ハシビロコウ

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ハシビロコウ
ハシビロコウ
上野動物園ハシビロコウ (Balaeniceps rex)
保全状況評価[1][2][3]
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: ペリカン目 Pelecaniformes
: ハシビロコウ科
Balaenicipitidae Bonaparte, 1853
: ハシビロコウ属 Balaeniceps
: ハシビロコウ B. rex
学名
Balaeniceps rex Gould, 1850[3]
和名
ハシビロコウ[4][5]
英名
Shoebill
Whale-headed stork
[3][4]

分布域

ハシビロコウ(嘴広鸛、Balaeniceps rex)は、ペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属に分類される鳥類。本種のみでハシビロコウ科ハシビロコウ属を構成する。別名シュービル(英語: Shoebill)。

分布と生息地

ハシビロコウは、中央アフリカ熱帯部にある淡水に生息し、南スーダンからコンゴ民主共和国ルワンダウガンダタンザニア西部、ザンビア北部に分布している。西ナイル地方と南スーダンの隣接地域に最も多く、ウガンダとタンザニア西部の湿地帯にも相当数がいる。離れた地域では、マラウイケニア中央アフリカ共和国カメルーン北部、エチオピア南西部で記録がある。また、迷鳥としては、オカバンゴ盆地英語版ボツワナコンゴ川上流域で目撃されている。この分布は、植物のカミガヤツリパピルス)と、ハイギョ(肺魚)の分布とほぼ一致するようである。ハシビロコウは、渡りを行わない留鳥で、生息地の状況が変化したり、食料の入手が困難になったり、人間によって生活環境が乱されたりした場合に季節性の限定的な移動を行う[3][6]

広大でうっそうとした淡水の湿地帯で繁殖し、ハシビロコウが好むほぼ全ての土地には、カミガヤツリと、ヨシガマ葦原が広がっている。ハシビロコウの分布が、中央アフリカにおけるカミガヤツリの分布とほぼ一致しているとはいえ、カミガヤツリだけが茂る湿地は避け、植生の混在する地域に引き付けられることが多いようである。稀に、水田氾濫した農園で採餌する姿が観察されている[6]

形態

大型の鳥類で、頭頂までの高さは110-140センチメートル、中には152センチメートルに達するものもある。翼開長230-260センチメートル。体重4-7キログラム[7][8]。オスは平均5.6キログラムと、メス(平均4.9キログラム)よりも大きい[9]。羽色は青みがかった灰色で、背では緑色の光沢を帯びる[5]。後頭に短い冠羽がある[5]

巨大なを持ち、淡黄色に不規則な灰色の模様がある。嘴峰長18.8-24センチメートル。和名は「嘴の広いコウノトリ」、英名の Shoebill は「靴のような嘴」を意味している。また、学名ラテン語で「クジラ頭の王様」という意味。(また、シュバシロコウと呼ばれることもある)脚は長く、ふ蹠長21.7-25.5センチメートル。中趾長は16.8-18.5センチメートル。

分類

サギ類、コウノトリ類、ペリカン類に類似した形態・生態から、分類には諸説あったがコウノトリ目に含める説が主流とされていた。骨格からペリカンに近縁とする説もあったが、主流ではなかった。ハシビロコウの分類には諸説あったが、伝統的にはコウノトリ目の下位に分類されることが多い。しかし、近年のDNA分析による分類ではペリカン類に近いことが分かってきた[10]。その他、サギ類に近いという説もある[11]

生態

ハシビロコウのつがい
正面から見た頭部
南スーダン自治政府の紋章(非公式、2005年-2011年)

