フーガ

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フーガ: fuga遁走曲)は、対位法を主体とした楽曲形式の1つ。ウィキペディア英語版では「形式か書式か」で異論がある。

フーガとは[編集]

提示部[編集]

フーガの大きな特徴は、カノン同様、同じ旋律が複数の声部に順次現れるということである。 この部分を主題提示部、または単に提示部、主部と呼ぶが、これには次のような原則がある。

  1. 最初に一つの声部が旋律(フーガでは最初の声部のそれを主唱という)を提示する(そのあと、結句と呼ばれる短い自由な経過句が挿入されるのが普通である)。
  2. 主唱が終わったら、別の声部で主唱を繰り返す。これを応唱という。このとき、基本的に全体を5度上げるないし4度下げる(正応)。ただし、その中で、属音は、原則として5度上げずに4度上げて(ないし5度下げて)主音にする(変応(へんのう))。これは、主音と属音を入れ替えることが求められるためである。
    • 応唱が始まったら、最初の声部ではやや遅れて別の旋律を演奏する。これを対唱という。
  3. 3声以上ある場合には、第3の声部で主唱を演奏する。まれに応唱を演奏することがある。
    • 第2の声部で、対唱を演奏する。対唱は、主唱(応唱)に合わせて変化させられる。
    • 最初の声部では自由唱となる。
  4. 4声以上ある場合には、第4の声部で応唱を演奏する。しばしば主唱を演奏することがある。
    • 第3の声部で、対唱を演奏する。対唱は、応唱(主唱)に合わせて変化させられうる。
    • 第1、第2の声部では自由唱となる。
  5. 以下、すべての声部で主唱もしくは応唱を演奏する。

このようにして、提示部が形成される。提示部は一つのフーガの中に異なる調で数回現れる。

嬉遊部[編集]

提示部と提示部の間には嬉遊部(ディヴェルティスマン)と呼ばれる自由な部分が挟まれる。多くの場合、主唱や対唱、結句などの素材が用いられる。

追迫部[編集]

提示部 - 嬉遊部を繰り返し、最後に追迫部(ストレッタ)が置かれる。追迫部では追迫(主唱が終わらないうちに応唱を導入する)という手法が用いられる。

フーガの形式[編集]

典型的なものを示せば次の通りである。

提示部(主調) - 嬉遊部 - 提示部(主調以外) - 嬉遊部 ………… - 追迫部(主調)

この提示部ないし追迫部と嬉遊部の関係だけを見ると、リトルネロ形式と非常に似ている。

フーガでは各提示部において、上記のように各声部が同じ旋律を定められた変形を伴って順次奏するのが特徴であるが、普通、回ごとに各パートが違う順序で導入される。

上述のものはあくまでも典型的な例であって、標準的でないもの(主題が複数あるものや、ストレッタを欠くものなど様々)もありうる。

フーガの種類[編集]

声部の数[編集]

フーガは声部の数によって二声のフーガ、三声のフーガ、四声のフーガ、五声のフーガ……などと分類される。声部数によって、当然作曲に求められる技法は変化する。

多重フーガ[編集]

複数の主題を持って構成されるフーガをその数に従って二重フーガ、三重フーガと呼ぶ。普通のフーガでは対唱の主題性は主唱に比べて低く、2つの旋律が同時に演奏されるにしても主題は1つであると言って良いが、これらのフーガでは同等の主題性を持つ旋律が複数並び立つこととなる。このようなフーガでは、しばしばそれら複数の主題が曲頭から順に提示される(4声の二重フーガの場合は第1主題→第2主題→第1主題(属調)→第2主題(属調)となる)。

反行フーガ[編集]

フーガの主題は時として上下転回された形で模倣される。上下転回された主題を、主題の反行形と呼ぶ。最初の提示部での応答が転回されたり(結果として主音と属音が入れ替わる)、第2、第3…の提示部において主題が転回されるなど、反行形の主題の提示位置は様々である。こうした反行形の主題が示されるフーガを反行フーガと呼ぶ。

拡大フーガ・縮小フーガ[編集]

フーガの中で、主題がその音価を整数倍に拡大して示される場合、これを拡大フーガと呼ぶ。例えば2倍の拡大であれば、四分音符→二分音符、八分音符→四分音符のように、主題の全ての音符が比例拡大される。同様に主題が音価を縮小されて示される場合、これを縮小フーガと呼ぶ。拡大ないし縮小された主題はしばしば曲の途中から示され、効果的に用いられる。

フゲッタ[編集]

小さなフーガの意味である。また、上記の要件を満たさない、フーガ様の楽曲をフゲッタ (fughetta) と呼ぶことがある。

フガート[編集]

交響曲などの一部に現れるフーガ様の部分は、フーガの提示部やストレッタなどの様式・技法を用いて作曲されているが、フーガとしての要件を全て満たしているわけでもなく、また独立した曲ではなくて一つの曲や楽章の部分を成す。こうしたものはフガート (fugato) と呼ばれる。

主要曲[編集]

バロック[編集]

バロック初期にはリチェルカーレファンタジアなど様々な対位法的な器楽曲が存在したが、後にそれらは一括してフーガと呼ばれるようになった。また前奏曲トッカータなど即興的作品の一部として挿入されていた対位法的な部分が次第に拡大され、1つの楽章として確立したものもフーガと呼ばれるようになった。

古典派[編集]

古典派以降のフーガは、その多くがバッハの影響の下に作られている。このことは、時としてフーガの主題にバッハの名B-A-C-H(シ♭-ラ-ド-シ)が用いられていることからも明らかである。

ロマン派[編集]

近代(20世紀前半)[編集]

現代(20世紀後半)[編集]

バッハを踏襲した「24のプレリュードとフーガ」の作曲者には、次の人物が並ぶ。

学習[編集]

旧ソ連邦ではソ連崩壊まで「ピアノ(またはオルガン)のためのプレリュードとフーガ」の作曲が必修であった。ドミトリー・ショスタコーヴィチは、バッハの平均律の解釈をマリア・ユージナからプライヴェートレッスンで教わった。その結果生まれたのが「ピアノのための24のプレリュードとフーガ」である。

かつて20世紀の音楽学校ではフーガは必修科目であったが、戦後は対位法学習の旧弊な点が指摘され、徐々にカリキュラムから減らされていった。ルチアーノ・ベリオは「パリベニのクラスで対位法をやっていたが、たびたび二人きりの授業になった」と語っている[1]。また、ナディア・ブーランジェが目指した最も高い指標に「即興でフーガを作曲すること」がある。

戦後の日本もその煽りを受け、フーガは作曲科の入試に用いられることがすくなくなり、作曲科入試の2日目にフーガの試験を行っていた東京藝術大学も、フーガを大学入学初年度のシラバスに組み込むこととし、2014年度入試以降は作曲科入試からフーガを除外した。

現在も副科の必修ではなくなったとはいえ、教える人々は確実に少数ではあるが生き残っており、Justin RubinやChristoph Neidhöferのような「現代音楽の作曲家兼ピアニスト」で知られた人も、大学でフーガを教え続けている。後者に至っては教科書も出版した。

参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. ^ D・オズモンド=スミス;ベリオ『現代音楽の航海者』(青土社)より

外部リンク[編集]