分離は再利用可能な固定器具 (collet) をガス圧で押し出す作動するシステムを使用している。ファルコン9のタンク壁とドームはアルミニウム-リチウム合金製である。スペースX社は利用可能な溶接法としては最も信頼性が高く、強度も強い摩擦攪拌接合で全てのタンクを製造している。

ファルコン9の第2段のタンクは単純に第一段のタンクを短縮したもので大半は同じ工具や材料や製造技術を使用している。これにより、製造経費を削減している[3]

ファルコン9 v1.0 (Version 1.0) は5号機で終了し、以後は全てv1.1 (Version 1.1) になる予定。v1.1は、v 1.0よりも全長が14m長く、エンジンはFalcon Heavyと同様に改良型のMerlin 1Dを使用する。1段のエンジン配置も変更され、3列×3列の長方形の配置から、Octawebと呼ばれる円形の配置(外周に8基、中央に1基)に変更された(このため射点設備も改修された)ほか、フェアリングも直径約5mの新しいものが開発され、段間分離システムも一新されて接続箇所が12箇所から3箇所に減らされて信頼性が向上した。また1段の回収に備えて耐熱塗装が強化された。v1.1は、2013年9月29日に初打ち上げが行われた。2014年からは1段を回収するために4本の着陸脚を装備する予定[6][7] [8]

信頼性[編集]

ファルコン9ロケットの信頼性は打ち上げ回数が大幅に増えないとわからないが、同社は非常に高い信頼性を持つと説明している。同社の信頼性に対する考え方は、シンプルな構成にすることで信頼性と低コストを得るという哲学に基づいている。 ファルコン9の打上げシーケンスは、全てのエンジンに点火して、システムのチェックを行ってから打ち上げることになっている。性能が正常である事が確認されるまでは機体は射点の保持機構で固定されたままとなる。このような方式は、サターンVスペースシャトルでも同様に使われてきた。もし、異常な状態が検知された場合は自動的にシャットダウンが行われ、推進薬の抜き取りが行われる。 サターンVと同様に、ファルコン9でも複数の1段エンジンをクラスター化しているため、飛行中にエンジンの1基が停止してもミッションを継続する事が出来る。ファルコン9は、アポロ計画のサターンロケット以降初めて、このエンジン停止時の対処能力 (engine-out capability) を持つロケットとなった。実際に4回目の打ち上げでは、上昇中にエンジン1基が異常を起こしたために停止されたが、他のエンジンに被害を与える事なく軌道に乗る事に成功した。 ファルコン9は三重冗長の飛行コンピュータと慣性誘導装置を有しており、さらにGPSを組み合わせる事で軌道投入精度をさらに高めている。

ファルコンヘビー[編集]

ファルコン9の第1段エンジンをマーリン1Cからマーリン1Dエンジンに換装した上でデルタ IVアトラス V HLVロシアアンガラロケットのように1段目を3本束ねたファルコンヘビーの打ち上げが計画されている。打ち上げ費用は約1億ドル、打ち上げ能力は低軌道で53,000 kg (120,000 lb)、静止トランスファー軌道で21,200 kg (47,000 lb)でありサターンVに次いで、史上2番目の打ち上げ能力を持つ大型ロケットとなる。

2013年時点でスペースXが公表している予定表によると、最初のデモフライトは2014年にヴァンデンバーグで行われ、2015年にはアメリカ空軍の衛星をケープ・カナベラルから打ち上げる計画となっている[9]。将来的には、火星へ探査機や人を送り込むことも考慮しているという。

再使用計画[編集]

ファルコン9 v1.0の一部の機体の1段にはパラシュートが装備されて、回収を実証して、可能であれば将来の再使用も試みるつもりであったが、一度も成功しなかった。回収のためには機体を耐熱用のアブレーティブ材の層で覆うと共に、パラシュートで降下速度を落とし、海に着水して海水にさらされても腐食しない材料の使用が必要となる。このような状況のため、2段の回収・再使用は、耐熱シールド、軌道離脱噴射、通信の確保が必要になり、さらに難易度が高くなるが、スペースX社はファルコン9の1,2段の双方を再使用することを計画していた。 スペースXは2011年9月29日に、第1段・第2段ともにエンジンを逆噴射させて垂直着陸を行い、回収・再使用するという構想を発表した。再使用が実現すれば、打ち上げコストは従来の100分の1程度になるとしている。[10] また同月には、FAAに対してファルコン9の1段目を改造したグラスホッパー (Grasshopper RLV) と呼ばれる垂直離着陸実験機を使う実験飛行を申請した[11]

