ドラゴン2

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ドラゴン2
Crew Dragon at the ISS for Demo Mission 1 (cropped).jpg
ISSに接続するドラゴン2
製造 スペースX
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
運用
用途 ISSへの人員・物資輸送
宇宙旅行
仕様
宇宙機の種類 クルードラゴン2
カーゴドラゴン2
設計寿命
  • 1週間 (単独飛行)[1]
  • 2年 (ドッキング)[1]
乾燥重量 約 6,350 kg[2]
ペイロード容量 カーゴドラゴン2: ISSに 3,307 kg[3], 回収 2,507 kg, 廃棄 800 kg[3]
乗員数 クルードラゴン2: 7
カーゴドラゴン2: 無人
大きさ
  • 直径: 3.7 m[4]
  • 全長: 8.1 m[4]
  • 側壁角: 15 度
体積 与圧部: 10 m3 (350 ft3)[1]
非与圧部: 14 m3 (490 ft3)[1]
備考
製造
状態 開発中
製造 2 (試験機1, 実用機1)
最初の打ち上げ 2019年3月2日(無人試験)
2019年中(有人試験)[5]

ドラゴン2 (Dragon 2) は、アメリカ民間宇宙企業スペースXが開発中の有人宇宙船である。2018年現在無人宇宙補給機として運用中のドラゴンの後継機として開発されている。ドラゴン2は同社のファルコン9ブロック5ロケットに搭載して打ち上げられ、着水して帰還するよう設計されている。

概要[編集]

打ち上げ前のドラゴン2。

ドラゴン2は旧型のドラゴンと比べて、フライトコンピューターアビオニクスが新しくなる他、機体の形状も変更されており、大きな窓が備えられ、また太陽電池アレイが再設計されるなどしている。ドラゴン2ではクルードラゴン2と呼ばれる有人飛行に対応したバージョンと、カーゴドラゴン2と呼ばれる旧型のドラゴンを置き換えるための無人のバージョンの2種類が製造される。クルードラゴン2には、独特の打ち上げ脱出システムとして、四隅に各2基ずつ備え付けられたスーパー・ドラコエンジンの逆噴射を用いるシステムが取られている。クルードラゴン2とカーゴドラゴン2はともに、商業補給サービス英語版 (CRS2) と 商業乗員輸送開発 (CCDev) 計画の下、国際宇宙ステーション (ISS) への輸送に用いられる予定である。またクルードラゴン2は低軌道を超えて、への宇宙旅行に用いることも想定されている。

クルードラゴン2の開発は2010年ドラゴンライダーとして開始された。これはNASAがCCDev計画としてISSへの人員輸送を民間委託する方針を示したことを受けてのものであった。クルードラゴン2の設計が公開されたのは2014年5月で、2014年10月にはボーイングCST-100とともに、同計画の機体として選定された。NASAはクルードラゴン2を低コストなオプションと考えており、高コストだが堅実と評価されたCST-100が42億ドルの資金を得たのに対して、クルードラゴン2は26億ドルを得た。2018年8月現在、クルードラゴン2はISSへの無人試験飛行を2018年11月に、初の有人飛行を2019年4月に予定している。カーゴドラゴン2もまた、2016年1月にNASAのCRS2計画にノースロップ・グラマンシグナスシエラ・ネヴァダ・コーポレーションドリームチェイサーとともに選定されている。スペースXによるCRS2ミッションは、旧型のドラゴンによる2020年1月の最後のCRSミッションの後に予定されている。

設計[編集]

2012年当時のドラゴンライダーのモックアップ。打ち上げ脱出システムのエンジンがカプセルの外側に見える。

ドラゴン2には、クルードラゴンとカーゴドラゴンの2種類のバージョンが存在する[3]

