ターロガトー

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ターロガトー

ターロガトーハンガリー語: tárogató)はハンガリーの大衆音楽で使われる木管楽器。現在のターロガトーは19世紀後半にシュンダ (József Schundaによって設計されたシングルリードの楽器で、外見はクラリネットに似るがサクソフォーンと同様の円錐管の管体を持ち、音色は大きく異なる。ルーマニアでも使用され、ルーマニア語ではタラゴットtaragot)またはトロゴアタ(torogoată)と呼ばれる。

概要[編集]

ターロガトーはクラリネットと似た歌口を持つ木製の楽器だが、管体がクラリネットと異なって円錐管であるため、整数倍音が出る[1]:45。木製ではあるがソプラノサクソフォンによく似た形をしており[2]、柔らかい音が出る[2]

指使いはアルバート式に近い[3]。ベルの近くに複数の空気穴があけられている[2]

音の高さはいくつかの種類があるが、Bのソプラノ・ターロガトーがもっともよく使われる[3]。ターロガトーのバンドではテノール・ターロガトーなどの低音楽器も用いられる[2]

歴史[編集]

歴史的に「ターロガトー」と呼ばれる楽器には19世紀以前のものと19世紀末に発明されたものの2種類がある[4]:361

本来のターロガトーは中東に起源を持つダブルリードの楽器で[4]:361、16世紀にオスマン帝国がヨーロッパに侵入したときに中央ヨーロッパ諸国に伝えられたショームの一種だった[2][5]。「ターロガトー」という名前はマジャル語で「トルコの笛」を意味するtöröksípに由来する[6]:1。主に軍楽に使われたが、葬儀や結婚式においてもラッパや太鼓とともに野外で用いられた[2]。18世紀はじめのラーコーツィの独立戦争において好んで使われ、そのために反乱の鎮圧後は使用を禁じられた[2][6]:2

19世紀前半にもターロガトーは使われていたが、伝統的なターロガトーは野外用の楽器であるためにコンサートホールで使用するには音が大きすぎるという欠点があった[4]:362。19世紀なかばのハンガリー革命の失敗後、ターロガトーがふたたび注目をあびるようになり[2]、このときに楽器の改良が試みられるようになった[4]:362-365

19世紀末、ブダペストの楽器製作者であったシュンダ・ヴェンツェル・ヨージェフ (József Schundaは、新しいシングルリードのターロガトーを開発し、1897年9月17日に特許を申請した[2][4]:365-366。ところがその2日前の9月15日に別の楽器製作者であるシュトーヴァッサー (hu:Stowasser Jánosもまたよく似た楽器を特許申請していた[4]:365。間もなく他のメーカーもこの楽器を作るようになり、新しいターロガトーが普及した[4]:368。シュトーヴァッサー社の楽器が現在ももっとも高い評価を得ている[3]

1902年3月にブダペストで上演されたワーグナートリスタンとイゾルデ』では、「木製トランペット」(Holztrompete、通常はコーラングレを使用する)のかわりにターロガトーが使用された[4]:369-370。当時はグスタフ・マーラーハンス・リヒターらの指揮者もこの楽器に興味を示したが、現在ではクラシック音楽の演奏にターロガトーが使われることはない[4]:370

1920年代にターロガトーはルーマニアのバナト地方にもたらされ、タラゴットの名前で普及した[6]:8

第二次世界大戦後、共産主義政権下のハンガリーではターロガトーの製造を止め、演奏も抑圧されたが、ルーマニアとセルビア(当時はユーゴスラビアの一部)では製造が続けられた[6]:8。東欧から共産主義政権が一掃された後、21世紀初頭になってハンガリーでのターロガトー製造が復活した[6]:9

脚注[編集]

  1. ^ 竹内明彦『こうして管楽器はつくられる 設計者が語る「楽器学のすすめ」』ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス、2019年。ISBN 9784636971439 
  2. ^ a b c d e f g h i Eszter Fontana (2001). “Tárogató (Hun. also töröksíp: ‘Turkish pipe’; Rom. taragot, torogoată)”. Grove Music Online. doi:10.1093/gmo/9781561592630.article.27520 
  3. ^ a b c Stephen Fox (2004), The Tárogató, Stephen Fox Clarinets, http://www.sfoxclarinets.com/Tarogatoart.html 
  4. ^ a b c d e f g h i Falvy, Zoltán (1997). “"Tárogató" as a Regional Instrument”. Studia Musicologica Academiae Scientiarum Hungaricae 38 (3/4): 361-370. JSTOR 902491. 
  5. ^ Anthony C. Baines (2001). “Shawm”. Grove Music Online. revised by Martin Kirnbauer. doi:10.1093/gmo/9781561592630.article.43658 
  6. ^ a b c d e Milosevic, Milan. The history and development of the tárogató. http://vi-co.org/wp-content/uploads/2018/01/Tarogato-by-Milan-Milosevic-w-watermark.pdf 

外部リンク[編集]