アンペア

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アンペア
ampère
ampere
中国語:安培
雷光
記号 A
国際単位系
電流
組立 基本単位
定義 電気素量1.602176634×10−19 Cとすることによって定まる電流
派生単位 無し
由来 真空中に 1 メートルの間隔で平行に置かれた無限に小さい円形の断面を有する無限に長い 2 本の直線状導体のそれぞれを流れ、これらの導体の 1 メートルにつき千万分の 2 ニュートンの力を及ぼし合う直流の電流
語源 アンドレ=マリ・アンペール
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アンペア: ampere [ˈæmpɛər]、記号 : A)は、電流(量の記号、直流I[1][2] , 交流i )の単位であり[3][4]国際単位系(SI)の7つの基本単位の一つである。

アンペアという名称は、電流と磁界との関係を示した「アンペールの法則」に名を残すフランスの物理学者、アンドレ=マリ・アンペール(André-Marie Ampère)に因んでいる[5]

SIで定められた単位記号は"A"であるが、英語圏ではampと略記されることがある[6]

なお、起磁力(量記号: F , Fm )や磁位差(量記号: Um )の単位も同じ「アンペア」という名称であるが、これは電流の単位アンペアから組み立てられた組立単位であり、定義が異なる。

定義

現在の「アンペア」は、以下のように定義されている。(第26回国際度量衡総会の決定。2019年5月20日施行)

The ampere, symbol A, is the SI unit of electric current. It is defined by taking the fixed numerical value of the elementary charge e to be 1.602 176 634 ×10−19 when expressed in the unit C, which is equal to A s, where the second is defined in terms of ∆νCs.[7]
  • 訳:アンペア(記号はA)は電流の単位である。その大きさは、電気素量eの数値を1.602176634×10−19C(=A·s)と定めることによって設定される。ここで(s)は∆νCsセシウム133原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数)によって定義される。

日本の法令上は、計量法第3条の規定[注釈 1]に基づく計量単位令(平成4年政令第357号)が、計量単位令の一部を改正する政令(令和元年5月17日政令第6号)により改正され、2019年5月20日に施行することにより変更された。

なお、上記の定義では直流電流のみについて言及しているが、日本における計量単位令では、「又はこれで定義したアンペアで表した瞬時値の二乗の一周期平均の平方根が一である交流の電流」と、交流電流についても定義している(計量単位令・平成4年政令第357号)[9]

2019年までの定義

アンペアの定義の説明を描いた参考図。

アンペールの力の法則英語版[10][11]によれば、電流が流れている2本の平行した針金の間には、電流の向きに応じて引き付けあうまたは反発する力が働く。この力が2019年5月までのアンペアの定義に用いられていた。このアンペアの定義は以下の通りである。

アンペアは, 真空中に 1 メートルの間隔で平行に配置された無限に小さい円形断面積を有する無限に長い二本の直線状導体のそれぞれを流れ, これらの導体の長さ 1 メートルにつき 2 × 10−7ニュートンの力を及ぼし合う一定の電流である。

[3][12]

この定義は、1948年の第9回国際度量衡総会(CGPM)で採択されたものであり[13]1954年の第10回 CGPM で電流の基本単位として正式に承認された[14]。この定義では、結果的に真空の透磁率 μ0 の値が正確に 4π × 10−7 H/m に固定されていた[13]。2019年の定義改正により6.9×10−10の不確かさを持つようになった。

クーロンとの関係

2018年11月16日の第26回国際度量衡総会 (CGPM) にて行われたアンペアの定義の改正では、電気素量が正確に 1.6021766208×10−19 C と定義し、電気素量の 6.2415096291×1018 倍が1クーロンという定義が先となった。アンペアの定義は毎秒1クーロンの電荷を流すような電流が1アンペアである、と定義しなおされ、従前の定義とは依存関係が逆転することになった。

アンペアをクーロン(アンペア秒)やアンペア時と混同してはならない。アンペアは電流の単位であり、クーロン(アンペア秒)やアンペア時は電荷(電気量)の単位である。国際単位系においては、定電流・瞬時電流・平均電流はアンペアで表されるのに対して、ある体積内に蓄えられた電荷や、一定時間内にある面を通過した電荷の量はクーロンで表される。クーロンとアンペア(クーロン毎秒)の関係は、ジュールワット(ジュール毎秒)メートルメートル毎秒の関係と同様である。

歴史

電磁気学が発展した当時用いられていたのはCGS単位系であり、その電流の単位は、「真空中に1センチメートルの間隔で同じ大きさの電流が流れているとき、両者の間に働く力が1センチメートルにつき2ダインであるときの電流」[15]と定義されていた。この単位は「電磁単位」(emu)と呼ばれ、今日ではアブアンペアとも呼ばれる。元々のアンペアは、電磁単位の10分の1の大きさとして定義された。このアンペアが、MKSA単位系において基本単位として選ばれた。

