水タバコ

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水タバコ

水タバコ(みずタバコ)はおそらくペルシアで発明され[1]イスラム圏で大成した喫煙具の一種。水煙管(みずぎせる)や水パイプ(みずパイプ)とも呼ばれる。

概要

水タバコ用の煙草:糖蜜などで固めてある。

後述のように各地で呼び名は異なるものの、専用の香り(フレーバー)付けがされたタバコの葉に炭を載せて熱し、出た煙をガラス瓶の中の水を通し吸うという基本的な構造は同じである。大きさは小さい物で高さ30cmからあり、一般的な物は60–80cmほど、大きい物では1mを超すものも多い。また、フレーバーには果物からスパイス、花、コーヒー、ガムなど多くの種類がある。

1回の燃焼時間が1時間程度と長く、重さもあり気軽に持ち運びはできない。そのため、紙巻きたばこが普及している地域ではあまり知られていないが、煙が水を通る間に多少冷やされることもあって、昼間の気温が高いインドや中近東で人気がある。特に中近東では喫茶店に置いてあることが多く、昼間から喫茶店で男性が水たばこを嗜む姿を良く見かける。

近年、リゾートディスコを中心に、タイインドネシアフィリピンなどの東南アジア各地へも流行が拡大している。

大型のものには吸い口が2本から4本とりつけられたものがあり、一包みのタバコを何人かで吸う珍しいパイプである。集まって車座になり、パイプをゆっくりと味わいながらお茶や雑談をする生活様式に合わせられた喫煙具である。

日本での普及状況

水タバコを吸う男性

従来より日本でも個人的に、もしくは知り合い同士で水タバコを嗜む愛好者は、中近東地域を訪れた長期滞在者や旅行者を中心にある程度存在していたものと思われる。また、日本でバブル期以降に増えた各国料理店のうち、エジプト料理、レバノン料理シリア料理、イラン料理、トルコ料理などを提供するレストランでも水タバコを扱うところが僅かながら存在していた。(定番の品としてメニューに載っている場合から、数名以上の予約グループ限定、といった具合で状況には多少バラつきがある。)

これらの状況に加えて、近年の欧米諸国でのブームを受けて日本でも新たに注目を集めつつある。その結果、前述の各国料理店以外にも水タバコを提供する場所(主に個人経営によるカフェバーなど)が首都圏近畿圏では着実に増え、若年層を中心に人々の認知度も高まりつつある。

