ジン (蒸留酒)

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ジン

ジン英語Gin)とは、大麦ライ麦ジャガイモなどを原料とした蒸留酒ジュニパーベリーJuniper berry、主にセイヨウネズの球果)の上に流すことによって香り付けがされているのが特徴的。日本の酒税法上はスピリッツ(蒸留酒)に分類される。蒸留酒の中では比較的、個性が強くない上、西ヨーロッパでは古くから知られているため、そのまま飲むだけでなく、カクテルの材料として最も多く使われているものの一つである。

歴史

20世紀まで

ウィリアム・ホガースビール通りとジン横丁英語版』(1751年)で描かれたジン横丁
  • 11世紀頃にイタリア修道士がジュニパーベリーを主体としたスピリッツを作っていた記録があるのが発祥とされる説が現在は有力。
  • 1660年オランダライデン大学医学部教授、フランシスクス・シルヴィウスが作った解熱・利尿用薬用酒、イェネーバ: jenever、英語読み: ジェネヴァ)がその起源。普通に飲んでも美味なため、一般化していった。
  • 1689年、オランダの貴族であったオレンジ公ウイリアム(ウィリアム3世)がイングランド国王として迎えられた際に、この酒もイギリスに持ち込まれ、人気を博するようになった。その際、名前も短くジンと呼ばれるようになった。
  • 19世紀半ばに連続式蒸留器が発明されると、これまでより飛躍的に雑味が少なく、度数の高いスピリッツが蒸留できるようになり、ジンの製法も大きく様変わりした。原料自体は大きく変わらないが、まず連続式蒸留器アルコール度数の高いスピリッツを作り、そこにジュニパーベリーなどの副材料を加えて単式蒸留する。これが現在主流であるドライ・ジンDry Gin,「ロンドン・ジン」とも呼ばれる)である。

18世紀、産業革命に前後してロンドンなどの大都市に労働者が流入しスラム街が形成された。そして、低所得者の間にジン中毒ともいえる現象が起こっていた。ウィリアム・ホガースの銅版画『ビール通りとジン横丁英語版』はこのようなイメージから生まれたものであり、健康的な「ビール通り」と対比した堕落し、悪徳にまみれた街を「ジン横丁」として描いている[1]。19世紀に入るとジンとそれにまつわる社会悪に関する関心が高まり、1830年代のアンチ・スピリット運動へと発展していった[2]。ジンは価格が安いわりにアルコール度数が高く、酔いが早かった。このため、労働者や庶民の酒、ひいては「不道徳な酒」というイメージがあり、貴族や富裕な紳士、健全な者の飲む酒ではないとされた。当時、花婿の出費会計書に「ジン」の名が入っていたことを知った花嫁の親が婚約を解消したという逸話があるほどである。19世紀後半を舞台としたシャーロック・ホームズシリーズにおいても、ホームズ(探偵であり警察官とも対等に接する)とワトソン(医者)と言った社会的地位を持つ登場人物がジンを口にするシーンはない。対照的に、「唇のねじれた男」において、アヘン窟へ向かうワトソンがジンを提供する酒場の間の道を通っていくシーンがある事からも、当時のロンドンにおけるジンの扱い・イメージがうかがい知れる。

一方で、現在まで続くジンの銘柄タンカレーの創業者であるチャールズ・タンカレーが1830年、高級なジン造りを志してロンドンに蒸留所を起こした。これ以降、品質やイメージは徐々に向上していった。

20世紀にはカクテルベースとして上流階級の間でも一般的になり、名門貴族の出であるウィンストン・チャーチルなどは、ほとんどストレートのジンに近い特注のエクストラ・ドライ・マティーニを愛飲していたという。

日本で初めてジンが蒸留されたのは、フランス革命戦争で本国を失い補給を絶たれた長崎出島のオランダ人のために、長崎奉行所の茂伝之進が文化9年(1812年)にオランダ人の協力を得てジンやブランデービールを作ったのが始まりと言われている。当時カピタンだったヘンドリック・ドゥーフの『日本回想録』にはその時の経緯と、ネズの匂いが強すぎてあまりいい出来ではなかったという感想が記されている[3]

