関電トンネル電気バス

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関電トンネル電気バス
扇沢駅に停車中の車両
扇沢駅に停車中の車両
基本情報
日本の旗 日本
所在地 長野県富山県
種類 電気バス
開業 2019年4月15日(トロリーバスより転換)
所有者 関西電力
運営者 関西電力
詳細情報
総延長距離 6.1 km
駅数 2駅
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関電トンネル電気バス(かんでんトンネルでんきバス)は、長野県大町市扇沢駅富山県中新川郡立山町黒部ダム駅との間を関電トンネル経由で結ぶ、関西電力(関電)のバス路線である。立山黒部アルペンルートの一部を構成する。

長野・富山県境の交通は飛騨山脈後立山連峰)の急峻な地形によって阻まれ、一般の車両が通行可能な道路がないため、本路線は両県境を直接行き来することができる唯一の交通機関となっている[1]

本項では、前身として2018年まで運行していた「関電トンネルトロリーバス」についても記述する。

概要[編集]

関電が2018年まで運営していた無軌条電車トロリーバス)の路線(関電トンネルトロリーバス、正式名称:関電トンネル無軌条電車[2])を引き継いだもので、2019年から電気バスによる営業運行を行っている[3]。関電のグループ企業が運営する北アルプス交通(関電アメニックス)黒部峡谷鉄道と異なり、本路線は関電の黒四管理事務所運輸課による直営である[4]

関電トンネルは扇沢駅から505 mの地点に位置し、黒部ダム駅はトンネル内部にある[5]

車両[編集]

電気バス化後の車両は、ジェイ・バス製の日野・ブルーリボンをベースとしたノンステップバス[6]で、2020年現在、15台が配備されている。

車載パンタグラフ経由で蓄電池(リチウムイオンバッテリー、モジュール数48、総電力量52.8 kWh)に充電する方式で、扇沢の乗り場に設置された充電設備により、10分間で急速充電する。主電動機は永久磁石式三相同期電動機で、トロリーバスの約2倍の出力となる最大出力230 kW[7][8]。最高速度は50 km/h[7]。トロリーバス時代と比べて座席数は36席から33席に減ったものの、定員は72名から80名に増加している[7]。車体は北アルプスの雪に着想を得た白を基調色とし[9]、「黒四」にちなんだ黒色の線が4本入っている[6]。また、退役したトロリーバス車両から取り外した関電の社章が前面に取り付けられている[9]。車内のつり革のデザインは、黒部ダムのマスコットキャラクターである猫「くろにょん」をモチーフにしている[10][11]。湿度の高いトンネル内の結露対策として、バス本体とは別の三菱ふそうバス製造製の三菱ふそうエアロエースエアロクイーン用の電熱ヒーター付きバックミラーが取り付けられている。

営業運転の経路は国立公園の敷地内にあり、関電が保有する道路運送法上の「バス専用道路」(私道)であって、道路交通法上の「道路」(公道)ではないため、本来ナンバープレートを取得する必要はない[6]が、冬季休業中や修理点検の際には公道を走行するため、自家用ナンバー(いわゆる白ナンバー)を取得している。営業用の緑ナンバーではないのは、公道走行時は営業運転を行わないため、道路運送法第4条および第96条における白バス禁止行為に該当しないためである。なお営業運転ではナンバープレートの上から1001 - 1015の通し番号[注釈 1]が入った車号プレートを被せる[6]が、運行経路は全線私道であるのでナンバープレートを隠して運行しても道路交通法違反ではない。

トロリーバス時代は、運転士は動力車操縦者運転免許(無軌条電車運転免許)と大型自動車第二種運転免許の取得が必要であったが、電気バス転換後は大型二種免許のみで運転ができる[6][信頼性要検証]

歴史[編集]

50周年記念のヘッドマークを掲げて扇沢駅に停車中のトロリーバス

関電トンネルは関電黒部川第四発電所関連施設の建設のための資材輸送用の「大町トンネル」として掘削が開始され、日本の建設史に残る難工事の末1958年に貫通した(詳細は「関電トンネル」の項を参照)。関電トンネルは現在もバス運行の合間に黒部トンネルとともに工事用車両による工事用資材輸送が行われている。

