可愛い
可愛い(かわいい、Kawaii)は、日本語の形容詞で、いとおしさ、趣き深さなど、何らかの意味で「愛すべし」と感じられる場合に用いられる。また、「かわいそう」と関連するという考え方もある。派生語にはやや意味を強めた「可愛らしい」、動詞の「可愛がる」がある。
同義の古語は「うつくし(愛し)」(例:「うつくしきもの」〈『枕草子』〉)である。現代語の「かわいい」に該当する古語の「かはゆし(かわゆし)」は、「いたわしい」など相手の不幸に同情する気持ちを指す。
共通語・標準語の「可愛い」と同義の方言の語彙は、東北方言・北海道方言の「めんこい」や「めごい」(津軽弁など)がある。これらの語は古語の「めぐし(愛し)」から派生した。「めぐし」には、「いたわしい」と、現代語の「可愛い」の両方の意がある。
目次
語源とその変遷[編集]
「かほはゆし(顔映ゆし)」が短縮された形で「かはゆし」の語が成立し、口語では「かわゆい」となり、「かわゆい」がさらに「かわいい」に変化した。
「かほはゆし」「かはゆし」は元来、「相手がまばゆいほどに(地位などで)優れていて、顔向けしにくい」という感覚で「気恥ずかしい」の意であり、それが転じて、「かはゆし」の「正視しにくいが放置しておけない」の感覚から、先述の「いたわしい」「気の毒だ」の意に転じ、不憫な相手を気遣っていたわる感覚から、さらに「かはゆし」(「かわゆい」「かわいい」)は、現代日本語で一般的な「愛らしい」の意に転じた。
「かわいい」の漢字と送り仮名による表記の「可愛い」は、当て字との説もあるが、中国から伝来した文学等の文書に見られる、「愛らしい」の意の語「可愛(可爱)」に由来するとも思われる[要出典]。この語は現代中国語で「カアイ」という音形を持つため、かわいいの語幹と音も近似する。現代中国語でも「愛らしい」の意では一般に使用される。
形容詞に「〜そう」をつけることで、推定を表す単語にすることが可能だが、「かわいい」の場合、「かわいそう」となり「哀れみ」などの意味にもとれることになり、話者の意図に合わない。そこで、最近では、「かわいい」の語源である「かわゆい」に「〜そう」をつけた形である「かわゆそう」という表現が適切だという見解もみられる。
意味[編集]
「可愛い」は幼いもの、小さいものに対する情愛や愛着などを表現する意味合いが強い。そのため、恋人などを「かわゆく」思う場合は別として成人に使う場合は失礼とされた。 しかし、現代においては、主に若年層が人物に対して「かわいい」と表現する場合、対象者の年齢・社会的地位などに対する敬意表現はほとんど考慮されず、目上の高齢者や成人男性、場合によっては、神仏の像や天皇に対して使用される例も散見される[1][2]。これは「愛すべき」対象の適用範囲が、単なる外見にとどまらず性格やイメージに関してまで広がったことにより、対象に対して敵意を抱く要素や威圧的な要素がなく、自身の心を和ませる美点を持つと判断された場合に使われるようになったことによる。
また、客観的な優位者に対する場合に留まらず、若年層の女性が憧憬の念を含めて、自身の価値観に基づいて自身より優れていると認識した人物に対して使用する例もしばしば見られる。特にその人の社会的地位や役割からして自分と距離があっても仕方ないと感じている相手の距離感が近かったり、一時的に縮まった場合に「かわいい」と感じられやすい(例:気さくに話しかけてくれる校長先生や、普段とても冷静で落ち着いた上級生が恋に悩んでおろおろしていたりするのを見たとき)。そこには言葉の意味の変化にとどまらず、現代日本の若者の感情規範に変化があったものと推測される[3]。
認知心理生理学の入戸野宏は「可愛い」を対象が持つ属性ではなく、ある対象にふれて生じる個人の感情と捉え、生物学的な基盤を持つ「可愛い」という感情と、文化的価値観としての「可愛い」からなる二層モデルを提案した。入戸野は「可愛い」と幼さは直接の相関が無いこと、「可愛い」という感情は対象に接近して社会的な関係を持とうとする動機と関連していることを実験によって示唆した[4]。
意味の転用[編集]
現代では、人間や生物の特徴を持たない人工物などに対しても「可愛い」と認識・評価する場合がある。例えば、輸入雑貨店の洗濯ばさみも「可愛い」対象になりえる。感性工学の大倉典子は「かわいい」と評価される人工物の持つ属性の傾向を以下のように挙げている[5]。
- 形は、2次元・3次元ともに円・球・トーラス型などの曲線的なものの方が「可愛い」と評価されやすい。
- 色は、20代の男女を対象とした「かわいい色」の評価実験によれば、マンセル・カラーの基本10色はどれも「可愛い」対象になりえるが、基本5色相以外の色相がやや評価されやすい傾向があった。また、明度・彩度ともに高いほど「可愛い」と評価されやすかったが、男性はやや暗い黄色を評価するなど、色相に依存した傾向も見られた。
- 大きさは、色と形が同じ場合、大きいものよりもある程度まで小さいものの方が「可愛い」と評価された。
