痴漢冤罪

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痴漢冤罪(ちかんえんざい)とは、痴漢行為をしていない者が、痴漢行為者として疑いをかけられ、有罪となった結果、警察司法機関により不当な処遇・処分を受けることをいう。また、それによる社会的制裁も含まれる場合がある。

目次

[編集] 概要

社会的に、痴漢という犯罪を撲滅しようと言う動きが高まる中で、混雑している電車内において痴漢行為をしていない者が告発され、無実の罪を着せられる冤罪事件が多くメディアに取り上げられ、注目されている。

その背景は、満員電車内での痴漢行為が誤認を起こしやすい状況下の犯罪であることがいえ、身動きできないほど混雑した車内において女性の身体に接触してしまうのはやむを得ないにもかかわらず、これを女性が痴漢と勘違いしたり、実際痴漢に遭った場合でも誤認してしまう問題がある。

さらに、被害者の証言だけで客観的な物的証拠がないまま誤認された者を長期間拘留する警察側の問題、誤認された者(痴漢冤罪被害者)の反証を採用しない日本の裁判所側の問題も指摘されている。これ以外に痴漢被害を装った示談金目的の喝取や面白半分のゲーム感覚(学校や職場への遅刻の言い訳づくりも含めて)、個人的な怨嗟による冤罪事件もあり、多くの男性が冤罪被害に遭う可能性のあるこれらの事件は、1990年代末からマスコミなどで頻繁に取り上げられるようになった。1996年までは客観的証拠の裏づけのない痴漢事件の起訴は少なかったが、1997年ごろから痴漢の送検件数が急増し、無罪判決も増加した[1]。これに伴い冤罪事件の数も増加したとみられる。

なお、痴漢行為は迷惑防止条例違反または(より悪質な場合)強制わいせつ罪になり、下着内に手を差し入れた場合は実務上、後者の強制わいせつ罪となる。

また、痴漢の罪を着せるために故意に虚偽の申告を行った(やってもいない罪を着せた)場合は虚偽告訴罪となる。痴漢にあっていないにもかかわらず示談金を要求する行為は恐喝罪等になりうる。そして、故意・過失により虚偽の申告を行いそれにより冤罪被害者に損害を負わせた場合、民事上の不法行為責任を負うこともある(民法709条、710条)。

[編集] 痴漢冤罪事件

鉄道バスなどの公共交通機関の車内で、痴漢被害に遭った女性またはそう主張する女性が、近傍に居合わせた無関係な男性犯罪者として告発する様な事件をいう。例えば男性が女性の後に二人並んで立っている場合で、一方が女性に対し触れるなどの痴漢行為をし、もう一方の無関係な男性の手を誤って掴み、その男性が疑われるというケースなどが考えられる。また、まれなケースとして実際の痴漢被害がないにもかかわらず[注釈 1]、手近な男性を痴漢犯人として通告し、示談金を要求する、結果として逮捕勾留起訴、さらには有罪冤罪)に至らしめ、懲戒免職処分を受けさせるなど、当該男性とその家族の社会的地位・生活までをも脅かす悪質な事例もある[2]

被害者女性が、痴漢加害者が誰か正確に認識できず、告訴をためらっていた場合でも『警察が責任を持つ』『後戻りはできない』と[3]警察が被害者に告訴状の提出を強要する場合もある。判決の理由として「原告の(被害体験)供述は臨場感がある」といった判決理由も多い。また、加害者ではない者を告発した者(おおむね女性)は明らかに悪意をもっていたことが立証されない限り(過失を主張する限り)虚偽告訴罪で起訴されることはない[注釈 2]

痴漢冤罪事件の無罪判決を経てもなお破壊されたままの社会的地位につき、誣告者に対する損害賠償請求民事訴訟を起こしても敗訴する場合も多く、どのように救済すべきか社会問題化している。

近年、公共交通機関内にとどまらず、“跡をつけて触った”とされる事件でも「被告人は真犯人とは別人である」として無罪判決が下る例が出ている[4]