黒部川第四発電所竣工に伴い、関電トンネルは立山黒部アルペンルートの一部として転用されることになった。しかし、1車線の幅しかないトンネルに一般車両を通すことが難しいと判断され、トロリーバスの運行が実施されることになり[12]、1964年(昭和39年)8月1日に開業した[13]。車両は当初「100形」、続いて「200形」、その後両形式の経年に伴って「300形」が導入された。

その「300形」も経年が進行し、また運行ルートが中部山岳国立公園内であることから、関電は「300形」の更新に当たって環境性および運行にかかる経済性を考慮し、トロリーバスを廃止して2019年4月の冬季休業明けより電気バスに変更する方針とした[14]。2017年(平成29年)8月28日、北陸信越運輸局に「関電トンネル無軌条電車」の鉄道事業廃止届が出された[7][15]のち、2018年の冬季休業前の営業最終日となる11月30日限りでトロリーバスとしての運行を終了し、翌12月1日に廃止された[16]。トロリーバスとして営業していた54年間、無事故であった[17]

トロリーバス運行最終年の2018年、関電は「トロバスラストイヤーキャンペーン」として、2018年4月15日 - 11月30日の間、各種イベントを実施した[18]。最終運行日の11月30日には引退セレモニーが行われ、この日のトロリーバス最終便に乗車するには扇沢駅と黒部ダム駅で配布する整理券の提示を必要とするなど、混乱を招かない工夫もされた[19]

冬季休業明けの2019年4月15日から電気バスの運行が始まり、関電では「電気バス元年キャンペーン」と銘打って同年11月30日まで各種のイベントを実施した[20]

年表[編集]

(トロリーバス時代の歴史も含める)

  • 1963年昭和38年)
    • 3月26日 - 「関西電力株式会社の上扇沢・ダム間の地方鉄道(無軌条電車)敷設免許申請について」運輸審議会へ諮問[21]
    • 4月23日 - 運輸審議会が「関西電力株式会社申請の上扇沢・ダム間(5.9キロ)の地方鉄道(無軌条電車)の敷設は、免許することが適当である。」と答申[21]
  • 1964年(昭和39年)8月1日 - 扇沢駅 - 黒部ダム駅間が開業。トロリーバス運行開始。
  • 2017年平成29年)
    • 7月6日 - トロリーバスの乗車人数が累計6000万人を達成し、記念式典を扇沢駅で開催[22]
    • 8月28日 - 北陸信越運輸局に鉄道事業廃止を届出[15]
  • 2018年(平成30年)
    • 11月30日 - トロリーバス最終運行日[19]
    • 12月1日 - 鉄道(トロリーバス)事業を廃止[16]。これにより扇沢駅・黒部ダム駅は鉄道駅ではなくなる。
  • 2019年(平成31年)4月15日 - トロリーバスの後継として電気バスによる運行を開始[3]

トロリーバス時代[編集]

関電トンネルトロリーバス
黒部ダム駅に停車中の車両
黒部ダム駅に停車中の車両
基本情報
日本の旗 日本
所在地 長野県富山県
種類 無軌条電車
起点 扇沢駅
終点 黒部ダム駅
駅数 2駅
開業 1964年8月1日
廃止 2018年12月1日[16]
所有者 関西電力
運営者 関西電力
使用車両 車両の節を参照
路線諸元
路線距離 6.1km
線路数 単線
電化方式 直流600 V 架空電車線方式
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停車場・施設・接続路線
BUS
↑路線バス(信濃大町方面)
uexSTR+l uexBHFq uexSTR+r
0.0 扇沢駅
uexSTR uextSTRa
uextSTRa uextSTR
uextSTRl uextSTRq uextABZg+r
uextSTR+GRZq
長野県富山県
uextBS2+l uextBS2+r
関電トンネル 5.4km
uextBS2l uextBS2r
uextSTR
uextSTRq uextABZq+l uextABZgr+r
黒部トンネル(専用線)
uextSTR uextBHF
6.1 黒部ダム駅
uextSTRl uextSTRr
WASSERq uexRESVGl WASSERq
黒部ダム黒部湖
tKBHFa
黒部湖駅
FUNI tSTR
黒部ケーブルカー

