蕩減

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蕩減とは、借金を全部帳消しにすること。借債を悉く免除してやること。remission

解説[編集]

原義[編集]

蕩減(タンガㇺ 、탕감

(朝鮮起源の漢字語[1])借金を全部帳消しにすること。借債を悉く免除してやること。remission[2][3]。「蕩」の字義は「すっかり無くする。『蕩尽/掃蕩』」[4]
韓国では一般に金融用語として「債務の減免」の意味で使われ[5]、頻繁にマスコミに登場する[6]。 韓国語聖書で負債の「ゆるし」の訳に用いられており[7]、韓国のキリスト教会の説教で頻繁に用いられる[8]

朝鮮半島では歴史的に漢字教育に様々な変遷があった[9]影響により、朝鮮起源の常識的な言葉であるが老若に関わらず知る層と知らない層に別れ、特に漢字の認知度は低い。[10][11][12]
用法として、日本的表現では本来債権者が「蕩減(帳消しに)する」と言い、債務者は「蕩減(帳消しに)してもらう」と言うべきだが、韓国では債務者も「蕩減する(탕감 하다)」とスラング化して言う[13]
例として、韓国ベストセラー小説「商道(상도)」(崔仁浩 著)の日本語版翻訳の際、文中債務者が「탕감 할 수밖에 없었다(帳消しにするしかなかった)」[14]と書いてある所を、日本語版では「帳消しにしてもらうよりほかなかった」[15]校正して翻訳されている[16]

統一教会用語(原理用語)[編集]

蕩減(とうげん、탕감

朝鮮起源の漢字語のため一般的に韓国以外では使われることはない。日本では統一教会(世界基督教統一神霊協会)[17]においてのみ、教会用語(「原理用語」と呼ばれる)として使われている。
統一教会の教義「統一原理[18]」の中核にあたる救済観を「蕩減復帰原理」という。統一教会の教祖、文鮮明[19]は次のように語っている。[20] 

「蕩減の本当の意味は何でしょうか。神は私達が負っている負債の総額に充当するために、その内の一定額を支払うことを求めておられます。しかし私達がその条件を満たすことにより、総額が返済されたという立場に立つのです。 神は常に誰もが救いを受ける機会が得られるように(負債総額よりも)小さな条件を設定されています。」
— 1981年2月10日の説教「蕩減復帰摂理歴史」
「蕩減復帰とは、小さな条件を通して大きなことを蕩減する(赦す)ことです。 例をあげれば百人を赦してあげるために、善なる一人の人間が打たれることを代価として百人の罪が蕩減される(赦される)のです。人間百人の代表として一人を立て、彼が百人の代身として打たれることによって、百人が打たれることを赦され、悪なる立場から善の立場へ帰ってゆくのが蕩減復帰というのです。」
— 1967年6月4日の説教「蕩減が行く道」


文鮮明教祖より統一原理体系化の最終版「原理」の執筆を任された李相憲[21]は「蕩減」の意味について論文「統一民族史観」[22]の中で、新約聖書マタイによる福音書第18章21節~35節に基づいて説明している。

「僕の主人はあわれに思って彼をゆるし、その負債を免じて⦅蕩減して⦆やった。(그 종의 주인이 불쌍히 여겨 놓아 보내며 그 빚을 탕감⦅蕩減⦆하여 주었다)」 — マタイによる福音書第18章27節
「イエス様は、人間が犯した罪は借金をすることと同じだとしばしば表現されています。例えばイエス様は王様から借りた一万タラントの借金を返す事が出来ないでいる僕の例を挙げています。王様は『もし一万タラントの借金を返すことが出来ないのであれば、お前と妻子と持ち物全部を売って返しなさい』と命じました。それらを全部売っても一万タラントにならないかも知れないが、それで一万タラントの借金と相殺してやるという意味です。これも蕩減を意味します。
 ところが僕がひれ伏して『必ず借金を返しますから、暫くお待ち下さい』と言って哀願しました。その姿を見て気の毒に思った王様は『お前の心掛けは殊勝だ。負債を免じてやるから帰りなさい』と言って彼を赦してやったのです。これもやはり蕩減なのです。
イエスの御言葉によって蕩減の意義が明らかにされたと思います。
第一に、蕩減とは、負債に関する概念であると同時に、罪に関する概念です。
第二に、蕩減とは、一定の条件を立てて、借金を減らすか相殺するのと同様に、罪を減らすか、なくしてもらうこと、罪を赦してもらうことを意味します。
第三に、蕩減には、必ず債務者と債権者、または罪人は神様に一定の条件を立てなければ蕩減(赦してもらうこと)を受けることが出来ないことを意味します。
第四に、蕩減(赦してもらうこと)は一定の条件を立てて、借金のない、あるいは罪を犯さない状態に戻ること、つまり復帰を意味します。」
— 月刊「ファミリー1993年5月号」李相憲著「統一民族史観」