[編集] 冤罪の可能性

最近は痴漢をしていないのに逮捕されるという、痴漢の誤認逮捕(いわゆる「痴漢冤罪」)の案件が頻繁に報告されている[2]。日本は他の近代法治国家と同様に推定無罪の原則を採っているが、「痴漢を含む、(特に男性から女性への)性犯罪」に関しては事実上推定有罪の原則がまかり通っており、容疑者がいわゆる「悪魔の証明」をしない限りは被害者の訴えのみで有罪が確定するケースが大半である。しかしながら、痴漢など性犯罪に限らず、被害者の証言とそれに伴う状況証拠の検証のみで有罪が確定することは一般的であり、例えば「Aさんに殴られた」という軽微な暴行事件についても被害者の訴え以外に証拠を集めることは困難であり、被害者の証言をもとに検証するしかないのが現実である。そのため、司法の問題点を指摘する意見もあるが、治安を守るうえでの限界という意見もある。

また、自称・痴漢の被害者や第三者が冤罪をでっち上げている可能性もある。例えば、女性が意図的に痴漢被害をでっち上げ、男性に多額の示談金を要求する悪質なケースも存在した[3]。また、「痴漢があった」とはいっても、その加害者が痴漢の加害を訴えている男性ではない場合もある。

濡れ衣を着せられた冤罪被害者は、仮に冤罪であることが明白になっても社会的信頼を完全に失うばかりでなく、冤罪に伴う失職など生活基盤を脅かされても補償はされないのと推測され、冤罪加害者への賠償請求は通らない。また、冤罪被害を恐れて公共交通機関を利用できなくなるなどの心理的打撃も考えうる。これらの問題は逮捕された時点であたかも犯罪者であるかのように扱う報道機関の影響も考えられる。

  • 痴漢を目撃した場合、あるいは被害者が痴漢の事実を訴えている際に周囲にいる人には、被疑者の身柄を現行犯逮捕することができる。ただし、目撃者が被害者一人だけの場合、違法逮捕になる恐れもあり、十分な状況の把握が必要である。
  • 痴漢冤罪の発生を防ぐためにも、加害者とされている人物が本当に加害者であるかどうかについては、慎重な精査が求められる。
  • また逆に、物的証拠が残らないという痴漢犯罪の性質上、加害者ではないと主張する男性が本当に加害者ではないのかについても、慎重な精査が求められる。
  • また国土交通省のある幹部は、「痴漢冤罪に遭いたくなければ電車を利用せずマイカーを利用すればよい。高速道路があちこちに整備されETC割引もあることだから電車を利用する必要はない。電車を利用する男性が悪い。」と被害者側に立った発言を行った。

[編集] 確定した痴漢冤罪事件

  • 2009年 - 2006年4月、防衛医科大教授が小田急線の成城学園前駅から下北沢駅の乗車期間中、車内で女子高校生に痴漢行為をしたとして強制わいせつ罪に問われ、30日間に渡り拘留された。一審二審で実刑とされたが、2009年4月最高裁第三小法廷(田原睦夫裁判長)は「被害者の証言は不自然で、信用性に疑いがある」として、逆転無罪を言い渡した。被害者の女子高校生は痴漢被害を受けても車内では逃れようとせず、また一旦下車したあとも再び同教授のそばに乗るなどの不自然な証言をしていた。ただし有罪と見た裁判官は5人中2人おり、堀籠幸男裁判官は、「犯人との争いや乗客の関心の的となることに対する気後れ、羞恥心などから我慢していた被害者が、我慢の限界に達して反撃に出ることは十分にありえる」「この時間帯が多数の乗客が押し入るように乗り込んでくることへの認識に欠ける」として「一旦下車したあとも再び同教授のそばに乗った」ことを論拠に被害者の証言を退ける意見に反論した。判決は「客観証拠が得られにくい満員電車内の痴漢事件では、特に慎重な判断が求められる」と今後同種の事件に少なからず影響を与えるだろう判断を示した。痴漢事件で最高裁が逆転無罪判決を出したのは初めてである。なお、同教授は現在は無罪確定後に復職がかなったものの、そのキャリアに約3年もの空白を作られる事になってしまった[5]
  • なお、98年以降、痴漢事件に関して各地の下級審で30件以上の無罪判決が出ているので、冤罪(もしくは実際は有罪の可能性も含めて)痴漢事件が無罪判決になった事例はこれまでも多数あったが、最高裁が無罪の判決を言い渡したのは初めてなので大きく報道されたため、これが「冤罪が晴らされた初めての事件」と誤解している人が多い。