「トロリーバス」という名称がついているが、「無軌条電車」と正式名称にあるとおり、本路線は鉄道事業法に基づいて運行が行われていた[14]

路線データ[編集]

  • 路線名:なし
  • 路線距離(営業キロ):6.1 km
  • 駅数:2駅(起終点駅含む)
  • 複線区間:なし。全線単線(関電トンネル中央部に行き違い設備あり)
  • 電化方式:直流 600 V
  • 閉塞方式:カウンターチェック(台数確認)式[注釈 2]スタフ閉塞式併用
    途中のトンネル内信号所で対向車と行き違いするが、全区間を一閉塞とした併合閉塞で運行する場合もあった。続行運転時は最後尾の車両が閉塞区間に応じた3種類のスタフ[注釈 3]を携行した[24]

運行[編集]

所要時間16分。冬期(毎年12月1日 - 翌年4月中旬)は運休。

扇沢 - 黒部ダム間 6.1 kmの全線単線で架線電圧は直流600 Vであった[13]

関電トンネル内には行き違いのために信号場が設けられ、扇沢駅と黒部ダム駅から一群のバス[注釈 4]を発車させて信号場で互いに交換して運行していた[26]

工事用車両もトンネル内部の岩小屋沢交点 - 黒部ルート交点・鏡岩交点の間で定められた時間に走行し、坑口の信号機や合流部の遮断機で安全性を確保していた[27]。工事用車両に対してはループコイルによる感知を行った[28]

施設[編集]

鉄道として運行されているため、バスの経路の路傍には鉄道標識が設置された[29]

架線シンプルカテナリー方式で吊られ、110 mm2の溝付硬銅線をハンガーイヤーでき電線で吊り下げる形でトロリー線が設置されていた[29]。+と-の2本の線が600 mm間隔で平行して張られており、フロックや分岐部では+と-が相互に接続するため絶縁体を挟んで短絡しないようにしていた[30]。なお、バスには無電圧検知リレーを備えて自動的に電動発電機の回路を切り替えていた[31]。また、トンネル内では架線を垂直がいしによって絶縁させてアンカーボルトで支持させていた[29]。Uターン部などの曲線では碍子より下に22 mm径の電線管を線形に応じて曲げ、これに沿わせて架線を設置させることでバスがカクカクせずスムーズに曲線を走行できるようされていた[31]

電力は黒部ダムで発電されたものではなく、中部電力から供給される交流を扇沢と黒部ダムの両変電所で直流に変換したものを使っていた[26]。理由は電力会社ごとの受電地域の取り決めによるもので、扇沢は中部電力の供給範囲であったからである[26]

車両[編集]

駅一覧[編集]

駅名 営業キロ 接続路線
扇沢駅 0.0 東日本旅客鉄道(JR東日本)信濃大町駅長野駅方面路線バス
黒部ダム駅 6.1 立山黒部貫光黒部ケーブルカー黒部湖駅(徒歩約15分)

登場する作品[編集]

映画『黒部の太陽』(1968年、日活) - 黒部ダム完成後の終盤、本バスから降車する登場人物のシーンが描かれる。

脚注[編集]

[脚注の使い方]

脚注[編集]

  1. ^ ナンバープレートの数字も、これら車両番号と同番を希望ナンバー制度で取得している。
  2. ^ 信号機の制御はトロリーコンタクターが車両の通過台数を感知することで行い、一般の鉄道で用いられている連査閉塞式と似ている[23]
  3. ^ 「(A)扇沢 - 信号場(黄色)」・「(B)信号場 - 黒部ダム(赤色)」・「(C)扇沢 - 黒部ダム(青色)」の3種類(縦120 mm、横350 mmの板)
  4. ^ 複数のバスを続行させて運行した状態を指し、15台のバスを最大で7台と8台のグループで運行していた[25]

出典[編集]