夜行性で、昼間はヨシやパピルスなどの草の間などで休む[5]。単独で生活する[5]。基本的には単独行動を好む。頸部をすぼめながら飛翔する[4][5]羽ばたきの回数は1分間に150回と、鳥類の中では非常にゆっくりとしている。長い飛翔は稀だが、興奮した際には、元いた場所から100-500メートルほど飛ぶこともある[9]鳴管退化しており鳴くことは少ないが、嘴を打ち鳴らしたり(クラッタリング)飛翔中に鳴いたりすることもある[5]クラッタリングは嘴を叩き合わせるように激しく開閉して音を出す行動で、ディスプレイや仲間との合図に用いられる。ゆったりとした動きで、餌とするハイギョが水面に浮かんでくるまで数時間動きを止めることがあるため、「動かない鳥」として知られる[12]

食性は主に魚食性で、ハイギョの他、ポリプテルス・セネガルスティラピアナマズなどを食べる。カエル、水棲のヘビナイルオオトカゲワニの子供など、湿地に住む脊椎動物を食べることもある。嘴を下方へ向けたまま直立して動かずに、足元を通りかかった獲物を頸部を伸ばし嘴で咥えて捕食する[4]。捕えた獲物は嘴を動かして破砕する[4]。獲物を狙うときはじっとして動かず、これは大きな体で動き回って魚に警戒感を起こさせることを避けるためと考えられる。大型のハイギョなどを好み、ハイギョが空気を吸いに水面に浮かび上がる隙を見て、素早く嘴で捕まえ丸呑みする。消化には数時間を要し、その作業にそれなりのエネルギーが費やされる。カバが水中にいる際に魚を水面に追いやることがあり、その行動が期せずして、餌を獲ろうと水辺に立つハシビロコウのためになることがある[9]

草の間に水生植物を積み上げた産座の直径が1メートルに達する巣を作る[5]。ペアの間ではクラッタリングやおじぎのようなディスプレイを行う[4]。1 - 2個(3個の例もある)の卵を産む。雌雄交替で抱卵し、抱卵期間は約30日[5]。生後3年で成熟する[5]

人間との関係

農地開発や牧草地への転換などによる生息地の破壊、石油採掘農薬皮革廃液などによる水質汚染家畜に踏みつけられることによる巣の破壊、食用・卵や雛も含めた飼育目的の狩猟・捕獲などにより生息数は減少している[3]。1987年にワシントン条約附属書IIに掲載されている[2]。生息数は1997年に12,000 - 15,000羽とする報告例があるが、2002年には5,000 - 8,000羽、2006年には10,000羽以下とする報告例もある[3]

2013年時点、飼育下繁殖例は2008年のペリダイザ動物公園(旧称:パラディシオ公園)フランス語: Pairi Daizaで生まれた雄と雌、および2009年にタンパ・ローリー・パーク動物園英語: Lowry Park Zooで生まれた雌[13]の2例に限られる。

実際の寿命は解明されていないが、高齢になるに従いの色が金から青に変化する。伊豆シャボテン公園で飼育されていた「ビル(生前はオスとされていたが、死後に行われた解剖でメスと判明した)」は、進化生物学研究所において約10年飼育された後、1981年に来園し、2020年に老衰で亡くなったときは推定年齢50歳以上と日本国内で最も長寿のハシビロコウ[14][15]で、国内で唯一放し飼いにされていた[15]。性格が攻撃的であり、動物園などでは一つの鳥舎に複数の個体を入れておくと、互いに激しくつつき合って喧嘩をする。さらに、人間による飼育期間が長くなるほど、攻撃性が高まる傾向がある。このため、人の手による繁殖は非常に難しく、世界的にも手詰まりの状態にある[16]。動物園などでは、餌をくれる飼育員にお辞儀をするなど人間に対して刷り込み行動をとる傾向も見られるが、これは商業輸出のために野生で捕獲された際に雛だったために起きた性的刷り込みと考えられる[17]。飼育下繁殖は、成鳥になってから捕獲されたペアでしか起きておらず[17]、性的刷り込みにより人を繁殖対象と見ていることが繁殖の妨げになっていると考えられる。