[編集] 問題点と改善された点

[編集] 問題点

本来刑事裁判における犯罪の証明には、捜査機関が「被告人が犯罪をした証拠」を提出する必要がある。しかし、痴漢の場合は物的証拠が残らないという犯罪の性質上、被害を受けた者の「この人が痴漢をした」との証言(犯人識別供述)と被疑者の自白程度しか証拠がないことが少なくなく、その証言ないし自白が信用されるものと認定されれば、具体的な物証がなくとも実際に犯罪をなしたとみなされる傾向にある。これを防ぐには被告人が「痴漢をしていない証拠」を事実上示す必要があるが、この証明が悪魔の証明であり、痴漢をしていないことを証明するのはまず不可能であることを問題点として指摘されている。このような構造になった原因は、もともと日本では軽微な性犯罪であるとみなされた痴漢に対する社会的サンクション(制裁)が軽視されていて、弱い立場の女性が泣き寝入りすることが多く、これを是正するために警察や裁判所が女性を守ることに重点を置いた対応をするようになったとする意見がある。

痴漢行為の冤罪を主張し否認を続けた場合、警察・検察により長期間(1年を超える場合もある。その間行政から一切の就業補償は為されない)勾留され、容疑を認めるまで解放されない。そのため容疑者としての勾留であっても周囲には勾留=逮捕=有罪確定と誤認される可能性がある。それを怖れ、痴漢をした事実がなくても、警察からの早期解放を目的に罪を認める場合がある。この場合、前科がつき3~5万円の罰金を支払うことになるが、前科は一定期間すれば記録には残らない。また、再犯を犯さない限り犯罪の事実は社会に公表されることはない。また、冤罪を主張した場合は実名報道されるケースが多い。

最終的に冤罪であると認められた場合でも、裁判の判決まで1~2年を要するため、社会的および個人的な不利益を被ることが問題とされる。この不利益は冤罪被害者本人に限らず、家族が重い鬱病になった事例や、離婚に追い込まれた事例もある。痴漢冤罪に巻き込まれる男性が家計を主に支える人間である場合、世帯の収入が激減することも大きな問題であり、参考文献に示された事例では痴漢冤罪被害者が失職した例もある。最終的に無罪となる事例では、被害者の勤務先が休職扱いとした例も複数ある。

混雑している車両で起こるため、別な無関係の乗客を間違えて訴えてしまったり、携帯電話の使用を注意された腹いせで訴えた例、当たり屋的に痴漢を訴え示談金を要求する例(数人でグループを組んでわざとに尻を手に当てさせ、痴漢行為をしたとして示談金などを詐取する「触らせ屋」もこのころから出現した)、遅刻の理由作りのためにその場で捏造して訴えた例、さらに痴漢が発生した時間帯に、「現場」となった電車に乗っていなかったにも関わらず、後日誤認逮捕され2週間勾留されてしまったケースもある[1]ことから、誰しもが加害者側とみなされてしまう可能性があるというのが現状である。

現在、示談金の支払いをもって刑事告発を取下げて貰ったり、電車内で自他問わず痴漢を捕まえた場合鉄道各社から謝礼が支払われることもあるため、小遣い稼ぎのためのでっちあげを誘発するひとつの要因となっている。2000年にはJR常磐線で千葉県松戸市河原塚の女子高生(当時)が示談金目当てで痴漢被害をでっちあげ、後の捜査でこの女子高生が示談金目当ての痴漢被害常習犯であったことが発覚している(痴漢冤罪被害となった男性は無罪)。2008年3月11日には大阪市営地下鉄御堂筋線で示談金目当てに痴漢事件を捏造した男女が虚偽告訴罪で検挙された。この事件では、警察が被疑者、被害者、目撃者の証言を詳細に照合した結果、被害者と目撃者の証言の決定的な矛盾を突き止め、被疑者の会社員の無実を証明したものであったが、駅員から引渡された被疑者に対し、警察署員が被疑者の弁明も聞かず「白状したら許したる」と不適切な発言を行い、家族にも連絡せずに留置して取調べを行ったため家族から警察・消防に捜索願が出されるなど、警察側の対応の杜撰な一面も発覚しており、痴漢冤罪における問題点も浮き彫りになっている。なお、事実の発覚後警察は、被疑者に対し一応の謝罪こそしているものの、同時に「自分たちもだまされた」と責任逃れと受け取れるコメントを行っている。

