スピルリナ
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スピルリナ | |||||||||||||||
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![]() Spirulina sp.
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分類 | |||||||||||||||
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和名 | |||||||||||||||
スピルリナ | |||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||
Spirulina |
スピルリナ(Spirulina)は、自然には淡水域に生息する藍藻綱ユレモ目アルスロスピラ属の藻類の通称である。
スピルリナという名前は、ラテン語の“ねじれた”“らせん形の”を意味する “Spira”(英語ではSpiral)に由来する。本属は元来アルスロスピラ属として記載されていたが、1932年に近縁のスピルリナ属(Spirulina)に統合され[1]、長年通行して来たことにより、スピルリナという通称が定着した。しかし本属の藻は細胞隔壁を有する点においてスピルリナ属と異なる点が注目され、現在では元来のアルスロスピラ属とするのが定説となっている。[2]
生息環境[編集]
幅 5-8μm、長さ 300-500μm ほどのらせん形であり、水温30-35℃の無機塩類濃度の高いアルカリ性(pH9-11)の淡水に自生し、陸上植物と同じように酸素発生型光合成を行い増殖する[3]。熱帯地方の強アルカリ性淡水湖に自生し、しばしばアオコをなしている。
フラミンゴは大地溝帯に点在する強いアルカリ性の湖に育つ種のものを主食としている。
スピルリナは、古来より農耕や牧畜に適さない地での住民の貴重な食糧源となった。現在は消滅寸前のチャド湖に自生していたA. platensisは、カネム・ボルヌ帝国などサハラ南縁の文明を支え、現在は消滅したテスココ湖に自生していたA. maximaはアステカ文明の揺籃となった。
食経験[編集]
フランスの P. Dangard らが、アフリカ中央部のチャド湖の東約50kmにある村の市場で、チャド湖で収穫されたスピルリナの乾燥物が「ダイエ」という名前で売られていることを、1940年に紹介し、世界の注目を集めた。1967年11月には、エチオピアで開かれた国際応用微生物会議で、「スピルリナはタンパク質が豊富であり、将来の食糧源として注目されるべきである」と報告された[3]。
生産[編集]
食品としての工業的生産は、それまでメキシコから飼料用スピルリナを輸入して販売していた大日本インキ化学工業(現DIC)が1978年にタイのバンコク郊外に人工池による培養プールを建設して自社製造販売したのが世界最初とされている[4]。現在は米国コロラド州に生産を移している。同社のホームページによると現在の生産量は年約60トンである。現在では中国海南島など亜熱帯から熱帯地方の各国で培養・生産されている。密封タンク内で培養するユーグレナと異なりすべて野外プールでの粗放培養である。培養液からの分離・濃縮工程では、スピルリナの大きさが0.3 - 0.5mmと大きいため、0.003 - 0.01mm程度のクロレラなどの生産で用いられる遠心分離機を使用する必要がない。簡単な網でボウフラやゲンゴロウなど水棲昆虫 カエルなどを除去しスクリーンフィルター(ろ過)で脱水し、スラッジを乾燥させた後、機械で砕いて粉末にする。粉末状で袋詰め、また打錠機により錠剤として販売する。[要出典]https://h-f-factory.com/ また粉末を温水で再溶解し凍結乾燥処理すると重量比で70%の粗製青色色素(DIC商品名 リナブルー)が得られる。冷菓やソーダ水等の色つけ用の天然物由来青色色素として用いられる。
応用[編集]
乾燥したスピルリナは、タンパク質を約60%含み、ビタミン、ミネラル、多糖類(食物繊維)、フィコシアニンなどを含む。中でもカロテノイド系色素のβ-カロテン、ゼアキサンチンを多く含み、その抗酸化作用が注目されており、スーパーフードとして商業的に販売されている[5][6]。クロレラと比較し、β-カロテン前駆体含量が多く、消化吸収性が良いのが特徴である。なお、これを主食とするフラミンゴの体色が赤いのは鳥の体内で代謝されβ-カロテン化したものが羽根に沈着するためと言われている。同じ理由を狙って飼料に混ぜて観賞用錦鯉などの体色の改良や養殖ニジマスの肉色の改良に使われたこともある。DIC社の安全性データーがすべて飼料関係であるのはこのためである。
国立健康栄養研究所は、「ヒトでの有効性について充分なデータが見当たらない」としている[7]。下痢や鼓腸、胃のむかつき、浮腫などが起こることがある。妊娠中・授乳中の安全性については十分な情報がないため摂取は避けたほうがよい。スピルリナ類は細菌や重金属 (水銀、カドミウム、鉛、ヒ素)、放射性の2価または3価のイオンを含むことがある。またミクロシスチンを含むものは肝毒性があり過摂取は危険である。スピルリナ含有製品の健康被害として光過敏症[8]や細胞壁炎症を起こす報告が存在する[7]。フランス食品環境労働衛生安全庁からは、スピルリナを含むサプリメントに対して重篤なアレルギー症状例が報告されている[9]。実際に症例報告として日本臨床神経学会誌に「スピルリナ(サプリメント含有成分)の摂取後に発症した広範な皮膚症状をともなった炎症性筋疾患」がある。[10]
