平均律クラヴィーア曲集

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平均律クラヴィーア曲集第1巻よりフーガ第2番ハ短調BWV847の冒頭9小節

平均律クラヴィーア曲集(へいきんりつクラヴィーアきょくしゅう、原題: Das wohltemperirte Clavier、新高ドイツ語正書: Das Wohltemperierte Klavier(全2巻、第1巻 BWV846‐BWV869、第2巻 BWV870‐BWV893)は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの鍵盤作品を代表する曲集。

目次

[編集] 概要

鍵盤楽器(=クラヴィーア)のための長短24調による48の前奏曲フーガ

この: "Clavier"(クラヴィーア)とは当時のドイツ語表記であり、20世紀の新高ドイツ語正書法では: "Klavier"と表記し一般にはピアノを意味する。ただしバッハの時代にはまだピアノは普及しておらず、当時はチェンバロ、クラヴィコード、ときとしてオルガンも含めた「鍵盤楽器全般」を意味した。

原題の"Wohltemperiert(e)"は一般に「平均律」と訳されているが、正しくは「程よく調律された」という意味で、20世紀の平均律: gleich schwebende Temperatur)を意味するものではない。当時の鍵盤楽器の調律では中全音律が多く使われていたが、嬰ハ長調や変ロ短調など調号が多い調性では主和音などに不快な音程が含まれてしまうため演奏に適さなかった。実際平均律クラヴィーア曲集第1巻の翌年に完成した[1]インヴェンションとシンフォニア」では、嬰トと変ホの間の5度が「ヴォルフ(ウルフ、狼音)」と呼ばれる不快な音程である場合に演奏に適さない9つの調性が避けられている。鍵盤楽器で調律を変更せずにあらゆる調性で演奏するには、ヴェルクマイスターの調律法のようなヴォルフを生じない工夫を取り入れた調律法が開発されて初めて可能となった。バッハが意図した調律法については諸説あるが、近年では平均律クラヴィーア曲集第一巻初版のタイトルページにある手書きのループがバッハの調律法を示すものとして、様々な解釈が提案されている。

バッハ以前にも何人かの作曲家が多くの長短調を駆使した作曲を試みている。中でもヨハン・カスパール・フェルディナント・フィッシャーの「アリアドネ・ムジカ」は、20の調による前奏曲フーガを含んでおり、バッハがこれを参考にしたとの説もある。

フレデリック・ショパンの「24の前奏曲」や、ショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」は、このバッハの曲集に触発されたものである。

第1巻の自筆譜表紙に「指導を求めて止まぬ音楽青年の利用と実用のため、又同様に既に今迄この研究を行ってきた人々に特別な娯楽として役立つため、」(旧盤解説書より。徳永隆男訳)とバッハによって記されたが、現代においてもピアノ演奏を学ぶものにとって最も重要な曲集の一つである。ハンス・フォン・ビューローは、この曲集とルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンピアノソナタを、それぞれ、音楽の旧約聖書新約聖書と呼び、賛賞した。

1977年グレン・グールド演奏による同曲の録音が、人類を代表する文化的作品として、ボイジャーのゴールデンレコードに収録され宇宙に打ち上げられた。

[編集] 各曲

[編集] 第1巻(BWV846‐BWV869)

長短24調による前奏曲フーガからなる曲集。1722年成立[1]。単独に作曲された曲集ではなく、その多くは既存の前奏曲フーガを編曲して集成されたものである。特に前奏曲の約半数は、1720年に息子の教育用として書き始められた「ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集」に初期稿が「プレアンブルム」として含まれている。様々な様式のフーガが見られ、中でも3重フーガ(嬰ハ短調 BWV849)や拡大・縮小フーガ(変ホ短調 BWV853)は高度な対位法を駆使した傑作とされる。

