弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽

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弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽(げんがっきとだがっきとチェレスタのためのおんがく)Sz. 106, BB 114 は、ハンガリー作曲家バルトーク・ベーラの代表作のひとつ。一般的に『弦チェレ』と略される。

概説[編集]

バルトークと親しかった指揮者パウル・ザッハーにより、彼の主宰する旧バーゼル室内管弦楽団の創立10周年のためにと委嘱された。総譜によれば1936年9月7日ブダペストで完成。

世界初演は1937年1月21日。ザッハーが指揮するバーゼル室内管弦楽団によりバーゼルで行われた。日本初演は1939年5月10日ヨーゼフ・ローゼンシュトック指揮の新交響楽団により行われた。

総譜は同年にオーストリアのウニフェルザル出版社より出版された。

特徴[編集]

その題名が示すように、弦楽器ヴァイオリンヴィオラチェロコントラバスハープ)、打楽器木琴スネア付きドラム、スネア無しドラム、シンバルタムタムバスドラムティンパニチェレスタ)、そしてピアノを用いる。

几帳面なバルトークの性格を反映して、総譜上には楽器の配置位置が明確に指定されている。それによれば弦楽器群は弦楽5部を2つに分けて指揮者の左右に対向配置し、中央にその他の楽器が配置されるように指示されている。

バルトークの他の作品同様、総譜には厳密な演奏時間指定(第1楽章6分30秒・第2楽章6分55秒・第3楽章6分35秒・第4楽章5分40秒で全曲は25分40秒)があるが、多くの録音は28分から30分程度で演奏している。

チェレスタが楽器編成に入っている(しかも、使用頻度の高いピアノを差し置いて、他の打楽器とは別に題名に登場している)理由としては、バルトークが民族音楽の研究に没頭していたときに接したインドネシアバリガムランによるものだという説が最有力である。確かにこの作品で頻用されるチェレスタのグリッサンドは、インドネシアの雰囲気をかもし出してはいる。ただし、この時代にはミュステル社の鍵盤アクションに不備の多いチェレスタしか存在しておらず、初演当時のソロパートの演奏はかなり困難であったことが想像される。

楽曲[編集]

曲は緩(Andante tranquillo)、急(Allegro)、緩(Adagio)、急(Allegro molto)の4楽章形式。第1楽章冒頭の主題が変形されて各楽章に用いられる。

第1楽章 Andante tranquillo[編集]

変拍子の変則的なフーガ。静穏な中に高い緊張を感じさせる。弱音器つきのヴィオラの半音階的な主題から始まる。続いて5、13、27小節目に完全5度ずつ上で主題が登場する。また、8、16小節目に完全5度下(変則的なのはここで、通常のフーガならまず主調の完全4度下である)に主題が登場し、弦楽器群は次第に音域を扇のように広げていく。34小節目にティンパニが登場。55から56小節目に変ホ音のクライマクス。88小節で開始と同じイ音で静かに閉じる。以上に登場する8、13、21、34、55といった数字はフィボナッチ数列に現れる[1]

第2楽章 Allegro[編集]

2つの主題を持つソナタ形式。前楽章とは対照的な明るく動きのある楽章で、特に弦楽器の対向配置を生かしたステレオ効果の掛け合いが特徴。ときにピアノや弦楽器も打楽器的(バルトーク・ピッツィカート)に用いられる。

第3楽章 Adagio[編集]

A-B-C-B-A の5部分に分かれたアーチ形式で、各部の経過に第1楽章の主題が効果的に用いられる。バルトークの静穏な楽章の1つの典型である「夜の歌」の好例で、ティンパニのグリッサンドや木琴の拍子木のような即興的な音形が印象的で、全体的にはいささか不気味な雰囲気も感じさせる。

第4楽章 Allegro molto[編集]

ロンド形式の要素が強い舞曲風アレグロ。メイン主題は何度も変奏されながら(この手法はバルトークが多用したもので、マジャル民謡などのイディオムを取り入れている)出現する。後半はチェロのカデンツァ風ソロを経て、テンポがめまぐるしく変わる中、熱狂的に閉じる。

以上のように全曲を通じて精密に技巧を凝らして作曲されているが、聴衆にはまったくそれを意識させない。バルトークのそれまでの民族音楽研究の成果が、バロック音楽コンチェルト・グロッソを思わせる古典的な形式の中に昇華したバルトーク円熟期の代表作で、録音も多い。

この楽曲が登場する作品[編集]

第2楽章
第3楽章

脚注[編集]

  1. ^ フィボナッチ数列より黄金比のほうが当てはまるという指摘(Chapter 7 of Larry Solomon's Symmetry as a Compositional Determinant (an analysis of some formal aspects of the piece) もある。それによれば、これらの小節数は演奏時間を黄金比で分割していくことにより得られる。また、第1楽章冒頭主題が38の8分音符から成り、最も高い音が23個目に現れるのも黄金比であることも指摘している。第3楽章、第4楽章にも黄金比の使用が見られる。