クルードラゴンは元々ドラゴンライダーと呼ばれていたもので[6][7]、7人の乗員または乗員と貨物の輸送に対応することが企図された[8][9]。完全に自動化されたランデブーとドッキング能力(手動も可)を持ち、NASAドッキング機構英語版 (NDS) を使用してISSと接続するよう設計されている[10][11]。典型的なミッションでは、ドラゴンライダーはISSに180日間ドッキングすることになるが、宇宙船自体はロシアのソユーズと同様210日間の滞在能力を持つ[12][13][14]。最初期のデザインが公表されたのは2010年のことで、スペースXは当時から打ち上げ脱出システムをドラゴン宇宙船に統合することを計画していた。この手法は、既存の主な有人宇宙船で用いられている牽引式のアボートタワーと呼ばれる方式と比べていくつかの利点がある[15][16][17] 例えば、軌道に向かう全行程において脱出システムが動作できること、脱出システムの再使用が可能であること、分離の必要がなくなることで安全性が増すこと、脱出システムのエンジンを流用して着陸ができる可能性があること、である[18]

スペースXは当初、ドラゴン2において従来のパラシュートで海上に着水させて帰還させる方式の他、ロケットエンジンを逆噴射させて着陸を行うことを計画しており、この方式で2017年までに乗員輸送を実現するとの開発スケジュールを示していた。スペースXはNASAに対して、クルードラゴンの最初の数回の飛行はパラシュートを用いた洋上着水となるものの、以後は着陸が基本となるとの提案を行った[19]。 このようにパラシュートによる帰還はあくまでバックアップとして扱われていたが、後に逆噴射による着陸が取り止めとなったことから、全ての帰還でパラシュートが用いられることとなった[18]

2011年には、ドラゴン2の生命維持装置の開発にパラゴン・スペース・デベロップメントがかかわることが公表された[20]。また2012年には、打ち上げと再突入の際に利用される宇宙服を開発していることも明らかとなった[21]

ドラゴン2の価格については、2015年のNASAの資料では「RKKエネルギアソユーズ宇宙船の7600万USドル(約84億円)/人の打ち上げ費用と比較して、スペースXのドラゴン2宇宙船の打ち上げ費用は5800万USドル(約64億円)/人と低価格で経済的である」と記述されている[22]

ドラゴン2の設計は、2014年5月29日にカリフォルニア州ホーソーンにあるスペースXの本社のプレスイベントで公開された[23][24][25]。2014年10月には、NASAはドラゴンをISSへアメリカの宇宙飛行士を運ぶ商業乗員輸送開発 (CCDev) 計画の候補の1つに選定した。スペースXは、ドラゴン2の打ち上げに同社のファルコン9ブロック5を使用することを計画している[26][27][28]

技術仕様[編集]

様々な角度からみたクルードラゴン。

ドラゴン2は、以下のような特徴を持つ[23][24][29]

  • 再使用性: 複数回の再使用が可能である。これにより宇宙へのアクセス費用を大幅に削減できるとしている。スペースXではリファビッシュ無しで約10回の再使用が可能だと見込んでいる。
  • 容積: カーゴドラゴン2: 3,307 kg (7,290 lb)、クルードラゴン2: 7名。
  • 帰還: 4つのメインパラシュートによる洋上着水。
  • エンジン(クルードラゴンのみ[30]): 側面に8基のスーパー・ドラコ。2基ずつ計4ポッドでクラスタ化されており、1基辺り16,000重量ポンド (71 kN)の推進力を持つ[23]。また各ポッドには各4基のドラコも搭載されている[19]
  • 3Dプリンターの活用: スーパー・ドラコの燃焼室はインコネル直接金属レーザー焼結法英語版にて出力して製造している。
  • ドッキング: 宇宙ステーションへの自動ドッキング能力を持つ。旧型のドラゴンは自動ドッキング能力を持たず、ISSドッキング時はカナダアーム2により把持する必要があった。ただし必要であれば手動操作も可能である。
  • 燃料タンク: エンジン圧力用のヘリウムと、スーパー・ドラコ用の燃料と酸化剤タンク。炭素系複合材料チタンからなる。
  • 耐熱: スペースX開発によるSPAM backshell。第3世代のPICA-Xヒートシールドを更新する。
  • 操作: 乗員が操作する場合のタブレット風コンピュータを備える。
  • 減圧対策: 緊急事態により急激な減圧に晒される危険に備え、乗員はスペースX設計の宇宙服を装着する。また開口部が直径6.35 mmまでであれば、宇宙船は安全に帰還可能である[19]