2013年9月に行われたファルコン9 v1.1初号機の打ち上げでは、1段の回収試験が実際に行われた。1段ロケットを分離した後、3基のエンジンを超音速飛行状態で逆噴射させて減速し、着陸の直前に中央のエンジン1基を噴射して着陸するシーケンスがテストされた。この試験では洋上着水直前のエンジン1基の噴射が機体の回転の影響による遠心力で燃料供給できなくなり早期に燃焼が停止して洋上に激突したが、一部の機器の回収には成功した。このトラブルは、早ければv1.1 4号機以降に装着する予定の着陸脚を装備すれば回転をスラスタ噴射で制御出来ると考えられている。 グラスホッパーの試験で得た経験と今回の試験結果を組み合わせれば、1段を回収するために必要な技術はすべて習得できたとスペースX社は語っており、v1.1 4号機以降は可能であれば打ち上げを行った射点に1段を帰還させて垂直着陸させていく計画で、FAAに対して申請手続きを行っている。ドラゴン宇宙船を使ってISSへの補給飛行を行う今後のCRSフライト全てで、1段の回収を試みる予定で、将来的にはほとんどのミッションで1段の回収を試みる予定。 1段の回収に必要な余分な推進薬は、洋上で回収するのであれば15%程度、着陸地に帰還させる場合はおそらくその倍の30%になるだろう(すなわち打ち上げ可能なペイロード重量が30%失われる)と同社では解析している。しかし、もし1段が回収できれば、ロケットの費用の約3/4が節約できる可能性がある。カスタマーが問題ないと確認できる良好な状態で1段が回収できた場合は、機体の再使用を行う予定 [12]

射場[編集]

2013年現在運用中の射場は2箇所で、2020年までにもう2箇所を追加することを考えている。

  • ケープカナベラル空軍基地 第40射場 : 5号機までは全てケープカナベラルから打ち上げられている。
  • ヴァンデンバーグ空軍基地 第4射場英語版 : 6号機の打ち上げで初めて用いられた。[7] ファルコン9の打ち上げの為の改装費用は5000万ドルと推定される。当初は2012年に最初の打ち上げを予定していた。[13]
  • 3, 4番目の射点は計画中の段階で、候補地としては、テキサス州南部、フロリダ州(シャトル打ち上げに使われていた39A射点)が挙がっている[14]

打上げ記録[編集]

機体番号
打上げ日時 (UTC) 形式 射場 搭載物 結果 備考
初号機 2010年6月4日18時45分 v1.0 ケープカナベラル空軍基地
  • ドラゴン宇宙船の認証モデル(模型)
成功 [15]
2号機 2010年12月8日10時43分 v1.0 ケープカナベラル空軍基地
  • ドラゴン宇宙船 (COTS Demo Flight1)
  • CubeSat 8機
成功 ドラゴンは無人の状態で、地球の軌道を2周回後に大気圏に再突入して、太平洋上に無事着水し回収された。
民間の宇宙船として初めて地球の軌道を周回した後に帰還した。
3号機 2012年5月22日7時44分 v1.0 ケープカナベラル空軍基地 成功 ISSに結合させた後、ドラゴンカプセルを回収するミッション。
当初打ち上げは19日に計画されていたが、第5エンジンの異常燃焼により打ち上げ0.5秒前に中止された[17]。22日の再打ち上げにより打ち上げ成功。
4号機 2012年10月8日12時34分 v1.0 ケープカナベラル空軍基地
  • ドラゴン宇宙船(SpaceX CRS-1、略: SpX-1)
成功 初の商業補給サービス (Commercial Resupply Services, CRS)。打ち上げ中に第一段ロケットのうち1基に圧力低下の異常が発生したため、このエンジンを停止させ、自動制御により残り8基のエンジンと第2段の燃焼時間を長くした。
ドラゴンを予定通りの軌道に、ORBCOMM-G2を予定より低い不安定な軌道に投入した。ORBCOMM-G2は安定した軌道に上昇させることが断念され、最低限の運用ののち大気圏に突入した。
  • ORBCOMM-G2(通信衛星)
部分的失敗
5号機 2013年3月1日 v1.0 ケープカナベラル空軍基地
  • ドラゴン宇宙船(SpaceX CRS-2、略: SpX-2)
成功
6号機 2013年9月29日16時00分 v1.1 ヴァンデンバーグ空軍基地 成功 v1.1の初打ち上げであり、かつ西海岸からの初めての打ち上げであり、カナダ宇宙庁からの受注によるドラゴン宇宙船以外の宇宙機のみを搭載した初の商業ミッションでもある。
第1段分離後には、第1段の再使用に向けた実験も行われた。[7]
7号機 2013年12月3日22時41分 v1.1 ケープカナベラル空軍基地 SES-8英語版(通信衛星) 成功 静止トランスファ軌道への初打ち上げ。[18]
8号機 2014年1月6日22時06分 v1.1 ケープカナベラル空軍基地 Thaicom-6(通信衛星) 成功