文鮮明教祖の提唱する教義「統一原理」を最初に体系化した劉孝元の著書「原理講論」の緒論 (一)蕩減復帰原理 (1)蕩減復帰には次のように定義されている。[23] 

「무엇이든지 그 본연의 위치와 상태 등을 잃어버리게 되었을 때, 그것들을 본래의 위치와 상태에로 복귀하려면 반드시 거기에 필요한 어떠한 조건을 세워야 한다. 이러한 조건을 세우는 것을 '탕감(蕩減)'이라고 하는 것이다.」 — 韓国語版[24]
「どのようなものであっても、その本来の位置と状態を失ったとき、それらを本来の位置と状態にまで復帰しようとすれば、必ずそこに、その必要を埋めるに足る何らかの条件を立てなければならない。このような条件を立てることを『蕩減』というのである。」 — 日本語版[25]
「When someone has lost his original position or state, he must make some condition to be restored to it. The making of such conditions of restitution is called "indemnity".」 — 英語版 [26]


 この「原理講論」の「蕩減」の定義部分を読んだ金東俊神田外語大学名誉教授は、韓国語版、日本語版、英語版いずれも「これは間違いです」と明言している。[27]
統一教会信者達は「原理講論」の影響で「蕩減とは償い、罪滅ぼしという意味」と解釈する[28]。また「蕩減」の「蕩」の字義を「放蕩/遊蕩」の「蕩」と間違って教えている[29][30]

 このように、「原理講論」の定義は「原義」及び「文鮮明教祖の定義」と照合すると不正確な表現になっている。その原因と考えられるのは、統一教会の教義の中核にあたる救済観「蕩減復帰原理」について文鮮明教祖が語る時、関連する用語である「蕩減」「蕩減条件」「蕩減復帰」「蕩減復帰原理」を何れも略して「蕩減」とスラングで言うことが多く、原義で言うことは極く稀である[31]ため、信者達にとって真意が判別し難くく、正確に理解されなかったためと思われる。稀に原義通りに使った記録があるのは文鮮明教祖以外では李相憲のみ[32]。「原理講論[33]」を見ると漢字語や基本的なキリスト教用語の誤謬が散見され、著者劉孝元がそれらに無知であったことが判る。[34][35][36]

 劉孝元は「原理講論」及び前作「原理解説」を執筆する際、元となった文鮮明教祖の著作「原理原本」の中の「蕩減」[37]が悉くスラングであること[38][39]を理解出来ず、「蕩減」を校正せず文字通りに定義した[40]。そのためキリスト教の最も重要な教えてあり、「蕩減」本来の意味でもある、神の大いなる恵みの「ゆるし」が教義から全くなくなり、それとは逆の、罪人による「つぐない」の意味が教義の中心となった。
後に文鮮明教祖は「蕩減復帰原理」に誤謬があることを認めたが、改訂は一切許すことはなかった。

 英語版は翻訳者の崔元福が韓国語版原理講論に従って、本来「remission(ゆるし)」と訳されるべきを、「つぐない」と訳そうとして「indemnity(賠償金)」と、従来のキリスト教用語とは異なる用語で訳し[注 1]、世界に広められることとなった。 そのためキリスト教会側から、本来キリスト教が説いて来たキリストの贖罪の恵み、神の無条件の愛と憐れみを否定し、罪人自身に賠償を強要するものだとして批判されている[43][44]
統一教会では無原罪で生まれた再臨のキリストとされる文鮮明(今は否定され妻韓鶴子[45])が生誕した韓国を最も迫害したとする日本が支払うべき「賠償金(indemnity)」の意味で使われることが多い。[46]

 文鮮明教祖は「原理講論」初版(1966年5月1日)から18年以上経った1984年7月20日、米国コネチカット州ダンベリー刑務所に収監され、所内で「原理講論」を通読した際、「蕩減復帰原理」の部分にいくつかの重要な誤謬や欠如があるとして、1985年8月20日出監後にそのことを説教している[47]。その頃から文鮮明教祖は「私の最後の仕事は『原理』を書くことだ」と教典の最終版の著述を表明し、それを李相憲に任せていたが未刊に終わった。もし出版されていたら「蕩減」及び「蕩減復帰原理」の定義は改正され、原義との矛盾も解消され、既成神学との連続性も認められ、キリスト教会との教義的軋轢も緩和された可能性が考えられる。