橙黄色のカロテノイドのほか、緑色の葉緑素(クロロフィルa)、青色のフィコシアニンの3種の色素を含む。フィコシアニンは藍藻類の名前の由来ともなっている鮮やかな青色を呈するため、天然の青色食用色素であるが高価なクチナシや紅花の代用として冷菓[11]・乳製品[12]・粉末ジュース・飲料・グミ[13] などに利用されている。
粉末状またはタブレット以外では、株式会社タベルモが独自に開発した、生食品質を担保する培養技術急速冷凍技術の二つを用いることで、日本で唯一、生食ができるタイプの商品を開発・販売している[14]。
2017年に米国ワシントン州シアトルに創立されたルーメン・バイオサイエンス社(Lumen Bioscience Inc.)では遺伝子組み換え技術を応用した独自のスピルリナベースのタンパク質発現プラットフォームを用いた超低コストの経口投与化型マラリアワクチンを生成するとして60万ドルの基金を集めようとするバイオベンチャーである[15]。
100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 1,213 kJ (290 kcal) |
23.9 g | |
糖類 | 3.1 g |
食物繊維 | 3.6 g |
7.72 g | |
飽和脂肪酸 | 2.65 g |
一価不飽和 | 0.675 g |
多価不飽和 | 2.08 g |
57.47 g | |
トリプトファン | 0.929 g |
トレオニン | 2.97 g |
イソロイシン | 3.209 g |
ロイシン | 4.947 g |
リシン | 3.025 g |
メチオニン | 1.149 g |
シスチン | 0.662 g |
フェニルアラニン | 2.777 g |
チロシン | 2.584 g |
バリン | 3.512 g |
アルギニン | 4.147 g |
ヒスチジン | 1.085 g |
アラニン | 4.515 g |
アスパラギン酸 | 5.793 g |
グルタミン酸 | 8.386 g |
グリシン | 3.099 g |
プロリン | 2.382 g |
セリン | 2.998 g |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(4%) 29 µg(3%) 342 µg0 µg |
チアミン (B1) |
(207%) 2.38 mg |
リボフラビン (B2) |
(306%) 3.67 mg |
ナイアシン (B3) |
(85%) 12.82 mg |
パントテン酸 (B5) |
(70%) 3.48 mg |
ビタミンB6 |
(28%) 0.364 mg |
葉酸 (B9) |
(24%) 94 µg |
ビタミンB12 |
(0%) 0 µg |
コリン |
(13%) 66 mg |
ビタミンC |
(12%) 10.1 mg |
ビタミンD |
(0%) 0 IU |
ビタミンE |
(33%) 5 mg |
ビタミンK |
(24%) 25.5 µg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(70%) 1048 mg |
カリウム |
(29%) 1363 mg |
カルシウム |
(12%) 120 mg |
マグネシウム |
(55%) 195 mg |
リン |
(17%) 118 mg |
鉄分 |
(219%) 28.5 mg |
亜鉛 |
(21%) 2 mg |
マンガン |
(90%) 1.9 mg |
セレン |
(10%) 7.2 µg |
他の成分 | |
水分 | 4.68 g |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース(英語) |
項目 | 分量(g) |
---|---|
脂肪 | 7.72 |
飽和脂肪酸 | 2.65 |
14:0(ミリスチン酸) | 0.075 |
16:0(パルミチン酸) | 2.496 |
18:0(ステアリン酸) | 0.077 |
一価不飽和脂肪酸 | 0.675 |
16:1(パルミトレイン酸) | 0.328 |
18:1(オレイン酸) | 0.347 |
多価不飽和脂肪酸 | 2.08 |
18:2(リノール酸) | 1.254 |
18:3(α-リノレン酸) | 0.823 |
脚注[編集]
- ^ Siva Kiran, RR; Madhu GM; Satyanarayana SV (2016). “Spirulina in combating Protein Energy Malnutrition (PEM) and Protein Energy Wasting (PEW) - A review”. Journal of Nutrition Research. オリジナルの2016年3月2日時点におけるアーカイブ。 2016年2月20日閲覧。.