  1. ^ 佐藤健太郎 『国道者』新潮社、2015年11月25日、51頁。ISBN 978-4-10-339731-1 
  2. ^ 関電トンネル無軌条電車 平成29年度 安全報告書
  3. ^ a b “立山黒部アルペンルート全線開通 電気バスが運行開始 長野”. 長野放送. (2019年4月15日). https://www.fnn.jp/posts/3189NBS 2019年4月20日閲覧。 
  4. ^ え!?関電が鉄道事業? 今年で最後のトロバスに迫る”. かんでんホンネトーク ミライスイッチ Vol.07. 関西電力株式会社. 2018年12月5日閲覧。
  5. ^ 吉川文夫 1994, p. 34.
  6. ^ a b c d e 【初公開!】関電電気バス トロリーに変わり来春から運行!!”. 立山ガール日記 2450mからの便り. 立山黒部アルペンルート (2018年7月25日). 2019年4月21日閲覧。
  7. ^ a b c d 関電トンネルトロリーバスと電気バスの仕様等 (PDF) - 関西電力株式会社(2017年8月28日)
  8. ^ 電気バス - 黒部ダムオフィシャルサイト、2022年9月5日閲覧
  9. ^ a b “アルペンルート、電気バス視界良好 15日運行開始”. 中日新聞. (2019年4月12日). https://www.chunichi.co.jp/article/nagano/20190412/CK2019041202000012.html 2019年4月21日閲覧。 
  10. ^ 関電トンネル電気バスのつり革デザインについて”. 黒部ダム. 関電アメニックス. 2020年11月10日閲覧。
  11. ^ “「くろにょん」つり革登場 関電トンネル電気バス”. 北日本新聞. (2019年3月20日). http://webun.jp/item/7549174 2019年4月21日閲覧。 
  12. ^ 吉川文夫 1994, pp. 29–30.
  13. ^ a b 吉川文夫 1994, p. 31.
  14. ^ a b 草町義和 (2017年8月28日). “アルペンルート関電トンネルのトロリーバス廃止…2019年から電気バスに”. レスポンス (イード). https://response.jp/article/2017/08/28/299038.html 2020年4月25日閲覧。 
  15. ^ a b 関電トンネルにおけるトロリーバスの電気バスへの変更について - 関西電力株式会社(2017年8月28日)
  16. ^ a b c 国土交通省鉄道局監修 『平成30年度 鉄道要覧』電気車研究会、2018年9月30日、13頁。ISBN 978-4-88548-131-4 
  17. ^ “開業から54年無事故、ラストラン 黒部ダムのトロバス”. 朝日新聞. (2018年12月1日). https://www.asahi.com/articles/ASLCZ3J2TLCZUOOB00D.html 2019年4月21日閲覧。 
  18. ^ 「トロバスラストイヤーキャンペーン」に係るイベント等の概要 (PDF) - 関西電力株式会社(2018年4月10日)
  19. ^ a b 最終便は乗車券のほかに整理券が必要…ラストランを迎える関電トロリーバス 11月30日 - レスポンス、2018年11月21日
  20. ^ “関電トンネル電気バス「電気バス元年キャンペーン」の実施について” (プレスリリース), 関西電力株式会社, (2019年4月15日), https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2019/0415_1j.html 2019年4月21日閲覧。 
  21. ^ a b 1963年7月2日運輸省告示第207号「運輸審議会の答申があつた件」
  22. ^ 北日本新聞2017年7月11日朝刊27面
  23. ^ 吉川文夫 1994, p. 45.
  24. ^ 吉川文夫 1994, p. 46.
  25. ^ 吉川文夫 1994, pp. 42–43.
  26. ^ a b c 吉川文夫 1994, p. 42.
  27. ^ 吉川文夫 1994, pp. 47–48.
  28. ^ 吉川文夫 1994, p. 48.
  29. ^ a b c 吉川文夫 1994, p. 38.
  30. ^ 吉川文夫 1994, pp. 39–42.
  31. ^ a b 吉川文夫 1994, p. 39.

参考文献[編集]

  • 吉川文夫 『日本のトロリーバス』電気車研究会、1994年6月1日。ISBN 4-88548-066-3 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]