- テクスチャーは、硬質なものより、柔らかい触感を想起させるものが「可愛い」と評価された。
「可愛い」は、愛着の表現として用いられる場合がある。例えば、トレーラーの運転手が自分のトレーラーに対して「かわいい」と表現する例は、運転手がそのトレーラーの外見や機能、使い勝手などに対して感じている愛着を示している。この様な用法は、他人には理解し難いこともあるだろうが、同じ趣味や業種の人達の間では理解されやすいことも少なくない。
また、動詞化した「かわいがる」という表現が、本来の「かわいいと思う」ことのほか、自身より目下にある者を重用したり世話をする、いわゆる「目にかける」行為を指すほか、角界をはじめとするスポーツ界などにおいては反語的に「シゴく」「虐める」の意味で用いられる。
派生概念[編集]
1990年代以降の若者言葉として、「エロかわいい」、「キモかわいい」のように、異なる形容詞との組み合わせで、どのようにかわいいかを指示する用法が生まれた。これは「エロい」や「キモい」といった侮蔑的または際どい表現を「かわいい」として捉え、そのネガティブな印象を和らげている。
エロかわいい[編集]
「エロかわいい」は、「エロい」+「可愛い」の合成語であり、セクシーさや性的魅力を含んだかわいらしさを示す概念である。語の発祥時期は不明だが、2002年の『smart』のワンコーナー「ちんかめ」内で確認される。2003年3月頃には、ゲームソフト『スターオーシャン3』の登場キャラクター「ソフィア」に萌えを見出した人物が2ちゃんねるに「SO3のソフィアたんはエロカワイイ」というスレッドが立っている。「エロカワイイ」という斬新なフレーズに感化された者が「(作品名)の(キャラ名)はエロカワイイ」というスレッドを乱立させ、「エロカワイイ」は一時2ちゃんねる内の流行語となった。
2004年頃には歌手の倖田來未が自らのセクシーなファッションを「エロかわいい」と表現したことから、ファッション界でも「エロかわいい」は一般的な言葉として認知され、「エロかわ」といった略称も生まれた。ファッション雑誌でも表紙に「エロかわ」の見出しが多く見られるようになり、また、「エロかっこいい」、「エロかっこかわいい」といった表現も誕生した。
「エロかわ」とされる衣服の傾向は、セクシーな要素と可愛い要素の組み合わせで成り立っている。
セクシーな要素としては、肌の露出が多い、ランジェリー風のデザイン、シースルーの使用、黒色の使用などが挙げられる。逆に可愛い要素としては、フリル、リボン、レースの使用、水玉模様の使用、ピンク色の使用などが挙げられる。
ブスかわいい[編集]
「ブスかわいい」とは、「ブス」と「可愛い」の合成語である。「ブスかわ」、「ブサかわいい」、「ブサかわ」ともいう。主にペット[6][7]や女性に対して使われる。
女性に対しては、整った容姿ではなく一見不細工なようでも、愛嬌があり可愛らしい女性を指していう。またペットに対して「ブサかわいい」という言葉を使う時は、パグやブルドッグなどの愛嬌のある顔つきの可愛らしさを表現する。いささか不細工でありながらも、それがかえって可愛いという意味で使われる点は同様である。
キモかわいい[編集]
「キモかわいい」は「キモい(気持ち悪い)」と「可愛い」の合成語で、気持ち悪さや不気味さを持ちながら、それゆえに可愛らしくもあるさま。「キモかわ」ともいう。
1990年代末から使われ始めた若者言葉で、ダンシング・ベイビーなどのキャラクターを指して使われるようになった。当初は人間に使われることはなかったが、2000年代に漫才師のアンガールズがブレイクしたとき、彼らのシュールなたたずまいは“キモかわいい”と表現された。
「キモい」と「かわいい」は相反する形容詞であるが、ゴジラのような「怪獣」が「かわいい」姿にデフォルメされ、キャラクター商品化される例は以前から少なくなかった。日本国外でも1984年のアメリカ映画『グレムリン』に登場するクリーチャーであるモグワイなど、不気味さと可愛らしさを同時に表現しているものは存在していた。
2000年代以降のゆるキャラブームによって、「キモかわいい」として人気を得ているキャラクターが多数存在する。中日ドラゴンズのマスコット、ドアラや、奈良県・平城遷都1300年記念事業のマスコットせんとくん、スポンジボブ、ウサビッチ、こびとづかん、ふなっしーなどがその例である。
その他[編集]
- ゆるかわいい - ゆるい + かわいい - 「ゆるかわ」「ゆるカワ」と略される。
- カッコかわいい - カッコ(かっこ)いい + かわいい - コンパクトカーや軽自動車でも用いられる。
- キレかわいい - 綺麗(キレイ) + かわいい - 主に女性に対して使われる。相手がたとえ美人ではなくても、相手のことを敬愛して使う場合が多い。モデル、アイドルなどに対してよく用いられる言葉。
他言語への輸出[編集]