1948年以前は、の電解析出率に基づく国際アンペア (international ampere) と呼ばれる定義が用いられていた。国際アンペアは1893年の国際電気会議で発表された後、1908年の万国電気単位会議によって追認された国際電気単位の一つで[16]硝酸銀水溶液中を通過する電気が 1 秒間当たり0.001118000 gの銀を析出させる電流として定義されていた[5][17]。現在の定義によるアンペアは国際アンペアと対比する際には絶対アンペアと呼ばれ、これら 2 つのアンペアの値は 1 国際アンペア = 0.99985 絶対アンペアとなる[5]

現示

現行の定義によるアンペアの値は、電流天秤英語版またはキブル天秤によって現示することができるが、実用上は電圧電気抵抗の単位、すなわちボルトオームからオームの法則によって測定する方が容易である。ボルトはジョセフソン効果によって、オームは量子ホール効果によってアンペアよりも容易に現示することができる[18]

現在のアンペアを現示する技術は、1×10−7相対不確かさを持つ[18]

倍量・分量単位

アンペア (A) の倍量・分量単位
分量 倍量
記号 名称 記号 名称
10−1 A dA デシアンペア 101 A daA デカアンペア
10−2 A cA センチアンペア 102 A hA ヘクトアンペア
10−3 A mA ミリアンペア 103 A kA キロアンペア
10−6 A µA マイクロアンペア 106 A MA メガアンペア
10−9 A nA ナノアンペア 109 A GA ギガアンペア
10−12 A pA ピコアンペア 1012 A TA テラアンペア
10−15 A fA フェムトアンペア 1015 A PA ペタアンペア
10−18 A aA アトアンペア 1018 A EA エクサアンペア
10−21 A zA ゼプトアンペア 1021 A ZA ゼタアンペア
10−24 A yA ヨクトアンペア 1024 A YA ヨタアンペア
10−27 A rA ロントアンペア 1027 A RA ロナアンペア
10−30 A qA クエクトアンペア 1030 A QA クエタアンペア
よく使われる単位を太字で示す

符号位置

記号 Unicode JIS X 0213 文字参照 名称
U+3380 - ㎀
㎀
ピコアンペア
U+3381 - ㎁
㎁
ナノアンペア
U+3382 - ㎂
㎂
マイクロアンペア
U+3383 - ㎃
㎃
ミリアンペア
U+3384 - ㎄
㎄
キロアンペア
U+3302 - ㌂
㌂
全角アンペア

Unicodeには、CJK互換用文字として以下の文字が収録されている。

  • U+3380 square pa
  • U+3381 square na
  • U+3382 square mu a
  • U+3383 square ma
  • U+3384 square ka
  • U+3302 square anpea

これらは、既存の文字コードに対する後方互換性のために収録されているものであり、使用は推奨されない[19][20]

脚注

注釈

  1. ^ 第三条 前条第一項第一号に掲げる物象の状態の量のうち別表第一の上欄に掲げるものの計量単位は、同表の下欄に掲げるとおりとし、その定義は、国際度量衡総会の決議その他の計量単位に関する国際的な決定及び慣行に従い、政令で定める[8]

