車両輸送

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
深夜に搬入される鉄道車両(2009年7月1日、伊予鉄道併用軌道区間)

車両輸送(しゃりょうゆそう)とは、鉄道車両自動車を、他の交通機関などを利用して、自力以外の方法で輸送することである。このため、フェリーで自動車を輸送(車両航送)する場合も広義の車両輸送に含まれる。しかし、一般には自動車・オートバイ等を輸送専用車で輸送する場合や大型な鉄道車両などを輸送する場合を指す場合が多い。

鉄道車両の輸送[編集]

鉄道車両メーカーで製作された新車の納品や、鉄道事業者で使っていた古い車両を中古車両として別の事業者に譲渡する際、また私有貨車の回送など、鉄道車両自体を輸送するケースが発生する。輸送手段としては、車両を鉄道路線を使って貨物列車として輸送する場合、配給列車として輸送する場合のほか、鉄道以外の手段(トレーラーに載せて道路上を輸送する、貨物船で輸送するなど)がある。

これら車両輸送は通常見られない珍しい状態であり、車両の履歴において大きな転機になることも多々あるため、鉄道車両ファンの注目度も高い。日本では鉄道雑誌『鉄道ダイヤ情報』・『とれいん』に輸送情報が掲載されることも多く、多数の鉄道ファンが沿線へ撮影に訪れる。同時に、深夜にもかかわらず撮影のために他人の敷地に無断侵入したり、ゴミを持ち帰らずに放置したり、撮影地への移動のために用いる自家用車やバイクを駐車禁止区域に駐車したりするなどの問題が生じている。

甲種輸送[編集]

輸送中の車両の車内。座席にはビニールカバーがかぶせられ、床には保護紙が敷かれている

輸送される車両の車輪(仮設を含む)を用い、日本貨物鉄道(JR貨物)など貨物鉄道事業者の機関車の牽引で、貨物列車扱いで輸送されるものを甲種鉄道車両輸送(こうしゅてつどうしゃりょうゆそう)、略して甲種輸送(こうしゅゆそう)と称する[1]新幹線車両や一部の私鉄など、軌間在来線 (1,067mm) とは異なる車両を輸送する場合は、メーカーなどから取り降ろしを行う貨物駅まで仮の台車を使用し、貨物駅から納入先まで道路上をトレーラーで陸送し、納入先にて正規台車上への装着を行う。また、軌間が在来線と同じでも、線路が物理的にJR線と接続されていない路線(京王井の頭線など)の場合も、トレーラー陸送を伴う。線路が物理的にJR線と接続していても、車両の輸送経路の一部がJR貨物の営業路線に含まれない南海電鉄の場合は、該当区間をJR貨物ではなくJR西日本の機関車が牽引する[2][3]。JR貨物は近年、旅客鉄道会社に支払う列車通行料の問題から私鉄との甲種輸送の取り扱いを縮小しており、メーカーからの甲種輸送から道路上の陸送に移行した事業者(長野電鉄など)もある。

新車や譲渡車両の輸送の他、第3セクター鉄道への移管やJRの社内規定などによりJR旅客会社の車両の自走回送ができないケースで当該車両を、甲種輸送として輸送する場合もある(トワイライトエクスプレス最終営業後の返却回送や田沢湖線701系5000番台の秋田総合車両センター入場回送など)。

甲種輸送を行う場合には、最寄りの貨物取扱駅長に対して運送申込みを行い、発駅・着駅・荷送人・荷受人・車種・形式・両数・車両の大きさ・車両のブレーキ装置の有無・連結装置・運転速度・運転方法・運送希望日・付添人の有無等の記載された申込書又は貨物の図面を提出する。その運送申込みに対して、JR貨物などの貨物鉄道会社が運送条件等を関係各所と協議して検討したのち[4]、運送可能となれば承認される[5]。運送申込書に記載された運送希望日と列車ダイヤの決定については、JR7社間で行われている四半期ごとの臨時列車運転計画調整会議において輸送日の審議を行い、関係する旅客鉄道会社とJR貨物の間で、2社以上の旅客鉄道会社をまたがって運転される臨時貨物列車を中心に、列車ダイヤの運転時刻の調整や駅構内の作業等の考え合わせを行なって、輸送の施行日と列車ダイヤを決定する[6]

輸送に使用できる路線は貨物輸送が可能な路線に限られ、甲種輸送の事前には、JR貨物の社員が発送元を訪れ、限界測定検査を行い、問題がなければ「特大貨物等検査票」を発行して輸送車両に貼られる[7][8]。輸送される車両のサイズにより異なるが(基本的には急勾配のある路線は避けられる)、車両限界に抵触しなければフル規格の新幹線車両を在来線で輸送することも可能である。実際に2004年までは、日本車輌製造豊川製作所から東海旅客鉄道(JR東海)浜松工場への新幹線車両の輸送において、あらかじめ車両限界を広くしてあった飯田線東海道本線経由で実施されていた。甲種輸送時には機関車と連結できるように仮設の連結器を使用する場合があるほか、電気指令式ブレーキを使用する車両では、電源が取れないため一時的に列車全体にブレーキを掛けるための仮のブレーキシステムを使用する場合がある。輸送される車両の先頭車両には、汚れなどを防ぐためのビニールなどによる養生が行われ[9]、下部には後部標識の赤い円盤が取り付けられる(例外もある)[10]。これらの理由で、最高速度は 75 km/h 程度に制限される。