 それは李相憲が残した論文「統一民族史観」[48]の中に「蕩減」及び「蕩減復帰原理」についての定義が書かれてあり、それは原義[49]及び文鮮明教祖の定義[50]とも一致しており、更に従来キリスト教の「ゆるし」の教義の説明に頻繁に引用される新約聖書マタイによる福音書 18章21~35節[51][52][53][54]に基づいた説明がなされてあるため[55]、従来の神学との連続性が認められるからである[56]。しかしこの論文は未だに教典には反映されていない。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 本来キリスト教では「つぐない」を英訳する場合、atonement, expiation, reparation, satisfaction を使う(「現代カトリック事典」エンデルレ書店)[41]。「indemnity(賠償金)」は保険業界用語[42]

出典[編集]

  1. ^ 朝鮮起源の漢字語
  2. ^ 精解「韓日辞典」高麗書林
  3. ^ remissionの意味・使い方・読み方 | Weblio英和辞書
  4. ^ 小学館 大辞泉
  5. ^ 「蕩減」の意味を金東俊教授に聞く
  6. ^ 「蕩減」韓国一般の使い方google.co.kr "탕감"
  7. ^ 다국어 성경 Holy-Bible "탕감"
  8. ^ 「기독교 탕감」
  9. ^ ハングル専用文と漢字ハングル混じり文
  10. ^ 韓国が漢字を復活できない理由
  11. ^ 呉善華著「漢字廃止で韓国に何が起きたか」(PHP研究所)
  12. ^ 「蕩減」の意味を金東俊教授に聞く
  13. ^ 「蕩減」韓国の相反する2つの使い方
  14. ^ 韓国語版「商道」第一巻 P.120・11行目(崔仁浩著 全5巻)
  15. ^ 日本語版「商道」<上> P.19・11行目(崔仁浩著 全2巻)
  16. ^ 「蕩減」韓国の相反する2つの使い方
  17. ^ 統一教会(世界基督教統一神霊協会)
  18. ^ 統一原理
  19. ^ 文鮮明
  20. ^ 「蕩減」文鮮明師による定義
  21. ^ 統一思想研究院院長、「勝共論」「統一思想」著者
  22. ^ 李相憲著「統一民族史観」月刊「ファミリー1993年5月号」
  23. ^ 世界平和統一家庭連合 原理講論 緒論
  24. ^ 원리강론
  25. ^ 原理講論
  26. ^ Divine Principle
  27. ^ 「蕩減」金東俊教授が原理講論を訳す
  28. ^ [林恵子著「統一原理への架け橋」(広和)]
  29. ^ 小学館 大辞泉
  30. ^ 原理講義の間違い例「蕩減」
  31. ^ 「蕩減」には複数の意味がある(教祖様のスラング)
  32. ^ 李相憲著「統一民族史観」(月刊「ファミリー1993年5月号」)
  33. ^ 原理講論
  34. ^ キリスト教用語の誤用(1)
  35. ^ 「劉孝元先生の苦悩と探究の道」より「ラテン語を8カ月で習得してカトリック聖書を読んだ」とあるのみ。
  36. ^ 漢字廃止で韓国に何が起きたか(原理講論への影響)
  37. ^ 「原理原本」の中の「蕩減」
  38. ^ 「蕩減」には複数の意味がある(教祖様のスラング)
  39. ^ 「蕩減」韓国の相反する2つの使い方
  40. ^ 「蕩減復帰」の間違いを正す
  41. ^ 資料「償い」のキリスト教的英訳
  42. ^ 「洗脳」「マインドコントロール」の虚構を暴く
  43. ^ Criticism of the Unification Church concept of indemnity
  44. ^ "Indemnity is a Moon Trap"
  45. ^ 藤田庄市著「日本における統一教会の活動とその問題点」P.135
  46. ^ 藤田庄市著「日本における統一教会の活動とその問題点」P.134
  47. ^ 「原理講論に書かれていない」と言われた御言葉(1)
  48. ^ 李相憲著「統一民族史観」(月刊「ファミリー1993年5月号」)
  49. ^ 「蕩減」の原義
  50. ^ 「蕩減」文鮮明師による定義
  51. ^ 탕감(蕩減)의 비유에 대하여 - 뉴스앤조이
  52. ^ 「蕩減(マタイ伝18章21~35節)の解釈」カトリック
  53. ^ 「蕩減(マタイ伝18章21~35節)の解釈」プロテスタント
  54. ^ 「蕩減(マタイ伝18章21~35節)の解釈」アーミッシュ
  55. ^ 「蕩減(マタイ伝18章21~35節)の解釈」統一教会
  56. ^ 「蕩減復帰原理」キリスト教との連続性の証明

外部リンク[編集]

関連項目[編集]