出典

  1. ^ 国際文書 国際単位系 (SI) 第 8 版日本語版 (2006) p. 15。
  2. ^ “2. SI base units”, SI brochure (8th ed.), BIPM, http://www.bipm.org/en/si/si_brochure/chapter2/2-1/ 2011年11月19日閲覧。 
  3. ^ a b “2.1. Unit of electric current (ampere)”, SI brochure (8th ed.), BIPM, http://www.bipm.org/en/si/si_brochure/chapter2/2-1/ampere.html 2011年11月19日閲覧。 
  4. ^ Base unit definitions: Ampere. Physics.nist.gov. Retrieved on 2010-09-28.
  5. ^ a b c 共立化学大辞典第 26 版 (1981)
  6. ^ SI supports only the use of symbols and deprecates the use of abbreviations for units.Bureau International des Poids et Mesures” (PDF). p. 130 (2006年). 2011年11月21日閲覧。
  7. ^ A concise summary of the International System of Units, SI Table 1 The seven base units of the SI、第2ページ
  8. ^ 計量法(平成四年法律第五十一号) 第3条: 国際単位系に係る計量単位”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2014年6月13日). 2019年12月25日閲覧。 “2016年4月1日施行(平成二十六年法律第六十九号)改正)”
  9. ^ 計量単位令(平成四年十一月十八日政令第三百五十七号)
  10. ^ Serway, Raymond A; Jewett, JW (2006). Serway's principles of physics: a calculus based text (Fourth ed.). Belmont, CA: Thompson Brooks/Cole. p. 746. ISBN 0-53449143-X. https://books.google.com/books?id=1DZz341Pp50C&pg=RA1-PA746&dq=wire+%22magnetic+force%22&lr=&as_brr=0&sig=4vMV_CH6Nm8ZkgjtDJFlupekYoA#PRA1-PA746,M1 
  11. ^ Beyond the Kilogram: Redefining the International System of Units, USA: アメリカ国立標準技術研究所, (2006), オリジナルの21 March 2008時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20080321221139/http://www.nist.gov/public_affairs/newsfromnist_beyond_the_kilogram.htm 2008年3月閲覧。 .
  12. ^ Monk, Paul MS (2004), Physical Chemistry: Understanding our Chemical World, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-49180-2, https://books.google.com/books?vid=ISBN0471491802&id=LupAi35QjhoC&pg=PA16&lpg=PA16&ots=IMiGyIL-67&dq=ampere+definition+si&sig=9Y0k0wgvymmLNYFMcXodwJZwvAM .
  13. ^ a b 国際文書 国際単位系 (SI) 第 8 版日本語版 (2006) p. 24。
  14. ^ 国際文書 国際単位系 (SI) 第 8 版日本語版 (2006) p. 20。
  15. ^ Kowalski, L, A short history of the SI units in electricity, Montclair, http://alpha.montclair.edu/~kowalskiL/SI/SI_PAGE.HTML .
  16. ^ 国際文書 国際単位系 (SI) 第 8 版日本語版 (2006) pp. 23–24。
  17. ^ History of the ampere, Sizes, http://www.sizes.com/units/ampHist.htm 
  18. ^ a b “Appendix 2: Practical realization of unit definitions: Electrical quantities”, SI brochure, BIPM, http://www.bipm.org/en/publications/mises-en-pratique/electrical-units.html 2016年5月9日閲覧。 .
  19. ^ CJK Compatibility” (2015年). 2016年2月21日閲覧。
  20. ^ The Unicode Standard, Version 8.0.0”. Mountain View, CA: The Unicode Consortium (2015年). 2016年2月21日閲覧。

参考文献

関連項目

国際単位系(SI)の電磁気の単位
名称 記号 次元 組立 物理量
アンペアSI基本単位 A I A 電流
クーロン C T I A·s 電荷(電気量)
ボルト V L2 T−3 M I−1 J/C = kg·m2·s−3·A−1 電圧電位
オーム Ω L2 T−3 M I−2 V/A = kg·m2·s−3·A−2 電気抵抗インピーダンスリアクタンス
オーム・メートル Ω·m L3 T−3 M I−2 kg·m3·s−3·A−2 電気抵抗率
ワット W L2 T−3 M V·A = kg·m2·s−3 電力放射束
ファラド F L−2 T4 M−1 I2 C/V = kg−1·m−2·A2·s4 静電容量
ファラド毎メートル F/m L−3 T4 I2 M−1 kg−1·m−3·A2·s4 誘電率
毎ファラド(ダラフ) F−1 L2 T−4 M I−2 V/C = kg1·m2·A−2·s−4 エラスタンス
ボルト毎メートル V/m L T−3 M I−1 kg·m·s−3·A−1 電場(電界)の強さ
クーロン毎平方メートル C/m2 L−2 T I C/m2= m−2·A·s 電束密度
ジーメンス S L−2 T3 M−1 I2 Ω−1 = kg−1·m−2·s3·A2 コンダクタンスアドミタンスサセプタンス
ジーメンス毎メートル S/m L−3 T3 M−1 I2 kg−1·m−3·s3·A2 電気伝導率(電気伝導度・導電率)
ウェーバ Wb L2 T−2 M I−1 V·s = J/A = kg·m2·s−2·A−1 磁束
テスラ T T−2 M I−1 Wb/m2 = kg·s−2·A−1 磁束密度
アンペア回数 A I A 起磁力
アンペア毎メートル A/m L−1 I m−1·A 磁場(磁界)の強さ
アンペアウェーバ A/Wb L−2 T2 M−1 I2 kg−1·m−2·s2·A2 磁気抵抗(リラクタンス、: reluctance
ヘンリー H L2 T−2 M I−2 Wb/A = V·s/A = kg·m2·s−2·A−2 インダクタンスパーミアンス
ヘンリー毎メートル H/m L T−2 M I−2 kg·m·s−2·A−2 透磁率