貨物列車扱いは、自社の回送運転ではなく輸送の委託にあたる。すなわち運賃の授受が発生する貨物営業運転であるため、「甲種回送」と呼ぶのは誤りである。なお、JR貨物が他のJRグループ会社の車両を輸送することを、一部の鉄道ファンが「甲種回送」と区別して呼称しているが、JR旅客鉄道各社とJR貨物は別会社であり(加えて、メーカーから鉄道会社への車両の引き渡しは、甲種輸送の後の公式試運転を終えてからであり、甲種輸送時の車両の所有権はメーカーにある)、誤用であるのは変わらない[11]

甲種輸送の際には、メーカーの社員が「付添人」として2名[12]が添乗し、輸送中の車両の走行音などから車両に不具合がないかなどの確認や異常などが発生した場合は緊急連絡網により連絡できる体制を取り、他の列車に運行に支障が出ないようにしている。寝袋食料発電機冷蔵庫等を持ち込んで添乗している場合もあり、トイレの場合は列車の時刻表を確認しながら停車駅で行うようにしている[13]

なお、国鉄時代は通常の貨物列車に甲種輸送する鉄道車両を併結して輸送した例もあった[14]が、JR化後はこの手法はあまり用いられていない。

国鉄時代は、国鉄の車両は車両メーカーの最寄りの路線で試運転を行ってから、配給列車として配属先へ回送するのが通例となっていた。このため、国鉄の車両を甲種輸送するケースは少なかった。

乙種輸送[編集]

輸送される車両の車輪を軌道上に直接載せず、大物車または長物車と呼ばれる貨車に載せて輸送するもの(主に路面電車車両など)を乙種輸送(おつしゅゆそう)と称する。

かつては路面電車のほか、軽便鉄道跨座式モノレールの車両、小型機関車や貨車移動機などもしばしば乙種輸送されたが、アルナ工機(現・アルナ車両)が保有し、後年は主に東京都電の車体運搬に用いられたシ1形大物車の廃車を最後に、輸送に供するのに適した貨車が消滅したことと、この廃車を機に乙種輸送で運搬可能なものは特大貨物扱いに切り替わったため、現在日本国内では廃止されている。

欧米などでは、地下鉄事業者等が国鉄などの本線上を走行できる低床の専用運搬貨車を保有している例や、750 mm 軌間や 1,000 mm 軌間の狭軌鉄道において、標準軌貨車を積載して乗り入れさせる低床貨車を日常的に使用している例もある。

似た例で、北海道新幹線開業後に青函トンネルを通過する在来線貨車を、新幹線規格の低床の専用運搬貨車に載せて輸送するトレイン・オン・トレインの研究が進められている。

甲種・乙種輸送の定義[編集]

乙種輸送の定義は自己の車輪(仮台車を含む)を使用して輸送する(= 甲種輸送)「以外の方法」で輸送するものとされ、事実上は貨車に積載して輸送する以外にない。なお、甲種および乙種鉄道車両は鉄道貨物の種類を指すものであり、甲種以外が乙種であるため、丙種の定義はない。したがって、一部でトレーラーに車両を載せて道路上を輸送する場合を乙種輸送などと呼ぶのは(トレーラーは鉄道車両ではないため)誤りである。

甲種輸送と配給列車[編集]

列車の形態が見かけ上甲種輸送と同様となるものに、自社(場合によっては自社エリア内の車両メーカー)で製造した車両を自社の車両基地へ輸送する列車や、自社車両の改造・検査・転属・廃車解体のために、機関車牽引により輸送する列車がある。こちらは自社の機関車が牽引し、自社線内のみを走行することから「配給列車」と呼ばれ、貨物列車である甲種輸送とは性格の異なるものである(こちらは回送という表現も誤りとは言えない)。このうち、東日本旅客鉄道(JR東日本)の総合車両製作所新津事業所で製造された新製車の配給列車において、輸送される車両のパンタグラフを上げているが、これは自走するためではなく、補助電源装置(静止形インバータ)や空気圧縮機を使用するためである。

私鉄線内での車両輸送[編集]

私鉄向けの車両輸送の場合、車両がJR線等との接続駅へ甲種輸送により到着した後、車両基地までの輸送は自社の機関車や他の電車気動車の牽引により行われることが多いが、近年は接続駅から到着車両を自力走行させて車両基地へ搬入する例も増えている。この場合、接続駅での到着車両の整備は自力走行のための最小限の内容にとどまり、正式な列車として走行することは未だできないため、車両基地への走行に際しては線路閉鎖を行った上、速度制限(到着車両はATS等の機能を停止した状態で走行するため、速度は 25 km/h 程度に制限される場合が多い)を受けて走行することとなる。

