クイック・ワン

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クイック・ワン
ザ・フー楽曲
収録アルバムア・クイック・ワン
リリース1966年12月9日
規格レコード
録音1966年11月
ジャンルロック
時間9分10秒
レーベルリアクション・レコード(UK)
デッカ・レコード(US)
作詞者ピート・タウンゼント
作曲者ピート・タウンゼント
プロデュースキット・ランバート
ソー・サッド・アバウト・アス
(9)
クイック・ワン
(10)

クイック・ワン」(A Quick One, While He's Away)は、イギリスロックバンドザ・フーの楽曲。作詞・作曲はピート・タウンゼント1966年発表のアルバム『ア・クイック・ワン』収録曲。

解説[編集]

短いパーツを集めて組曲風に仕上げた、演奏時間9分超のミニ・オペラ。世界初のロック・オペラ・アルバムで、グループの代表作の1つにもなった『トミー』(1969年)の先駆けとなった記念碑的作品である[1][2]。ストーリーは、1年以上も恋人と会えていない少女が嘆き悲しんでいるのを見て、「俺達が慰めてやる」と言い寄ってくる男達や、アイヴァーと名乗る老機関士の誘惑にのせられながらも、最後には恋人が戻ってきて、全ての不貞を許される…という内容である[3]。曲は以下の6つのセクションから構成されている。

  1. Her Man's Been Gone(彼女の男は出ていったきり)
  2. Crying Town(クライング・タウン)
  3. We Have a Remedy(良い薬があるんだ)
  4. Ivor the Engine Driver(機関士のアイヴァー)
  5. Soon Be Home(スーン・ビー・ホーム)
  6. You Are Forgiven(あなたを許してあげる)

各セクションでリードボーカルも異なっており、1ではメンバー全員によるアカペラ、2、3ではロジャー・ダルトリーが、4ではジョン・エントウィッスルが、5はダルトリー、エントウィッスル、タウンゼントによるコーラス、6はタウンゼントが、それぞれ担当している。

曲が出来るきっかけは、当時のグループのマネージャーであり、サウンドプロデューサーでもあったキット・ランバートの助言であった。タウンゼントは1974年のインタビューで次のように語っている。

アルバム(『ア・クイック・ワン』)が完成した後、まだ10分ほどの空きがあることがわかった。するとキットが俺に「何か連続性のある10分の物語を作ってみろ」って言うんだ。俺は「10分の曲なんて書けるわけないだろ。ロック・ソングなんてせいぜい2分50秒だ。使えるコードだって4つか5つぐらいだ。昔からの伝統でそう決まってる」って言ったよ。そしたら彼は「10分の曲を書けないなら、2分50秒の曲を集めて10分の物語を作ってみろ」と言ったんだ。俺は書いたよ。で、それが「ミニ・オペラ」と呼ばれるようになったわけだ。
ピート・タウンゼント[4]

レコーディングはコンサートツアーの合間を縫って、1966年11月に3つのスタジオを渡り歩いて行われたが、当時の技術の限界か一部の曲間の繋ぎ目が粗く、編集点が目立ってしまっている[1]。タウンゼントは上記の1974年のインタビュー内で「シンバルの音を圧縮して蒸気機関のような音を作った」とも発言しているが[4]、これは“Ivor the Engine Driver”のパートで聴こえる音と思われる。また、各セクションを短いナレーションで繋ぐアイディアもあったが、まとまりが悪くなるとして却下された[3]

コンサート・パフォーマンス[編集]

ザ・フーが「クイック・ワン」をコンサートで披露していた時期はあまり長くなく、1967年から1970年の『トミー・ツアー』までである[1]。しかし、2014年の「Hits 50!」ツアーで、44年ぶりにセットリストに加えられた。スタジオ音源では演奏時間が9分を超えるが、コンサートでは大体7~8分程度にまとめられ、かつスタジオ・バージョンよりもハードに演奏されるのが常だった。

公式に残っているこの曲のライブ音源・映像で、最も古いと思われる1967年の「モンタレー・ポップ・フェスティバル」では、まだメンバーが曲の構成を覚え切れていなかったためか、やや粗の目立つ演奏になっている[5]。翌1968年に行われたローリング・ストーンズ主催のロック・イベント「ロックンロール・サーカス」では、既に高く評価されていたライブバンドとしての実力をいかんなく発揮して、素晴らしい演奏を披露した。「ロックンロール・サーカス」は、その版権を握っていたストーンズの当時のマネージャーのアラン・クレインが制作後にストーンズと袂を分かったので、長く封印された[6]が、「ザ・フーの圧倒的なパフォーマンスにヘッドライナーのストーンズが完全に食われてしまい、このためにストーンズが作品を封印してしまった」という説が囁かれたほどであった[7]2017年現在、いずれの映像・音源もソフト化されている。

ザ・フーの公式作品では、上記の「ロックンロール・サーカス」での演奏がグループのドキュメンタリー映画キッズ・アー・オールライト』およびそのサウンドトラック盤(1979年)に、1970年のリーズ大学公演の音源が『ライヴ・アット・リーズ1995年以降のリイシュー版に収録されている。また、1994年の4枚組ボックスセット『ザ・フー・ボックス』には、スタジオ音源と「ロックンロール・サーカス」でのライブ音源をミックスさせた特別バージョンが収録された。さらに、1967年にBBCのラジオ番組「トップ・ギア」のために録音したバージョンが、『BBCセッションズ』(2000年)に収録されている。

その他[編集]

ビートルズが1969年の「ゲット・バック・セッション」のリハーサルで、この曲を採り上げたことがある。これは、ジョージ・ハリスンがリハーサル中に他のメンバーと衝突しスタジオを飛び出して行ったことに対し、ジョン・レノンがこの曲のタイトル(“A Quick One, While He's Away”=「奴がいない間に急いでやっちまえ」)に引っかけて採り上げたもので、レノン流のハリスンに対するあてこすりである[8]

出典・脚注[編集]

  1. ^ a b c CD『ア・クイック・ワン』コレクターズ・エディション(2012年)付属の犬伏功による解説より。
  2. ^ レコード・コレクターズ増刊『ザ・フー アルティミット・ガイド』(2004年)99頁。
  3. ^ a b 『エニウェイ・エニハウ・エニウェア』アンディ・ニール、マット・ケント著、佐藤幸恵、白井裕美子訳、シンコーミュージック刊、2008年、104頁。
  4. ^ a b BBC2のテレビ番組「2cd House」(1974年8月29日収録)より。映画『キッズ・アー・オールライト』収録。
  5. ^ レコード・コレクターズ増刊『ザ・フー アルティミット・ガイド』(2004年)50頁。
  6. ^ 『エニウェイ・エニハウ・エニウェア』アンディ・ニール、マット・ケント著、佐藤幸恵、白井裕美子訳、シンコーミュージック刊、2008年、183頁。
  7. ^ 『エニウェイ・エニハウ・エニウェア』アンディ・ニール、マット・ケント著、佐藤幸恵、白井裕美子訳、シンコーミュージック刊、2008年、166頁。
  8. ^ レコード・コレクターズ増刊『ザ・ビートルズ/コンプリート・ワークス・3 1968-1970』(2000年)107頁。