スピノサスモモ

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スピノサスモモ
Illustration Prunus spinosa1.jpg
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: バラ目 Rosales
: バラ科 Rosaceae
亜科 : スモモ亜科 Prunoideae
: スモモ属 Prunus
: スピノサスモモ P. spinosa
学名
Prunus spinosa
L. (1753)
英名
blackthorn
果実

スピノサスモモ英語: Blackthorn ブラックソーン;フランス語: prunelle プリュネル[注 1]ドイツ語: Schlehe シュレーエ) はスモモ属低木、または小高木である。

ヨーロッパ西アジア北アフリカに自生。両性花で、濃紫色のスローと呼ばれる果実をつける。果実は英国などでスロー・ジンというリキュールの材料となるほか、木材は、特にアイルランド伝統の棍棒杖に利用される。

語源[編集]

学名 spinosa は、ラテン語でトゲ状を意味する。英名 blackthorn は黒い樹皮とトゲ (thorn) に由来するといわれる[注 2][1]。果実の英名 sloe は、古英語の slāh[注 3]から来ており、ドイツ語 Shlehe シュレーエを含めドイツ語族の各言語に同源語がみられる[2]

和名[編集]

スピノサスモモという和訳名が、学究論文や政府(農林水産省植物防疫所報告等)などで確認できる[3][4]

慣習的に blackthorn (仏:prunelle)は、「リンボク(の一種)」などと和訳されるが[5][6]リンボク(P. spinulosa)は日本原産の別種である[注 4]

またトゲスモモと訳す文献も散見できる[7][9]

利用[編集]

食用
果実は小さいスモモに似ていて、保存食に向くが、(ヨーロッパで行われているように凍らせなければ)いくらか酸っぱい。アルプスで見つかったアイスマン(紀元前3300年頃)の遺体現場からも一果が発見されている[10][11]
イギリスではこの実を使ってスロー・ジンというリキュールが作られるが、現在はジンの代用として安価なグレーンスピリッツが用いられることが多い。
スペインナバラ州ではスローを使ってパチャランという人気の果実酒を作る。スローからはジャムも作られるし、酢漬けにすれば日本の梅干しのようなものになる。
20世紀前半頃まで、ジュースが偽造ポートワインに使用されていたり[12][13]、19世紀末頃までその葉を不正に紅茶に混入することもおこなわれていた[14][12]
木材
アイルランドでは伝統的にまっすぐ伸びたスピノサスモモの幹が杖や棍棒に使われる。王立アイルランド連隊の士官は、スピノサスモモの杖を持つのが伝統である。
燃料
煙が少なく、ゆっくり燃える事からとして重宝された[15]
インク、染料
中世のユダヤ教学者ラシ樹液をインクとして使用した[16]
果汁は赤みがかっているが、染めると長持ちするペールブルーとなる[17]
牧畜
スピノサスモモは生垣や野鳥猟用の茂みの用途でも植えられる。スピノサスモモの藪は家畜類の小さな傷の主な原因となり、この傷はスピノサスモモが取り去られない限り続き、化膿することもある。
製塩
ドイツでは、枝を束ねたものが流下式塩田で使用するグラディアヴェルクと呼ばれる乾燥装置に組み込まれ、余分なミネラルを取り除き、塩水から水分を蒸発させる表面積を増やす枝条架として利用される。

生態系[編集]

葉はチョウ目の幼虫(例:チョウセンメスアカシジミ Thecga betula)の餌となる[3]

注釈[編集]

  1. ^ プリュネルは果実をさし、植物自体(潅木)はプリュネリエ prunellier
  2. ^ 比較的樹皮が淡色なサンザシ(whitethorn)と対比した命名だとの推察である。
  3. ^ 木そのものは slāhðorn
  4. ^ eau-de-vie de prunelle も「リンボク酒」と慣習的に訳される[6]

出典[編集]

  1. ^ Johns, Charles Alexander (1882). “The Blackthorn”. The Forest Trees of Britain. Society for Promoting Christian Knowledge. p. 105. https://books.google.com/books?id=zBMoAAAAYAAJ&pg=PA105. 
  2. ^ “sloe”. The Century Dictionary and Cyclopedia. 7. (1906). https://books.google.com/books?id=D35EAQAAIAAJ&pg=PA5701. 
  3. ^ a b 渡辺康之 (1998), p. 16, https://www.jstage.jst.go.jp/article/yadoriga/1998/174/1998_KJ00006420639/_pdf 
  4. ^ [http://www.maff.go.jp/j/syouan/keneki/kikaku/pdf/ppv_pra.pdf Plum pox virusに関する 病害虫危険度解析報告書], 横浜植物防疫所, (2010-09), p. 3, http://www.maff.go.jp/j/syouan/keneki/kikaku/pdf/ppv_pra.pdf 
  5. ^ “blackthorn”. 新英和中辞典 (6 ed.). 研究社. (1996). 
  6. ^ a b “prunelle”. Le Dico 現代フランス語辞典. 白水社. (1993). 
  7. ^ 野島利彰 (1991), “蜜蜂と俗信--観察されるミツバチ”, 駒沢大学外国語部論集 (33): 55, http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/10142/KJ00005092033.pdf0 、注23。
  8. ^ 新谷俊裕 (2017), “アンデルセンのGrantræetはモミの木ではない? : デンマーク語動植物名称の日本語訳における誤訳のメカニズム”, IDUN : journal of Nordic studies : 北欧研究 (大阪大学言語文化研究科言語社会専攻デンマーク語・スウェーデン語研究室) (22): 45, 48, https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/60742/idun_22_029.pdf 
  9. ^ 森田貞雄; 福井信子; 家村睦夫; 下宮忠雄 (2011), 現代デンマーク辞典, 大学書林 [8]
  10. ^ Tia Ghose (2012年11月8日). “Mummy Melodrama: Top 9 Secrets About Otzi the Iceman”. LiveScience. 2012年11月10日閲覧。  (Part7/10)
  11. ^ Ötzi the Iceman”. Museo Archeologico dell'Alto Adige (2016年). 2019年7月19日閲覧。
  12. ^ a b Wikisource-logo.svg Rines, George Edwin, ed. (1920). "Sloe" . Encyclopedia Americana.
  13. ^ White, Florence (d. 1940) (1952). >Good English Food, Local and Regional. p. 52. https://books.google.com/books?id=-3pFGI2C9v8. 
  14. ^ Allen, Alfred Henry (1892). Commercial Organic Analysis: pt.I.. P. Blakiston, son, & Company. p. 525. https://books.google.com/books?id=oxRLAAAAYAAJ&pg=PA525. 
  15. ^ The Burning Properties of Wood”. The Scout Association (1999年). 2012年12月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月23日閲覧。
  16. ^ Talmud Bavli, Tractate Shabbat 23a
  17. ^ Coats, Alice M (1992) [1964]. Garden Shrubs and Their Histories. New York: Simon & Schuster. Prunus. ISBN 0671747339.