「可愛い」という語は音写を利用して他言語圏にも輸出されている。2009年時点で「二十一世紀に入って世界にもっとも広まった日本語」とする意見もあり[8]、その広がりは実際に「可愛い」という言葉を使用しているわけではない高い年齢層の世代にも、意味を理解されるにまで至っているとされている[9]。また、2009年のカワイイ大使就任の記者会見やインタビューにおいて、外務省からの配布資料に記されていない「可愛い」(実際にはそのローマ字表記である「KAWAII」)という言葉に対して日本国外メディアから一切の質問がないなど、日本国外メディアにおいては「可愛い」という言葉は2009年時点で既に解説不要なほどに広まった言葉である[10]。「可愛い」に近い意味を持つ言葉は各国にあるが、ぴったりと当てはまる言葉はないため、「可愛い」「KAWAII」という言葉が輸出されて使われるようになったのだという[11]。
もっとも、辞書に載っている「可愛い」そのままではなく、それを含むかなり広い範囲の意味を持つ包括的な概念と考えるほうがよいともされており[11]、これを区別するために、日本国外で用いられる「可愛い」を、本節では「カワイイ」と記すこととする。「カワイイ」を象徴するキャラクターの代表格にハローキティが挙げられるが、日本国外製の(より厳密には、日本や東京のテイストを含まない[12])スヌーピーのようなものに「カワイイ」は用いられない[注釈 1]。つまり、「カワイイ」には「日本」「東京」チックなものに対する評価が含まれているのだという[13]。
10代から20代の若い女性の間で、現代日本的で小さくて愛らしいという意味で用いるのが主な用法である。このほか、漫画、アニメなどの日本文化が輸出された際に、現地の読者・視聴者がそれらに登場する可愛いキャラクターに対してこの語を用いる。
- 特に台湾、香港では、「可愛」とは別に、日本語の「かわいい」の音訳の、「卡娃伊」の形で現地語化しているという指摘もある。一方で、欧米では「可愛い」という概念を正しく言い当てた語がない。たとえば、英語の"cute"やイタリア語の"carina"は、いずれも未熟なもの、幼児的な愛らしさをいう本来の意味での「可愛い」くらいの表現しかないため、"kawaii"が多く使われているようである。
- ロシアでは「Кавай」ないし「Кавайи」(発音は「カヴァーイ」)だが、やはり漫画、アニメ文化を中心として広まった為に、本来の意味よりも日本の「萌え」に近い意味合いで使用される傾向が強く、また「Кавайный(カヴァーイヌィ)」と形容詞化された用語も散見される。
- フランスにはKilo-Shop Kawaiiというのがあり(パリやルーアンに店舗がある)、古着を重量単位の価格で販売している。
「カワイイ」の文化論的な著作として、四方田犬彦『「かわいい」論』、ケン・ベルソンとブライアン・ブレナーの共著『巨額を稼ぎ出すハローキティの生態』、シャロン・キンセラ『Culies in Japan』などがある。これらの著作では、「カワイイ」を日本発の感性価値とした上で、未成熟なものを不完全なものとみなす従来の西欧の価値観に対して、それらを「カワイイ」ものとして肯定的に評価する日本的な美の原理に特徴を見いだしている[5]。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ 小原一馬 「かわいいおばあちゃん」『子ども・学校・社会』 稲垣恭子編、世界思想社、2006年、154-191頁。
- ^ 大塚英志 『少女たちの「かわいい」天皇 : サブカルチャー天皇論』 角川書店〈角川文庫〉、2003年。
- ^ 小原前掲書。なお高齢者に「かわいい」を用いるのは明治時代からすでに見られるという説もある(四方田犬彦 『「かわいい」論』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2006年、35頁。)が、小原はその根拠となる引用の誤りを指摘している(前掲書 註)
- ^ 入戸野宏「かわいい:4. “かわいい”感情の心理学モデル」、『情報処理』第57巻第2号、広島大学大学院総合科学研究科、2016年1月、 128-131頁。
- ^ a b 大倉典子、椎塚久雄(編)、2013、「美(美しさ、かわいい)」、『感性工学ハンドブック』、朝倉書店 ISBN 9784254201543 pp.203-209.
- ^ “ブサかわ犬「わさお」に特別住民票 愛嬌振りまきご機嫌”. asahi.com 2010年9月1日閲覧。
- ^ “【雑記帳】「ライオン犬」が人気者に 青森・鰺ケ沢”. 毎日jp 2010年9月1日閲覧。
- ^ 櫻井著(2009年) p.14
- ^ 櫻井著(2009年) p.43
- ^ 櫻井著(2009年) p.116
- ^ a b 櫻井著(2009年) p.41
- ^ 櫻井著(2009年) p.186
- ^ 櫻井著(2009年) p.87, 166
参考文献[編集]
- 櫻井孝昌『世界カワイイ革命 なぜ彼女たちは「日本人になりたい」と叫ぶのか』PHP新書、2009年、ISBN 978-4-569-77535-7