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d Falcon 9 Overview, Launch Cost”. SpaceX (2010年). 2010年12月6日閲覧。
  2. ^ “Space X COTS 2 Presskit (P29)”. Space X. http://www.spacex.com/downloads/COTS-2-Press-Kit-5-14-12.pdf 2012年5月18日閲覧。 
  3. ^ a b c “Falcon 9 Overview”. SpaceX. (2010年5月8日). http://www.spacex.com/falcon9.php 
  4. ^ Mission Status Center, June 2, 2010, 1905 GMT, SpaceflightNow, accessed 2010-06-02, Quotation: "The flanges will link the rocket with ground storage tanks containing liquid oxygen, kerosene fuel, helium, gaserous nitrogen and the first stage ignitor source called triethylaluminum-triethylborane, better known as TEA-TAB."
  5. ^ Musk ambition: SpaceX aim for fully reusable Falcon 9, NASAspaceflight.com, 2009-01-12, accessed 2010-06-03
  6. ^ “Q&A with SpaceX founder and chief designer Elon Musk”. Spaceflightnow.com. (2012年5月18日). http://spaceflightnow.com/falcon9/003/120518musk/ 2012年6月18日閲覧。 
  7. ^ a b c SpaceX Launches Next-Generation Private Falcon 9 Rocket on Big Test Flight”. space.com英語版 (2013年9月29日). 2013年9月30日閲覧。
  8. ^ “Upgraded Falcon 9 Mission Overview”. Space X. (2013年10月4日). http://www.spacex.com/news/2013/10/14/upgraded-falcon-9-mission-overview 2013年10月20日閲覧。 
  9. ^ Launch Manifest”. SpaceX. 2013年9月3日閲覧。
  10. ^ スペースX社、再使用型ファルコン9ロケットのコンセプトを発表”. sorae.jp (2011年10月5日). 2011年10月11日閲覧。
  11. ^ SpaceX、サブオービタル実験機開発計画明らかに:Grasshopper RLV”. スペースレフ (2011年9月28日). 2011年10月11日閲覧。
  12. ^ “Musk lays out plans for reusability of the Falcon 9 rocket”. NASAspaceflight.com. (2013年10月3日). http://www.nasaspaceflight.com/2013/10/musk-plans-reusability-falcon-9-rocket/ 2013年10月16日閲覧。 
  13. ^ Simburg, Rand. “SpaceX Press Conference”. 2010年6月16日閲覧。. Musk quote: “We will never give up! Never! Reusability is one of the most important goals. If we become the biggest launch company in the world, making money hand over fist, but we’re still not reusable, I will consider us to have failed.”
  14. ^ “SpaceX says robust market can support four launch pads”. Spaceflightnow.com. (2013年10月18日). http://spaceflightnow.com/news/n1310/18spacex/#.UmNkr0CqM7N 2013年10月20日閲覧。 
  15. ^ Staff writer (2010年8月20日). “SpaceX Falcon 9 rocket enjoys successful maiden flight”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/2/hi/science_and_environment/10209704.stm 2010年6月5日閲覧。 
  16. ^ 「スター・トレック」俳優の遺灰、宇宙へ (CNN.co.jp、2012年5月25日)
  17. ^ 宇宙船 0.5秒前に打ち上げ中止”. NHKニュース (2012年5月19日). 2012年5月21日閲覧。
  18. ^ ファルコン9 v1.1ロケット、通信衛星「SES-8」を打ち上げ”. sorae.jp (2013年12月4日). 2013年12月5日閲覧。

外部リンク[編集]