[編集] 改善された点

痴漢冤罪に対する世論の高まりと共に、痴漢被害を主張する者の衣服の指紋の採取、容疑者の指に付着した衣服の繊維や被害者の体液や皮膚の組織などのDNA鑑定等の、客観的証拠が求められるようになり、これらの物的証拠は、起訴段階もしくは審理において重要視されるようになりつつある。また、判例においても痴漢冤罪が認められるケースが増えつつある。

しかし、一方で依然として被害者とされる相手の供述のみで、起訴、有罪(場合によっては実刑)とされる判例も多い。また、鉄道警察隊員による世論に逆行した取り締まりも続いている。2008年1月17日には電車内で、専門学校生の女性の胸を服の上から右ひじで触ったということで、滋賀県警鉄道警察隊員は現行犯で男性を逮捕、男性は一貫して無罪を主張したが、大津地裁は有罪判決をくだしている。一方で、右ひじで胸に触ったという17歳の女子高生の痴漢被害について、2008年9月1日大阪地裁は、車内が相当混雑しており、「男性は後ろの客に触れている程度の認識しか持てず、胸に当たっているという認識まで持つことができない」と判断し無罪となっている。

[編集] 痴漢冤罪に対する有識者の見解

有田芳生は、金銭目的の「痴漢被害捏造犯」の存在に言及しており、また痴漢冤罪に巻き込まれたくないという理由で、家に帰るときは電車を使わずなるべくタクシーで帰宅している、と本人のブログで発言している。[2]

作家の阿川弘之は、自らが痴漢冤罪の被害に遭いかけたという経験から「男性専用車両」の導入を提唱している。同様に、利用客の男性などからの「男性専用車両」を切望する声も少なくない。[6]。同様に性平等主義者の女性、及び女性専用車両に乗らなかったせいで周囲の男性から軽い暴力を受けた女性からの「男性専用車両」を切望する声も少なくない。

[編集] 痴漢をめぐる社会的変化

痴漢冤罪による無罪判決がマスコミ等で頻繁かつ大々的に取り上げられるようになった結果、企業・組織の側でも従業員が逮捕されても初犯の場合必ずしも即、懲戒免職としない傾向が見られるようになった。失職する場合本人が居たたまれなくなり自ら退職する場合が多かったが、近年では人格的に信用されている個人の場合、社員仲間が被疑者を支援し、その家族を支える事例も見られる。