21世紀以降

近年では、2008年にシップスミス蒸留所がロンドンで200年ぶりに銅製の蒸留器を稼働して大きな話題となった事が切っ掛けで英国内でジンの流行が始まり、小規模な蒸留所による高品質・個性的なジンがクラフトビールに倣って「クラフト(職人・工芸)ジン」と呼ばれるようになった。2008年には英国内に12しかなかったジン蒸留所は2018年には450以上にもなった。そして世界的なウイスキーの原酒不足もあって、英国内でのジンの流行が世界的な流行に繋がり、日本でもクラフトジン専門の蒸留所が新設されたり、日本酒焼酎蔵元がジン製造に参入し始めている。これにより日本のジン輸出額が急拡大し、2017年には対前年比で43倍の6億4千万円を輸出し、翌2018年には対前年比3倍となる19億9千万円を輸出し、ほぼ皆無であったジンの輸出がわずか2年で焼酎の輸出額を超えて、蒸留酒としてはジャパニーズ・ウイスキーに次ぐ輸出額となった[4](2018年輸出額 : 日本酒222億円、ウイスキー150億円、ビール129億円、焼酎15億円[5])。また日本のジン輸入額も増加しており、2016年に約19億円と過去最高となった[6]

2020年、日本において、新型コロナウイルスCOVID-19の流行によりクラフトビールが売れ残る事態が続出。続いてビールからジンを作り出す運動が発生した。[7]

種類

ゴードンズ
タンカレー
ビーフィーター
ヘンドリックス・ジン
ボンベイ・サファイア
ドライ・ジン(Dry Gin)
ロンドン・ジン、イングリッシュ・ジンなどとも呼ばれイギリス、ロンドンが主産地。日本でも2016年からジン専門の京都蒸溜所が製造・販売を始めた[8][9]
イェネーバ(Jenever
現在でもオランダで作られている、より原型に近いジン。オランダ・ジンとも呼ばれる。原料を糖化醸造した液体に副材料を加え、単式蒸留する。
シュタインヘーガー(Steinhäger
生のジュニパーベリーを発酵して作られる、ドイツ産のジン。ドライ・ジンよりは控え目な風味を持つ。
オールド・トム・ジンOld Tom Gin
ドライ・ジンが作られるようになる以前、雑味を抑えるために砂糖を加えたジン。カクテルトム・コリンズは本来このジンを材料とする。

類似

スロー・ジン(Sloe Gin)
ジンで使われるジュニパーベリーの代わりにスローベリー(Sloe berry、スピノサスモモの果実)を副材料とするアルコール。「ジン」と名が付いてはいるが、スピリッツではなくリキュールの一種となる。

主な銘柄

ジンを使った主なカクテル

脚注

  1. ^ 海野 2009, pp. 82–85.
  2. ^ 海野 2009, pp. 98–100.
  3. ^ 鈴木晋一 『たべもの史話』 小学館ライブラリー、1999年、pp162-163
  4. ^ 国産ジンの輸出急拡大、18年は前年比6倍超 「クラフトジン」世界的ブームで参入相次ぐ 食品産業新聞社 2019年2月20日
  5. ^ 酒類の輸出金額・輸出数量の推移について 国税庁 2019年2月20日
  6. ^ クラフトジン、国内でも参入相次ぐ 手作り感ある高級酒へ『産経新聞』朝刊2018年11月30日(生活面)
  7. ^ 廃棄近いビールをジンに コロナ余波、飲食店に呼びかけ:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2020年5月9日閲覧。
  8. ^ "京都初のジン蒸溜所、遂に始動! スーパー プレミアム クラフトジン『季の美』(KI NO BI)10月発売へ" (PDF) (Press release). 株式会社ウィスク・イー. 2016-08. 2017-03-24閲覧 {{cite press release2}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  9. ^ “日本で初めてのジン専門蒸溜所”. WHISKY Magazine Japan. (2016年11月23日). http://whiskymag.jp/ktd/ 2017年3月24日閲覧。 

参考文献

関連項目