2019年時点、世界で40~50羽が飼育されており、このうち日本国内が14羽を占める[12]#ハシビロコウがいる日本の動物園も参照)。

画像

ハシビロコウがいる日本の動物園

出典

  1. ^ Appendices I, II and III<https://cites.org/eng>(Accessed[リンク切れ] 22/07/2017)
  2. ^ a b UNEP (2017). Balaeniceps rex. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (Accessed 22/07/2017)
  3. ^ a b c d e f BirdLife International. 2016. Balaeniceps rex. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T22697583A93622396. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T22697583A93622396.en. Downloaded on 22 July 2017.
  4. ^ a b c d e f James Hancock「ハシビロコウ」上田恵介訳『動物大百科7 鳥 I』黒田長久監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編、平凡社1986年、88、93頁。
  5. ^ a b c d e f g h i j 森岡弘之「ハシビロコウ科の分類」、『世界の動物 分類と飼育8 コウノトリ目+フラミンゴ目』黒田長久・森岡弘之監修、東京動物園協会1985年、78-79、158頁。
  6. ^ a b Hancock & Kushan, Storks, Ibises and Spoonbills of the World. Princeton University Press (1992), ISBN 978-0-12-322730-0.
  7. ^ Balaeniceps rex. Fsbio-hannover.de. Retrieved on 2012-08-21.
  8. ^ Stevenson, Terry and Fanshawe, John (2001). Field Guide to the Birds of East Africa: Kenya, Tanzania, Uganda, Rwanda, Burundi. Elsevier Science, ISBN 978-0856610790
  9. ^ a b c Hancock & Kushan, Storks, Ibises and Spoonbills of the World. Princeton University Press (1992), ISBN 978-0-12-322730-0.
  10. ^ Mayr, Gerald(2003):The phylogenetic affinities of the Shoebill(Balaeniceps rex). Journal fur Ornithologie 144(2):157-175. [English with German abstract] HTML abstract
  11. ^ Hagey, J. R.; Schteingart, C. D.; Ton-Nu, H.-T. & Hofmann, A. F.(2002):A novel primary bile acid in the Shoebill stork and herons and its phylogenetic significance. Journal of Lipid Research 43(5):685?690. PDF fulltext
  12. ^ a b 【どうぶつ】オトナの人気 ハシビロコウ毎日新聞』朝刊2019年11月28日(くらしナビ面)同日閲覧
  13. ^ Tampa's Lowry Park Zoo.. “At the Zoo: Shoebill Stork”. 2015年11月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年8月27日閲覧。
  14. ^ “動かない鳥”老衰で死亡 世界最高齢のハシビロコウ”. OVO (2020年8月7日). 2020年8月8日閲覧。
  15. ^ a b 株式会社サボテンパークアンドリゾート 広報部. “伊豆シャボテン公園「ハシビロコウ『ビル』来園32周年記念イベント」開催のお知らせ(2013年4月20日付)” (PDF). 2016年3月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年3月2日閲覧。
  16. ^ 柚木まり (2014年6月2日). “動かぬ怪鳥 繁殖へ動く ハシビロコウ”. 東京新聞. オリジナルの2014年6月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140603031004/http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014060202000110.html 2014年6月2日閲覧。 
  17. ^ a b Muir, A.; King, Catherine (2013-01-01). “Management and husbandry guidelines for Shoebills Balaeniceps rex in captivity”. International Zoo Yearbook 47. doi:10.1111/j.1748-1090.2012.00186.x. https://www.researchgate.net/publication/259551794_Management_and_husbandry_guidelines_for_Shoebills_Balaeniceps_rex_in_captivity. 
  18. ^ 東京ズーネット
  19. ^ ハシビロコウ「ビル」来園35周年 伊豆シャボテン公園、世界最長寿/静岡”. 『毎日新聞』 (2016年4月29日). 2016年10月25日閲覧。

関連項目

外部リンク

  1. ^ 戦略広報WGキャラクター紹介日本橋梁建設協会.2021年8月13日閲覧