[編集] 痴漢と間違われないための防衛策

  1. 特に男性の場合、満員電車では周囲の乗客に押され、不可抗力的に周囲の女性にぶつかり、痴漢と誤認される恐れがある。そのため、乗車の際に女性のいる場所を避けるとか、車内では手を下げずに書籍などを手にしたり、つり革またはつり革の上の棒を両手でつかむなどして、常に回りの人間に加害者になりえないことをアピールするなどの自衛策が求められている[7][注釈 3]
  2. いずれにせよ男性が痴漢冤罪被害を避ける策は、存在する。両手でつり革等をつかんでいる場合、被害女性が「この男の手に触られた」と誤認する可能性は極めて低い。これに対して、女性が痴漢犯罪被害を避ける策は、事実上存在しない。電車に乗っていれば痴漢に遭う可能性は必ず存在し、それを避ける姿勢やポーズなどは一切存在しない。(女性専用車両がある車両の場合を除く)
  3. 万が一加害者と指摘された場合、現場に居合わせた自分の無実を証言をしてくれる人間を確保することが必要である。また電車に乗り込むとき周りに女性のいない場所を選ぶことも賢明な方法である。誤って女性の体に手が触れてしまった場合、痴漢と間違われる場合も多いので、直ぐに自分の行動が過失である旨はっきり言語化して説明、誤解を解く努力をすることも必要である。それは被害者当人ばかりでなく周囲の人に潔白を理解してもらうに有効な手段であり、場の雰囲気の緊張を和らげさせるのに非常に有効である。
  4. 痴漢の疑いを受けるには全くの不可抗力で手が相手の身体に触れてしまった場合と誰か第三者が実際に痴漢行為を行って、その濡れ衣を着せられてしまう場合がある。後者の場合、ヘッドフォンを装着し、音楽英会話の教材に熱中するなどして自分の周りで何が起こっているのか知覚できず、気が付いたら痴漢の犯人にされしまっていたと言うようなことになる可能性も存在する。
  5. 男性は痴漢冤罪被害を避けるため、電車の中では常に視覚を働かせ、自分の身の回りの状況に注意を払い、的確な対応が瞬時にできる[注釈 4]体制を整えて不利な状況に陥れられることを未然に防ぐ努力が必要である。もっとも交通事故と同様に、幾ら注意をしていても完全に防ぎきれるわけではないのも、現実である。これらの諸注意は女性が痴漢被害を避けるための際にもあてはまる。
  6. 痴漢冤罪被害、及び痴漢被害を避けるための完全な対策を取るには、公共交通機関を利用しない事である。ただし、通勤時間の問題や、交通事故に遭うリスクが増加する。また、徒歩、自転車バイク等を除いてはコスト的に負担が大きい場合が多く、バイク、自動車を利用する場合環境負荷が増大する。

[編集] 痴漢の誤解を受けたあとの対処について

  1. 重要なことは、痴漢恐喝(示談金目的のでっちあげ)の場合も、痴漢誤認の場合も、証人なしでは絶対に駅員室についていってはならないということである。「間違いなのだから、きっと話せばわかってもらえるだろう」と、軽い気持ちで駅員室に行ってしまえば、いくら説明しても全く話を聞いてもらえず、たちまち警察に連行される。法的には、被害を訴える人物の要求で駅員室へ連行された時点で、私人による現行犯逮捕が成立している。そのため、自分に痴漢の疑いがかけられた場合、身分証明書や名刺を見せる等して身元を明らかにした上で、駅員室には行かないのが一番である。ほとんどの痴漢冤罪被害者が「自分はやっていない」という説明をしようと駅員室に行き、逮捕されていることに注意すべきである。
  2. 対処法について、弁護士の見解も様々あり、現場で直ちに証人を確保して裁判で無罪を勝ち取ることが最善だとする弁護士もいる一方で、疑われたらすぐに走って逃げることを勧める弁護士も存在する。なお、走って逃げた場合に被害者はもちろん第三者にぶつかって転倒させるなどした場合には、その責任を負うと共に、痴漢事件について心証が悪くなるのは確実であるとの反論もなされている[8]。このような見解が出てくる理由は、裁判に持ち込まれた場合、いかに優秀な弁護士でも無罪を勝ち取ることは非常に困難であり、長期戦を覚悟せねばならないため、その間に会社を解雇されるなどの社会的なダメージをこうむる可能性が大きいからである。
  3. その一方で駅員室に行かないことが身柄の拘束を回避できることとは必ずしもつながらないことに留意する必要がある。上で述べられたような方法で、駅員室への連行を免れたとしても、後日、警察官が自宅や職場に出向き、任意同行を求められる可能性もある。駅員室に行かないことの利点は、直ぐに、無実を証明する証人を確保したり、会社の同僚や友人、家族、または弁護士に連絡し防犯カメラの映像に対し証拠保全の手続きを取ってもらうなどの時間的猶予を稼げることにある。したがって、拘束を免れた時点で安心するのではなく、即座に的確な処置を講じていく必要がある。
  4. 警察に対しては必ずしも対決姿勢で臨むのではなく、書類送検が完了する以前に、弁護士同伴[注釈 5]で所轄の警察署に出向き、向けられた嫌疑を晴らすために弁明を講じるなどの積極的手段を講じることも場合によっては必要である。警察は、被疑者が痴漢をおこなったものという前提で裏づけを捜査しており、被疑者の無実の可能性については全く調べないため、被疑者自身で無実の証拠を集めなければ、罪を着せられることになる。警察に『やってない』と拒否するだけでは相手を納得させるのが難しく『DNA鑑定で調べてください』と話すことで無実が証明される場合がある。例えば2008年2月1日大阪市営地下鉄御堂筋線の車内で起こった「痴漢でっち上げ事件」では、警察が被疑者、被害者、目撃者の証言を詳細に調べる際、被害者女性がスカートの提出を拒んだために矛盾が突き留められ、会社員の無実を証明した。
  5. なぜそれほどDNA鑑定をする必要があるかというのは強制わいせつ罪の濡れ衣を着せられた場合は最低6か月以上の懲役刑になり、絶対に自分だけでなく被害者女性にも調べてもらわなければ重い社会的制裁をくらってしまうからである[注釈 6](『彼女は嘘をついている』の著者は強制わいせつ罪の濡れ衣を着せられ服役までさせられた)。
  6. 痴漢が逮捕される場合、被害者による現行犯逮捕なので、自分が痴漢をしていない場合、現行犯逮捕の条件を満たせないことを指摘するだけでも効果がある。