なお、第1番ハ長調BWV846の前奏曲はシャルル・グノーアヴェ・マリアの伴奏に用いたことで知られている。非常に清澄なアルペジョが連続した名作。

平均律クラヴィーア曲集第1巻よりフーガ第2番ハ短調BWV847

  1. BWV846 前奏曲 - 4声のフーガ ハ長調
  2. BWV847 前奏曲 - 3声のフーガ ハ短調:前奏曲は時にCMに使われる。
  3. BWV848 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ハ長調(フランツ・クロールが変ニ長調に書き直した楽譜もある。)
  4. BWV849 前奏曲 - 5声のフーガ 嬰ハ短調
  5. BWV850 前奏曲 - 4声のフーガ ニ長調
  6. BWV851 前奏曲 - 3声のフーガ ニ短調
  7. BWV852 前奏曲 - 3声のフーガ 変ホ長調
  8. BWV853 前奏曲 - 3声のフーガ 変ホ短調(前奏曲)・嬰ニ短調(フーガ)(フランツ・クロール版ではフーガも変ホ短調に書き直してある。)
  9. BWV854 前奏曲 - 3声のフーガ ホ長調
  10. BWV855 前奏曲 - 2声のフーガ ホ短調
  11. BWV856 前奏曲 - 3声のフーガ ヘ長調
  12. BWV857 前奏曲 - 4声のフーガ ヘ短調
  13. BWV858 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ヘ長調
  14. BWV859 前奏曲 - 4声のフーガ 嬰ヘ短調
  15. BWV860 前奏曲 - 3声のフーガ ト長調
  16. BWV861 前奏曲 - 4声のフーガ ト短調
  17. BWV862 前奏曲 - 4声のフーガ 変イ長調:前奏曲はポロネーズ
  18. BWV863 前奏曲 - 4声のフーガ 嬰ト短調
  19. BWV864 前奏曲 - 3声のフーガ イ長調
  20. BWV865 前奏曲 - 4声のフーガ イ短調
  21. BWV866 前奏曲 - 3声のフーガ 変ロ長調
  22. BWV867 前奏曲 - 5声のフーガ 変ロ短調
  23. BWV868 前奏曲 - 4声のフーガ ロ長調
  24. BWV869 前奏曲 - 4声のフーガ ロ短調 独特な主題をもったフーガ

[編集] 第2巻(BWV870‐BWV893)

長短24調による前奏曲フーガからなる曲集の第2巻。1742年に完成[1]。第1巻同様に単独に作曲された曲集ではなく、その多くは既存の前奏曲フーガを編曲して集成された。練習曲としての性格が強かった第1巻に比べ、より音楽性に富んだ作品が多くなっており、前奏曲にはソナタに類似した形式のものも見られる。フーガにおいても対位法の冴えを見せ、二重対位法を駆使した反行フーガ(変ロ短調 BWV891)などは「フーガの技法」に勝るとも劣らない高密度な作品である。

  1. BWV870 前奏曲 - 3声のフーガ ハ長調
  2. BWV871 前奏曲 - 4声のフーガ ハ短調
  3. BWV872 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ハ長調全音楽譜出版社では変ニ長調になっている。)
  4. BWV873 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ハ短調
  5. BWV874 前奏曲 - 4声のフーガ ニ長調
  6. BWV875 前奏曲 - 3声のフーガ ニ短調
  7. BWV876 前奏曲 - 4声のフーガ 変ホ長調
  8. BWV877 前奏曲 - 4声のフーガ 嬰ニ短調
  9. BWV878 前奏曲 - 4声のフーガ ホ長調
  10. BWV879 前奏曲 - 3声のフーガ ホ短調
  11. BWV880 前奏曲 - 3声のフーガ ヘ長調
  12. BWV881 前奏曲 - 3声のフーガ ヘ短調
  13. BWV882 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ヘ長調
  14. BWV883 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ヘ短調
  15. BWV884 前奏曲 - 3声のフーガ ト長調
  16. BWV885 前奏曲 - 4声のフーガ ト短調
  17. BWV886 前奏曲 - 4声のフーガ 変イ長調 前奏曲は付点リズムと4対2の動機が全曲を支配している。フーガは半音階を多用した斬新な和声で、変イ長調を好んだショパンの和声にも影響を与えている。
  18. BWV887 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ト短調 ショパンのような前奏曲。
  19. BWV888 前奏曲 - 3声のフーガ イ長調
  20. BWV889 前奏曲 - 3声のフーガ イ短調
  21. BWV890 前奏曲 - 3声のフーガ 変ロ長調
  22. BWV891 前奏曲 - 4声のフーガ 変ロ短調
  23. BWV892 前奏曲 - 4声のフーガ ロ長調
  24. BWV893 前奏曲 - 3声のフーガ ロ短調

[編集] 脚注

  1. ^ a b c 樋口隆一『バッハ』新潮文庫 1985年 ISBN 4-10-139701-5

[編集] 外部リンク

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