着陸システムとしては、当初以下の3つの方式が検討されていた。

しかしながら、スペースXのイーロン・マスクは2017年7月、動力着陸の開発を中止し、全ての着陸をパラシュートで行うことを発表した。スーパー・ドラコは引き続き打ち上げ脱出システム用として残されるが、着陸脚は取り除かれる。安全面での難しさが理由とされており、スペースXはこの技術は将来の宇宙船で改めて用いるとしている[32]

ドラゴン2のパラシュートシステムは旧型のドラゴンのものと比べて完全に再設計されている。これは打ち上げ中の緊急脱出など様々なシナリオに対応する必要が生じたためである[31]

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  1. ^ a b c d DragonLab datasheet (PDF)”. Hawthorne, California: SpaceX (2009年9月8日). 2011年1月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年10月19日閲覧。
  2. ^ http://www.faa.gov/about/office_org/headquarters_offices/ast/media/DragonFly_Final_EA_sm.pdf
  3. ^ a b c Audit of Commercial Resupply Services to the International Space Station. NASA. April 26, 2018. Report No. IG-18-016. Quote: "For SpaceX, certification of the company’s unproven cargo version of its Dragon 2 spacecraft for CRS-2 missions carries risk while the company works to resolve ongoing concerns related to software traceability and systems engineering processes."
  4. ^ a b Falcon 9”. SpaceX. 2017年7月14日閲覧。
  5. ^ https://spacexnow.com/upcoming.php SpX DM 1, SpX DM 2
  6. ^ Final Environmental Assessment for Issuing an Experimental Permit to SpaceX for Operation of the DragonFly Vehicle at the McGregor Test Site, McGregor, Texas”. faa.gov. Federal Aviation Administration. pp. 2–3. 2014年8月22日閲覧。
  7. ^ Gwynne Shotwell (2014年3月21日) (mp3). Broadcast 2212: Special Edition, interview with Gwynne Shotwell (audio file). The Space Show.. 該当時間: 24:05–24:45 and 28:15–28:35. 2212. オリジナルの2014-03-22時点によるアーカイブ。. http://www.thespaceshow.com/detail.asp?q=2212 2014年3月22日閲覧. "we call it v2 for Dragon. That is the primary vehicle for crew, and we will retrofit it back to cargo." 
  8. ^ Q+A: SpaceX Engineer Garrett Reisman on Building the World's Safest Spacecraft”. PopSci (2012年4月13日). 2012年4月15日閲覧。 “DragonRider, SpaceX's crew-capable variant of its Dragon capsule”
  9. ^ SpaceX Completes Key Milestone to Fly Astronauts to International Space Station”. SpaceX (2011年10月20日). 2012年5月9日閲覧。
  10. ^ Dragon Overview”. SpaceX. 2012年4月16日閲覧。
  11. ^ Parma, George (2011年3月20日). “Overview of the NASA Docking System and the International Docking System Standard (PDF)”. NASA. 2011年10月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年3月30日閲覧。 “iLIDS was later renamed the NASA Docking System (NDS), and will be NASA’s implementation of an IDSS compatible docking system for all future US vehicles”
  12. ^ Bayt, Rob (2011年7月16日). “Commercial Crew Program: Key Driving Requirements Walkthrough”. NASA. 2012年3月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月27日閲覧。
  13. ^ Oberg, Jim (2007年3月28日). “Space station trip will push the envelope”. MSNBC. 2012年5月9日閲覧。
  14. ^ Bolden, Charles (2012年5月9日). “2012-05-09_NASA_Response (PDF)”. NASA. 2012年6月20日閲覧。
  15. ^ 例外として、ジェミニ計画の宇宙船では射出座席が用いられた。"Encyclopedia Astronautica: Gemini Ejection" Archived 2005-04-25 at the Wayback Machine.. Astronautix.com. Retrieved January 24, 2013.
  16. ^ Chow, Denise (2011年4月18日). “Private Spaceship Builders Split Nearly $270 Million in NASA Funds”. New York: Space.com. オリジナルの2011年12月18日時点によるアーカイブ。. https://www.webcitation.org/6415KG6df?url=http://www.space.com/11421-nasa-private-spaceship-funding-astronauts.html 2011年12月18日閲覧。 