[編集] 痴漢冤罪事件を扱った作品での対処策

  • 映画『それでもボクはやってない
    主人公は警察に『罰金を払えば釈放してやる』と勧められたが拒否し、さらに弁護士に『有罪率99.9%(100人に3人が冤罪)』などと痴漢冤罪裁判の現状を知らされたが、それでも否認し、検察に起訴され、泥沼の裁判で争うことを決意する。
  • 漫画『カバチタレ!
    痴漢でっち上げで金を巻き上げる女子高生に濡れ衣を着せられて、罰金を払い釈放された男性に対し、主人公は、相手側に金を払って告訴を取り下げてもらう方法を勧めている。なお、作中では、この男性は準強制わいせつ罪で罰金を科されているが、実際には、準強制わいせつ罪は、強制わいせつ罪と同じく6か月以上10年以下の懲役になり、罰金刑は存在しない(迷惑防止条例違反には罰金刑がある)[注釈 7][注釈 8]。このように、本作は、濡れ衣を着せられる羽目になっても、泥沼の裁判で争うことは否定的に描いている。

[編集] 司法の変化

最近は裁判においても被害者の証言だけに頼るのではなく、指紋衣服繊維の採取など物的証拠が重要視されるようになっている現実もある。

痴漢の場合物的証拠がほとんど残らないため、女性の訴えが他の訴訟に比して重要視される傾向にあった。だが行き過ぎた女性保護は当然冤罪の訴えの多発を招き、それに対するより戻しとして今日、物的証拠などの間接的な証拠が裁判において求められる傾向がある。現在はどの範囲を痴漢とするかという定義自体を司法の場で試行錯誤で決定しようとしている段階にある。その一例として、被害者の供述のみに基づいて1審・2審で有罪とされた被告人につき、最高裁が「満員電車内の痴漢事件においては、被害事実や犯人の特定について物的証拠等の客観的証拠が得られにくく、被害者の供述が唯一の証拠である場合も多い上、被害者の思い込みその他により被害申告がされて犯人と特定された場合、その者が有効な防御を行うことが容易ではないという特質を考慮した上で特に慎重な判断をすることが求められる」と述べて無罪を言い渡した事例がある[9]

[編集] 根本的解決策

これら痴漢犯罪、痴漢冤罪事件、集団痴漢犯罪すべてを抑止するために根本的な解決策には、例えば電車の車両にカメラを取り付けることなどが挙げられる。 実現されれば、痴漢冤罪事件における無罪・有罪判決に客観的な証拠が示されると同時に、 痴漢行為そのものの抑止、及びスリ、置き引き、暴行、掲示物の横領など電車内で起こる多様な犯罪への抑止にもなり得る。 現状でも銀行ATMやコンビニエンスストアに防犯カメラが設置されている。

女性車両と男性車両を完全に分離することは、少年男子の痴漢被害者を守ることができないことが欠点であり、乗客の男女比が正確に把握できない以上どちらかの性に不利益な状況を起こさせる点、体と心の性の不一致を抱える人に不利益をもたらす点、車両を分けること自体にも性差別的な意味が発生しかねない点などの問題点が挙げられる。