- ^ Takatomo Fujisawa; Rei Narikawa; Shinobu Okamoto; Shigeki Ehira; Hidehisa Yoshimura; Iwane Suzuki; Tatsuru Masuda; Mari Mochimaru et al. (2010-03-04). “Genomic Structure of an Economically Important Cyanobacterium, Arthrospira (Spirulina) platensis NIES-39”. DNA Res. 17 (2): 85–103. doi:10.1093/dnares/dsq004. PMC: 2853384. PMID 20203057 . In its turn, it references: Castenholz R.W.; Rippka R.; Herdman M.; Wilmotte A. (2007). Boone D.R.. ed. Bergey's Manual of Systematic Bacteriology (2nd ed.). Springer: Berlin. pp. 542–3
- ^ a b “世界各所で生産されている「藻類」スピルリナ” (日本語). DICライフテック株式会社. 2020年2月29日閲覧。
- ^ 世界一の印刷インキメーカーが、「食べられる藻」を40年以上前からつくり続ける理由 (4/6) - ITmedia ビジネスオンライン
- ^ “粗悪品には注意が必要! 今年流行るスーパーフード9選は? | 女性自身” (日本語). WEB女性自身. 2020年3月11日閲覧。
- ^ “スピルリナ&クロレラ タブレット - スーパーフード|サンフード スーパーフーズ公式オンラインストア” (日本語). スピルリナ&クロレラ タブレット - スーパーフード|サンフード スーパーフーズ公式オンラインストア. 2020年3月11日閲覧。
- ^ a b スピルリナ - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)
- ^ スピルリナ(サプリメント含有成分)の摂取後に発症した広範な皮膚症状をともなった炎症性筋疾患の例
- ^ フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)、スピルリナを含むサプリメントへアレルギーを示した患者に関する報告書を発表 - 内閣府 食品安全委員会
- ^ “スピルリナ(サプリメント含有成分)の摂取後に発症した広範な皮膚症状をともなった炎症性筋疾患”. 日本臨床神経学雑誌. 2011年5月11日閲覧。
- ^ ガリガリ君ソーダー | よくある質問|赤城乳業株式会社
- ^ 角10棒アイス | 株式会社 明治
- ^ ハンガリー製HIRABO|三菱食品
- ^ 生スピルリナの研究開発とタベルモ事業の挑戦 生物工学会誌 第95巻 第2号 - 9502_project_bio.pdf
- ^ “スピルリナワクチンの可能性”. 藻ディア (2018年7月17日). 2020年9月29日閲覧。
- ^ Link to USDA Database entry
外部リンク[編集]
- “スピルリナ青色素”. 食品衛生情報. 横浜市衛生研究所 (2005年11月10日). 2006年6月27日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2008年7月9日閲覧。
- 石見佳子、江崎潤子. “スピルリナの安全性と機能性”. 食品成分有効性評価及び健康影響評価プロジェクト解説集. 国立健康・栄養研究所. 2017年2月17日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2007年12月31日閲覧。
- “フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)、スピルリナを含むサプリメントへアレルギーを示した患者に関する報告書を発表”. 食品安全関係情報データベース. 食品安全委員会 (2014年12月4日). 2019年8月22日閲覧。
- スピルリナ(サプリメント含有成分)の摂取後に発症した広範な皮膚症状をともなった炎症性筋疾患 (PDF) 日本臨床神経学雑誌(2011).2011年閲覧。
- スピルリナとは(DICライフテック株式会社)
- スピルリナの全て(運龍堂株式会社)