  17. ^ "Spaceship teams seek more funding" Archived March 4, 2012, at the Wayback Machine.. MSNBC Cosmic Log. December 10, 2010. Retrieved December 14, 2010.
  18. ^ a b SpaceX Updates – Taking the next step: Commercial Crew Development Round 2”. SpaceX (2010年1月17日). 2011年1月17日閲覧。
  19. ^ a b c Reisman, Garrett (2015年2月27日). “Statement of Garrett Reisman, Director of Crew Operations, Space Explorations Technologies Corp. (SpaceX) before the Subcommittee on Space, Committee on Science, Space, and Technology, U.S. House Of Representatives (pdf)”. science.house.gov. US House of Representatives, Committee on Science, Space, and Technology. 2015年2月28日閲覧。
  20. ^ In the news Paragon Space Development Corporation Joins SpaceX Commercial Crew Development Team”. Paragon Space Development Corporation (2011年6月16日). 2012年1月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年4月15日閲覧。
  21. ^ Sofge, Eric (2012年11月19日). “The Deep-Space Suit”. PopSci. 2012年11月19日閲覧。
  22. ^ Commercial Launch America (PDF)
  23. ^ a b c Norris, Guy (2014年5月30日). “SpaceX Unveils ‘Step Change’ Dragon ‘V2’”. Aviation Week. http://aviationweek.com/space/spacex-unveils-step-change-dragon-v2 2014年5月30日閲覧。 
  24. ^ a b Kramer, Miriam (2014年5月30日). “SpaceX Unveils Dragon V2 Spaceship, a Manned Space Taxi for Astronauts — Meet Dragon V2: SpaceX's Manned Space Taxi for Astronaut Trips”. space.com. http://www.space.com/26063-spacex-unveils-dragon-v2-manned-spaceship.html 2014年5月30日閲覧。 
  25. ^ Bergin, Chris (2014年5月30日). “SpaceX lifts the lid on the Dragon V2 crew spacecraft”. NASAspaceflight.com. http://www.nasaspaceflight.com/2014/05/spacex-lifts-the-lid-dragon-v2-crew-spacecraft/ 2014年5月30日閲覧。 
  26. ^ http://www.spacex.com/news/2014/09/16/nasa-selects-spacex-be-part-americas-human-spaceflight-program
  27. ^ Norris, Guy. "Why NASA Rejected Sierra Nevada's Commercial Crew Vehicle" Aviation Week & Space Technology, October 11, 2014. Accessed: October 13, 2014. Archived on October 13, 2014
  28. ^ Berger, Eric (2017年6月9日). “So SpaceX is having quite a year”. Ars Technica. https://arstechnica.com/science/2017/06/so-spacex-is-having-quite-a-year/ 2017年6月9日閲覧。 
  29. ^ Clark, Stephen (2014年10月9日). “NASA clears commercial crew contractors to resume work”. Spaceflight Now. http://spaceflightnow.com/news/n1410/09cctcap/#.VDgLfBaum5d 2014年10月10日閲覧. "a highly-modified second-generation Dragon capsule fitted with myriad upgrades and changes – including new rocket thrusters, computers, a different outer mold line, and redesigned solar arrays – from the company's Dragon cargo delivery vehicle already flying to the space station." 
  30. ^ Elon Musk at the ISS R&D Conference, July 19, 2017, (2017-07-19), https://www.youtube.com/watch?v=BqvBhhTtUm4 2018年8月20日閲覧。 
  31. ^ a b Bergin, Chris (2014年8月28日). “Dragon V2 will initially rely on parachute landings”. NASAspaceflight.com. http://www.nasaspaceflight.com/2014/08/dragon-v2-rely-parachutes-landing/ 2014年8月29日閲覧。 
  32. ^ Elon Musk suggests SpaceX is scrapping its plans to land Dragon capsules on Mars The Verge July 19, 2017

外部リンク[編集]