例外として、総合車両製作所横浜製作所と線路が直接つながっている京浜急行電鉄、および同社線と都営地下鉄浅草線を介して線路がつながっている京成電鉄北総鉄道の車両については、自走あるいは京成の車両による牽引にて出場する場合がある(東急車輛製造#補足を参照)。

道路上の陸送[編集]

鉄道車両等、全長がおおむね15mを越える大型物件の輸送において公道を使用する場合は、事前に輸送経路上の歩道橋ガード交通信号機などの高さや重量の制限、日中の停車場所などの綿密な調査を行った上で、道路法に基づく特殊車両として道路管理者への通行許可(特殊車両通行許可[15])が必要になる。許可を受けても、走行速度が遅く(最高速度が 20 km/h 程度に制限される場合が多い)[16]、道路交通への影響が大きいため、深夜・早朝に幹線道路を使って行われることが多い。場合によってはパトカーが先導する場合もある。

また、新交通システムの車両は一般的な鉄道車両より小さく大型トラックの荷台に積載が可能であることから、トラックで輸送することもある。

鉄道車両の航送[編集]

陸上と比較して水上では大きさや重量の限界が大幅に高い事から、複数台や輸出入を含めた長距離の車両輸送に適している。

  • 艀に車両を積載してタグボートで航送
  • 船に積載して航送
    • 貨物船等にクレーン等で空車を積載する
    • 列車専用船に積貨のまま積載する
      • このうち定期的に運行された専用船については鉄道連絡船を参照。

また、川崎重工業で生産された西日本鉄道の新型車両は、近年ではトレーラーごとカーフェリーに積み込んで新門司港まで航送し、筑紫車両基地までそのままトレーラーでけん引される。

鉄道車両の空輸[編集]

An-124大型輸送機などを用いて、鉄道車両の航空輸送が行われたことが数度ある。

自動車の輸送[編集]

工場で生産された新車の自動車の場合、工場から物流基地(モータープール)、さらに販売店(自動車ディーラー)まで、キャリアカーと呼ばれる自動車運搬用の自動車が使われる。長距離の輸送では自動車運搬船RO-RO船と呼ばれる専用の船舶が使われる。鉄道輸送もかつては広汎に行われ、車運車と呼ばれる専用の貨車が使用されたが、ク5000形車運車が廃車されて以降は、専用の鉄道コンテナ「カーパック」によるコンテナ列車での輸送が一部で行われるにとどまる。キャリアカーに積載できないトラックバスの場合は仮ナンバー(回送運行許可番号標)を付けて自力で回送される。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 旅客鉄道事業者内に閉じる範囲で自社が保有する車両を機関車等によって牽引輸送する場合には、甲種輸送とはならず「配給列車」という。
  2. ^ 南海電鉄8300系2連4本が甲種輸送される - 鉄道ニュース、2016年7月21日
  3. ^ 輸送経路のうち大阪環状線の一部・関西本線大和路線区間・和歌山線紀勢本線はJR貨物の営業区間に含まれない
  4. ^ JR貨物の営業線以外を使用して運転する場合や他社線区に直通運転する場合においては、連絡直通承認、臨時営業免許及び連絡運輸に関する協定手続き、地方運輸局への認可申請並びに届けが必要となる。
  5. ^ 承認の条件としては、現場長の承認だけでなくすべてのJR貨物の支社長の承認、試運転と監視人の添乗等が必要となる。
  6. ^ JR貨物時刻表2013、p.23
  7. ^ これがないと列車としての走行ができない。
  8. ^ JR貨物時刻表2014、p.25
  9. ^ 車両の種類においては、行われない場合がある。
  10. ^ JR貨物時刻表2014、p.25
  11. ^ 西野保行は、『鉄道ピクトリアル』1993年3月号(No.572)の掲載記事「「プレートガーター」ではありません。「プレートガーダー」です。- 施設用語を正確に」において、鉄道ファン等の間に広まった誤った用語法の例を挙げ、用語の正確な理解の必要性を説いている。
  12. ^ 通常の人数であり、場合によってはそれ以上の人数が付添することがある。
  13. ^ JR貨物時刻表2014、p.25
  14. ^ 鉄道ピクトリアル2016年7月号の記事内に貨物列車の編成に組み込まれている大阪市交通局5000形電車(5541号車)の写真が掲載されていることで確認できる。
  15. ^ 特殊車両通行許可申請の方法 - 財団法人日本道路交通情報センター
  16. ^ そもそも高速で走行すると周辺の建造物や電柱などの工作物を破壊したり、輸送車両を損傷させたりする危険性がある。
  17. ^ Rail and Locomotive Transportation (英語) - Ruslan International Ltd
  18. ^ The Panalpina magazine 1 | 2003 (PDF) (英語) - Panalpina Welttransport AG、2003年1月
  19. ^ Flying the Bombardier MOVIA metro from Germany to India - YouTube (投稿者: Bombardier
  20. ^ 貨物機に飲み込まれる地下鉄、空路インドへ輸送 - AFPBB News、2009年5月28日

参考文献[編集]

  • 鉄道ピクトリアル 2016年7月号「甲種鉄道車両輸送」

関連項目[編集]