司法の観点側においては、痴漢被害者の安易な犯人の誤認と軽率な発言が司法の場で使われてしまうという責任から、事件当時の記憶や事件発生時の判断・発言に対して重く認識させるためにも、痴漢被害者が事実と相違のある証言を行った場合に、虚偽告訴罪を下す刑事裁判での判例が求められる。また、痴漢冤罪被害者が受けた社会的・経済的損失を被害者及び証言者に損害賠償請求できる民事裁判での判例も求められる。


[編集] 関連項目

[編集] 脚注

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[編集] 注釈

  1. ^ 警察庁長官も記者会見で、きわめて少数だが痴漢被害を仮装する女性が存在すると認める。「「痴漢事件捜査、多角的に検討」 無罪判決で警察庁長官」asahi.com、2009年4月16日付。
  2. ^ 2008年3月の大阪市営地下鉄での事例は示談金目当ての事件捏造であることが判明した数少ない一例である。
  3. ^ ただし、両手でつり革をつかかみつつ下半身と陰部のみを女性の身体に押し付ける痴漢もいるため、両手がふさがっているのをアピールしているからといって痴漢ではないとは限らないので、立つ姿勢も重要になる。
  4. ^ 第三者が痴漢行為をしているのを見かけたならば注意する側に回り、自分が犯人ではないことを被害者や周りの人に積極的にアピールするなど。
  5. ^ 必ず法律に明るい人に同伴してもらうこと。
  6. ^ 女性がDNA鑑定(衣類の提出)に協力したことにより下着の中に手を入れた痴漢が手についた付着物が決め手となり逮捕されたケースがある
  7. ^ 準強制わいせつ罪は親告罪であり、被害者からの告訴なしでは裁判ができない(カバチタレ6巻より)。なお、迷惑防止条例違反は親告罪でないため、被害者が告訴を取り下げても処罰の可能性は皆無ではないが、事実上、処罰されることはほとんどない
  8. ^ 特にこの冤罪を訴える男性の場合は彼女に性病を移した罪が前科に残っており、前科が2度もあると有罪になる可能性がきわめて高いために絶対に裁判に持ちかけないようにした(カバチタレ!6巻より)

[編集] 文献

  • 秋山賢三、荒木伸怡、庭山英雄、生駒巖(共編著)『痴漢冤罪の弁護』現代人文社、2004年12月、ISBN 4877982337
  • 池上正樹『痴漢「冤罪裁判」 男にバンザイ通勤させる気か!』(小学館文庫)、小学館、2000年11月、ISBN 4094048014
  • 植草一秀事件を検証する会(編著)『植草事件の真実 ひとりの人生を抹殺しようとするこれだけの力』ナビ出版、2007年2月、ISBN 4931569161
  • 小澤実『左手の証明 記者が追いかけた痴漢冤罪事件868日の真実』ナナ・コーポレート・コミュニケーション、2007年6月、ISBN 4901491660
  • 小泉知樹『彼女は嘘をついている』文藝春秋、2006年12月、ISBN 4163687009[4]
  • 周防正行 『それでもボクはやってない 日本の刑事裁判、まだまだ疑問あり』 幻冬舎、2007年1月、ISBN 4344012739
  • 鈴木健夫 『ぼくは痴漢じゃない! 冤罪事件643日の記録』(新潮文庫)、新潮社、2004年6月、ISBN 4101012210
  • 痴漢えん罪被害者ネットワーク(編)『Stop!痴漢えん罪 13人の無実の叫び』現代人文社、2002年11月、ISBN 4877981136
  • 長崎事件弁護団(編)『なぜ痴漢えん罪は起こるのか 検証・長崎事件』現代人文社、2001年12月、ISBN 4877980725
  • 夏木栄司『でっちあげ 痴漢冤罪の発生メカニズム』角川書店、2000年11月、ISBN 404883648X
  • 前川優「推定有罪 すべてはここから始まった - ある痴漢えん罪事件の記録と記憶」(ブログ「週刊金曜日からのおしらせ」第19回「週刊金曜日ルポルタージュ大賞」優秀賞 2008年12月12日)
  • 矢田部孝司、矢田部あつ子(共著)『お父さんはやってない』太田出版、2006年12月、ISBN 4778310462[5]

[編集] 外部リンク