また、最近ではネット通販で水タバコ関連の商品を個人輸入販売している業者も多く、日本で容易に入手できるようになった事も愛好者増加の一助であるといえる。

各地での名称

エルサレムの市場で水タバコを売る店
エルサレムの市場で売られている水タバコ
シーシャ(Sheesha エジプトアラビア語:شيشة、argeele シリアアラビア語:ارجيلةあるいは nargeele نارجيلة)
エジプトを始め北アフリカマグリブ諸国で主に用いられる名称。ペルシア語で「ガラス」を意味する「شیشه」(シーシェ)が語源だと考えられている。
フッカー(Hookah ヒンディー語:हुक़्क़ा、ウルドゥー語:حقّہ)
インドパキスタンで主に用いられる名称。これが植民地期に英語へ伝わった「hookah」(フーカー)は現在の英語圏で広く用いられる名称となっている。語源はアラビア語で「(小さめの)箱、容器」などを意味する「حقة」(フッカ)だと推測される。
ナルギレ(トルコ語:nargile)
現在のトルコで用いられる名称。トルコ以外にも、これと同系統の名称がシリア地方バルカン半島など幅広い地域で用いられるが、なかでもアラビア語(主にシリア・レバノン地域)においては以下のように多少ヴァリエーションがある。
ナルギーレ、ナルジーレ、ナルギーラ、ナルジーラ (نرجيلة / نارجيلة)
ナルギール、ナルジール (نرجيل)
アルギーレ、アルジーレ、アルギーラ (ارجيلة / أركيلة)
※同じ綴りでも読み方がそれぞれ複数あるのは、アラビア語の口語(アーンミーヤ)においてジーム(ج :"j"または"g")や語末のター・マルブータ(ة :"a"や"e"など)の発音が異なるためである。この他に、ヘブライ語「נרגילה」(ナルギーラ)、ギリシア語「ναργιλές」(ナルギレス)、ブルガリア語ロシア語「наргиле」(ナルギレ)など、数多くの言語・地域で用いられる。
この系統の名称の語源はペルシア語で「ココナッツ」を意味する「نارگیل」(ナールギール)、また更に遡ると同じような意味のサンスクリット語「नारिकेल」(ナーリケーラ)などインド亜大陸地域の言葉(特にドラヴィダ諸語)に求められるとされている。この語源はインドで従来の煙を吸う際の道具として中身をくりぬいて水を入れたココナッツの殻が使用されていた事とも一致する。
ガリヤーン(ペルシア語:قليان)
現在のイランで主に用いられる名称。現代ペルシア語の(主に首都テヘラン方言の影響を受けた)口語では「ガリユーン」(قليون)となる事も多い。これと同じ系統の名称ではロシア語の「кальян」(kaliyan、カリヤン)などがある。
マダーア(アラビア語:مداعة)
イエメンで用いられる名称。その他のアラビア語諸方言での名称「シーシャ」「ナルギーレ」などに比べると知名度はあまり高くない。
ゴーザ(アラビア語:جوزة)
エジプトスーダンで用いられる名称。上記の「シーシャ」と比較して、より持ち運びに適した簡易式な器具のものを指す。ちなみに一般的にアラビア語(「ゴーザ」は主にエジプト方言の発音、フスハーでは「ジューザ」)では「クルミ」を意味する。
水パイプなど
その機能・形状的な側面から付けられた名称。英語「water pipe」やフランス語「pipe à eau」など、字義的に同じような意味の名称は世界各地で用いられる(冒頭にもあるが日本語においても「水煙管」(みずぎせる)などと呼ばれることからも明らかであろう)。ただし、この名称においては当項目で主に言及している甘いフレーバー付けがなされたタバコを用いない物(後述のボングなど)を意味する場合もある。
ハブル・バブル(英語: hubble bubble )
主に英語圏で用いられる名称。「hubbly bubbly」とも言う。吸った時に煙が水をくぐる「ブクブク」という音に由来する。
ボング(英語など: bong )
中近東起源の物と比較した場合、「水に煙をくぐらせてから吸う」という点は共通するが、いくつか異なる点(水受け部分が小さく全体的にコンパクトな構造、甘いフレーバー付きのタバコを用いるわけではないなど)もある。そのため、欧米地域では「シーシャ」「フッカー」「ナルギレ」などの名称が指す、(当項目の定義のように)いわば狭義の「水タバコ」とは区別される事が多い(ただし、あまり厳密に区別されずに両者が混同される場合も少なくない)。語源はタイ語の「บ้อง」(baung)だと考えられている。

人体への影響

WHOに存在する『たばこ製品規制研究部会』が2007年5月31日の世界禁煙デーに向けた研究発表によると紙巻タバコが1本を吸い終わるのに平均5~7分間のうちに8~12回煙を吸入することに対し水タバコは前述の通り長時間をかけて煙を吸引することで嗜好を味わう物であり、20~80分の内に50~200回もの煙を吸入するため、吸い込む煙の量だけを比較する場合は紙巻タバコ100本分にもなるという。 また、WHOのTobacco Free Initiative (TFI) 発表のTobacco: Deadly in any form or disguiseによれば、水たばこも含めて、あらゆる形のたばこ製品は喫煙者やその周囲の非喫煙者の健康を脅かす重大なリスク要因であることとも明言されている。

また、イギリス保健省などの調査によると、水タバコ一回分の吸引によって体内で発生する一酸化炭素の量は、紙巻きたばこ1本分で発生する量の約4~5倍にものぼり、これによる脳などへの重大な影響が懸念されるとして、通説では「紙巻きたばこよりも安全」と見なされがちな水タバコ吸引の危険性について同省や関係機関では注意喚起を行っている。その他にも、複数人数で一つの水タバコを共用する際にマウスピースなどを交換せずに回し吸いを行った場合、肺結核、ヘルペス、インフルエンザなど経口感染による様々な病気の伝染も懸念される。[2]

脚注

  1. ^ 「水たばこ」という言葉は1535年アフリー シーラーズィー Ahlī Šīrāzī四行詩の中に現れた:
    • قلیان ز لب تو بهره‌ور می‌گردد  نی در دهن تو نیشکر می‌گردد
    • بر گرد رخ تو دود تنباکو نیست  ابریست که بر گرد قمر می‌گردد
  2. ^ BBC: Shisha 'as harmful as cigarettes'

外部リンク